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2020年8月 の投稿

大地よ! 宇梶静江自伝

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 宇梶 静江 、 出版 藤原書店
日本は単一民族だなんて、アベ内閣の大臣が今なおヌケヌケと放言するのですから、たまりません。北海道にアイヌ民族がいることは厳然たる事実であり、今では法律でも認められているものなのです。
2019年4月、アイヌ新法が制定され、国としてアイヌを先住民族として認めた。
明治32年(1899年)に制定された「北海道旧土人保護法」では、アイヌは「旧土人」とされていたが、100年後の1997年にアイヌ文化振興法が制定されて、「旧土人保護法」は廃止された。
北海道には2万4千人のアイヌがいて、東京にも5千人のアイヌが暮らしている。しかし、半数はアイヌと名乗っていない。アイヌの実態調査(東京都)の1回目、1974年(昭和49年)には700人弱のアイヌ人が回答したが、1989年(平成1年)には2700人に増えた。
この本の前半は、自伝ですから、当然のことですが、その生い立ち、両親と兄姉たちのことが語られています。両親とも文盲だったようです。著者は、そのなかでなんとか学校に行き、本を読めるようになり、ついには詩人としてデビューしたのでした。
生い立ちのなかでは、アイヌの人々の貧しさがとことん語られています。そのなかで姉たちが奉公に出て、結婚し、苦労して若くして病気で亡くなっていくのでした。
アイヌであるがための差別で苦しめられていますが、著者は、くじけることはありませんでした。そして、敗戦の年、著者は12歳。学校には、ほとんど行っていません。それでも20歳で中学校に行くのです。そこは、札幌の北斗学園という、お嬢さん学校でしたし、7歳も年長ですから、差別は受けなかったようです。
その後、東京に出て喫茶店につとめ、結婚し2人の子どもをもうけ、詩を書きはじめました。壷井繁治が著者の詩に注目したのでした。『二十四の瞳』の壷井栄の夫である詩人です。
そして、朝日新聞に1972年、アイヌとして叫びをあげたのでした。いやはや、たいした行動力です。
アイヌの踊りにリハーサルなんかない。著者の「エッサホイ、エッサホイ」という掛け声にあわせて即興で踊る。アイヌの音楽は手拍子と掛け声。すべて即興。お祈りの儀式やセレモニーが終わったあと、唄って踊る、跳ねる。すべて即興。アイヌは、「ホレ、ホレ」、(おいや、うれしいな、ありがとうカムイ、聞いていますか、私はこうして生きています…)と即興で歌う。
アイヌには見世物のような唄や踊りはない。ともに喜びを分かちあうためのもの、カムイが喜んで、自分も喜ぶ、そうするために唄い、踊る。
1975年ころ、著者43歳、福生(ふっさ)市にある「ゴーゴー喫茶」に誘われて行った。客は、ロック・ミュージックのリズムに乗って、ゴーゴーを踊っている。すると、著者の身体に眠っていた何かが急に目覚めたように、得も言われない衝撃に駆られた。自然に身体が動く。気がつくと、音楽に反応して、踊っていた。アルコールの飲めない著者はコーラを飲んだのみ。夢中で身体を動かし、リズムをとっている。その夜は、一晩中、踊り続けた。
なあるほど、そこが違うんですね…。身体の奥深くで反応するものがあるので、リハーサルなんて、必要がないというわけです。
1933年に生まれの現在87歳。ひき続き元気にお過ごしくださいね。アイヌの人々の実際を知ることのできる、いい本でした。
(2020年6月刊。2700円+税)

アメリカを蝕むオピオイド危機

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ベス・メイシー 、 出版 光文社
日本でも、ひところほどではないように実感するのですが、覚せい剤使用事件をときどき弁護します。先日は久しぶりに大麻事件を扱いましたし、覚せい剤に似た新種の薬物事件も扱ったことがあります。
ところで、アメリカの薬物汚染は日本よりはるかに深刻な状況にあるようです。
最近、復活を遂げたタイガー・ウッズもオピオイド中毒をなんとか脱出した奇跡的な存在だということも、本書を読んで知りました。
アメリカ全土に広がったオピオイド禍は、今や過剰摂取により年に5万人もの生命を奪い、400万人もの依存症患者をつくり出している。
薬物の過剰摂取は、過去15年間に30万人のアメリカ人の命を奪い、次の5年間にさらに30万人以上が死亡すると予測されている。今や薬物の過剰摂取による死者は、銃や交通事故の犠牲者を上回っていて、50歳未満のアメリカ人の死因のトップになっている。そして、その増加のペースは、HIVの最盛期を上回る。
今日のアメリカでは、中流や上流階級に麻薬が蔓延しており、これこそが切迫した絶望的な問題となっている。
アメリカ人が全般的に早死になっているのではなく、アメリカ人の白人だけが明らかに若くして死んでいる。
アメリカでは医薬品の広告費は、1995年に400億円ほどだったのが、3年後の1998年には1430億円へと急増した。
2000年、製薬業界は、医師への直接業だけで4444億円をつかった。ゴルフ接待、無料ランチなどなど…。パデューという製薬会社はオーナーのサクラー一族に支配されていた。このパデューは、オキシコンチンの販売で3080億円の利益を得ていた。2006年の1年だけで654億円も稼いだ。その結果、サクラー一族は、1兆5400億円もの資産を有し、メロン家やロックフェラー家のような名門一族を上回った。そして、サクラー一族は、博物館や大学に次々に多額の寄付をしていった。
オピオイド関連の犯罪を撲滅するため、アメリカ全体で8360億円もの大金をつぎ込んでいる(2013年)。
ケータイの普及によって、屋外での取引市場はなくなり、ガソリンスタンドやショッピングモールなどの駐車場など、人目のつかないところでの麻薬の売買・受け渡しが可能になっている。私もパチンコ店の店先の路上での取引を「目撃」したことがあります。
アメリカには薬物裁判所なるものがあるそうです。薬物常習性や再発を防止するための治療システムの一部です。被疑者が1年から1年半の再生プログラムに参加し、完了したら、起訴を取り下げるのです。再犯の可能性は半分から3分の1に下がっているとのこと。日本でも必要なシステムと思います。でも、そのためには人的体制が不可欠ですので、司法予算の拡充が前提として必要になります。
アメリカの黒人男性の3人に1人が刑務所に収監されている。出所しても黒人は二級市民の烙印を押され、まともな職につけないため、再犯の可能性は高い。薬物事犯の4分の3は黒人とヒスパニック系が占めている。受刑者の半分を占める薬物事犯者の再犯率は75%にも達している。
製薬会社(パデュー・ファーマ社やジョンソン・エンド・ジョンソン社)は、あまりにも巨大なもうけをあげている(売上額は年に9兆円近い)ため、巨額のはずの賠償額629億円さえ、かすんで見える始末だ。
もうけるためには何をしてもいいかのように行動している製薬会社は、ユダヤ人を大量殺害したナチスと同じ発想で行動しているとしか思われないのですが、それがユダヤ系のサクラー一族だというのですから、世の中は魔訶不思議です。
(2020年2月刊。2200円+税)

アメリカ白人が少数派になる日

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 矢部 武 、 出版 かもがわ出版
今から25年後の2045年、アメリカは白人が半分以下の49.7%、有色人種が半分をこえて50.3%になる。このとき、ヒスパニックは24.6%、黒人13.1%、アジア系7.9%そして多人種3.8%。というのも、白人は高齢化がすすみ、2025年以降は自然減少によって減り続ける。これに対してヒスパニックとアジア系は86%の増加率を示し、黒人系は34%。
白人優位を守るため、1882年に中国人排斤法、1913年に外国人土地法、1952年に移民国籍法(アジア人への移民制限)が制定された。
アメリカの白人には、アメリカは白人がつくった国だというホンネがある。そして、白人の特権を失うことへの不安と恐怖がある。白人の特権とは…。
① 車を運転しているとき警察官に呼びとめられたり、納税申告で税務署から呼び出されても、白人だからということはないと確信できる。黒人は黒人だから呼びとめられることがあるが、白人はそれがない。
② 公共の施設の利用を拒否されることがない。黒人だと、実際には空きがあっても「満 室だ」と言って断られる。
③ 小切手やクレジットカードを使ったり、現金払いするとき、何の不都合もない。黒人だと、カードが念入りにチェックされる。
④ 店でショッピングしているとき、警備員に万引きしないか付け回されたりすることはない。
⑤ お金さえあれば、好きなところに家を買ったり、アパートを借りることができる。黒人や アジア系は、白人密集地域に住もうとすると拒否される。
⑥ メディアでポジティブかつ好意的に報じられることが多い。黒人はネガティブに報じられることが多い。
⑦ 白人は国の創始者としてその功績が紹介される。学校の教科書も白人の視点で書 かれている。
⑧ アファーマティブ・アクションがあるため、個人の能力ではなく、人種のおかげで採用されたという陰口を言われることがない。
以上のように、アメリカでは白人に有利な社会システムができているため、白人は有色人種ほど努力しなくても、ある程度の成功をおさめることができる。
なーるほど、これはたしかに「白人の特権」と言えるものですよね。
トランプが前回の大統領選挙で勝ったのは、有色人種の人口増加によって白人が少数派になる現実を認識した白人層の不安があり、トランプがそれをうまく利用したので、トランプを支持することにつながった。
なるほど、なるほど、そうだったんですか。それでトランプが今でも白人優位をあからさまに唱えて、自分への支持をつなぎとめようとしているのですね。
あんなひどい嘘をまきちらしても、トランプの支持率が33%を下がらないのは、それだけ熱烈なトランプ支持者が多いことを意味している。そして、人種差別は巧妙化している。また、メディア業界は、白人男性がほとんど牛耳っている。
トランプのアメリカを現状分析した本です。一読に値します。
(2020年5月刊。1800円+税)

仏陀バンクの挑戦

カテゴリー:アジア

(霧山昴)
著者 伊勢 祥延 、 出版 集広舎
仏陀バンクなんて、聞いたこともないコトバですよね。
これに似ているのがノーベル平和賞を受賞したインドのグラミン・ユセフ氏のグラミンバンクですが、それは5人の連帯保証人と20%ほどの利息が求められます。
これに対して、仏陀バンクはなんと利息をとりませんし、保証人も物的担保もとらないというのです。ええっ、そ、そんなのがうまくいくわけないでしょ…。そう叫びたくなりますよね。
でも、そこにちょっとした工夫・仕掛けがあるのです。お金の借りた村人は、お金を貸してくれた「仏陀」へのお礼として1ヶ月分の「お布施」を元金のほかに支払うのです。
ええっ、それじゃあ名目が違うだけで利息をとっているのと同じでしょ…。いえ、違うんです。この「お布施」は貸した側に入るのではなくて、そのまま次の村人への貸し出し原資として使われるのです。たとえば100人規模の村の場合、原資10万円を村人10人に1万円ずつ貸し、借りた村人は毎月千円ずつを返済していく。すると、1ヶ月後には、10人から千円ずつの計1万円が戻ってくるので、それを新しく村人へ貸し付けていく。
対象の村人は仏教徒で、信仰心があることが前提となっている。
この仏陀バンクは、バングラデシュでは2010年に始まった「四方僧伽(しほうさんが)」の主要プロジェクトだ。
バングラデシュはイスラム教国家であり、仏教徒は国民の1%にもみたない存在。
仏陀バンクによると、個人の自立だけでなく、人々の連帯心も生まれる。
バングラデシュの南東部にジュマ民族と呼ばれる先住民が暮らしている。顔つきは日本人とあまり変わらないアジア系モンゴロイド。そして、平原地帯に暮らすベンガル人仏教徒であるバハワ族がいる。この先住民ジュマとバハワという2つの仏教徒は微妙な関係にあり、決して仲がいいとは言えない。
村人にとっていいことずくめのはずの仏陀バンクなのですが、実際に現地に根づかせようと思ったら、2つの民族の対立心があったり、個人の功名心や嫉妬があったり、お金に目がくらむ人もいたりで、大変な苦労をさせられるのでした。なるほど、理想を現実のものにするのはいつだって大変なんですよね。
バングラデシュには、観光客がほとんどいない。観光産業はほとんどなく、旅行という概念がない。旅行者を狙った犯罪もなく、外国人料金も存在しない。人々は外国人が珍しくて仕方がない。
うひゃあ、今どき、そんな国があるのですね…。
道路には交通信号がほとんどない。排ガス規制もないので、大気汚染はひどく、絶え間ないクラクションで頭が痛くなる。世界一の最貧国で、ホームレスが多く、ストリートチルドレンがものすごい。少数民族の仏教徒はイスラム教徒に襲撃されたり、軍部から人権抑圧の対象となったりする。
そして、仏教徒内部のひがみ、やっかみ、虚栄心の張りあいなどで、仏陀バンクは、何度となく破局寸前になるのでした。そして、2016年7月には、ダッカでイスラム過激派による襲撃事件が起き、20人が殺害されましたが、そのうちの7人が日本人で、いずれもJICA関係者だったのです。
このような、次々にあらわれる困難を乗り越え、仏陀バンクは100ヶ村を目ざしつつ、なんとか半数を達成したようです。
すばらしい取り組みだと思いました。こんな地道な取り組みをしている日本人については、中村哲医師と同じように、もっともっとメディアは知らせてほしいものだと思います。
この本の発行は福岡の集広舎ですが、「四方僧伽」の事務局は北海道の石狩郡にあるとのことで、その地域的ギャップの大きさにも面くらいました。一読に値する本です。
(2020年4月刊。2000円+税)

タコの知性

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 池田 護 、 出版 朝日新書
ええっ、タコに知性があるだなんて、アホじゃないの…。思わず、そう叫びたくなります。でも、本当にタコは思いのほか賢いようなのです。
タコは、実はハイレベルな学習をやってのける海底の賢者なのだ。
タコの世界的な輸出国は、中国とモロッコ。タコは全世界の海に生息している。世界的なタコとイカの輸入国は、日本、アメリカ、スペインそしてイタリア。
漁獲量はイカが圧倒的に多く、タコは1割ほどでしかない。イカは比較的浅いところを集団で行動しているが、タコは集団をつくらない。
250種のタコが全世界の海洋に分布している、
タコは、近い親戚筋のイカ、オウムガイそしてアンモナイトと一緒に頭足(とうそく)網(こう)というグループに入っている。
タコは8本の腕をもち、イカは10本の腕をもつ。「タコハチ、イカジュウ」と覚える。
タコは色が見えず、色覚を欠いた動物だ。しかし、タコ自身は色彩の使い手。
ミミックオクトパスは、複数のモデル種に化けることができる。パッとミノカサゴになり、次はパッとウミヘビになる。
タコは、色彩をベースとしたボディパターンでコミュニケーションをとる。
タコの寿命は1年ほど。長くて2年を少しこえるくらい。タコは繁殖したら最後、それで死亡する。これはイカも同じ。タコの腕の中には骨がない。
タコは観察学習する。隣のタコのやっていることを真似る。タコは道具を使う。
タコは人間に熱い視線を送る。タコは腕で考える。
麻薬を摂取すると、タコもハイになる。
タコが怒ると、たとえば体表のリング模様をギラギラと点滅させる。まずいエサを与えられると、怒って水中から投げつけて返す。タコの身体の色彩の変化は表情を示しているのだ。
タコの地道な研究の面白さが伝わってくる本でした。
(2020年4月刊。810円+税)

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