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2020年10月 の投稿

撰銭とビタ一文の戦国史

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者 高木 久史 、 出版 平凡社
日本史に登場する銭(ぜに)の素材は、金・銀・銅・鉛と、さまざまなものがあった。
朝廷は鉛でできた銭を発行し、中世の民間は純銅の銭をつくり、秀吉政権は金または銀で銭をつくり、江戸幕府は鉄または黄銅(銅と亜鉛の合金)でも銭をつくった。
15世紀の日本では文字やデザインのない無文銭がつくられた。これは、錫が少なく、銅の多い銭は文字がはっきり出にくいことによる。無文銭をつくっていた地域の代表が堺。
足利義満は、20~30万貫文の銭を輸入した。義満が明との勘合貿易に積極的だったのは、内裏(だいり)や義満の邸宅である北山殿(今の金閣)を建設するための財源を調達するためだった。
室町時代を全体としてみると、輸入した銭の量は貨幣に対する人々の需要をみたすほどのものではなかった。
銭が不足したことへの人々の対応策の一つが省陌(せいはく)。これは100枚未満しかない銭を100文の価値があるとみなすこと。このために銭をひもで通してまとめたものを緡銭(さしぜに)という。ただし、これは、中国やベトナムにもあって、日本独自の慣行ではない。
撰銭(えりぜに)とは、人々が特定の銭を受けとることを拒んだり、排除してしまうこと。たとえば、明銭のなかの永楽通宝は品質もそこそこ良いのに人々から嫌われた。
人々は旧銭を好み、新銭は「悪」とみなした。つまり、使い古された貨幣のほうが安心して使えるので、好まれた。
九州の人々は明銭のうち、洪武通宝を好んだが、本州の人々はこれを嫌った。
16世紀には銭そのものを売買する市場が成立し、これを悪銭売買と呼んだ。
銀は、15世紀以前の日本では対馬国を除いてはとれず、中国や朝鮮半島からの輸入に頼った。16世紀に入ると、石見(いわみ)銀山など全国各地に銀山が開発された。信長政権の時代には、銭が不足気味だった。
「ビタ一文も負けない」というときの「ビタ」は、銭のカテゴリーの一つ。やがて、人々はビタを基準銭に使うようになった。「ビタ一文」と言うとき、貨幣の額面が小さいうえ、少額なことを人々がややさげすむ意味をふくんでいる。
秀吉は関東の北条一門を屈服させると、永楽通宝1をビタ3、金1両をビタ2000文とする比価を定めた。秀吉政権は高額貨幣の発行を優先させ、銭政策に消極的だった。秀吉は全国の金山を直轄すると宣言し、国内の銀山で採れた銀で銀貨をつくって大陸出兵の軍費にあてたり、そのことで再びもめた。
碓氷(うすい)峠あたりを境として、西側はビタを、東側は永楽通宝を基準銭とする地域に分かれていた。
寛永通宝はビタのなれの果てだった。
日本中の銭のさまざまなつかい方の一端を知ることができる本です。
(2018年12月刊。1800円+税)

弁護士になった「その先」のこと

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 中村 直人、山田 和彦 、 出版 商事法務
ビジネス(企業法務)弁護士として名高い著者が、所内研修で若手弁護士に話した内容がそのまま本になっていますので、すらすら読めて、しかも大変面白く、実践的に約に立つ内容のオンパレードです。
「企業法務の弁護士は、大半がつまらない弁護士である」、なんてことも書かれています。問われたことしか答えない、「それは経営マタ―だから、これ以上は、そっちで考えて」と知らん顔をして逃げる弁護士を指しているようです。
企業のほうからみると、大半の企業法務の弁護士は物足りない。上場会社の大半は、今の弁護士に満足していない。彼らは、常に優れた弁護士を探している。なーるほど、ですね。
昔は法務部に30年もつとめているという猛者(もさ)がいたが、今では法務担当も4年から5年でどんどん変わっていく。なので、新しい弁護士も喰い込む余地があるというわけです。
評価の低い弁護士は、結論を言わない、ムダにタイムチャージをつけて請求してくる。自己保身ばかり気にする、お金くれとうるさい…。
高い評価の弁護士は、仕事は速く、答えを明快に言い、その理由を説明してくれる。目からウロコの言葉をもっている。これまた、なーるほど、ですね。
法律論点は、事実関係の調査のあとに考えること。先に理屈を考えて、それに事実をあわせてはいけない。それでは説得力のない机上の空論になる。企業法務は、しばしばそれをやってしまう。頭のいい人の弱点。
血の通っていない主張は裁判官の心を打たない。先に法律ありきっていうのは、絶対にダメ。
楽しく仕事ができる弁護士が、一番良い弁護士。
弁護士、誰もが1件や2件くらい、気の重い事件をかかえている。いやだなあと思って逃げていると、犬と一緒で、追いかけられる。なので、気の重い事件は後まわしにしない。依頼者には正直に、そして正義に反する仕事はしない。
勝ったときには、しっかり喜ぶ。
毎日にスケジュールも中長期的なスケジュールも、自分で管理する。自己決定権をもつことが幸せの源泉。
会議は2時間以内。
書面を書き出したら一気に書く。途中で別の仕事をしない。文章が途切れてしまう。
起案するのは若手。それに先輩が深削する。そうやって学ぶ、
大部屋だと電話の受けこたえまで自然と身につく。
私よりひとまわり年下のベテラン弁護士ですが、さすがビジネス弁護士のトップに立つだけのことはある話の内容で、大変共感もし、勉強にもなりました。
(2020年7月刊。2000円+税)

博士の愛したジミな昆虫

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 金子 修治、鈴木 紀之、安田 弘法 、 出版 岩波ジュニア新書
このジュニア新書は、本来は子ども向けなのでしょうが、私の愛読する新書です。今回は10人の昆虫博士が登場する、楽しい昆虫の話です。
モンシロチョウの話も面白いです。モンシロ属の幼虫の食草は、すべてアブラナ科の植物。アブラナ科の植物にカラシ油配糖体という毒性のある防衛化学物質をもっている。このため、アブラナ科植物は多くの昆虫に食べられないですんでいる。ところが、モンシロ属の幼虫は、この防衛化学物質に対処する能力をもっている。しかも、それだけでなく、モンシロ属のチョウは、この防衛化学物質を手がかりとして、アブラナ科の植物を探し出し、そこに産卵する。
モンシロ属の幼虫に寄生しようとするヤドカリバエは、幼虫の食草の上を飛びまわり、葉にある幼虫の食痕(食べたあと)を目で見て探す。そして、それらしいと思うと、触角で点検する。そのときの決め手は、幼虫のだ液と植物の汁液が光合成してつくり出した化学物質。これでモンシロ属の幼虫だと分かれば、4~5分間に及ぶ丹念な探索をする。幼虫のほうも、寄生者を避けるべく、10分ほど食べてはその場を去り、50分間はなれたら戻ってくる。
モンシロのオスは、移動せず、平均2週間あまりの一生を羽化した畑で過ごす。モンシロが羽化するキャベツ畑は、寄生者も羽化する生息場所。キャベツ畑は、モンシロや寄生者が2世代から3世代くり返すと、キャベツの収穫期を迎えて消滅する。
モンシロがキャベツを好むのは、キャベツの栄養分が高くて卵をたくさん産めるからではない。キャベツは日向に植えられ、短期間で収穫される作物で、このことがモンシロに天敵から逃れる術(すべ)を与えている。
なるほど、ですね。私も前に庭でキャベツを栽培したことがありましたが、毎日毎朝の青虫とりに見事に敗退してしまいました。割りバシでとってもとっても、青虫が毎朝いくつも湧き出てくるのは、本当に不思議でした。
怖いヒアリにも強力なライバルがいるとのこと。タウニーアメイロアリ。このアリは、ヒアリに毒をかけれると、お尻から出した自らの毒液で、身体を洗浄している。この毒液の主成分は蟻酸で、ヒアリのアルカリ性の毒を中和する。なので、このタウニーアメリロアリもヒアリに代わる侵略種と化している。これまた怖い話です。
テントウムシが発育するには、エサになるアブラムシが必要。ナミテントウムシは最上位の捕食者。この強者と、それ以外の弱者が一緒に生活するヒケツは、強者のナミテントウムシのエサのアブラムシが減少して多種を捕食しはじめる前に、弱者は発育を完了するが、ナミテントウムシがいる寄生植物をさけて産卵すること。
昆虫は、4億年も前から地球上で生活し、100万種以上の種類に分かれ、地球上のあらゆるところで生活している。
自然界の共存する仕組が、とても巧妙であることを教えてくれる新書です。
(2020年4月刊。880円+税)

産んじゃダメだと思ってた、産んでみたら幸せだった。

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 たんたん、カネシゲタカシ 、 出版 幻冬舎
愛する男性と結婚してやりたいことをやっている女性なのに、子どもをつくったらダメだと思い込んでいた…。なぜ、どうして??それは、自分が生きづらい人間だったから。
見捨てられた感、愛が足りないかん、子ども時代をやり残した感があるので、子どもを産まないことは正義だと考えていた。
小さいころの母親は、いつも不機嫌、口答えすると無視。見捨てられ不安がつのる…。
父親は自己愛の強い人。そのパパにバカにされないかな、嫌われないかな…。
母親は子どものために我慢しているという。だったら、母親なんかになりたくない。子どもなんて、つくらないほうがいい…。
父にはほめられず、母には叱られる。そんな家庭に育ったので、自己肯定感の低い人間になってしまった。
高校に入ってすぐに中退。でも定時制高校に入り、音楽に出会った。そして短大にすすむ。実家も出て一人暮らしをはじめた。
交際をはじめた彼に病院に行くように誘われ、医師から境界性パーソナリティ障害だと診断される。そして薬を飲みながら、生きづらい日々を穏やかな日々に少しずつ変えていったのでした。すべては自己肯定感をとり戻すために…。
子どもを産んだらダメな三つの理由。その一、不幸の連鎖を止めたい。その二、女性を卑下する女性は子育てしてはいけない。その三、子どもにヤキモチを焼く母親に子育ては無理だから。
だけど、愛とは無限のもの。ありのままの自分でいいんだ。
よく描けたマンガ(絵)が、このストーリーがよくよく伝わってきます。すごい絵です。
著者は2度の流産を経て、3度目は、ついに出産へ。苦しい苦しい出産だったようです。これまた、すごくよく分かる絵です。そして、ついに赤ちゃん(娘)が誕生し、かつて著者を追い詰めていた両親とも和解が成立するのでした。
タイトルの意味が本当によく分かる、すばらしいマンガ本です。
(2020年3月刊。1100円+税)

大名倒産(上)

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 浅田 次郎 、 出版 文芸春秋
ときは文久2年(1862年)8月のこと。
越後丹生山(にぶやま)三万石の松平和泉守(いずみのかみ)信房(のぶふさ)21歳は、老中に呼び出された。
献上品の目録はあるが、現物が届いていない。いったい、いかなることか…。
「目録不渡」であった。これは一大事…。どうしてこんなことが起きたのか。
借金総額25万両。年間の支払利息1割2分は3万両。ところが、歳入はわずかに1万両。いったい、どうやって支払うのか…。
藩主は前藩主の父に問うた。
「父上にお訊ねいたします。当家には金がないのですか」
隠居の身である父は気魂を込めて返した。
「金はない。だからどうだというのだ」
質素倹約、武芸振興、年貢増徴。これしかない。
次に考えついたのが、計画倒産と隠し金。いったい、どうやって…。
25万両の借金に対して1万両の歳入しかない藩財政。この財政を再建する手立てなど、あろうはずもない。
ところが、ひょっとして…。
さすがに手だれの著者です。ぐいぐいと窮乏一途の藩政のただなかに引きずり込まれてしまいます。さあ、下巻はどんな展開になるのでしょうか…。
(2019年12月刊。1600円+税)

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