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2020年2月 の投稿

性風俗シングルマザー

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 坂瓜 真吾 、 出版  集英社新書
全国の母子世帯数は123万2000世帯。
母子世帯になった理由は、離婚などの「生別」が91%で、「死別」は8%にすぎない。ひとり親世帯になったときの母親の平均年齢は33.8歳。
離婚したとき、子どもの親権は母親が8割とっている。
母子世帯の平均年間収入は348万円。母子世帯の平均年収は一般世帯の半分以下。就労所得は3分の1以下。生活保護世帯の8%が母子世帯。ひとり親世帯の貧困率は5割をこえる。
未婚の母親として子どもを育てる選択をする女性は決して多数派ではない。「未婚の母」はひとり親世帯の8.7%にすぎない。20代で未婚の母親になる女性も多数派ではない。
シングルマザーは、「自己責任」という言葉のもと、社会的なバッシングやネグレクト(無視・放置)の対象になりがちだ。
協議離婚したとき、養育費のとりきめをしていないことが多い。それは、相手と関わりたくないからが31%、相手に支払能力がないと思ったが21%、相手に支払う意思がないと思ったが18%となっている。
養育費を別れた夫から現在ももらっているのは24%で、もらっている平均月額は4万3000円ほど。生活の苦しい低所得者層は、離婚の際に養育費のとりきめをしていない傾向がある。
地方都市(人口80万人)のS市内には100店舗ほどのデリヘルがあり、3800人の女性が働いている。といっても9割以上は無店舗型で、インターネット上で営業している。そのため、大半のS市民にはほとんど知られていない。
地方都市のキャバクラは、人口減少と中心繁華街の衰退という流れのなかで、もはや稼げる仕事ではなくなっている。
「身バレ」とは、身元が客にバレてしまうこと。デリヘルで働く女性の身元を特定しようと躍起になっているストーカーのような男性客がネット上にあふれている。
デリヘルで働く女性が感染する性感染症はクラミジアであり、定期検査で発覚するうちの6~7割を占めている。HIVや梅毒は、まず検出されない。
風俗で働くシングルマザーといっても、10時から17時のあいだ働き、18時には子どもを迎えに行って帰宅するのが多数派。表面的な生活リズムだけをみたら、一般の女性となんら変わらない。
デリヘルで働くのは、正味5時間。接客できるのは1日に4人。がんばれば5人。1日に5人つけば3万円強の稼ぎになる。
女性には3つのランクがある。レギュラーは60分1万4000円、ゴールドは1万6000円、プラチナは60分1万8000円。
デリヘルのバック率(女性の取り分)は60分1万2000円で6000円から7000円。
デリヘルで働く女性の悩みの一つは、所得証明が出せないこと。風俗店と女性の契約は、雇用契約ではなく、事実上の業務委託契約になっていることが多い。女性は会社員ではなく、個人事業主なのだ。
20代半ばで学歴・職歴・資格のまったくない状態におかれた女性が月額46万円を稼げる仕事は、地方都市では風俗以外に存在しない。ただし、こうした高額の収入がいつまでも続くわけではない。
今の子どもたちは、中学生から性交渉しているので、性教育に関しては具体的な話を学校でもしたほうがいい。この指摘こそ正当だと私は思いますが、そこに自民党議員が横ヤリを入れてきます。寝た子を起こすな、とかなんとかいって必ずケチをつけてくるのです。自らに道徳観がないのを棚にあげて、子どもたちには古臭いものを押しつけようとして、現実を見ようとしません。
生活保護だけは絶対に受けたくないという女性も少なくない。このことも前向きの解決を困難にしている事情になっている。
いろいろ考えさせられることの多いルポタージュでした。
(2019年12月刊。880円+税)

おりとライオン

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 楾 大樹、 今井 ジョージ 、 出版  かもがわ出版
けんぽう絵本です。先日、久留米で楾(はんどう)弁護士の憲法講座に参加しました。そのとき買ったのが、この「けんぽう絵本」です。
子どもから憲法の役割がわかる絵本、できました。そうです。憲法の入門書『檻の中のライオン』が絵本になったのです。
楾弁護士の話は途中10分休憩があるものの、なんと2時間以上ぶっとおしです。ところが、スライドを使いながら、小さなぬいぐるみ人形をつかいながらで、あっという間にすぎてしまいます。
私の前に小学5年生の男の子がすわっていました。福岡の女性弁護士の息子です。あとで憲法のことがとてもよく分かったと感想を言っていたそうです。
私も、まったく同感です。憲法は国の理想を定めたものだと安倍首相は常にもっともらしく言います。教科書にも、社会のルールを定めたものとしか書かれていないとのこと。
憲法って、そんなものじゃありません。悪いことするか分からない安倍首相のような不届き者をきつくしばるためにこそ憲法があるのです。
口から出まかせのことを国会の場で堂々と開き直っている安倍首相ですが、その言動は、まさしく憲法をふみにじるものです。この点は、国民の側に「不断の努力」が欠けている(弱い)のだと私は思います。
どうぶつたちは、どうにかこうにかライオンをおさえつけました。そして、きまりとおりをつくっておりにライオンをいれました。きまりには、ライオンがしなければならないことと、ライオンがしてはいけないことをかきました。このたいせつなきまりとおりがけんぽうです。
けんぽうは、わたしたちのしあわせやじゆうをライオンからまもってくれる、とてもたいせつなきまりなのですね。
小学生の子どもたちに、ぜひ読ませたい絵本です。
(2019年8月刊。1400円+税)

41歳の東大生

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 小川 和人 、 出版  草思社
すばらしい生き方だと驚嘆しました。郵便配達員として働きながら東大を受験して、5回目で合格し、4年間、なんと同じ仕事を続けながら東大に通って、無事に卒業したというのです。まさしく奇跡というしかありません。もちろん、家庭と職場で温かく支えてくれる人々がいたからこそできたことです。それにしても、それを受けてやり遂げた本人の並々ならぬ努力と不屈の心にはまったく敬服しました。
そのうえさらに、著者は、あの難解なことで有名なサンスクリット語に挑戦するのです。東大といっても、なんとなんと専攻は「印哲」、つまりインド哲学なんです。そして、得た成績はまた文句なしにすばらしいのです。ほとほと呆れてしまうばかりです。
インド哲学概論   優
インド哲学仏教学演習   優
サンスクリット語文法   優
インド哲学仏教特殊講義   優
受験した9科目の全部がオール優なんです。信じられません。私なんか法学部でもらった優は1つだけだったかな・・・。自慢じゃありませんが、良と可ばっかりでした。
この著者は、いったいぜんたい、どんな人なのか・・・。
明治学院大学社会学部を卒業している。ただし、在学中はボクシングに夢中であまり勉強しなかった。そして郵便局で集配課の仕事をしながら、毎日2時間の勉強を続けて東大に合格した。問題はそのあとです。いったい郵便配達の仕事をしながら、しかも妻子をかかえながら4年間の大学生活が可能なのか・・・。
それが可能になったのですから、まさしく奇跡が起きたとしか言いようがありません。必修科目の時間割にあわせて有給休暇の時間取得を申請して上司に認めてもらったのでした。
スペイン語と英語には苦しんだとのこと。そんな人がなんとサンスクリットに挑戦してオール優をとったのですから、努力すれば、人間、たいがいのことはできるということなんですよね・・・。
私も、ずっとずっと50年間も、フランス語を飽きもせず続けているのは、大学時代にセツルメント活動に夢中になって(それ自体は決して後悔していませんが・・・)、授業に真面目に出席せず(といっても大学紛争が始まってからは、授業自体がありませんでした)、もっと授業に出て勉強しておけばよかったという思いがあるからでもあります。
著者は41歳で東大に合格して、10代から20代の成績優秀、頭のいい若者たちのあいだで勉強するというのは、お互いにとって大変刺激があったことだろうと推察します。
著者の興味・関心は現代哲学や現代思想ではなく、ずっと古い時代のギリシャやインドの仏教そして古代思想にあった。そこに自分の生き方のヒントを求めようとしたというのです。
これまた発想がすごいですよね・・・。
著者は、夜9時に寝て、早朝3時に起きる生活をずっとずっと続けたのです。いやはや・・・。
インド哲学というと、供犠(くぎ)。火葬、輪廻(りんね)、沙門(しゃもん)という言葉が登場する世界です。そこには豊饒な世界があり、豊饒な授業があった。そして、かの有名な『般若心経』をサンスクリット語で全文暗唱するのです。
この世の一切のものは、実体がなく変化し移ろうものであるということ。本当にそのとおりだ。
なんともはや、あまりにも知的刺激にみちあふれすぎていて、読みだしたら止まらなくなってしまいました。学ぶのは、いくつになっても遅すぎることはない、ということを実感させてくれる、ワクワクドキドキの本です。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2019年11月刊。1500円+税)

熊の皮

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ジェイムズ・A・マクラフリン 、 出版  早川書房
アメリカはアパラチア山脈の自然保護区で働く管理人が密猟者とたたかう話(小説)です。
狙われるのは熊です。それもクマの胆をとって、中国に売りつけようというのです。これには驚きました。なんだか、ひと昔前のアメリカと中国とは逆の関係だったことを思い浮かべてしまいます。
野生動物やその身体の一部の密輸は、麻薬、偽造物、人身売買に次いで、世界で四番目に大きなブラックマーケットへ発展している。そこからは、毎年、数十億ドルの利益が生み出されていて、テロ組織や伝統的に違法薬物のみを扱ってきた犯罪組織がこぞってこの業界に参入しはじめている。
熊の胆は、通常、冷凍または乾燥の処理をほどこしてから売りに出される。ところが、冷凍した豚の胆のうと熊の胆のうを見分けるのは専門家でも難しい。乾燥した豚の胆のうに至っては、同じく乾燥した熊の胆納とまるで見分けがつかない。
主人公は、うっそうと木々が生い茂る森のなかにずんずんと入っていき、密猟犯を追いつめるべく森に溶け込み、森と同一化していくのでした。
大地の香り、朽ちゆく動物の死体の肉の腐敗臭、野生動物の体毛の感触、東部山岳地帯に特有の湿気と熱気。ひんやりと肌をなでるそよ風、かすかな木もれ日、夜の闇、虫の音や鳥のさえずりまでもが、じかに感じとれそうだ・・・。
自然を愛する著者の森に対する畏怖と敬意とがありありと伝わってくる本です。
(2019年11月刊。1900円+税)

ウィーンびいきのウィーン暮らし

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 服部 豊子 、 出版  ブロンズ新社
私もウィーンには一度だけ行ったことがあります。いかにも古都らしいたたずまいの町で、音楽好きの人なら、ぜひ一度は行ってみたいと思うところだと実感しました。
ウィーンは、古代ローマ人が1世紀の初めから500年間も支配した。その後は、東方の騎馬民族アヴァ―ル人やハンガリーのマジャール人に占領されたり、フランケン王国に属したりしたあと、10世紀から13世紀までパーペンベルグ王朝が治めた。10世紀末にオーストリアの名で国家が成した。その後は大帝国となったものの、第二次大戦後の1918年にハプスブルグ王朝が終了すると、オーストリアは小国となり、第二次大戦中はナチスの支配下に組み込まれた。
ウィーンは、周辺の数多い国々から人々が集まって来て成り立った町なので、さまざまな個性がその個性を保ちながら融合し、ウィーン気質をつくっていった。
昔、ウィーンでは、料理人はチェコ人、馭者(ぎょしゃ)はハンガリー人、土木労働者はイタリア人と言われていた。19世紀末のウィーンの10人に1人はユダヤ人だった。
多くのウィーン人は音楽や演劇をたいそう好む。
ウィーンではオペラ舞踏会のほかに舞踏会がたくさんあるので、ウィーンはダンスが上手で、まさに「ウィーンは踊る」だ。
モーツァルト、シューベルト、ヨハン・シュトラウス・・・、みなウィーンで活躍した。
ベートヴェンもシューベルトもウィーンの中央墓地に眠っている。
オーストリアでは白ワインが90%を占めている。軽く新鮮な香りが特徴で、わずかに酸味のある辛口。
ウィーンのシェーンブルン宮殿は1805年と1809年にナポレオンに占領された。この本には、いまいましくも・・・と書かれている。このシェーンブルン宮殿はマリア・テレジアの好みで、特徴ある褐色がかった黄色に塗られている。
ヨハン・シュトラウスは親子二代にわたって19世紀の100年間、音楽(ワルツ)をかなでた。このワルツ熱は、保守反動の官僚制を固守していたメッテルニッヒにとって、人々の政治に対する関心をそらすために好都合なものであった。
なーるほど、そういう面もあるのですね・・・。
父シュトラウスは、ラデツキー将軍とその兵士にささげた「ラデツキー行進曲」を作曲し、息子シュトラウスは、1848年の三月革命のとき勇敢に戦う革命軍に感激して「革命マーチ」を作曲した。
ベートヴェンはナポレオンを尊敬していたので、「第三番」「英雄」を捧げた。しかし、ナポレオンが皇帝になったことを知ると、痛く失望し、楽譜の表紙に書いていたナポレオンの名を強く擦り消したために、紙に穴が開いてしまった。
19世紀の目ざましい経済発展を担ったことで富を得たユダヤ人たちは、法を尊重し、道徳的かつ知的で、貴族文化をよく吸収していた。合理的な文化社会を築くことによって、社会は民主的秩序が整えられていくものと考えていた。しかし、底辺の層は資本主義経済を握っていたユダヤ人に対する嫉妬や反感から、反ユダヤ的キリスト教社会主義などが広まっていった。反ユダヤ的、汎ドイツ主義が出現していったのだ。
このあたりが、日本人にはもうひとつぴんとこないところです。
香り高い文化と音楽の町・ウィーンを堪能できる本でした。人間ドッグでこもったホテルで読んだ本です。
(2003年7月刊。2000円+税)

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