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2022年3月 の投稿

彼は早稲田で死んだ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 樋田 毅 、 出版 文芸春秋
早稲田大学文学部といえば、昔も今もワセダのなかでも一目置かれる存在なのではないでしょうか。吉永小百合も女優活動の合い間に通学していましたよね。ところが、私の大学生のころは、革マル派が暴力支配しているという悪名高いところでした。暴力「的」支配という生やさしいものではなく、むき出しの暴力でもって文学部を支配していたのです。革マル派にクラスの中で批判的なことを言おうものなら、暴力的糾弾の対象となり、やがて授業を受けられなくなるのでした。
そんな状況のなかで起きたのが川口大三郎君のリンチ殺人事件です。1972年11月8日のことです。早稲田大学構内で学友と一緒に談笑していたところを拉致され、革マル派の支配する文学部自治会室でメッタ打ちされ、ついに虐殺されてしまいました。
革マル派は、川口君が中核派のメンバーで、スパイ行為をしたので原則的な自己批判を求めていたときに突然ショック死したと弁明しました。こんな弁明はあとの刑事裁判では事実として認められず、虐殺行為に及んだ学生たちは有罪になっています。その場にいた人間が「裏切」って自白したことから、虐殺行為の全容が判明したのです。
革マル派に対して、早稲田大学当局は批判するどころか、完全な癒着状態にあり、一般学生から徴収した自治会費(授業料と同時に1人1400円を徴収していた)900万円を革マル派に渡していた。革マル派の貴重な活動資金となっていたので、革マル派は当然、死守しようとする。
当時の村井資長総長は、革マル派による川口君殺害事件について、自らの責任はまったく問うことなく、まるで他人事(ひとごと)のような口ぶりでしかなかった。事件の原因について、「派閥抗争」とまで言った。
学生たちの怒りは大きく、革マル派を徹夜状態で学内の教室において缶づめにして追及していると、午前8時ころ、50人ほどの警察機動隊がやってきて、追及されていた革マル派6人を救出した。これは早稲田大学当局が警察に救出要請したのに警察がこたえての行動だった。
いやはや、一般学生に取り囲まれた革マル派が警察機動隊に救出されただなんて、ひどい話です。内ゲバがそこであっていたのでもなんでもありません。ただひたすら革マル派の虐殺行為についての追及・糾弾の集会があっていただけなのです…。
直木賞作家として有名な松井今朝子さんも、このとき早稲田一文の1年生であり、ノンポリ学生として革マル派による虐殺糾弾の学内デモに参加したとのことです。それほど盛り上がっていました。
そして、学生たちの怒りは革マル派自治会をリコールして臨時執行部を選出し、著者は委員長になるのです。ところが、大学当局は、なかなかそれを認めません。そして、革マル派はお得意のマヌーバーを駆使し、学生を個別撃破して、反転攻勢に出てきます。
そこで、革マル派の暴力に対して暴力で立ち向かうのか、という問題をめぐって著者たちの側で大激論となるのです。そのとき、著者は、あくまで非暴力を貫くべきだと主張しました。ここは本当に難しいところです。
東大闘争の最終盤で、東大駒場では全共闘の暴力に対して、クラス討論の結果として少なくない学生がヘルメットをかぶりました。身を守るものとしてのヘルメットです。神田で買ってきたと言う学生もいました。そして、そのヘルメットはセクトの色とは違うものにし、しかも、ヘルメットには「ノンポリ」とか「非暴力」といった自分の主張をマジックインキで書いて、セクトメンバーでないことをそれぞれ明らかにしていました。
私は、闘争の中盤生のころ、銀杏並木での押しあい(もみあい)をしているとき(まだ全共闘のほうもヘルメットをかぶっているのは少なかったころです)、全共闘の学生がうしろの方から投げた小石が頭にあたって出血し、学内の診療所で頭を包帯でグルグル巻きにされて、いかにも「暴力学生」からのような格好で電車に乗ったり、とても恥ずかしい思いをさせられましたので、ヘルメットをかぶるのは当然でした。
そして、最終盤のときには仲間と一緒に私も角材を手にしました。本郷の図書館前広場の衝突時が初めてで、そのあと明寮攻防戦のときには、私が手にしていた角材を全共闘の学生に奪いとられて、うしろに下がりました。このように、革マル派のすさまじい暴力を前にして非武装で立ち向かうというのは、理屈ではありえても、実際にはとてもとても勇気のいることだと私の体験からも思います。
なにしろ、革マル派はいかにも場慣れした鉄パイプ部隊が襲ってくるのです。著者も、革マル派につかまり、この鉄パイプで打ちのめされました。
致命的なダメージを一瞬にして与える刃物や銃などの武器とは違い、鉄パイプは殺傷効果では劣るが、それだけに何度も振り下ろされることで、激痛とともにその恐怖で心身が冒されていく。まさに、あらゆる意欲が削(そ)がれていくのだ。これって、すごく分かる気がします。
著者は、早稲田大学を卒業して朝日新聞の記者になった。そして、当時の革マル派の自治会幹部(副委員長)だった「辻信一」にインタビューした。「辻信一」は革マル派から逃げてアメリカに渡り、今は学者になっている。当時の川口君虐殺について、心から反省しているとはとても思えない自己弁護を延々と述べてたてた(と私は受けとめました)。
早稲田大学当局が革マル派と縁を切ったのは1994年に奥島孝康総長となってから。それまで商学部自治会費として年に1200万円を革マル派に渡していたのをやめ、早稲田祭もやめた。いやはや、長い年月がかかったものです。
早稲田大学を正常化するために苦労し、今回改めて活字にして世に問うた著者の努力と心意気に心から拍手を送ります。全共闘をもてはやす人が今でも少なくありませんが、そのすさまじい暴力、「敵は殺せ」というスローガンとともに暴力を振るっていた全共闘の行為は根本から否定されるべきだと本書を読みながら改めて思ったことでした。
(2021年11月刊。税込1980円)

過労死・ハラスメントのない社会を

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 川人 博 ・ 高橋 幸美 、 出版 日本評論社
カローシというコトバがカラオケと同じように日本を象徴するコトバとして国際的に通用するなんて悲しいですよね。
地方の高校から学年で一人だけ東大に入り、夢多くして天下に名高い電通に入ったのに、そこは高給取りではあっても鬼の支配するあまりにも苛酷で厳しい企業社会だったのです。1日の睡眠時間が2時間、1週間でも10時間しか眠れなかったなんて、想像を絶します。これで病気にならないほうが不思議です。
上司はこう言って責め立てました。
「きみの残業時間の20時間は会社にとってムダ」
「今の業務量で辛いのは、キャパ(能力)がなさすぎる」
「髪ボサボサ、目が充血したまま出勤するな」
「会議中に眠そうな顔をするのは管理ができていない」
いやあ、これってひどすぎます。この上司は部下の女子社員をいじめて自分のたまっているうっぷんばらしをしていたのかもしれません。東大卒で、若くて美人の女性社員にねたみもあったのでしょう。こんなパワハラ上司の下で働いていたら、もう病気になる前に辞めるしかありませんね。でも、その前に病気になって、自死に至ったのです。本当に残念です。
髙橋まつりさんは生きていれば今、30歳です。友人たちとたくさん楽しいことができたでしょうし、母親にもたくさん親孝行できたことでしょう。そのすべての可能性が奪われてしまったのです。
今では削除されたそうですが、電通の有名な「鬼十則」には、5番目に、取組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは…とありました。たかが仕事で「殺されても」なんて、電通って異常な会社というほかありません。
それでも、まつりさんの母親が川人弁護士と一緒に電通とたたかったおかげで「不夜城」といわれていた電通本社ビルの灯りは夜10時になると消灯されているそうです。当然です。
亡くなったまつりさんが超多忙だったのは、インターネット広告を扱っていたから。ネット広告は、反応が具体的ですぐ得られるので、それに即応して広告内容を変更しなくてはいけないので、エンドレスの作業を余儀なくされるから。なるほど、ここにもネット社会の恐ろしさがひそんでいるのですね。
次は、電通ではない証券会社の話です。
「数字が人権」。ええっ、何のこと…。数字(業績)が取れないと、自分たちの人権が保障されない。休暇がとれない。残業をしなければいけない。さらには、殴る、蹴るの暴力を受けることすらある。うひゃあ、現代の証券会社って、昔のタコ部屋と同じなんですか…、ひどいものです。
ある高校生は、「鬼十則」の最後を次のように言い換えたとのこと。
辞職を怖れるな、辞職は進歩、積極の肥料だ。転職はキミの人生を豊かにする。
まったくそのとおりです。「鬼」のすむ世界からは、スタコラサッサと逃げ出しましょう。そんな会社にしがみついていてもいいことなんて、ひとつもありませんよ。人生は短いし、世の中は広いんですから…。
著者から贈呈していただきました。いつもありがとうございます。
(2022年2月刊。税込1760円)

どん底に落ちた養分たち

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 鈴木 傾城 、 出版 集広舎
パチンコ依存症の人がなぜ生まれるのか、この本を読むと、よく分かります。
パチンコ産業はひところの勢いはなくなり、もはや斜陽産業になっていると思っていました。ところが、あにはからんや、今でも相変わらず、ボロもうけしているというのです。そして、メジャーなパチンコ店は栄え、中小零細のパチンコ店は次々に倒産・廃業して消えているという、日本中でよくある光景がここでもあるのでした。
1000台未満のパチンコ店は減り、1000台以上の店は増えている。つまり、パチンコ店は大型店舗だけが生き残り、零細店はつぶれている。そのトップはマルハン。そしてダイナム、ガイア…と続いている。
日本最大のパチンコ店はさいたま市の大宮にある「楽園大宮店」。3030台もある。ここは地下1階から地上3階まであって、4フロアが機種ごとに区分されている。
パチンコ店「アイランド秋葉原店」には、2400人、4200人そして6074人という行列ができた。それも若者たちが並んだ。
映画「鬼滅の刃」は1日あたり2億円の売上収入だが、パチンコのほうは1日567億円。
凋落(ちょうらく)しているはずのパチンコ業界は歴代興行収一位の映画のなんと283倍もの売上をあげている。
世界でもっともギャンブル用電子ゲーム機が多い国は、日本。世界に788万台のギャンブル機のうち468万台が日本にあり、そのほとんどがパチンコ店。
世界でもっともギャンブル依存症の多い国は日本。日本には、280万人、いや536万人が依存症だと厚労省は推定している。少なくとも、日本には300万人近いギャンブル依存症の人がいる。この8割がパチンコ、パチスロによる。つまり、1店舗あたり58人のギャンブル依存症をかかえていることになる。
日本全国のパチンコ店は1万店を下まわっている。
ホームレスの人の92%はギャンブルの経験があり、そのうちパチンコは9割に近い。
パチンコ店内で、パチンコで負けた客が火をつける事件が、全国各地で、ときどき起きている。
パチンコは、最終的にはもうからない。もうかっているのは、店の経営者だけ。
新幹線のなかでガソリンをかぶって自殺した男性も、パチンコ依存だった。
パチンコを1日5時間以上もするという人は、明らかに依存症。パチンコで借金までかかえてしまったら、夜逃げ・蒸発するしかなくなる。
パチンコ業界を取り締まる側にいる警察は、パチンコ業界と癒着している。警察OBは、パチンコ店に天下りして、情報を古巣の官庁に売り込んでいる。警察OBにとって、パチンコ業界は本当にありがたい天下り先になっている。
政党への政治献金も共産党を除いて、自民党、維新の会と続いている。
ギャンブル依存から脱却するには、仲間が絶対に必要だから…。そして、ギャンブル依存からの脱却は、まずもって自分がギャンブル依存者であることを自覚すること。
パチンコ依存は、本人の意思だけで克服することは、ほぼ不可能。パチンコ依存を克服するには、家族や友人の協力が必要不可欠。家族も友人もいなければGA等の自助クループで仲間をつくることが有効。
今、福岡でもっとも稼いでいる企業は「品川・青物横町」に本社のあるタイラ・ベストビートという企業。これは「ワンダーランド」の経営主体。売上高は2742億円。九州最大の企業が、ギャンブル依存症の患者を大量に生み出している。トホホ、ですね…。本当にこんなことでいいのでしょうか。
(2021年10月刊。税込1540円)

嘘はつかない、約束は守る(第2集)

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 萬年 浩雄 、 出版 LABO
弁護士は、日々の仕事で信用第一の仕事をしていないと、目的を達することができない。信用第一とは、嘘はつかない、約束は守る、この2点につきる。第2集で、やっと本のタイトルの意味が判明しました。
企業のかかえる債務について、任意整理をすすめるとき、不動産売却の方法が問われる。弁護士の公平・中立を保持するため、コンペ形式がよくとられる、しかし、それは弁護士の保身でしかないと著者は言います。では、どうするのか…。知り合いの不動産業者に情報を流し、そのときに一番高い買値をつけた企業に買取価額を明記した買付証明書を出してもらう。この買取証明書を関係者に広く情報提供し、買値をつりあげていく。そして、不動産業者と癒着していると思われないよう、手数料は3%ではなく、一律に2%としている。接待やバックリベートは絶対受けない。なーるほど、ですね。
著者は、銀行の顧問もしていますが、銀行には、企業を育成し、成長させるという公共的使命があることを忘れないよう再三強調しています。経営者、そして銀行には、従業員の雇用を確保し、その生活を守っていく公共的使命がある。これを何度も強調しています。まったく同感です。
著者は、銀行との交渉は、かけひきなしに誠実にやっていれば、うまくいくと考えているとのこと。本当に、それでうまくいくものでしょうか…。私の数少ない経験では、そうとも言えませんでした。
都銀と信用金庫のいずれか債権回収率が高いかというと、信用金庫のほう。というのは、都銀のほうが債権回収の方法を熟考しているあいだに、信用金庫のほうは走りながら回収策を講じるからだ。うむむ、なーるほど、そうかもですね。
事業承継には、適任の経営者をどうやってみつけるかという難問がある。なので、事業承継は本当に難しい。プロパー社員を社長にしてみたとき、果たして、その人が社長の器であるか、否かは、実際にやらせてみないと分からない。人間の器をみて、後継社長の器であるかどうかを決断するのは、ある意味、冒険である。うむむ、これは本当にむずかしいでしょうね。
会社の成長のカギは、従業員に愛社精神があるか否かにかかっている。
最近の判決について、著者は、バランス感覚からみて、結論がなんとなく納得感に乏しい判決が増えているように思えるとしています。これまた、まったく同感です。本人たちは自覚のないまま、訴訟が増えている。
裁判官が原告勝訴の判決を書くのは、心証が圧倒的であるとき。そうでないときには、原告勝訴の判決は書かない。51%といった、50%より少し上回る程度では書けないし、書かない。
福岡の名物弁護士として自他とも認める著者による、読んで元気の出てくる事件がらみのエッセー集です。帝国データバンクによる「帝国ニュース・九州版」に2021年9月まで30年間連載していたものが本になったのです。私もよく知る著者の息づかいが身近に感じられる本になっています。第1集にひき続いて、出版社より贈呈を受けました。いつも、ありがとうございます。
(2022年2月刊。税込2530円)

人、イヌと暮らす

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 長谷川 眞理子 、 出版 世界思想社
子どものいない進化生物学者が愛犬と暮らして学んだことが写真とともに詳しく明らかにされています。犬派の私にとって、うらやましい限りのイヌとの生活です。
著者が飼っているイヌはスタンダード・プードルです。大型犬ですね。
スタンダード・プードルは水鳥を回収するためにつくられた犬種なので、水が大好きで、濡れたあとの毛の乾きが早い。
イヌは、生まれてから3ヶ月は、イヌの親に育ててもらい、しっかりイヌとしてしつけてもらわないといけない。生まれてすぐに親と離しては絶対ダメ。
初めのキクマルは、体高69センチ、体重25.5キロ。
犬が変なものを食べてしまったときには、塩を大量に食べさせるとよい。すぐに吐く。大量の塩を無理やり犬の口に突っ込むと、すぐに吐き出した。
イヌだから、鼻で嗅いで、舌で舐めて、歯でかんで世界を把握する。
イヌもネコも食肉目だが、雑食性はイヌのほうが強い。
イヌは、デンプンを消化するための酵素であるアミラーゼの活性が高いが、これは、デンプンが豊富なパンやご飯など、本来なら食肉目の動物が食べるはずのないものを、人間からもらって食べてきた歴史が長いことを意味している。
イヌは、とても耳がよい。イヌはヒトには聞こえない超音波も聞こえる。だから犬笛がある。
音の定位もヒトより細かくできる。イヌは、ヒトが16方位に分割して知覚できるのに対して、32方位まで分割できる。
イヌたちの耳の動かし方には、音を聞くこと以上の何かがある。耳の表情は独特だ。
イヌの味覚はよくない。
イヌはオオカミである。すべてのイヌの祖先は、タイリクオオカミ一種である。
家畜化したイヌの最古の骨は、1万4700年前のドイツの骨。
世界のイヌは、大きく5つのグループに分けられる。東南アジア、インド、中東、アフリカそしてヨーロッパ。
イヌの家畜化の起源は2万~4万年前。ネアンデルタール人の絶滅もそのころ。イヌはサピエンスの友だった。
犬の品種は800種ほど。
動物の体内には、活性酸素を退治する酵素がある。スーパーオキシドディムターゼ。この酵素のレベルが高い動物ほど、潜在寿命が長い。ヒトは、この酵素のレベルがとりわけ高く、チンパンジーの2倍。なので、チンパンジーの潜在寿命50歳に対して、ヒトは100歳以上まで生きられる。
イヌを一緒に生活できるマンションに住んでいて、近所の公園でドッグランをし、「イヌ友」をつくり、ときに町の祭りにもイヌのおかげで参加できたという楽しい暮らしを紹介している本でもあります。イヌと見つめあうと、ホルモンが出てくるっていう話もいいですね…。
(2021年11月刊。税込1870円)

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