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2020年1月 の投稿

テロリストの誕生

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 国末 憲人 、 出版  草思社
フランスでイスラム過激派による大量殺人・テロ事件が起きたことは記憶にも新しいところです。朝日新聞ヨーロッパ総局長をつとめる著者がテロリストの詳細な実情を伝えてくれる貴重な本です。本文500頁の大部な本ですが、詳細かつ圧倒的迫力がありました。
テロリストたちはヨーロッパに生まれ育っていて、大部分が二世である。テロリストになるまで、ごくフツーのヨーロッパ市民だった。
クアシ兄弟が育ったところは暴力に覆われた場所だった。貧乏な人々を政府が放置した結果、彼らの怒りや恨みを増幅させた。兄が12歳、弟が10歳のとき、娼婦だった母親は大量の睡眠薬で自殺し、兄弟は孤児となった。
人は、もともとテロリストとして生まれるわけではなく、なにか唯一の衝撃的な啓示をもとに突然にテロリストに変貌するわけでもない。多くの人は、宗教とは無縁の世俗的な環境からイスラム主義者、ジハード主義者へと段階を踏みつつ、長い時間をかけて最終的にテロリストに行き着いている。
フランスの人口6000万人のうち、イスラム教徒は6~7%の300~500万人とみられている。ところが、フランスの刑務所のなかでは半分がイスラム教徒である。
著者が訪問したフルリ・メロジス刑務所は、3000人もの収容能力を有するヨーロッパ最大規模で、ここに働く1200人の看守の65%をインターン生が担っている。刑務所の内部にはケータイやビデオ、大麻が出回っていて、受刑者と訪問者が面会室で性交することもある。
刑務所の内部同士で、また外部との連絡をとるのは決して難しくはない。
フランスの刑務所では管理が杜撰なため、脱獄は意外に頻繁に起きている。
犯罪からテロへの移行の場所として大きな役割を果たしているのが刑務所だ。過激思想やジハード主義は、孤独と不安にさいなまれている受刑者に手っとり早い指針を与えてくれる。
テロリスト79人のうち57%は刑務所に入っていたことがあり、このうち31%は収監中に過激化した。
サラフィー主義者とジハード主義者は、しばしばカミーズ(ゆったりと身体を覆い尽くす白衣)をまとい、ひげをはやしている。
サラフィー主義は、一般的に暴力を認めない。これに対して、ジハード主義は、暴力行使も辞さない態度をとる。
いま、ヨーロッパのイスラム過激派は、犯罪集団か定職をもたない人々が支えている。アラブ系とユダヤ系とが共存してきた地区で育ちながら、「敵はユダヤ人」と思うようになっていった。
テロリストたちは、なぜユダヤ人にそれほどこだわるのか・・・。
イスラエルがいつも圧倒的な力を見せつけているパレスチナ紛争の影響から、フランスに暮らすイスラム教徒の相当数がユダヤ人に対して反感を抱いているのはたしかだ。
テロリストをとり巻く環境は、アルカイダ時代から大きく変化した。今ではユーチューブやツイッター、フェイスブック、ワッツアップなどという新技術を駆使して情報を交換しあっている。
ジハード主義の男たちが外で仕事をしたり、人と会ったりしているあいだに、女たちは家で本を読む。その結果、女たちのほうが宗教や理論に詳しくなり、しっかりとしたイデオロギーをi抱く。そして、妻が夫を「殉教」に送り出すと、「イスラム国」は素晴らしい住居も保障してくれる。「殉教者の妻」は、ジハード主義者のブルジョア的地位が約束され、天国にも行ける。つまり精神的利益だけでなく、物質的な利益も受けるのだ。ジハード主義の女性にとって、家族の命が奪われることは、悲しむべきことではなく、むしろ喜びである。
ええっ、本当にそう思っている女性がいるのでしょうか・・・、私には、とても信じられません。
パリで起きた大量殺人のテロ事件(2015年11月14日)では、テロリストは10人。そして、自爆、レストランやバーでの銃撃、劇場への立てこもりという複数の手法を組み合わせている。大勢が実行にかかわっていて、きわめて周到で組織てきな犯行だった。
テロリストになった若者の6割以上が移民2世。移民1世や3世は、ほとんどいない。また、キリスト教家庭からの改宗者が全体の25%というように多い。
「イスラム国」がふりまく英雄のイメージにひかれ、イスラム教社会の代表者であるかのように戦うことで英雄として殉教できる。生きることに関心をもたなくなり、死ぬことばかり考える。
大変考えさせられることの多い本でした。
(2019年10月刊。2900円+税)

昭和とわたし

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 澤地 久枝 、 出版  文春新書
「九条を守れ」のプラカードを手にして毎週、国会前に立つ著者は1930年(昭和5年)秋、東京青山で生まれました。そして、戦前・戦中を旧満州で軍国少女として生きていたことを知りました。
戦後、なんとか日本に帰国して夜間学生として5年、編集者生活の9年、助手生活10年。
そして1927年に『妻たちの二・二六事件』で作家としてデビューしたのです。
私が著者の本を読んだのは、竹橋事件を扱った『火はわが胸中にあり』が最初でした。西南戦争に従軍した近衛砲兵たちが翌明治11年8月に処遇不満から叛乱を起こし、皇居に向かって決起した事件です。53人もの兵士たちが銃殺刑に処せられた大事件で、明治民権運動の影響があったことまで堀り下げられていて、私の心を強く打ちました。
著者は、かの有名なミッドウェー海戦における日米の戦死者数を4回もアメリカに行って確認しています。日本側は3057人であるのに対し、アメリカ側は1桁すくない362人でした。
満州国に少女時代に行って過ごし、植民地の実態を体験します。「五族協和」とか「王道楽土」とかいっても、日本人には米と砂糖の配給が確実にあっても、中国人には砂糖の配給はなかった。そして、住む場所と建物に一目瞭然の違い(差別)があった。
人間狩りで連行されてきた中国人労働者は「特殊工人」と呼ばれ、人間以下の消耗品として扱われた。
徴兵されたら、残された一家にとって、もっとも肝心な働き手が無条件で連れ去られていくことになる。著者は終戦(敗戦)のとき、14歳そして15歳。マンドリン銃をもったソ連兵が自宅に押しかけてきて危い目にもあった。
「君が代」の歌を聞くと、「聖戦完遂」を信じた14歳までの自分の姿がみじめに思い出される。どんなに無知で、大勢迎合のおろかな人間だったか・・・。
満州にいた敗戦国の日本の人々の連行を日本政府がいささかも顧慮した形跡はまったくない。満蒙開拓団の多くの死は、当然予想されるべきであったのに・・・。ところが、日本では、むしろ「在外居留民はなるべく残留すべし」だと政府は考えていた。見捨てようとしたのだ。そして、日本に帰ってきたとき言われたのは・・・。
「満州くんだりから引き揚げて来やがって、おまえたち、人間の皮を着たけだものだ・・・」
もちろん著者は鉄砲一発うっているわけではないが、あの戦争の時代にまったく無関係とはいえない。そのことの責任を死ぬまで背負うつもりでいる。
そして、騎手であったただ一人の人物は、昭和天皇だ。その責任を問わなくては、戦争責任に総体を問うことはできない。苛酷な戦争体験に発する、これらの言葉の重みに私も圧倒される思いです。
自分史を書くなら、きちんと裏付けをとって書くべきだと著者は強調しています。全く同感です。思い出すままに流されるように書き、文章に歌わせて読ませる自分史は、長いいのちを持たない。初歩的な確認作業すらやらずに書いたものは背骨が軟弱で、残念ながら証言性に乏しい。
井上ひさしのすごいところは、調べに調べ、人の心に響く作品を書き続けたこと。あとに続く者のあるのを信じて走れ、と言った。
全人生とひきかえにしてもいいような男女関係など、ほんとうは存在しないのではないか。こわれるものはこわれ、分かれるべき状況がやってきたときには避けることができない。その程度の頼りない絆で結ばれているのが、男と女なのではないか・・・。これは弁護士生活46年目に入った私の実感にぴったりする言葉です。
澤地久枝とはいかなる人間、そして女性なのかを駆け足で知ることのできる貴重な新書です。
(2019年9月刊。800円+税)

知りたくなる韓国

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 春木 育美、金 香男ほか 、 出版  有斐閣
隣国について、私たちは意外なほどよく知っていません。知らずに「嫌韓」に乗せられてしまうなんて、愚かなことです。
日本と韓国の違いと言えば、なんといっても徴兵制です。男子は19歳になると、兵隊にとられます。兵隊の訓練というのは、要するに効率よく人殺しできるマシーンになるように人間を改造することです。私には、とても耐えられません。良心の呵責なく大量殺人を遂行することが兵隊(軍人)の資質として求められます。大量の「敵」を殺したらナポレオンのような英雄なのです。ところが、「敵」といっても、実は家族もいる人間なのです。
韓国の人口は5100万人。人口の20%の1000万人がソウルに住んでいる。そして、韓国人口の90%が都市部に住んでいる。
韓国の持家率は50%台。賃借するとき、月々の家賃は免除させるかわりに「チョンセ」という保証金を預ける。ソウル郊外でも1000万円が相場。2年契約で、契約満了すると、保証金は全額戻ってくる。家主は、預かった1000万円を金融機関に預けて利子を得る仕組み。
財閥は韓国の誇りであると同時に、社会的批判の対象もある。サムスンなどの財閥は、羨望の対象であっても愛されてはいない。社会への利益の還元が十分でないとみられているからだ。
韓国のインターネット普及率は90%台。全国民の3分の2をこえる人々が「ネチズン」と自称している。
家族の小規模化がすすんでいる。3世代家族は1969年に27%だったのが2015年には5%へと大幅減少。1人暮らしの単独世帯や夫婦2人だけの家族の増加が著しい。
韓国では結婚後の新居を用意するのは男性側が、家財道具は女性側がそろえるのが慣例。このほか、男性側の親と親族に物品(婚需)を贈る習慣もある。
韓国では、結婚しても夫婦別姓。日本では近親婚の禁止のため3親等以内は結婚できないが、韓国はそれより広い8親等まで結婚できない。また、「同姓同本不婚」の原則がある。姓と本貫を同じくする血族内での結婚を禁止する制度。
韓国の高齢者10人のうち8人は年金をもらっていないか、月の受給額が2万円ほど。貧困は深刻で、自殺者も多い。
韓国の学校は2学期制で、小学校から高校まで学校給食がある。中学・高校では部活動はなく、勉強が優先される。大学に入るための「修能」は一発勝負。大学進学率は70%をこえる。
こうやってみてくると、日本との違いはかなり大きい気がします。似たような顔をしていても、お互い生活習慣は大きく異なります。これは、いいとか悪いとかの問題ではありません。みんな違って、みんないい。この金子みすずの精神をもっと大切にしたいものです。
(2019年8月刊。1800円+税)

原爆を見た少年(上)

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 後藤 勝彌 、 出版  講談社
原爆を見た少年というタイトルですから、広島か長崎に生きる少年の話かと思うと、そうでもなく、キリスト教に殉教した江戸初期の26聖人の一人(トマス小崎)が登場したり、雲仙・島原そして原城、ローマへの遣欧少年使節団の話になったり、時空を超越して話は展開していきます。さらに、脳神経外科の専門医である著者の得意とする脳卒中専門病院における手術の模様までも詳細に紹介されます。異色の小説だと思いながら読みすすめていきました。
出だしは脳血管内治療の場面です。
主役の一人は火男(ひおとこ)。「ひょっとこ」ではありません。火男は脳血管手術をしてヒカルを助けた命の恩人の医師。
もう一人の主役はヒカル。脳出血を起こして瀕死の状態になったとき、光輝く存在を見たことから、ヒカルというあだなをつけられたのです。この二人の問答、そして道中(旅行)として物語は展開します。
京都でとらえられ、長崎で処刑された26人のキリシタンのなかには、11歳から14歳の3人の少年がいた。そのひとりがトマス小崎。彼らは見せしめのため耳を削(そ)がれて、大坂の町を引きまわされたあと、長崎まで1000キロの冬の道を裸足(はだし)で歩かされた。
そのトマス小崎は母親に宛てて別れの手紙を書いたが、一緒に磔(はりつけ)にされた父親の着物の襟に縫いつけられていた。
原爆の起爆装置が起動してからの10秒間に何が起きたか・・・。
炸裂(さくれつ)するまでの100万分の1秒のあいだに発生した膨大な中性子は、次の核分裂を引き起こしただけでなく、あらゆるものを突き抜け、あらゆる物質の原子核にぶつかって、新たな放射線を生み出していった。
爆心地にいた人々の被曝線量は中性子とガンマ線をあわせると60グレイと推定されている。この放射線の破壊力は、仮に50グレイの放射線を手のひらにあてられたら穴が開くという、とてつもないものだ。このような中性子やガンマ線による被曝が1週間も続いた。
被爆者の死亡の20~30%は、つづいて出現した火球の熱による「閃光(せんこう)やけど」によるもの。2キロ以内の野外にいたら生き残れる可能性はなかった。火球によって加熱された空気が膨張するとき、まわりの空気がいっきに押し出され、すさまじい衝撃波が生じる。そのスピードは音速より速い。この衝撃波は地面に衝突して、さらに圧力を倍加させる。さらに、火災が発生した地域に向かって市の周辺から吹きこんでくる風によって、20分後に火事嵐が生じた。この強風にあおられて町は燃え尽きた。
どうでしょうか、この状況では核シェルターで身を守ることなんて出来るはずがありません。30年以上も前にアメリカに行ったとき、家庭用核シェルターがつくられ、売られていました。
核戦争になったら地球は破滅します。核が抑止力なんて、とんでもなく間違った考えです。地球上で人類が生存するには、核兵器の全廃こそ必要なのです。核兵器禁止条約に背を向けたままの安倍政権は私たちの生存を脅かす存在だというほかありません。
上巻の最後は原城跡です。私も先日、行きました。ここで3万人もの人々が籠城して戦っていたというのが信じられないほど、のどかでおだやかな地です。そんな平和を守り続けたいものです。このコーナーを愛読しているという著者から本を贈呈していただきました。ありがとうございました。
(2019年8月刊。1900円+税)

進化する人体

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 キャロル・アン・リンツラー 、 出版  柏書房
今日のアメリカでは、虫垂切除はもっともありふれた救急手術で、子どもに対してもっともありふれた外科手術だ。年に25万から30万のケースで手術されている。朝に入院して、夜には帰宅している。私は、今もしっかり虫垂を保持しています。盲腸といってけなされますが、無用の存在ではないという考えもあるようです。
体全体の毛深さで上位にくるのは、日本のアイヌ、オーストラリアのアボリジニ、インド南部のトーダ族、インド北部のドラヴィッダ人。
毛が少ないのは、アメリカ先住民、アフリカ人、ミャンマー人、中国人、朝鮮人、ベトナム人、そして金髪の白人。
人間の体毛が目立たなくなった理由は、まだ定説がない。
人間は耳を動かせない。しかし、人間だけでなく、チンパンジーやオランウータンも耳は動かせない。
ゾウの歯は24本あるが、一度に4本しか使わない。すり減ると、奥の歯が前に移動して出てくる。最後の第六大臼歯はゾウが65歳のころに抜ける。歯がなくなるとかむ力がなくなって、動物の世界では死ぬことに結びつく。
ワーテルローの戦いでは5万人もの戦死者が出たが、その歯は、競って歯を抜いた死体あさりの人々の手で生きた。ブリッジをつくるのに使われたのだ。なんだかおぞましい話ですよね・・・。
肋骨は人類には12対だが、チンパンジーやゴリラは13対。
人間の身体は、これからも進化していくのでしょうか・・・。力強くかむ必要がなくなった現代人はアゴがほっそりしていると書いている記事を読みました。顔のかたちは確実に変わっているわけです。だったら、他の部分の身体も、これから変化が起きることは当然あるのでしょうね・・・。
(2019年3月刊。2200円+税)
 日曜日、朝からフランス語検定試験(準1級)の口頭試験を受けてきました。3分前に渡された問題は日本政府が70歳定年に延長しようとしているのをどう考えるのかと、旅行者過剰をどう考えるのか、でした。私は前者を選んだのですが、定年のない職業なので、実は深く考えたことのない問題なので、何をどう答えてよいのか頭がまとまりません。そうすると、フランス語の単語まで出てこないのです。あれあれ、今回は不合格かな・・・と落ち込みました。
 地球温暖化問題、オリンピック問題、育休、貧富格差増大などにヤマをはっていたのが見事にはずれてしまいました。
 3分間スピーチは本当に大変です。トホホ・・・。

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