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2020年2月 の投稿

余力ゼロで生きてます。

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 水野 美紀 、 出版  朝日新聞出版
43歳での出産の前後と育児の辛くて楽しい日々が赤裸々に描かれていて、すごいよね、女性は・・・と驚嘆しつつ、最後まで面白く一気に読み通しました。
妊娠したら、コーヒーも紅茶もダメ、大好きな辛いものも、好きなお酒も飲めない。代わりにたんぽぽコーヒー(まるで戦前のヨーロッパの話です)、そして、デザートはスイカ・・・。これはこれは大変なことですね。1日じゃありませんからね・・・。
人間の脳は、辛い記憶を忘れる機能をもっている。忘れられるから、生きていける。
私も、これは本当にそう思います。年齢(とし)をとったから忘れるのではなくて、忘れるのは、忘れられるのは、実は、とてもいいことなんだ、今ではそう思うようにしています。
出産したあとの母体は、全治1ヶ月の大ケガをしたようなもの・・・。うひゃあ、そ、そうだったんですか・・・。それは知りませんでした。失礼しました。
お産が命がけのものだと身をもって知った。こんな痛い思いは二度といやだと思った。ところが、1年たったら、あのトラウマレベルの痛みの記憶は薄れ、若かったら、もう1人産みたかったなあ・・・、なんて思っている。
保育園に通うようになって、次々に鼻水状態になっていく。治りかけてはうつされて・・・というループにふりまわされる。ところが、医師は、こうして抵抗力が養われて、強くなっていくのだという。弁護士である私も、医師ではありませんが、まったく同感です。無菌培養ではひ弱い身体のままだと思います。たくさんの雑菌にふれてこそ、鍛えられる。そのように私も思います。
育児に比べたら、仕事なんてラクなもの。専業主婦の方が絶対に大変だ。どんなに可愛い我が子でも、1人で不安をかかえながら、毎日、睡眠不足で逃げ場もなく向きあっていたら、可愛いものも可愛いと思える余裕すらなくなってしまう。
子どもも泣き出したものの、何で泣いているのか自分でも分からなくなっていることが多い。そんなときには、くすぐって笑わせるのも効果的な対処法だ。
子どもが泣いて、原因が分からないときは、次の3つを疑ってみるとよい。
①自分でやりたかった、で大泣き。
②秩序(いつものようになっている)が乱れた、で大泣き。
③イヤイヤ期からくる大泣き。
そして、「ママ手伝っていい?」と問いかけてみる。
かわいらしいイラストがまた格別に素敵で、思わずクスッと笑ってしまいます。
さすがは、女優だけでなく、作家・演出家というだけあって、軽くすいすいと読ませます。
(2019年12月刊。1300円+税)

合併の代償

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 伊原 亮司 、 出版  桜井書店
日産全金プリンス労組の闘いの軌跡。これがサブタイトルの本です。
私が弁護士になったころ、日産には吸収されたプリンス自動車にあった闘う労組がごくごく少数ながらもがんばっていると聞いていました。その活動の軌跡を詳しく紹介した本です。
日産には塩路一郎という労組の絶対的権力者がいて、またカルロス・ゴーンがいました。
日産という会社は、絶大な影響力をもつ実力者を生み出しては権力闘争の末に失脚させ、「上」から「改革」させる過程で再び権力者を君臨させる、という派手な歴史を繰り返してきた。
この本では、ごくごく少数ながらも会社にもの申す労働組合、そしてそこの人々の存在意義を明らかにしようとしています。
現在、労働組合を軽視する風潮は強い。しかし、かといって過酷な職場環境や劣悪な労働条件が改善されたというわけではない。むしろ、雇用不安はおさまらず、ハラスメントやうつ病に悩まされる人々は増加傾向にあり、過労死や過労自殺に追い込まれる人は後を絶たない。
したがって、少数派の存在を無視するのは適切ではない。
プリンス自動車工業という会社が存在した。そのルーツは飛行機会社である。中島飛行機は敗戦の年(1945年)4月には、500の工場と25万人の従業員をかかえる巨大企業だった。
日産と合併するとき、プリンス自工は、日産と比べて規模が小さいとはいえ、従業員8500人という大会社であった。そして、技術力に絶対の自信をもっていた。宮内庁へもニッサンプリンスロイヤルという車を納入していた。
1965年(昭和40年)の合併のとき、日産の労組は同盟傘下で労使協調路線をとっていたが、プリンス側は、総評全金に加盟し、階級闘争的な労組だった。
プリンス自工支部は、合併に対して無条件に反対していたわけではない。
日産側は、プリンス自工支部の執行部には見切りをつけ、中央委員や代議員そして現場監督者層にターゲットを移した。執拗に接待して切り崩していった。
「日産学校」なるものを連日開き、「勉強会」という名目でオルグしていった。
全金組合員は5段階に区分された。Aは完全な日産派(行動派)、Bは、日産派を理解している者。Cは、まだどちらとも区分できない者。Dは全金や中執を支持している者。Xは共産党員や同調者。DやXに区分された者は実力で排除されるようになった。
旧プリンスの労働者にとって、労働条件は軒並み悪化した。諸手当をふくむ賃金や退職金は切り下げられ、労働時間は延長、終日・休暇の条件は悪くなった。日産側は、労働条件が劣ることを自覚していて、その点には触れないようにしていた。
プリンス自工支部は1966年4月に7656人いたが、支部に残ったのは152人(あとで143人)だけだった。20年後には71人の組合だった。中卒45人、高卒20人、大卒3人。ほとんど現場の労働者だが、少数ながら技術員と事務員もいる。女性は7人だけで、みな事務員。職場であからさまな暴力が横行した。連日の暴力行為は1ヶ月ほどでおさまったが、そのあとは、「職場八分」となった。人間関係から完全に排除された。仕事も干しあげられた。監視され報告された。
職級も賃金も露骨に差別された。教育・訓練・資格取得の機会も奪われた。
反撃として、地労委への申立、裁判闘争がたたかれた。
1967年12月から翌1月にかけて現場で相次いで労働者が亡くなった。労組は労働条件の改善にとり組んだ。全金支部は大学生とも交流を図り、また婦人部を再建して地域に出ていって訴えた。女性の定年差別撤廃に取り組んだ。
塩路一郎が1986年に失脚した。
そして1993年1月、全金支部は会長と協定書を結び、「和解」が成立した。ただし、支部内にはしこりが残った。「和解」のあと、職場内で謝罪する者がいたり、気兼ねなく話せるようになっていった。親睦会にも参加できるようになった。
全金プリンス自工支部からJMIU日産支部への発展過程まで、あとづけられていて、その苦労をしのぶことができました。大変な労作に敬意を表します。
(2019年12月刊。3800円+税)

地面師たち

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 新庄 耕 、 出版  集英社
東京・五反田の一等地600坪を舞台として積水ハウスという超大企業が詐欺集団にうまうまと63億円という大金を欺しとられた事件が起きて、世間を驚かしました。
この本は、その実際の事件をなぞるようにして、地面師たちの生態を読み物にしています。
なるほど、地面師グループというのは、こんな役割分担をしながら綿密にことをすすめているものなのか・・・。かなり具体的なイメージをつかむことができ、大変勉強になりました。
なりすましについては、本人確認に不備(過失)があったとして、弁護士そして司法書士に高額の損害賠償を命じた判決もありますので、私にとっても決して他人事(ひとごと)ではありません。
指の腹や掌(てのひら)に、アメリカの専門業者から取り寄せた超極薄の人工フィルムを貼っている。これは最新のフィルムで、表面には架空の指紋や掌紋の凸凹がほどこされていて、人間と同じ皮脂成分の油膜が塗られている。
印鑑登録証明書、登記事項証明書、固定資産評価証明書、固定資産税明細書、運転免許証、実印、物件の鍵・・・。いずれも道具屋によって精巧につくられた偽造品だ。
実印は、最新の3Dプリンターで寸分たがわずに偽造し、運転免許証に至っては、本物と同じICチップが組み込まれている。これらは、素人目で本物とは見分けがつかない。
本人確認は、免許証の顔写真と見比べる。干支(えと)を言わせる。2枚の写真を見せて、どちらが自宅かを答えさせる。それでも騙しに成功することがある。
成功率を高め、突発的なトラブルに対応できるよう、毎回緻密に計画を立て、入念に準備する。無用な心配をいだかずに仕事に没頭でき、慣れあいになることもなく、ある種の緊張感が常にあふれている。役割分担し、それぞれ決めたことだけを着実にこなしていく。必要以上に干渉しあわない。
この本のストーリーでは、騙しとった7億円の分配は、首謀者が3億円、交渉役の二人がそれぞれ1億円ずつ、裏方の手配などをした人間が1億5千万円、「売主」を確保して演技指導する役割をした人間が5千万円。資金洗浄を経て、それぞれの架空口座に振り込まれる。首謀者以外は、しばし国外に脱出して、ほとぼりのさめるのを待つ。
こういう連中をのさばらせておいたらいけないよね・・・と思いつつ、腹立たしい思いに駆られながらも、最後まで一気に飛ばし読みしました。
(2019年12月刊。1600円+税)

無敗の男・中村喜四郎

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 常井 健一 、 出版  文芸春秋
いやあ、すごい政治家がいたものです。中村喜四郎という政治家を見直してしまいました。
中村喜四郎は、ゼネコン汚職で逮捕され、完全黙秘をつらぬいたものの、有罪となり刑務所へ下獄した。
中村喜四郎の原点は、田中角栄の秘書。鳩山邦夫と同じ時期。
中村喜四郎は自民党に20年ほど籍を置いていた。その間、田中角栄、竹下登、中曽根康弘、福田赳夫の政治を身近に見た。このころの自民党政治は権力を濫用せず、権力を動かすことに抑制的で、常に自己批判をし、何か問題が起きたら、それを解決していくだけの自浄能力があった。そして、自民党には保守派からリベラル派まで幅広くいて、反対する者がいても、排除せずに、みんなの意を丁寧に聞いていくだけの責任をもとうという姿勢があった。
これって、ちょっと、あまりにもかつての自民党を美化しすぎではないでしょうか・・・。それでも、中選挙区制のもとで、そんな幅の余裕がかつての自民党にあったことはおそらく間違いないことでしょう。
中村喜四郎は、ともに自民党の参議院議員をつとめた父と母をもち、27歳で衆議院議員に初当選した。田中派から竹下派に移り、40歳で大臣となり、自民党の総務局長、そして建設大臣になった。ところが、1994年、44歳のときゼネコン汚職事件で刑事被告人となり、刑務所に入った。
それでも、中村喜四郎は初当選以来、刑務所から出てきた直後をふくめて14連勝。一度も選挙で落選したことがない。戦後、刑務所でのお勤めから戻って議場に返り咲いた衆議院議員は、中村喜四郎、ただ一人。
無所属で立候補すると、比例復活なし、政見放送なし、選挙カーは1台限り。選挙区内の全集落を毎月2周も街宣車で巡回し、選挙本番では12日間で150ヶ所も辻立ちする。
中村喜四郎は議員勤続40年をこえた今日に至るまで、「歩く」ということにこだわる初当選以来の基本スタイルを崩していない。地域を訪ね歩くことを選挙対策の基軸にすえる。
人の気持を大切にするという考えは、テクニックというより、生き方がその基本にある。
中村喜四郎の後援会には偉い人がいない。応援してくれる人たちは、中村喜四郎がカネなしでやっていることを初めから理解したうえで支えてくれる。それが、お互いの誇りになっている。
中村喜四郎の後援会である「喜友会(キユウカイ)」は町内会単位で存在している。しかし、企業や業界団体には組織をつくらない(つくらせない)。支部ではなく、地域の名前を冠した喜友会として一本化している。
後援会の役員は、声の大きな有力者というより、正直者を選ぶよう心がける。カネや名誉では動かない人物を目利きして選ぶ。喜友会には業者も何にもいない。業者に頼まず、むしろ排除する。
喜友会の名簿は、あるようでない。一括管理する仕組みはない。秘書は地区を担当するだけで、全体を把握している秘書はいない。すべては中村喜四郎だけが把握している。
中村喜四郎は議員宿舎に住む。
中村喜四郎は、地域回りと活動報告の二つをやる。中村喜四郎は、誰もいないところで、一人で立って演説する。これは人の心に印象を残せる。すると、人は見ていないようで、やがて家の中で聞いてくれるようになる。
そして、国会見学と旅行会を兼ねて、国政報告会をする。ランチ付き国会見学は参加費3000円。秘書は、全員が大型二種免許をもっている。
 夜の懇親会の司会は中村喜四郎がする。中村喜四郎は決してホテルに泊まらず、終電で東京の議員宿舎に帰る。
選挙本番になると、中村喜四郎は、オートバイに乗って街頭演説を繰り返す。一種のオートバイサーカスだ。本当はヨレヨレだけど、元気を装う。どんなに寒かろうと右手には手袋をしない。外に出てきた有権者と握手とするためだ。
中村喜四郎は、東京にいる平日は、ほぼ毎日、スポーツジムに通っている。人間ドッグにも年に2回のペースで受けている。暴飲暴食せず、昼飯を抜くことも少なくない。
中村喜四郎は、2019年11月、共産党の「しんぶん赤旗」日曜版一面に顔写真入りで登場し、永田町をざわつかせた。
いま、オール野党の統一を訴えて全国を歩きはじめている注目すべき政治家の実像をちょっぴり知った気がしました。貴重な本だと思います。
(2020年1月刊。1900円+税)

マンガでわかるドローン

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 名倉 真悟 、 出版  オーム社
ドローンを使って要人を暗殺する事件が相次いでいます。ドローンが軍事的に使われると本当に恐ろしいと思います。
そして、ドローンを使って荷物を配達するといいます。えっ、空から故障したドローンが落ちてこないか心配です。さらに、ドローンが私たちの頭上、上空を行きかうようになったら、ドローン同士が衝突しないか、それで落下することはないのか・・・。
この本を読むと、いやいや、そうならないような対策がきちんと講じられているようです。でもでも、私は、それでも本当に心配なんです。
空を飛ぶドローンは風に弱いのです。
一般的に時速29~38キロの風速が飛行可能な限界。航空法によって時速18キロ(分速5メートル)以下の風速でないと飛行できないこともある。
また、水にも弱く、カメラのレンズに水滴がつけば、鮮明な飛行画像の確認や撮影は不可能なので、雨の中でのドローンの飛行は危険だし、ナンセンスなこと。
ドローンで事故の起きる5つの場合。①通信障害。遠距離だと切断されるし、近距離でも干渉電波があれば操縦不可能となる。②バッテリー切れ。バッテリーが切れるとモーターが止まって墜落する。③強風や風向きの急な変化。機体が高く上がれば上がるほど、風による影響を受けやすい。④操縦ミスによる接触事故。電線や木の枝や他のドローンに操作ミスで接触して墜落する可能性がある。⑤人による妨害や故障による墜落、接触事故。世の中、何が起きるか分からないものだ。
ドローン規制では、小型無人機等飛行禁止法というものがある。
ドローンを操縦して飛行させるためには、あらかじめ地方航空局長の承認・許可を必要とする。
ドローンの急降下はなるべく避ける。無風のときは、ダウンウォッシュに機体が入り込まないよう、垂直でなく斜め下に降下させる。逆に有風時は風がダウンウォッシュを横方向に押し流そうとするので、垂直にゆっくりと降下させる。
ドローン・ビジネスというと、3.11の現場をドローンでうつした映像が印象的だった。ただし、ドローンによる空撮(売上額)は91億円で最下位だった。1位は点検、2位は農業、3位は物流だった。
ドローンを操縦する人がきちんとした仕事をするのが現実的だ。しかし、自動車運転にしても事故は絶えないし、事故原因については大きな争いはない。
ドローンの危険性は本当に払拭されているのか・・・。この本を読んだ結論からいうと、やっぱり私たちの頭上を飛ぶドローンは危険きわまりない存在だということです。いくら操縦士の資格を日常的に厳しくしたところで、危険性が払拭できるはずのないほど、限定的だと思いました。
なんでもマンガでの解説本(絵本)が出ている時代ですが、マンガだからといってバカにしてはいけません。大変役に立つ「マンガ」本でした。
(2019年12月刊。2200円+税)

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