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2020年5月 の投稿

ゴリラに学ぶ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 山極 寿一 、 出版 ちくま文庫
京都大学総長であり、日本学術会議会長もつとめる著者は、ゴリラ研究の世界的権威でもあります。著者は、ながくアフリカで野生のゴリラの生態や社会を研究してきて、オトコという存在に気がついたといいます。
オトコは、文化的なカテゴリーを含んでいる。人間の男は、生物としてのオスから出発し、生物学だけではとらえきれないオトコを経て今の姿になった。
オスがメスより大きくなったのは、外敵からの防衛をオスが担うようになったから。
オスは、メスにない派手な特徴を身につけているが、これは、見せかけだけでなく、外敵と実際にたたかう能力をオスが発達させた結果である。
ゴリラのオスは一度ソリタリー(独り暮らし)になったら、二度と他の群れに加入できない。ゴリラの群れは、複数のオスの共存を許さないからだ。
ゴリラのオスは、移籍しそうなメスを誘い出して自分の群れをつくるか、群れのオスが死んでメスだけになったときに入り込むしか、ソリタリーの生活を脱却する道は残されていない。
ゴリラのオスは、一度自分の集団を持てば、追い出されることはないので、老後は恵まれていると言える。
ゴリラのオスは、基本的に観客がいるときしかディスプレイをしない。
ゴリラのオスのドラミングは、他のオスに対しては手強い相手だと思わせ、メスには信頼できるパートナーとしての力と技量を示し、子どもたちには頼りがいのある保護者として見えるように、見栄を張る手段なのである。
ところが、メスは、オスの思惑どおりには動かない。交尾が成立するか否かはメス次第。人間以外の霊長類のメスは、自分の排卵日をきちんと分かっている。メスは排卵日までは優位なオスにつきあって、排卵日になると、別のオスと交尾する。その結果、優位なオスでも劣位なオスでも、同じように子孫を残すことになる。
メスは見知らぬオスを好む。そして、ゴリラのメスは発情特徴をほとんど示さない。ゴリラのオスはメスの発情刺激によらずに性欲を覚える能力を発達させている。
類人猿たちは、思春期を過ぎても同年齢や年下の仲間と熱心に遊ぶ。遊ぶというルールの中で、ふだんの自分とは別の役割をつくり出し、それを演じる能力がある。
交尾も遊びと同じように、相手に強要できない。サルには強姦という手段はない。
ゴリラの赤ん坊は、2キログラム弱の小さな体で生まれる。とても甘えん坊で、3年間は母親の乳をせがむ。出生後の1年間は、母親がめったに赤ん坊を離さない。他のゴリラに触らせない。
母親が赤ん坊をオスに紹介し、赤ん坊が徐々にオスに馴れ、自分からオスを頼るようになって初めてオスと幼児の親密な関係が生まれる。ゴリラのオスは、母親と子どもから二重の選択を経て、やっと父親たる行動を示せるようになる。
ゴリラの集団は、なわばりを持っていない。
メスや子どもゴリラが地上にベッドをつくらないのは、ヒョウを恐れているから。体重200キログラムをこえるオスのゴリラが近くで目を光らせてくれなければ、彼らは安心して地上で夜を過ごせない。
ベッドは毎日つくり替える。繰り返し利用すると、排泄物で汚れ、寄生虫の温床となるからだ。
人類の発明は、食物を採集する場所と食べる場所とを分けたこと。この二つを分けたことで人間らしい特徴が生まれた。それは想像力と仲間への信頼だ。
ゴリラの観察はヒトの観察に通じることがよく分かる本でもあります。
(2019年9月刊。820円+税)

探偵の現場

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 岡田 真弓 、 出版 角川新書
不倫の相談を受けたとき、私立探偵に頼みましたといって調査報告書なるものを示されることはしばしばです。
ちょっと前までは、それはひどいものでした。10万円単位ではなく、300万円も支払いましたといって馬鹿馬鹿しい作文しかない報告書を読ませられて腹の立つことが何度もありました。弁護士の着手金30万円を高いと言うような人が不倫調査のため私立探偵に支払った300万円は高いと考えていないようなので、この落差はいったい何なのだ…と怒ったということです。
でも、今では私立探偵の費用も、ネットが発達したこともあるのでしょうが、50万円以下のことがほとんどで、私からしてもリーズナブルだと思えますし、GPSなどを駆使して、証拠としてバッチリ使えそうなものが大半です。
探偵業界で売上ナンバーワンという会社の代表者をつとめる女性が探偵の現場を教えてくれる本として面白く読みました。
この本ではGPSをつかった調査が基本になっていること、スマホがいかに便利かということが紹介されています。スマホによる動画は、決定的に重要だというのは私もまったく同感です。ですから、バッテリーとメモリーの残量チェックが欠かせないというのも本当です。
この本では不倫調査の結果と、その後のアフターケアまで紹介されています。
不倫が発覚しても、7割は、夫婦関係を継続させていると書かれているのには、いささか驚きました。でも、たしかにそうかもしれないと弁護士生活を46年も続けて思うところはあります。
夫は不倫をしていると妻が疑っているケースでも、実は夫のほうは不能(インポ)で悩んでいるケースがあったり、夫はゲイだったり、話は必ずしも単純ではありません。
大会社の幹部社員はあまり不倫には走らないそうです。これも、これだけネット社会になると、そうかもしれないと思います。
それにしても、今はネット上のやりとりで、不倫していることがバレバレなのに、平気だということが少なくないのにも驚かされます。
いずれにしても、世の中が大きく変わろうとしていることを私立探偵の仕事を通じて教えてくれる新書になっています。
(2020年2月刊。880円+税)

癒されぬアメリカ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 鎌田 遵 、 出版 集英社新書
アメリカ先住民社会の現状が詳しく紹介されています。
アメリカには300万人近い先住民が暮らしている。3億人をこえる人口の1%にもならない。部族は573。平均年齢は31.4歳で、全米平均の37.7歳より若い。25歳以上の人で、4年制大学を卒業しているのは18.5%。これは、全米平均の30.1%をはるかに下回る。貧困率は28.3%。
先住民は糖尿病の疾病率が高く、白人の2倍。そして糖尿病が原因の腎不全を患う先住民人口の割合は白人の5倍。
先住民は、強制的に定住させられ、極度の運動不足と、食糧難に陥った。そして、安価で高カロリーの食糧が政府から配給された。これらが原因だ。
先住民にとって、砂漠はスーパーマーケットのようなもの。風邪薬や食べもの、食器や家財道具などの日常生活に必要なものは、すべてここで手に入る。必要なものは、すべて砂漠で調達する。風邪の症状が出たら、砂漠に生えている雑草をそのまま口にする。
モハベ族の先祖たちは、白人の侵略者の要求に応じた。そうすれば、自分の世代はともかく、子や孫の世代は、白人と一緒に生きていけると思ったからだ。しかし、白人の要求は底なしだった。伝統文化の継承を禁じ、弾圧によって尊厳までも奪うとは、誰も予想できなかった。
モハベ族の人たちには死んだ人の悪口を言ってはいけないという不文律がある。自分の先祖と同じ場所にいる人を批判することになってしまうからだ。
先住民の居住地がドラッグ密輸の経路になっている。
先住民の12.3%がドラッグを使用していて、23.5%が過度の飲酒の問題をかかえている。
先住民の居留地内には、複数の女性ギャング組織があり、ときに抗争にまで発展している。
先住民が刑務所に収監される割合は高い。先住民の収監者は、1999年の5500人から2014年の1万400人に増えた。毎年平均して、4.35%ずつ増加している。ほかの人種の増加率1.4%より3倍以上も高い。
過去5年間に連邦刑務所での先住民の収監者は27%も増えた。
先住民の逮捕者は10万人のうち4268人で、黒人の5393人に次いで多い。これは白人の2386人よりはるかに多い。
先住民の10万人あたりの自殺者は21.5人で、ほかの人種よりも高い。
アメリカでは、現在、247の部族が全米29州の居留地でカジノの経営に参入している。520施設だ。カジノ経営によって、雇用機会は増加し、その収益で居留地のインフラ整備や少額金制度などが強化されている。
 居留地でのカジノ経営は、人種差別に苦しむ先住民の貴重な収入源になっている。また、部族が守り抜いた自治権の象徴でもある。
先住民のカジノ収益は、おもに居留地内の社会福祉事業や伝統文化の維持するものであり、それを通じて部族社会再建のために確立していた(はずだった)。
もともと居留地には、アルコールとドラッグの問題があった。でも、今はギャンブル依存症が深刻化している。
アメリカ先住民女性の46%はレイプ、家庭内暴力、交際相手からのストーカー被害のいずれかにあっている。先住民の女性がレイプされる割合は高く、その加害男性が先住民以外の人種である割合は86%と、とても高い。レイプの被害者が先住民だったとき、警察は動かない。
アメリカの先住民をインディアンと呼ぶのは、おかしい。インド人ではないからだ。
先住民であることを隠して、多くの人が生きている。
インディアンとも呼ばれているアメリカ先住民の置かれた状況は大変だということがよく分かる新書でした。
(2019年12月刊。1000円+税)

歴史としての日教組(下巻)

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 広田 照幸 、 出版 名古屋大学出版会
日教組の実体をよく理解することができました。
まずは、1995年の日教組と文部省との「歴史的和解」です。
これは、村山内閣のとき、与謝野馨文部大臣が主導したものと言われています。その内実が、明らかにされていて、興味深い記述です。
 1994年6月、自民党と社会党が新党さきがけとともに連立政権をつくり、総理大臣に社会党委員長だった村山富市が就任した。このころの自民党は、小沢一郎の率いる新生党―新進党への対抗上、左にウィングを伸ばすことで政党としての党勢回復を図ろうとしていた。自民党がもっともリベラルになっていた時期だった。それで憲法改正を棚上げにし、日教組を含めた労働組合との良好な関係づくりに熱心な状況になっていた。
そして、日教組のほうは、内部に救援資金問題をかかえていた。日教組はストライキを構えて闘った時代の負の遺産として、巨額の救援資金が組合財政を深刻に圧迫する事態となっていた。年間78億円の予算のうち3分の2近くを処分された組合員の給与補填に充てていた。これを解決するには各地の教育委員会との話し合いが必要だが、そこへ自民党と文部省が圧力をかけていた。日教組の組織力を弱めるため、自民党と支部省は「兵糧攻め」までしていた。
和解の糸口を切り出したのは村山首相その人だった。そして与謝野文部大臣は慎重にことを進めた。最終的に文部省と日教組で合意した文書は今も公開されていないようです。信じられません…。
次に、「400日抗争」です。実は、私は知りませんでした。1986年(昭和61年)8月から翌87年3月までの間、日教組主流派の内部で主導権争いがあり、大会が開かれず、人事も予算も決まらなかったのでした。この対立は、ストライキも辞さないという左派と協議優先の右派。労線問題で、結局あとの連合へ合流していくのか、それに反対するのか…、など。発端は、日教組の田中委員長が自民党候補の激励会に参加したことでした。
このころ、反主流派の共産党と、左派の一部であり、中核である社会主義協会系とが「共協連合」をつくっていると非難されていたが、この「共協連合」なるものには何の実体もなく、いわば幻の存在でしかなかった。
結局、この「400日抗争」は終結したが、一般組合員の関心には薄く、むしろ多くの組合員は、失望し、不満をかきたてた。結局、日教組の弱体化につながっていた。
民主党政権下で自民党が大きく右に揺れるなか、ネット上で荒唐無稽な「日教組けしからん」論が横行するようになった。かつて右翼の街宣車が大きなスピーカーで「民族の敵、日教祖を撲滅しましょう」なんて叫んでまわっていたのを思い出します。今では、それがネット上の叫びに変わっているわけです。さらに、国会審議のなかで、突然、脈絡なしに安倍首相が「日教組…」と叫んだりするという茶番まで加わります。
そんなアベ首相と「ネトウヨ」が目の敵にする日教組の実体を知ることのできる貴重な学術書です。下巻だけでも300頁、3800円もしますが、全国の図書館にせめて一冊は備えておいてほしい貴重な文献です。
(2020年2月刊。3800円+税)

僕たちは育児のモヤモヤをもっと語っていいと思う

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 常見 陽平 、 出版 自由国民社
43歳にして父となり、今は2歳児の子育てに専念してはいない、専業主夫業です。
朝5時に起きて、娘が起きてくる7時までの2時間だけが唯一、自分の自由になる時間。
まず風呂に入って、防水仕様のスマホで朝刊を確認する。紙ではないのですね。
朝7時になると、家族の朝ごはんをつくる。
朝7時から9時までの2時間は、妻と娘のために使う。
自分の思いどおりになる時間はほとんどなくなった。
子どもは大人の思いどおりには動いてくれないもの。
イクメンという言葉は嫌いだ。イクメンと呼ばれるのには強い抵抗がある。
子どもは、会社や社会全体で、助けあい補いあいながら育てていくべきもの。
今しか見ることのできない世界を見に行くというスタンスで、子育ての時間を楽しむようにしている。家事は仕事、労働だ。家事・育児・介護は「いのち」がかかっているので、サボることができない。
著者は1日7時間睡眠を死守しているとのこと。私も以前はそうでしたが、今は1日6時間です。ただし、昼か夕方に20分ほど横になるよう努めています。やはり40代、50代と同じようにはいきません。
大事なことは、優先順位とクオリティ。
朝、娘が熱を出すと、著者と妻の一日の仕事のスケジュールが一変してしまう。子育て中は、娘のご機嫌など、そもそも不確定な要素が多く、いつも追われているような生活になる。
子育ては、模索の毎日。子育ては現実。子育てしていると、知らないことばかりなのを自覚し、猛反省させられた。
本当にそのとおりです。弁護士生活46年になっても、世の中、知らないことばかりなのです。
男性にとっての子育ての大変さと楽しさがよく伝わってくる本でした。私も5歳と2歳の孫が半ば同居していますので、彼らを見ていると、なるほど、人間ってこういうものなのかと教えられます。
(2019年8月刊。1200円+税)

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