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世界裁判放浪記

(霧山昴)
著者 原口 侑子 、 出版 コトニ社
 世界各地の裁判所を観光のかたわら見学した印象をつづった本です。
 著者は日本(東京)で弁護士をしていたのに、なぜか法律事務所を辞めて、世界各国放浪の旅に出かけたのです。その目的の一つが裁判傍聴。といっても、じっくり腰を落ち着けて司法制度を比較し研究するというのではなく、あくまで印象記のレベルにとどまっています。ところが、その印象記レベルでも、制度の違いが分かって面白いのです。
 たとえば、あっと驚くのはブラジルです。ブラジルでは裁判の公開のため、法廷がテレビとネットで中継される。しかも、裁判官室の評議まで中継されているとのこと。そして、弁護士が100万人もいて、裁判は1億件もあるらしく、裁判官は1人で9000件を担当し、月に300件の判決を書いているとのこと。たしかに、ブラジルでは裁判の遅延はかなり深刻だというレポートを読んだ覚えがあります。
 中国は四川省の成都では著者は裁判傍聴が認められなかった。20年以上も前に中国に行ったとき、家庭裁判所の離婚事件の裁判を傍聴することができました。司法部の事前許可があったからでしょうか…。
 法廷でメモをとるのが禁止されている国が、今もいくつかあります。ニュージーランドで禁止されたというのは少し意外でした。日本でもアメリカ人弁護士のレペタさんが裁判を起こして1989年3月に勝訴するまでは禁止されていました。傍聴人による録音は禁止という建て前ですが、音のしないスマホ時代なので、今は実質的にフリーになっていると思います。
 アフリカでは刑事事件で弁護人がつかないまま審理されることが多いようで、それが問題となっているとのこと。悪いことをした奴に、なんで税金をつかってまで国選弁護人をつけてやる必要があるんだ…という疑問は日本でもまだたまに出ますが、やはり世の中には法にのっとった適正な手続というのは絶対に必要なんです。
 著者の同期の弁護士が10年間に10件の無罪判決をとったとのこと。信じられません。私は弁護士生活50年近くで2件のみです。
 著者は10年間に世界124ヶ国をまわり、30ヶ国の裁判所に足を運んだとのこと。これまた、すごーい。
 著者は「新61期」、弁護士になったのは裁判員裁判が始まったころのこと。学生時代にもバックパッカーとして世界を歩いたことがあるようです。こうやって世界をさまよい歩くのから、そろそろ足を洗って、どこかに腰を落ち着けて、何かに取り組んでほしいものだと、他人事(ひとごと)ながら私は思いました。余計なお世話だと言われそうですが…。
(2022年7月刊。税込2420円)

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