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2020年3月 の投稿

イージス・アショアの争点

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 荻野 晃也・前田 哲男ほか 、 出版  緑風出版
イージス・アショアって、そもそも何なの…、どうしてそんな高価なものを秋田と山口・萩の二ヶ所に置くの…、それって本当に日本を守るために必要なものなの…、誰から攻撃されるっていうの…。そんな疑問に多面的に答えた本です。
秋田市と山口県の萩市・阿武町の2ヶ所にイージス・アショア基地を設置するという話は2017年に突如として降って湧いた。安倍首相の選挙区は山口県、菅官房長官は秋田県出身。これって本当に偶然のことだろうか…。
イージス戦闘システムは、その本質は強力な攻撃兵器である。
海上にイージス艦を8隻も浮かべておきながら、地上配備型のイージス・アショアを秋田と山口の2ヶ所に置くという。
防衛省は、1990年代後半まで、日本に向けて発射された北朝鮮の弾道ミサイルに対して海上のイージス艦が対処し、次にパトリオットミサイルPAC・3が対応する二段構えで、「万全の構え」をとっていると説明してきた。だったら、さらに地上型は不要のはずなのに…。
2017年8月、日本政府はトランプ政権の要請にこたえてイージス・アショアの導入を決めて発表した。このときは1基800億円とされた。ところが、12月の閣議決定の時点では1基1000億円と修正され、さらに翌18年7月に1基1340億円と再修正された。
なぜ、秋田と山口の萩なのか…。
実はアメリカ軍の軍事拠点であるグアムとハワイを防衛するためであることが地図の上で明らかになった。秋田と山口は、アメリカ本土を北朝鮮のミサイル攻撃から防衛するための人身御供(ひとみごくう)なのだ。
そうすると、北朝鮮からも中国・ロシアからも攻撃目標(標的)にされる危険がある。標的にならなくても、イージス基地から迎撃ミサイルを発射したとき、爆炎が周辺に及び、またブースター(補助推進ロケット)が周辺に落下する。
そして、イージス・アショアからは強力な電磁波がふりまかれる、電磁波は人間の生殖への悪影響を及ぼす心配がある。生殖だけでなく、人間の脳にも悪い影響を与えることも最近心配されている。さらに、発ガン性も心配されはじめた。
結局、イージス・アショアを日本の地上に2基も設置すると、8429億円の費用がかかると見込まれている。どんどんふくらんでいる。
アベ政治は、こんなアメリカと軍事産業だけを利する、不要不急の軍事には惜しみなくお金をつぎこむ一方、コロナ新型ウィルスにはわずかなお金しかつぎこもうとしません。まさしく本末転倒の政治です。もう、そろそろやめましょうよ…、こんなデタラメ政治は。
(2019年11月刊。2000円+税)

天皇と戸籍

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 遠藤 正敬 、 出版  筑摩書房
戸籍があるのは、日本だけ。日本と似た戸籍制度が続いてきた韓国は2008年に廃止した。中国と台湾は今では居住登録の意味が強く、日本とはかなり異なる。
中国では7世紀の唐の時代に体系的な戸籍制度が整備され、日本でも唐にならって7世紀後半から全国統一の戸籍を実施した。つまり、日本の戸籍制度は、いくらかの変遷を重ねながらも、今日まで1300年以上にわたって存続してきた。
皇族には、氏がない。元皇族には、離婚したときに復帰すべき氏がない。
天皇家の人々には氏も姓もない。なぜなのか・・・。
天皇・皇族に対して陛下とか殿下といった敬称、また最上級の敬語は、それを義務づける法的根拠はない。
なので、私は「天皇陛下」とは決して言いません。天皇夫妻と言います。そして、必要な時にはフツーの敬語表現は使います。私と何の縁もない、見知らぬ人たちだからです。
日本の戸籍は、天皇からみた「臣民簿」であることを歴史的な本質としている。
「公地公民」というのは、豪族が全国に割拠して治めていた土地と領民は、すべて天皇の所有物であるという考え方にもとづくもの。
戸籍は、あくまで「下々(しもじも)」を登録するものであって、「上御一人(かみごいちにん)」たる天皇を別格とすることを法制の上で明示するうえで、格別の役割を担った。
戸籍は「臣民簿」という国家的意義をもつもので、「一君万民」という形での国民統合が、戸籍という装置を介して具現化された。
古代日本国家において、「氏(ウジ)」と「姓(カバネ)」は天皇からの「賜(たまわ)りもの」だった。だから、その「御威光」にあずかろうとして、氏姓を捏造(ねつぞう)する豪族が絶えなかった。
天皇家は他の王家との区別を示すための「姓」をもつ必要がなかった。日本では、天皇家は「万世一系」であって、単一の王家が続いてきたことになっていて、これに競合するような他の王家は存在しない。日本は中国から「易姓(えきせい)革命」の考えは受け入れなかった。
天皇家は、すべての氏族に対して超然としてそびえたつ存在でなければならなかった。臣民の称する氏や姓は、それぞれの家の標識であり、いわば「私」の表徴である。それらすべての氏姓(家)をたばねる唯一無二の「宗室」として天皇家は「公」を表徴するものであるからこそ、氏姓を必要としないのだ。
明治以来、一般の日本国民は満20歳が成年とされてきた(今は18歳)。ところが、天皇・皇太子・皇子孫の成年は満18歳とされている(皇室典範22条)。
天皇も皇族も住民票をもっていない。
一般国民の本籍地を千代田区千代田一番、すなわち皇居におくことが認められている。1975年の時点で235人いた(今は公表されていない)。
三笠宮寛仁(ともひと)は、戸籍がないのに住民税を支払わされることに公開の場で不満をもらした。「われわれは、ある意味で無国籍者なんだ」とも発言している。
皇族が結婚するについては戦前は天皇の許可を必要としたが、今でも「皇室会議」の承認として残っている。
大正天皇の皇統譜には、生母が「権典侍(ごんてんじ)柳原愛子」であることが明記されている。
天皇家の人々は、「一般国民」としての権利をもたない「非一般国民」であり、いわば観念的な「日本国民」として理解するのが妥当だ。
天皇と皇族の置かれている法的地位(立場)を正確に理解することのできる本です。大変勉強になりました。
(2019年11月刊。1600円+税)

CIA裏面史

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 スティーブン・キンザー 、 出版  原書房
アメリカンのCIAで「毒殺部長」を長くつとめたゴットリーブのやっていたことを詳細に明らかにした本です。思わず寒気のするほど悪逆非道な行為を世界各地でしていたCIA工作員の親玉です。
ところが、ゴットリーブはユダヤ人移民の子で、大学生のころは社会主義者でもありました。
CIAに入ってからは、目的達成のためにはユダヤ人大虐殺をしていたナチスの科学者とも平気で手を組むのでした。また、ゴットリーブは脚を悪くしてびっこをひき、話すときにはどもってしまう(吃音)のです。そして、自家菜園を楽しみ、自然を愛する生活のなかで、子どもたちを暮らすのを楽しみにもしていたようなのです。ジキルとハイドではありませんが、残虐さと自然愛好家とを両立させていたといいます。映画『シンドラーのリスト』で、ナチスの所長たちが一方で平気で虐殺しながら、家庭では家族と一緒に音楽を楽しんでいた場面を思い出します。人間のもつ二面性ですね・・・。
ゴットリーブはCIAで20年間、史上類をみない組織的なマインド・コントロール研究を指揮した。そして、CIAの毒物製造主任でもあった。CIAを退職する前にすべての記録を破棄し、それを認めた以外、議会ではほとんど何も認めなかった。免責特権を行使し、どの裁判でも有罪にはならなかった。
54歳でCIAを引退し、ボランティア活動などをしたあと、80歳まで長生きした。
1969年代、ゴットリーブは、CIAの諜報員が使う道具をつくる技術支援部の部長に昇進した。ゴットリーブは、ワシントンで活気あるスパイ工房を運営し、世界中に散らばる数百人の科学者や技術者の仕事を監督した。
CIAはナチスの犯罪者が裁判で有罪にならないようにし、日本の七三一部隊の責任者だった石井四郎を確保してCIAに協力させた。
CIAのトップは、1950年代にマインド・コントロールは将来の決定的武器になると考えた。
人間の思考を操る方法を見つけた国こそが世界を支配すると信じた。
ゴットリーブは、ブロンクスの移民の子で、跛行と吃音のある32歳のユダヤ人だった。アメリカの上流階級の人々とはあまり交流しなかった。
CIAは、共産主義者が「洗脳」術を獲得したと大衆に信じ込ませているうちに、自らも、そのプロパガンダの虜になっていた。ということは、共産主義者による「洗脳」というのは幻だったということのようです・・・。
大麻もコカインも、そしてヘロインも「特殊な尋問」にはあまり役に立たないことが判明した。
ゴットリーブはLSDに注目した。
1951年、ソ連の協力者だと疑われた4人の日本人がCIAの医師によって覚醒剤その他を注射され、過酷な尋問のなかで「自白」した。4人は東京湾沖で撃ち殺され、遺体は船から投げ捨てられた。うひゃあ、怖いですね・・・。
CIAのトップは、ゴットリーブたちのやっていることをソ連がやっていることだと巧みに言い換えて発表して、世論を誘導した。
CIAのマインド・コントロール実験は過激になり、犠牲者が増えていった。そして、中国人もきっと自分たちと同じことをしているに違いないと誤った推測をした。ところが、朝鮮戦争で捕虜になっていた元アメリカ兵たちで、残留していたもと脱走兵たちがアメリカに帰国してきて判明したのは、「洗脳」はなかったということ。しかし、「洗脳」というコトバは、なんでも説明できる素晴らしく便利な概念だった。CIAは、すっかりこの幻想にとりつかれていた。CIA元局員は、CIAは自白を強要し、洗脳する。ありとあらゆる薬物をつかう。そして、ありとあらゆる拷問を用いる、と語った。
CIAの局員の多くは、祖国アメリカを破滅から防いでいるのは自分たちだと信じていた。
CIAはインドネシアを訪問する中国の周恩来を暗殺する計画を立て、実行した。周が乗るはずの飛行機は空中爆発したが、周は予定を変更していた。次に、バンドン滞在中の周を毒殺しようとした。
1960年にソ連上空を飛んでいたスパイ偵察機U2がソ連のミサイルで撃墜された。パイロットのパワーズは自殺用の毒物を使わなかった。
CIAはアフリカのルムンバ首相を暗殺しようとして失敗し、キューバのカストロ暗殺にも失敗した。ゴットリーブの役割は、殺害の手段をチームに伝達することにあった。
人間は、どこまでも他人に対して残酷になれるし、それを拒否してたちあがる人もいることがよくよく分かります。読みたくなんかありませんが、CIAの実態を知るには欠かせない本です。
(2020年1月刊。2700円+税)

完全版 検証・免田事件

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 熊本日日新聞社 、 出版  現代人文社
免田事件とは1948年(昭和23年)12月29日の深夜、人吉市で起きた祈祷師一家4人が殺傷された事件。免田栄さんが逮捕されたのは翌年1月13日のこと。免田さんは23歳の青年だった。そして免田さんは「自白」し、熊本地裁八代支部での第1回公判まで認めていたが、2回目の公判から否認に転じた。ところが免田さんについては死刑判決が確定し、以後34年間、死刑囚として福岡拘置所で過ごした。
再審無罪となって釈放されたとき、免田さんは57歳になっていた。
いま、免田さんは故郷の人吉市を離れて熊本県に隣接する大牟田で生活している。すでに死刑囚だった34年間よりも釈放されてからのほうが長い(2017年で92歳)。
再審無罪判決は、自白調書について、「重要な事項である犯行時刻の記述がなく、犯行動機も薄弱で、犯人しか知り得ない、いわゆる『秘密の暴露』も見当たらず、客観的事実との重大な食い違いや不自然な供述が随所にみられ、犯行後の行動も客観的事実と多くの点で食い違っている」とし、さらに「自白の矛盾点を指摘していない調書で、取調官が、自分の誤った事実に基づく安易な誘導から強制があったとさえみられても仕方ない」。自白調書は多くの点で、破綻していることこそが、「あたかもアリバイの成立を裏付けるかのようだ」と指摘した。
免田さんの自白調書は、夜に眠らせてもらえず、暖房のない部屋で、寒さにふるえ、身体が硬直して言葉も出ない状態で作成されたもの。
犯行現場の畳は血の海で障子などにまで血痕が飛び散っていたというのに、免田さんの着ていた上着・ズボン・地下足袋・マフラーからは血痕は検出されなかった。犯人なら相当の返り血を浴びていたはずなのに・・・。
免田さんの再審請求は6回ありました。免田さんの事件に関与した裁判官はのべ70人。そのうち、免田さんを無罪としたり再審開始にした裁判官は14人だけです。2割しかいません。これが日本の刑事司法の現実です。検察官が起訴したら、その時点で有罪の心証をとってしまう裁判官が8割いるのです。
免田さんの事件では、裁判があっているうちに、重要な証拠が「紛失」しています。ナタ・上衣・マフラーそしてチョッキと軍隊手袋です。証拠品の管理の杜撰さは、他の事件でもよくみかけます。絶対にやめてほしいことです。
免田さんの死刑が確定したのは1951年(昭和26年)12月に最高裁が上告を棄却したからです。それから死刑執行されることなく、拘置所で免田さんは勉強もし、必死で訴えて世論を動かし、国民救援会と日弁連の支えがあって再審無罪の判決を獲得したのでした。
先の大崎事件についての最高裁の冷酷無比の決定をみるにつれ、再審裁判では検察側にきちんと証拠開示するよう義務づけておくべきだとつくづく思います。
(2018年7月刊。2700円+税)

免疫力を強くする

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  宮坂 昌之 、 出版  講談社ブルーバックス
 病原体の強さと免疫の強さはシーソー関係にあり、病原体の力よりも免疫系の力が勝れば、感染症は起こらない。人間のからだには感染症になるのを防ぐために二つのしくみがある。
一つは自然免疫機構、もう一つは獲得免疫機構。
風邪には抗菌薬(抗生物質)は効かない。風邪はウイルスで起きるもので、抗菌薬はウイルスには効かない。抗菌薬は、その名前のとおり細菌に対する薬。風邪とは、感染によって上気道の炎症が起きる病気のこと。かぜ症候群の9割はウイルス感染によるもの。
細菌と真菌とウイルスはそれぞれ違うもの。細菌は1個の細胞からできている単細胞生物。真菌(カビ)は、核のまわりに角膜という膜をもち、遺伝情報であるDNAは核の中に存在する。
ウイルスは、生命の最小単位とされる細胞をもたず、タンパク質の殻と核酸からなる粒子。ウイルスは自分でエネルギーをつくれないし、自分一人では増殖できない。
インフルエンザに関して、マスク着用の予防効果はほとんどない(きわめて低い)。これは網目のサイズがインフルエンザウイルスの100倍も大きいから。マスクによって他人からもらうのは防げないが、他人に風邪をうつしにくくなるだけのこと。
インフルエンザにかかったかなと心配して医療機関に行くのは考えもの。かえって、そこで感染する可能性がある。インフルエンザを治す特効薬は今のところない。
ワクチンとは、病原体あるいは細菌毒素の力を弱めたり、なくしたりした、人工的につくり出された製剤のこと。ワクチンの9割は、海外の大きな製薬会社が作っている。というのは、10~15年かけて、1000億円もの開発費用がかかるものだから。
日本の毎年のインフルエンザによる死亡は200人ほど。ところが、今、アメリカでは1万2000人もの死者が出ているそうです。なのに、日本ではなぜか、ほとんど報道されていません。これも怖い話です。
インフルエンザにかかったかなと思ったときには医療機関には行かず、よく水分をとり、よく休むこと。免疫力全体を正確に測定するのは、現状では困難。
いま自信をもって言える免疫力増強法は、ワクチン接種だけ。血液循環やリンパ循環を良くしてやれば、その分、免疫力は高まる。ストレスがかからないかたちで、血流とリンパ流をよくするのが免疫力を高める。たとえば、ウォーキング。また、ぬるいお風呂に入って、からだをゆっくり動かす。過剰なストレスは免疫力全般を低下させる。
ストレスは健康に悪いと思いすぎる人は、そうでない人に比べて短命である。ストレスは自分の味方だと思えるくらいの図太さが大切。適度なストレスは、免疫系を刺激して免疫反応を強める可能性が強い。そして、実は免疫力は高ければ高いほどよいというものでもない。
ほどほどが一番なのですよね…。
(2019年12月刊。1100円+税)

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