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2020年1月 の投稿

男はつらいよ お帰り寅さん

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 山田 洋次 、 出版  松竹株式会社
私は大学生のときから「男はつらいよ」を見はじめ、その全部ではありませんが、ほとんどみています。「男はつらいよ」第1作が劇場公開されたのは1969年8月27日。しかし、私の記憶では東大本郷の五月祭(ごがつさい)で先行上映されたという記憶です(間違っているのかもしれません)。
1969年1月に東大本郷では派手派手しい安田講堂攻防戦があり、3月に授業再開し、5月ころ本郷に進学したて、まだ学生の気分がすさんでいたところに笑いで吹き飛ばす映画をみんなで見たという記憶があるのです。地下に食堂「メトロ」のある法文31番教室が会場で、そこへ大勢の学生たちが詰めかけ、満員盛況でした。みんなで爆笑したように思います。
その後、郷里の福岡へUターンする前、東京の場末の映画館でみたときは、場内が爆笑して騒然とした雰囲気で、スクリーンに向かって野次を飛ばす威勢のいいオッチャンたちもいて、心地よい気分に浸ることができました。ところが、銀座の封切館でみたところ、観客があまりにお上品で、みんなでどっと笑ったりすることがなく、野次が飛ぶなんてこともありませんでしたから、いささか物足りない思いをしたこともあります。
郷里に戻ってきて、子どもたちが小学校に通うようになると、正月には欠かさず寅さん映画をみんなでみて、腹の底から笑うことができました。
渥美清が20年も前になくなってから久しぶりに苦々しい寅さんをアップで拝むことができ、本当に感激しました。そして、その登場シーンがストーリー展開に本当によく溶け込んでいて、まったく違和感がありませんでした。すごいです。たいしたものです。
寅さんが今、どこで何をしているのか、もう死んでいるとかいう話はまったく出てきません。話の展開のなかで、そのことを不思議に思わせることがないのです。これって、すごいことですよね・・・。
そして泉さんは国連難民高等弁務官事務所につとめているということで、ヨーロッパやアフリカの難民問題まで映像で紹介されます。泉さんはタクシーのなかで上司とフランス語で会話しますが、ちゃんと聞きとれて、フランス語を勉強していて良かったと思いました。やっぱり、話が分かると、うれしいのです。
国連で活躍中の中満泉さんの本『危機の現場に立つ』も参考文献として紹介されています。後藤久美子は、素敵なキャリアウーマンとして登場してきますが、初めは誰だか分かりませんでした。
主題歌をオープニングで桑田佳祐が歌い、最後に渥美清本人が歌います。しみじみと聞いて、映画の余韻に浸って映画は終わり、あたたかい気分で外に出ることができました。
疲れを吹き飛ばしてくれるすばらしい映画です。ぜひ、あなたも映画館に足を運んでみてください。
(2019年12月刊。1200円+税)

自発的対米従属

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 猿田 佐世 、 出版  角川新書
福岡県弁護士会は、昨年12月下旬に著者を招いて沖縄問題をテーマとする講演会を開きました。著者は日本の弁護士であると同時に、アメリカ・ニューヨーク州の弁護士資格を有し、民間外交に大車輪で活躍しています。少々早口すぎるのが玉にキズなのですが(ついていけない老人がいます)、その語る内容は恐るべきものがあり、圧倒されます。
外交とは「劇」である。この「劇」を切り盛りするのは外務省であり、東京の本省と各国にある大使館が舞台をつくっていく。外交では、登場人物が限られているので、「劇場」の運営が容易である。
アメリカ人は、日本に無関心で、日本についての報道も多くない。
外交の世界では、アメリカ政府はことあるごとに「日米は特別な同盟関係にある」、「日本は特別」と言うので、日本人は、アメリカから日本は特別扱いされていると勘違い(誤解)している人が多いが、実はアメリカはよその国に対しても、同じように「特別な関係」にあると言っている。つまり、日本は、アメリカにとって「特別」な国でもなんでもない。この「特別な国」とは、外交につきものの美辞麗句であり、単なる決まり文句にすぎない。決して真に受けてはいけない。
沖縄国際大学にアメリカ軍のヘリコプターが墜落したときの生々しい状況フィルムを講演会のとき初めて見ましたが、現場にいち早く駆けつけてきたアメリカ兵が現場を封鎖して日本のマスコミ、そしてなんと日本の警察官までも現場に立ち入らせなかったのです。ここはどこの国かと、情けないというより怒りが湧き立つ映像でした。ところが、日本の外務省は、それを問題視することなく受け入れ、容認してしまいました。元外交官(宮家邦彦)は日本の警察がアメリカ軍による規制線の内側に立ち入れなかったことを無視して、日米共同で捜査したと強弁したそうです。まったく奴隷根性の持ち主としか言いようがありません。捜査できなかった事実を認識しながら、それを捜査したと評価してしまう。日本の土地の汚染を、日本の警察自らが調査して日本国民の命と生活の安全を保障することができないのに、なぜ悔しく思わないのでしょうか・・・。
これは、対米従属を自ら選びながら、そのことに気付いてすらいないという状況である。「従属」があたり前になりすぎると、自分から「従属」を選んだことを忘れてしまい、疑問すら抱かなくなるのだ・・・。
沖縄のアメリカ軍基地面積の7割を海兵隊が占めている。そして、アメリカ本土では海兵隊の規模を縮小しようという動きが根強い。
アメリカにとって、辺野古に基地を絶対につくらなければならないということはない。日本がつくりたいのなら反対はしないというだけのこと。
いやはや安倍政権のアメリカべったり、沖縄県民の意思無視はひどすぎます。
著者は、アメリカの国会議員のうち日本に関心をもっているのに、せいぜい10人が20人くらいではないかと講演で述べていました。その国会議員の認識として、次のような問題が紹介されていて、驚きます。
「沖縄の人口は何人か。2千人ぐらいか」
実は2009年当時で138万人。
「飛行場を一つつくってあげたら、沖縄の人たちは飛行機を使えるようになって便利になるのではないか・・・」
沖縄には飛行場がないと思っていた、この国会議員は、なんと、アメリカの下院(国会)の外交委員会のアジア太平洋環境小委員会の委員長なのです。いやはや、それほどアメリカの国会議員にとって日本も沖縄も眼中にないということなんですよね・・・。
つまり、辺野古問題の根源はアメリカ(ワシントン)にあるのではなく、日本の東京(霞が関と永田町)にあるのです。もういい加減に対米従属一点張りはやめたいものです。
(2017年3月刊。860円+税)

武器よ、さらば

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 エマニュエル・パストリッチ 、 出版  東方出版
地球温暖化の危機と憲法九条というサブタイトルのついた本です。とてもとても 勉強になりました。すばらしい、目のさめるような指摘のオンパレードで、読んでいて、思わず胸が熱くなってきました。
平和憲法こそ日本の利点であり、日本の平和憲法は過去ではなく、未来である。
実際のところ、世界第8位の軍事費大国である日本は、すでに軍事費支出において、いかなる「普通の国」をもはるかにしのいでいる。
自衛隊を、完全に九条の真の実現をサポートする組織へと改編することは可能であり、九条を否定するものではなく、むしろ憲法九条の真の制度的革新のモデルとなりうる。たとえば、未来の陸上自衛隊は、世界中の土地の劣化や森林破壊に対処する、砂漠化という世界的な戦いに力を注ぐものとする。
海上自衛隊は、海面の温度上昇と酸性化による世界の脅威に対抗することに注力する。
航空自衛隊は、空から地球温暖化の影響を調査し、大気に関する問題への対処に、その資源を充てる。
実にすばらしい提案です。スウェーデンの16歳の少女、グレタさんの指摘をきちんと私たちは受けとめるべきだと思います。
日本の憲法九条は、素朴な平和主義ではない。現在の国際社会の現実に即した、現実的な選択肢なのだ。
私たちは、軍事を優先させることをやめ、気候変動への対応を、すべての経済と安全保障計画における主要な関心事とする必要がある。そうしなければ、人類は大量絶滅というリスクに直面する。
私たちが存続していくためには、個人や団体による誤った暴力への効果的な対応は警察力と司法によるべきものであるという共通の認識をもたなければならない。
最大の障害となっているのは、経済的にまた政治的にパワーをもっている軍需産業の存在である。実は、軍隊は、人々の利益のために自分を犠牲にする、献身的な個人の規律化された集団である。そこで重要なことは、何を目的として献身するのか、ということ。気候変動への対応には、まさに、このような献身的でパワーのある集団を必要としている。
日本の自衛隊は、100%再生可能エネルギー政策を推進し、緑の革命において重要な役割を果たす。これを第一のステップとする。
いやあ、すばらしい提言です。これを夢のようなタワゴトと簡単に片づけては決してなりません。私たちは、もっと真剣になるべきです。
アメリカは、日本や韓国を「同盟国」とみなしてはいるが、貿易に関して自分の命令に従わないときには、トランプ大統領は、その方針を簡単に変えるだろう。アメリカが中国だけを脅威として考えていて、自分たちは「同盟国」として保護されるなんて幻想に日本人は浸ってはいけない。
北朝鮮・韓国についても、著者は目のさめるような鋭い指摘をたくさんしています。
わずか174頁の薄い本です。著者は江戸時代の漢文学を専攻する学者で、日本にも7年間住み、東大で学び、韓国で教授として活動するかたわらコラムなどを発表してきた学者であり、ジャーナリストとして活動している人です。日本語、韓国語、中国語そしてフランス語を使いこなすアメリカ人でもあります。すごい才人ですね。
日本と韓国・北朝鮮が対アメリカとの関係で、いかに行動すべき、よくよく考え深められた指摘がたくさんありますので、いま広く読まれるべき本として大いに推奨します。
(2019年8月刊。1600円+税)

創意

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 石川 元也 、 出版  日本評論社
刑事弁護人として60年あまり活躍してきた著者の本です。88歳の著者にベテラン弁護士2人(岩田研二郎、斉藤豊治)がインタビューしていますから、とても読みやすく、しかも大変勉強になることばかりでした。
本のオビに木谷明・元裁判官が「戦後司法史の生き証人」と書いていますが、まさしくそのとおりです。昔は、裁判所は大らかなところがあったな、今はあまりに官僚統制がききすぎていて窮屈すぎると痛感します。意見陳述があって共感を呼んだとき、立派な陳述が終わると拍手したくなりますよね。ところが、そんな自然発生的な傍聴人の言動に目くじら立てる裁判長がほとんどなのです。残念でなりません。
この本には、刑事裁判の法廷で被告人たちが一斉に黙祷をはじめたとき、裁判長が制止することもなく黙って終わるのを待っていたという話が紹介されています。検察官が制止するよう求めると、裁判長は「何もしません」と答えたそうです。困った検察官は裁判長を忌避せず、自民党に通報しました。結局、うやむやになって終わったそうです。
「マイコート」と称して、法廷管理のこまかいところまで仕切りたい裁判官が少なくありません。ところが、そんな裁判官の多くが事件処理にあたっては枝葉にこだわり、大局的見地に乏しく、権力批判の覇気が欠如しています。本当に情けないです。
著者は1994年から3年間、自由法曹団の団長をつとめました。大阪から初めての団長でした。激務のため、さすがに3年目の途中で体調を崩したので、5年のつもりが3年で退任したとのことです。私は、このころから親しく交流させていただいています。
著者は東大3年生のとき、メーデー事件で逮捕・勾留されています。このころは、まだ活動家ではなく、見物気分で一人でメーデーを見に行って騒動に巻き込まれました。ケガをして、カルテに本名を書いたので、逮捕されたのでした。あとで司法試験に合格して司法修習生になるとき、この逮捕が問題となり、1年、入所が遅れそうになりました。
弁護士になってから、公安(刑事)事件を扱いはじめます。まず、1949年8月17日に起きた松川事件の弁護人となりました。この法廷のペースは驚異的です。毎月、1週間、月水金の全1日の公判を開く。こうやって40回の法廷が1年3ヶ月で終了した。
大衆的裁判闘争のもっとも重要なところは、争点を明確にして、事実と道理で迫ること。同時に、裁判批判を大衆的そして国民的にやる。裁判は、決して法曹の弁護士と裁判官だけの問題ではない。国民が納得できるもの、国民が自由に批判できるということが大きな論点だ。国民というとき、マスコミのもっている役割は、けっこう大きい。なるほど、ですよね。
それから吹田事件。この裁判で勝てた要因は四つある。第一に、裁判上の対決点を明確にした。第二に、被告団が団結すること。第三に、弁護団の果たした大きな役割、第四に大衆的な支援運動の盛り上がり。
宮原操場事件の裁判では、更新手続のとき、公判調書などを全部よむように裁判所に要求して、これだけで6回か7回の公判をしたことがあったそうです。そして、裁判官忌避。京教祖事件では、証拠開示をめぐって何度ももめて、同じ裁判官を3回忌避したというのです。
松川事件では最高裁は大法廷で10日間にわたる口頭弁論を開いた(1957年11月)。そして、同じく最高裁の大法廷は全逓東京中郵事件で6日間の弁論を開いた(1965年4月)。また、東京都教組事件で3日間の弁論を開いた(1968年9月)とのこと。いずれも可罰的違法性を論点とした弁論で、午前・午後終日の弁論でした。今では、ちょっと信じられません。
著者から贈呈していただきました。戦後司法史を自らの体験もふまえて語った、貴重な本なので、多くの若い人にぜひ読まれてほしい本です。
(2020年1月刊。1500円+税)
年末年始に大変なことが起きました。暮れのゴーン被告の逃亡はびっくりしただけですが、正月早々のトランプ大統領の暴挙には戦争が始まりそうで恐ろしさに膚が粟立ちます。暴力に暴力をぶつけても何の解決にもならないとは中村哲さんの至言です。安倍首相がトランプ大統領に抗議することもなく、中東への日本の自衛隊派遣を中止しようともしないのは、まったく許せません。
私の年末年始をご紹介させていただきます。12月31日夜は例年どおり近くの山寺で除夜の鐘をつきに出かけました。星が満天に輝いていて、北斗七星の先にある北極星もよく見えました。雪がちらつくこともなく、しっかり防寒していきましたので、焚き火にあたらず、パトリシア・カースのシャンソンを聞きながら待ちました。鐘をつく人は年々減っていますが、それでも今回は少し若い人、子づれが目立ち、二重の輪にはなりませんでしたが、それなりの参加者でした。
1月1日は、おだやかな陽差しを浴びながら、庭に出ていつものように畑仕事というか、土いじりに精を出しました。庭のあちこちを掘り返し、生ごみを埋めて土づくりです。ふかふかの黒土が出来あがります。昨年は、じゃがいもがたくさんとれました。玉ネギは植えそびれてしまいました。春にはチューリップが300本以上、咲いてくれます。例年500本なのですが、昨年は日曜日に出かけることが多かったのです。伸びすぎたスモークツリーもばっさり切って、すっきりしました。
そして、年末年始、事務所内の既済記録の大半を処分しました。もちろん、文章化しようと考えている記録は残しています。

交通誘導員ヨレヨレ日記

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 柏 耕一 、 出版  三五館シンシャ
出版社の編集を業としていた著者が高額の税金を滞納して税務署から差押されたり、ギャンブルに走ったりして、ついに73歳にして炎天下の街頭に立ち交通誘導員の仕事を始めます。その実体験が実に淡々と語られ、ほぼ同世代の私は身につまされます。
交通誘導警備員は全国に5万人いる警備員の4割を占める。警備員は、法律(警備業法)によって、作業員の仕事を手伝うことを禁じられている。すると、超多忙な現場ではヒマな警備員の様子を見て、作業員がやっかみ皮肉を言うことがある。
警備員の日当は1日9000円前後。普通に働けば月18万円ほどになる。
ただし、法律によって自己破産者は警備員になれない。もっとも、自己破産申立者の99%は免責されますので、警備員になれない人はごくごくわずかでしかありません。この本では、法律のこの点の運用が理解されていないと思いました。
警備員の8割が70歳以上という会社がある。そして最高齢の警備員は84歳。でも、しゃきっとしていてバリバリ仕事している。
警備員は、作業員にストレスなく、安全に仕事をしてもらうことを第一に心がける。
警備員同士で深い人間関係を築くことはまずない。現場は毎日ちがうところだし、組む相手も変わる。仕事を終えて連れだって飲みに行くこともない。みな仕事が終わると、さっさと帰ってしまう。
警備員には物をつくり出す喜びはない。警備員には1日はたらけば足が棒のようになるし、寒さ暑さに直撃されるし、喜びより疲れだけが残る仕事だ。警備業は忍耐業だと思う。
交通誘導の仕事は、よくやって当たり前。ミスをすれば頭ごなしに監督や親方から叱られる。ときには同僚から罵声を浴びせられる。
警備員の仕事は社会で最底辺の仕事だ。
警備員は、むやみに一般車両の誘導をしてはいけない。工事現場における人や車両の誘導は、あくまでも相手の任意的協力にもとづく「交通誘導」であり、警察官や交通巡視員のある法的強制力をもつ「交通規制」とはまったく異なる。
最後に著者はひき続き現役交通誘導員として働くつもりだとしています。
これからは、これまで以上にあたたかい目で交通誘導員をみることにするつもりです。
(2019年9月刊。1300円+税)

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