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2022年5月 の投稿

追跡、謎の日米合同委員会

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 吉田 敏浩 、 出版 毎日新聞出版
本当は、読めば読むほど腹が立ってきますので、こんな本は読みたくもないのです。いえ、著者に文句を言っているのではありません。日本という国が、いかにだらしないか、とてもまともな主権国家、独立国とは言えないことを再認識させられ、日本人として腹立ちがおさまらないということです。
日米合同委員会の議事録も合意文書も原則として非公開。ところが、その内容は、日本の高級官僚と在日米軍高官の合意が「日米両政府を拘束する」というのです。バカみたいな話です。
それで何が起きるのかというと、たとえば新型コロナウィルスの検疫が日本にいるアメリカ軍兵士に対してはできない。感染者の把握もアメリカ軍の発表にたよるしかない。
アメリカ人は、横田などの基地に自由に降りたちできる。そのとき、日本政府は検疫すらできない。実数把握もできていない。ひどいものです。
日本の上空にアメリカ軍は「横田空域」や「岩国空域」なるものを設定している。この両空域は、日本の空なのに、日本の航空管制は及ばず、管理はできない。空の主権がアメリカ軍によって制限・侵害されている。民間機を両空域から締め出して、アメリカ軍が軍事訓練・演習や空中給油や作戦出動のため独占・使用する軍事空域を「アルトラブル」という。これには固定型と移動型の二つがある。
古く、松本清張は、「日本の空は、ひき続き日本国のものではない」と喝破していた。本当にそのとおりなので、涙が出ます。
そして、アメリカ軍は、日本の上空で日本の民間機を標的として攻撃する訓練までしている。実に恐ろしいことです。直ちにやめさせなければいけません。だからあなたも、ぜひ読んでください。腹立たしいばかりなんですけれど…。
(2021年12月刊。税込1980円)

「トランプ信者」潜入1年

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 横田 増生 、 出版 小学館
4年間のトランプ現象。分断を煽(あお)り、混沌をつくり出した。これが2021年1月6日、ワシントンDCの連邦議会議事堂を「トランプ信者」たちが暴徒と化して占拠するという前代未聞の暴挙をもたらした。
トランプは、あらゆる場面で、自分の味方と敵に分け、味方を絶賛し、敵をこきおろした。
トランプに敵対する議論をはるメディアを「フェイクニュース」として罵倒し続けた。事実かどうかは関係なく、自分の盾突くメディアは、何であれ、フェイクニュースと呼んだ。支援者を集めた集会では、必ずメディア席を指さし、「あそこにフェイクニュースの奴らがいるぞ」とけしかけ、聴衆は一斉にメディア席にブーイングを浴びせた。
トランプは、トランプが語ることなら、何でも信じたいという鉄板支持層を開拓することに成功した。その中心は白人層。近い将来、人口比で少数派に転落するだろう、それを不安視する白人層だ。
トランプは、大統領の4年間、分断と混沌がつくり出した対立軸という細いロープの上を歩く曲芸師のように、絶妙なバランスをとりながら政権運営してきた、稀有(けう)な政治家だとも言える。連邦議会議事堂を暴力的に占拠した事件は、現職のアメリカ大統領が企てたクーデターだ。トランプは、アメリカ史上もっとも嫌われた大統領だ。
ロシアの侵略戦争が始まったころのゼレンスキー大統領の支持率は30%前後の低さだった。ところが、ロシアによる侵略戦争が始まると、8割以上の支持率にはねあがった。
トランプ大統領の支持率は平均41%、最低は34%。50%を超えたことがない。
ブッシュ(子)政権は90%、クリントン政権73%、オバマ政権69%。これに比べると、トランプがいかに人気がなかったか、明々白々。そして、トランプの不支持率のほうは、47%が最低で、60%に達したことが5回もある。
トランプの演説は、原稿を読まず、プロプターを見ることもない。数字や固有詞を間違えずに、よどみなく話す。その緩急をつけた話術は、聴衆の心をつかみ、飽きさせることがない。
トランプの演説は、大衆の感情を煽り立て、不安につけこみ、怒りに火をつける扇動者を連想させる。聴衆はトランプの手のひらの上で転がされ、歓喜し、叫び、怒りながら、大満足して帰っていく。
アメリカ社会では、一般に、社会主義というのは、マイナスの意味あいが含まれている。
社会主義体制では、人々の個々の能力や努力は評価されない。均等に富が分配されるので、競争原理が働かず、社会全体が停滞してしまう。アメリカ人の多くが、まだまだ「アメリカン・ドリーム」の幻想から脱け出せていないようです。残念です。
アメリカの二大政党のうちの共和党は白人中心の党だ。トランプと、その政治手法を考えるうえ、ウソと切り離して話をすすめるのは不可能だ。トランプとウソは、密接にからみあっている。トランプのウソは次元が違う。その回数と頻度、また自分の再選に有利だと考えたら、たとえウソだと指摘されても、何度でも同じウソを繰り返す。
アメリカでは、居住区分を三つに分ける。一つは、裕福な白人が多く住む郊外。その二は、黒人などが住む都市部の低所得者地域。その三は、白人を中心として、農業・酪農従事者などが住む、カントリー・サイド(田舎)。
トランプは、オバマに対しては激しい怒りと憎悪を示す。オバマケアをまっ先に廃止しようとした。しかし、オバマケアに代わる政策なんてないものだから、司会者から、代わる政策は何かと訊かれたとき、壇上で立ち往生した。
トランプが何より恐れたのは、新型コロナのせいで、自分の再選が危機に直面すること。つまり、アメリカ国民の生命と健康なんて、トランプにとっては、どうでもいいのです。自分に幻想を抱いて、とっとと死んでしまえというのです。
トランプは科学を軽視し、役職者を任命する基準は役職にふさわしい実績があるかどうかではなく、トランプへの忠誠心があるのかどうか…。
トランプ自身も郵便投票を2回も実行しているのに、郵便投票だからこそ多くのインチキ投票があるというのは根本的に間違っている。
トランプのツイッターには8800万人ものフォロワーがいた。
今の共和党は、トランプ党になったし、なっている。トランプが大統領を退いてから設立した。
著者はフリーランスの記者として、「トランプ信者」のように装ってトランプの選挙運動にボランティアとして加わって取材していたのでした。いやあ、日本でもそこまでやるのでしょうか…。フリーランス記者は、まったくあなどれませんね。
(2022年3月刊。税込2200円)

野ネズミとドングリ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 島田 卓哉 、 出版 東京大学出版会
ネズミは、鋭い一対の切歯(前歯)をもち、このネズミの切歯は一生伸び続けるため、年をとっても歯がすり減って堅いものがたべられなくなるということがない。
ネズミ算という言葉のようにネズミは多産の象徴として扱われることが多いが、実はそれほど多産ではなく、2~8匹(平均4~5匹)というネズミが多い。日本の野ネズミでは、アカネズミは2~8匹、ハタネズミは1~6匹。最多のアフリカのサハラタチチマウスは平均10~12匹の子どもを1回に出産する。少子のほうではウオクイネズミは1回に1匹のみ。
野生のアカネズミの寿命は半年から1年ほど。
アカネズミは、冬眠しないが、低温やエサ不足のとき、支出エネルギーを節約するため、日内休眠という低代謝状態に入る。
アカネズミにドングリを与えると、2日間から様子がおかしくなり、やせてきて、ふらふらしだし、そのうち数匹は死亡した。ブナの実を食べていたアカネズミはフツーだった。
好物のはずのドングリを食べたアカネズミが異常な状態になるのはなぜなのか…。
ドングリにはタンニンが含まれている。タンニンとは、植物によって生産される、タンパク質と高い結合能力を有する分子量500以上の水溶性ポリフェノール。赤ワインに含まれるポリフェノールや、お茶に含まれるカテキンもタンニンの一種。
タンニンの最大の特徴は、タンパク質との高い結合能力にある。
タンニンは、穏やかに作用する消化阻害物質だとみなされてきた。しかし、それだけなく、消化管の損傷や臓器不全といった、急性毒性をもつ物質だ。これが、タンニンは、量的防御物質でありながら、質的防御物質でもあるといわれる所以だ。
ドングリを日常的に食べているアカネズミにとっても、コナラやミズナラのドングリは、潜在的には有害なのだ。そして、この有害なのは、ドングリに含まれるタンニンによって生じていることが明らかになった。
アカネズミが、ドングリなどのタンニンを含むエサを少しずつ食べて、体がタンニンに馴(な)れた状態になると、ドングリに含まれるタンニンを克服することができるようになるのではないか…?
つまり、アカネズミは、馴化(じゅんか)することで、ドングリのタンニンを克服できるのだ。
ドングリは、植物学的には種子ではなく、果実である。多くのドングリはタンニンを豊富に含み、潜在的には危険。
北米産のドングリと比べると、日本産のドングリは、全般的にフェノール類が多い。要するに、ドングリを食べなれていくうちに、毒性が弱まっていくということのようです。それを観察と実験、そして数式で証明していくという地道な作業を繰り返していくのです。大変ですよね。でも、そもそも森林に入るのが好きな人にとっては、苦にならないのでしょうね。
(2022年1月刊。税込3740円)

熊を撃つ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 西野 嘉憲 、 出版 閑人堂
岐阜県は飛騨(ひだ)の山奥で熊を撃つ状況をド迫力でとらえた大判の写真集です。
トップ頁の写真は、銃を構えて熊に狙いを定める漁師の目つき、その迫力に圧倒されます。
飛騨市の山之村は昭和の半ばまでは秘境と呼ばれていた。麓(ふもと)の神岡から片道20キロ、車で40分。人口は64戸、132人。冬の積雪は2メートルをこえ、最低気温は氷点下20度。保存食となる寒干し大根が名物。
ここらの熊は絶滅危惧種どころか、数が増えるとともに大型化しているとのこと。その理由は、天然林は多く、餌になるニホンカモシカが増えているため。
熊のエサはカモシカなんですね。カモシカの方が逃げ足は速そうなんですが…。
熊は、肉や毛皮以上に、熊の胆(い)と呼ばれる胆のうに価値がある。熊の胆は万病の薬として昔から珍重されていて「医者の代わり」とか「命のようなもの」として尊ばれた。
熊の胆は、1匁(もんめ)あたり金より高い額で取引され、貴重な現金収入となる。
熊を探すのには猟犬が活躍する。ここでは、地犬の柴犬を使う。冬ごもりの穴に潜む熊を猟犬が探し出す。鉄砲を使う前は、猟師は槍を使った。
冬眠時の熊の肉は全体の8割が部厚い白い脂肪。上品なうま味で、しつこさがない。凍った状態で口に入れると、舌の上で溶け、チーズのような食感と風味が楽しめる。また、汁が冷めて固まることがない。
熊の胆は、米粒の半分ほどの大きさに割り、お湯に溶かして飲む。
東京から石垣島に移り住んだ著者が、熊猟の現場写真を撮るべく、厳冬期の飛騨に入ってつかんだシャッターチャンスの数々の写真です。大判だけあって、その迫力がすごいです。熊を撃つ写真が何枚もあり、よくぞこんな写真が撮れたものだと驚嘆しました。
もよりの図書館に購入してもらってでも、ぜひ手にとって眺めてみてください。
(2022年2月刊。税込3960円)

塞王の楯

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者 今村 翔吾 、 出版 集英社
戦国時代。絶対に破られない石垣をつくる穴太衆(あのうしゅう)の職人たち。それに対抗するのは、どんな城をも落とす鉄砲衆。
穴太衆。近江国(おうみのくに)穴太に代々根を張り、石垣づくりの特技をもって天下に名を轟(とどろ)かせた。
穴太衆は、石垣づくりの技術において、他の追随を許さなかった。そして、この穴太衆には、20を超える「組」があり、それぞれが屋号をもって独立して動いている。それぞれが諸大名や寺院から造垣づくりの依頼を受け、その他に赴いて石垣をつくる。
穴太衆の技(わざ)は、大きく三つの技によって成り立っている。その一は、山方。石垣の材料となる石を切り出すことを担っている。石には「目」というものがあり、それにそって打ち込む。それに失敗すると、思わぬ形でひびが入ってしまう。その目には熟練の職人でなければ見ることができない。
その二は、荷方。切り出した石を石積みの現場まで迅速に運ぶ役目。これは、石垣づくりの3工程のなかで、もっとも過酷とされる。巨石を運ぶときには安全に相当配慮しなければならない。途中で大惨事が起きないように配慮しつつ、期日までに何としても石を届けるのが荷方の役目だ。
その三は、積方。これをきわめるには、ほかの二組以上の時を要する。石垣の中に詰める「栗石(ぐりいし)」を並べるだけで、少なくとも15年の修行を要する。
穴太衆は、道祖神を信奉し、「塞の神」を祀っている。
穴太衆は、紙に一切の記録を残さない。城の縄張りは重要な機密であるため、穴太衆は紙に一切の記録を残さず、すべて頭の中に図面を引いて行う。それは同じ穴太衆であっても決して外に漏らさない。積み方の技術も同じく一子相伝(いっしそうでん)。しかも、すべて口伝(くでん)。こうやって穴太衆の技術の漏洩を防ぎ、依頼主の信用を勝ちとってきた。
穴太衆では、一つの組・飛田屋を総動員し、空貫で石積することを「懸(かかり)」と呼んだ。
穴太衆であり続けるための二つの条件。その一は、5年に1度は必ず穴太の地を訪れ、自分の技を師匠や後継者に見せること。その二は、技を書き残さないこと。穴太衆の技は口伝のみで受け継がれる。
打込接(うちこみはぎ)と野面積みの二つがある。
打込接は、積み石の接合部分を加工し、石同士の接着面を増やして、より隙間をなくす工法。ところが、この打込接でつくった石垣には、目に見えない弱点があった。水はけが悪く、長石だと、途中ではぜるようにして崩れることがある。
天候に左右されず、数百年もたせようとするなら、野面(のづら)積みのほうが良い。
穴太衆が得意とする積み方は…。それは乱積みであり、布積みであり、あるいはその両方の中間。基本は野面だが、時と場所によっては、打込接も使う。いかに城の護りを厚くするかだけに焦点をしぼり、臨機応変にやっている。
矛(ほこ)と楯(たて)のいずれが勝つかで、泰平の質が変わるだろう。矛が勝ったときは、数少ない兵力でも、良質な武器さえ集めれば天下を覆せると考える者があらわれるだろう。楯が勝ったときには、兵を集められても、城ひとつも容易には落とせない。踏みとどまる者も出てくる。つまり、こんどの決戦は、泰平の形を決めることになる。
国友衆は新しい鉄砲や大筒が実践に投入されるとき、参陣依頼が来て、砲術専門の軍司と同じような役割をつとめる。新式の銃は、雨をものともせずに放てる。
なにしろ、550頁もある大作です。そして似たような名前の人物がたくさん登場しますので、一読してもなかなか簡単には状況が理解できにくいのです。休日の朝から読みはじめて、場所を何回も変えて、夕方になる前に読了しました。550頁というのは、やはり長過ぎですね。直木賞を受賞した作品です。
(2022年1月刊。税込2200円)

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