法律相談センター検索 弁護士検索
2022年6月 の投稿

人として教師として

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 湯川 一俊 、 出版 東銀座出版社
団塊世代からのメッセージというのがサブタイトルの本なので、これは読まずばなるまいと思って手にとって読みはじめました。著者は、私とほとんど同じころに北海道で生まれました。最東端の根室市で、屯田兵の末裔(まつえい)とのこと。
小学校は1学年350人、全校2000人というマンモス校。私のほうは炭鉱の町で、小学校は1学年4クラスでした。私の中学校(今はありません。少子化で統合されました)は13クラスあり、運動場の一部を削ってプレハブの急造校舎がつくられました。
高校生のときに教師になることを決意したというから、偉いものです。私は、そのころは自分の将来に何の具体的イメージもありませんでした。
そして、著者は高校は演劇部と新聞局に入って活動しました。私は、高校のころは受験勉強を真面目にやり、生徒会活動にいそしんだほかは、3号で終わった同人誌をみんなで出したくらいです。生徒会に目ざめたのは1学年上の先輩たちにあこがれ、近づきたいと思ったことによります。
北海道学芸大学釧路校に入ってからは児童文学サークル「つくしの会」で活動し、また、自治会の役員にもなっています。私は、ひたすら川崎市古市場での学生セツルメント活動に埋没・没頭しました。
そして、著者は苦労の末に東京で本格的な教員生活をスタートさせます。1970年代の東京の小学校では、児童会の役員選挙のとき、立会演説会をやっていました。選挙公報をつくり、朝の教室まわりもやったのです。いやあ、いいことですよね。こうやってこそ、主権者としての自覚が高まります。
私も高校生のとき、生徒会長に立候補し、タスキをかけて付き添いと2人で全クラスを休み時間に訴えてまわりました。幸い当選しましたが、こうやって選挙を自分の体で実感したことは私の体に今も生きている気がします。
著者は、卒業式が終わったあと、教員で温泉に旅行に行ったというのですが、行った先はなんと奥鬼怒温泉の「八丁の湯」でした。私も川崎セツルメントの夏合宿で行ったことがあります。見晴らしのいい露天風呂がありました。
著者は小学校で理科を教えるとき、子どもたちに体験を通じての学習をすすめたとのこと。本当に大切なことです。たとえば、空気にも重さがあることを子どもたちに実感させるというのです。いやあ、これはすばらしい実験です。
著者は教職員組合の役員を長くつとめていますが、そのなかで大切にしたことは、仲間と会うとほっとする場、職場会を大切にする、心のよりどころをつくるということ。たしかにこれは必要不可欠ですよね。
私と同じ団塊世代が過去をふり返りつつ、今を元気いっぱいに生きている様子を知ると大いに励まされます。久しぶりに空気の入る、いい本でした。
(2022年4月刊。税込1800円)

日本の教育、どうしてこうなった?

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 前川 喜平・児美川 孝一郎 、 出版 大月書店
前川喜平さん(文科省の元事務次官)は、経産省なんて日本に不要だ、ヒマなものだから教育分野にまで口を出してきて、日本の教育を歪めていると指摘しています。
うむむ、なーるほど、そういうことだったのかと思いました。アベ内閣では経産省があまりにも幅をきかせすぎていました。自由主義経済で企業が何でもやっているのだから、経産省は、何もやることがなくなっている。存在価値がなくなっているので、専門領域でもない教育の分野にまで口を出してきて、産業に奉仕する「人材」育成なんて間違った観念を押しつけている。まったくひどい話です。
そもそも人間って、目的に養成できるものなのか、前川さんは根本的な疑問を抱いています。
最近、福岡でも夜間中学がはじまりました。全国に夜間中学が36校あって、生徒数は2千人。1割は形ばかりの卒業者、そして8割は外国人。県と政令指定都市に最低1枚は夜間中学をつくろうと文科省は叫びかけている。いやあ、これはいいことだと思います。文科省もたまにはいいことをするのですね…。
不登校その他、中学校でちゃんと学んでいない人に普通教育を学び直す場として、夜間中学は大事なものだと前川さんは強調しています。まったく同感です。
学校を株式会社が設立・運営するなんてことはやめるべきだと前川さんは言います。公益性をもつ学校法人が学校を運営するという制度を崩してはいけない。まったく、そのとおりです。人間をつくるというのは商品生産とは、まったく違うものなんです。
日教組の組織率は下がっているし、文科省とは慣れあっている。まるで牙を抜かれたみたいになっている。残念ながら、これもそのとおりです。
学習指導要領の策定と教科書検定は、独立した機関が担うべき。そのとおりです。
学校現場はもっと自由でなければならない。ところが、文科省にとって日教組の弱体化が至上命題になってきた。これは本当におかしなことです。
教師はやらされる仕事が多すぎる。とくに書類づくり、教育の観点から意味のない文書作成が多うい。日本の教師は、授業をしている時間以外の勤務時間が諸外国に比べて圧倒的に長い。いやあ、気の毒なほどです。もちろん、そのしわよせは子どもたちにいきます。
学校が部活動で名をあげようとするのは、やめるべき。
教員に時間外手当を支払わなくてよいとした給特法は廃止すべきで、労働基準法をそのまま適用すべき。これには、まったく大賛成です。基本給の4%を一律に支給するなんて、そんなゴマカシは許せません。
教員志望者が激減している理由は、学校に自由がないことにある。やらされ仕事を減らすべき。25人学級を目ざして、ゆとりのある少人数学級にしたら、志望者は増えると思います。
日本の教育制度をふり返って、問題点を具体的に指摘している本です。広く読まれるべき本だと私は思いました。
(2021年1月刊。税込1600円)

火の山にすむゴリラ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 前川 貴行 、 出版 新日本出版社
ゴリラの顔って、本当に知性にあふれています。じっと何かを考えている様子なのです。
アフリカの赤道直下、標高4500メートルもある山にすむマウンテンゴリラの身近にいて、写真をとったのです。すごい写真です。
あるとき、赤ん坊を抱えた母ゴリラがすぐ目の前にあらわれたので、シャッターを切ったら、その母ゴリラに腕をつかまれたのでした。
「こんなに近くから写真なんか撮るんじゃないよ」
(すいません)。カメラをおろして、じっと固まっていると、母ゴリラは、(うん、分かってくれたなら、いいよ。もう、こんな近くから撮るなんて、無茶するなよ)と、腕を離してくれた。そこで、ゆっくり後ろに下がって、少し離れたところから再びカメラを向けてシャッターを切った。今度は、母ゴリラは怒ることもなく、黙って写真を撮らせてくれた。
ええっ、う、うそでしょう…。そんな怖い体験をしたんですね。ゴリラって、意外にも、心優しい生きものなんですよね…。「ターザン」映画でゴリラが凶暴な悪役を演じていますが、あれは人間の妄想でした。
そのマウンテンゴリラは、今や1000頭ほどで、絶滅する心配がある。熱帯雨林が人間の開発で切り開かれ、ゴリラのすめる森が少なくなった。戦争などのためゴリラを食べる人が増えた。病気がはやり、ゲリラが暇(ひま)つぶしにゴリラを射殺する。原因はいろいろです。
でも、ゴリラがすまない森は、まわりまわって人間だって都会で生活できなくなることにつながっています。たとえば、Co2の排出量が増える一方だったりして…。
群れをひきいるシルバーバック(オス)は、実は子煩悩(ぼんのう)で、仲間の面倒みもよい。ゴリラは、大人も子どももとても遊び好きで、争いは好まない。家族の絆(きずな)も固い。
ゴリラの赤ちゃんは2キロ弱で産まれてから人間の赤ちゃんより小さい。1歳までは母ゴリラが肌身離さず世話をし、母乳で育てる。1歳すぎると母ゴリラは赤ちゃんをときどきシルバーバックに預ける。預けられたシルバーバックは、積極的に赤ちゃんの面倒をみる。3歳すぎると、子どもゴリラは乳離れし、寝るときもシルバーバックのそばにいる。
子どもゴリラは、木やつるにのぼって遊ぶのが大好き。仲間と荒あらしく遊ぶこともある。
シルバーバックの周りにはいつだって子どもたちがいる。シルバーバックのほうも、子どもを嫌がらず、おだやかに優しく見守っている。
大判のすばらしい写真集です。ゴリラの表情が実に生き生きしていて、ついつい吸い込まれそうになりました。ゴリラと人間の共存は口でいうほど簡単ではありませんが、とても大切、いえ不可欠なのです。
(2022年5月刊。税込1870円)

戦国日本の軍事革命

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者 藤田 達生 、 出版 中公新書
この本には、私の知らなかったことがいくつも書かれていて、大きく目を見開かされました。
その一は、種子島への鉄砲伝来。実は、すでに倭寇が介在して琉球などに火縄銃が入ってきていたというのです。種子島はワンノブゼムだった可能性があります。
鉄砲の国産化は日本がアジアのなかで最速だった。そして問題は、火薬と鉛の入手。硝石は、国内では産出できず、輸入するしかなかった。中国の山東省や四川省。また、鉛はタイのソントー鉱山。そうだったんですね。
鉄砲は、砲術師、鉄砲鍛冶、武器商人という三者の緊密な関係が成立しなければ機能しない。
織田信長は、イエズス会を介して硝石や鉛を大量に確保していた。イエズス会宣教師によって、タイ産の鉛と中国産の硝石がセットで輸入され、堺の商人を経由して信長のもとに届けられた。イエズス会と信長の親密さの背景には、キリスト教保護の見返りとしての軍事協力があった。実際に、長篠の戦いの古戦場から、信長方の使用した鉄砲玉のなかにタイ産鉛が確認されたのだ。
鉛は、鉄や銅に比べて鉄砲玉としては使いやすく、また対人殺傷効果も抜群だった。
長篠の戦いにおいて、武田軍もそれなりの鉄砲はもっていたが、その玉薬と鉛の備えが信長軍とは格段の差があり、それが戦場の勝敗に直結したということなのです。うむむ、なんという明快な解説でしょうか…。
家康は大坂の陣のとき、大砲の威力を大いに発揮させた。その大砲はイギリス商館を経由して、ヨーロッパ製のカルバリン砲(最大射程6300メートル)やヤーカー砲(同3600メートル)であり、それらを1門1400両で購入した。
いやあ、知れば知るほど、歴史は面白くなってきますね…。まったく目が離せません。
(2022年3月刊。税込924円)

ツバメのせかい

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 長谷川 克 、 出版 緑書房
たくさんのカラー写真とともに、ツバメの生態が詳しく紹介されている楽しい本です。とても身近な鳥ですが、知らないことがたくさんありました。
ツバメのメスは、ヒナにとてもよく似た声を出すオスに惹きつけられる。
オスの羽色が赤いほど、メスにもてる、その代わり、ケンカに弱い。
魅力的で経験豊富なオスが早く繁殖地に現れる。後から来たメスは、オスが来た順番なんて知らないはずなのに、早く来たオスがメスにモテる。不思議なことですよね。
ツバメをふくむ多くの鳥類には紫外線が見える。なので、多くの鳥は、ヒトより多彩な色を見えていることになる。
雨が降っていても、恒温動物の鳥は、日々、大量にエネルギーが必要である。
ツバメの平均寿命は1年半ほど。
日本に戻ってきたツバメのカップルの半数は離婚している。
巣立っても、無事に戻ってくる確率は数%ほど。大半は死んでしまう。
ツバメのメスは、夫より魅力的で子孫繁栄能力の高いオスを浮気相手として並んでいる。
日本の街中にいるツバメでは、婚外子は3%ほど。ところが、ヨーロッパの牛舎で集団繁殖するツバメでは婚外子が3割以上もいる。
玄鳥至、玄鳥去。玄鳥とはツバメのこと。ツバメが来た、ツバメが去ったというコトバ。
泥で巣をつくるというツバメの行動は、鳥類全体でみても類を見ないユニークな行動。
世界中にツバメは70種以上もいるが、日本には、わずか5種のみ。
ツバメは東南アジアから集団で渡って来ているのでしょうか。その渡りの途中をとらえた映像はないのでしょうか。あんな小さい身体で何千キロも飛んでくるなんて、不思議としか言いようがありません。
(2021年6月刊。税込1980円)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.