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2019年6月 の投稿

候補者ジェレミー・コービン

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 アレックス・ナンズ 、 出版  岩波書店
アメリカでサンダース上院議員が民主的社会主義者としてアメリカの若者たちに大きく支えられて躍進しているのと同じ現象がイギリスでも起きていることを知り、大変うれしく思いました。労働党の党首となったコービンの実像に迫った本です。
コービンを党首に押しあげたのは、一つの政治運動の流れであり、それがコービンの周囲に結集し、奔流となったのだ。三つの流れがコービンを支えたが、もっとも強い流れは緊縮財政に反対する運動だった。
コービンを2つの巨大組合ユナイトとユニゾンが支援した。これがコービン指示に正統性をもたらした。労働党では、2015年に1人の議員の票も一般党員の票と同じ価値をもつように変更された。そして、3ポンド払えば労働党の党首選に参加できるように変わった。
人々はコービンが勝つ可能性があるように見えたから加わった。そして、集まった人々が生みだした弾(はず)みがコービンの勝利を確実にした。
国の政治を実際に変えられる貴重なチャンスがあるという高揚感には伝染性があった。
いつもの顔ぶれの枠をこえて、ウィルスのように爆発的に広がり、初めて政治にかかわる若者、学生、アーティスト、反体制の運動家、オンライン署名者へと広がった。
新しい政治運動が誕生した。コービン運動だ。そこで際立っていたのは、自ら歴史をつくろうとする願いだった。運動は行動を望んだ。ボランティアに名乗り出る。メッセージを発信して説得する。電話で聞きとり調査する。友だちを勧誘する。イベントに参加する。政策を提案する。投票する。変化を求める勢力を築く。観察政治に嫌気がさしていた人々の集まりだった。これが、コービンとその選挙キャンペーンのもつ参加の精神と実践に共鳴した。
この運動には、前の世代にはなかった強力なツールがあった。ソーシャルメディアだ。
コービンは、キリスト教社会主義者、ただし、キリスト教抜き倫理的社会主義者。
コービンにはトニー・ベンのような人を鼓舞する演説の深さがあるわけではなく、トニー・ブレアの目端(めはし)が利いて人をそらさない表現力もない。しかし、心に深く抱いている共通の価値観を明確に表明して聴衆との結びつきを生む希有の能力がある。誠実さ、原則を守る姿勢、倫理的な力、コービンは一つの模範だ。そして、縁の下で助力を惜しまない。
ジェレミー・コービンは、何年もかかってつくられた大きな歴史的潮流によって労働党の党首へと押し上げられた。だが、必然は一つもなかった。労働党に投票した人の3分の2は国民投票でEU残留を支持し、3分の1はEU離脱に投票した。
コービンは宣言した。私たちは億万長者のための党ではない。企業エリートの党でもない。人びとのための党である。
若者の投票率が飛躍的に伸びた。18~24歳は52%が65%へ飛躍した。25~34歳は52%から63%へ上昇した。若者たちが労働党へ投票したのだ。
日本でも同じように若者に希望を与えること、世の中は変えられることを目に見える形で示すことが大切です。私は、最近つくづくそう思います。
私が20歳のころ、「未来は青年のもの」というスローガンに心がおどりました。東京・神奈川・京都・大阪と革新首長が次々に誕生していき、日本は変わる、変えられるという成功体験が今の私を根底で支えています。「アベ一強」の嘘つき放題のデタラメ政治が野放しにされていて、あきらめきっている若者に、そんなことはないよと呼びかけたいものです。
もりもり元気の湧いてくる本です。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2019年4月刊。3700円+税)

本物の再建弁護士の道を求めて

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 村松 謙一 、 出版  商事法務
今度、またテレビ番組になるそうですね。倒産しかかった企業をたて直す仕事を一生の仕事として誠心誠意とり組んでいる著者の姿勢はすばらしいものです。
企業が倒産して救いがないと思うと、自死を選んでしまう経営者が昔も今も少なくありません。そこへ光明を持ち込み、自死を阻止するのです。
そんな社長に「がんばれ」と声はかけない。「あなたは、これまでさんざん苦しんだし、がんばってきた。もうがんばらなくていいよ。少し休みなさい。あとは、専門家である私たち弁護士があなたの重石を背負うから・・・」
経営者の心の重石を軽くしてあげられるように経営者に寄りそい、ただ、黙って共感する。それだけでも暗い闇のなかににる経営者はどんなにか救われることか・・・。
再建弁護士は、債権者をふくむ利害関係人側の視点に立たないと成り立たない。
会社再建は、駆け引きや条件闘争の場ではなく、各債権者の主張する権利が正当であると認めたうえで、そのうえで債権弁護士自らが極めた「正義」としての企業再建に導く指導者である必要がある。
企業再建において闘うべき相手は金融機関ではなく、「倒産という悪魔」なのである。
企業再建に「債権カット」が必要不可欠なのは、倒産の危機を招来している主要な原因の一つに過剰債務問題があるから。単なる先送り的な「リ・スケジュール」では失敗してしまう。
売上をあえて減少させる勇気をもつ。返済は売上げするものでは。利益至上主義への精神的変革が必要だ。嘘をついてまで資金調達をしてはいけない。
さすがに豊富な再建弁護士の体験が分かりやすく教訓化されていて、後進にも大いに役立つ内容となっています。まさしく企業再建は人生救済のドラマだと実感させられます。
たくさんの生きた格言も紹介されていて、ハッとさせられます。
(2019年1月刊。2800円+税)

読書と教育

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 池田 知隆 、 出版  現代書館
大牟田にある有明高専で国語を教えられた著者が、恩師である棚町知彌(たなまちともや)の戦中・戦後の軌跡をたどった本です。
国語とは、国を語ること。すなわち、自分と世界とのかかわりについて語ること。
私の講義は消化剤であり、ビタミン剤である。栄養はすべて本にある。
授業のなかで、課題図書を次々にあげる。「キュリー夫伝」、「三四郎」。授業では、まるでカラオケでも歌っているかのように朗読し、試験は読書感想文を書くこと。3年間の国語教育の集約として、全5巻の「チボ―家の人々」の読了が義務づけられた。
うへーっ、これはすごいことですよね・・・。著者は有明高専を卒業して、珍しいことに早稲田大学政経学部に進学します。私と同じ団塊世代で、学年も同じのようです。
棚町知彌は思想検事の子として生まれ育ったが、父親は50歳の若さで急死した。
成蹊(せいけい)高校を卒業して北海道大学理学部数学科に進学した。ところが徴兵猶予を自ら拒否して応召し、通信2等兵として中国戦線へ渡る。数学科出身なので暗号解読に強いとみられたようだ。
そして、戦後は、福岡でアメリカ占領軍の民間検閲局につとめた。
その後、博多工業高校の教諭となり、国語を生徒に教えはじめた。さらに、新設の有明高専で13年間、国語教員として勤めた。そのあと、山口大学、そして長岡技術科学大学に移った。
どこでも生徒・学生に膨大な課題図書を提起した。「黒い雨」や「播州平野」、「蟹工船」、「太陽のない町」、さらには「土」、「不毛地帯」、「怒りの葡萄」なども入っていて、さすが・・・と思いました。
棚町式ノートは、ルーズリーフ式ではなく、部厚いノートに手書きする。感想はいっさい書かない。ひたすら重要な個所を抜き書きする。ノートへの抜き書きは、時間を異にする自分の思考との出会いを確実にする記録である。抜き書きを重ねていくことにより読書にセンスが養われる。
私もこうやって毎日、抜き書きしていますので、棚町式ノートを実践していることになります。読書は、まさしく人々との出会いだと痛感させられた本でもありました。
(2019年4月刊。2000円+税)
日曜日の午後、フランス語検定試験(1級)を受けました。
はじめから合格するとは思ってもいないのですが、案の定、とてもとても歯が立ちません。それでも、フランス語歴は長いので、まるでチンプンカンプンという域ではありません。いやはや、フランス語って奥が深いよね、やっぱり難しいね、そんな実感を胸に抱きながらトボトボと西新駅に向かいました。
年に2回の難行苦行です。この1週間は、集中して頭をフランス語漬けにしました。もはや上達しようとか1級レベルに達して合格しようという高望みはしていません。せめて現状維持、必死で後退をくい止めようというレベルです。
このところ、NHKラジオ講座のCDを繰り返し聞いて書き取りをしながら基本文型を暗記するように努めています。なので、本番の仏検でも書き取りだけは、バッチリでした。聞きとりも、そこそこでした。ところが、今回は、なんと長文読解、読みとりが惨敗でした。自分でも信じられないほどの不出来なのです。
それやこれやで、いつものように大甘の自己採点で63点でした。150点満点ですから、やっと4割なのです。あと2割を上乗せするのはあまりにも大変です。1級を受験したのは1995年からですので、すでに24回目の受験ということです。
根性だけはありますが、世の中、根性だけで渡り切れるほど甘くはありませんよね・・・。

手で見るいのち

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  柳楽 未来 、 出版  岩波書店
この本は筑波大学付属視覚特別支援学校が舞台です。実は、私の娘も突然、弱視になり、この学校にお世話になりました。それで、私も一度だけ父兄として学校訪問し、授業風景を見学したことがあります。
私の娘は大学を卒業していましたので、高校の部に入ったように思いますが、この本では中学生が生物の授業で動物の頭蓋骨を手で触って、その動物のもつ機能を考え、最後に、その動物が何であるかを推測します。著者も目をつぶって動物の頭蓋骨に触ってみたのですが、中学生たちにはまるでかないませんでした。子どもたちは視覚に頼れないため、すべて言葉を通して概念やイメージを他者に伝え、共有していく。目の見えない子どもたちにとって、感じたことを言語化することは、きわめて重要。
この授業は、40年以上も前から基本的な形をほとんど変えず今に続いている。教科書は使わず、板書もない。週1回2時間続きの授業を続ける。
事前に生徒に動物の種類は伝えないというのが授業のルールになっている。生徒たちは、穴の大きさや方向で正確に観察できる指先の能力をもっている。
これは著者のような目明き人間が目をつぶって骨を触っても、ただ物理的に骨に触れているだけというのとは違う。
全国の盲学校の在籍者数は年々減少している。1959年の1万264人がピークで、2018年には2731人となった。これは全国的な少子化に加え、医療技術の発達から乳幼児期の失明が格段に少なくなったこと、障害ある子どもも普通学級で共に学ぶ「インクルーシブ教育」が広がっている影響もある。
1982年、全盲の男子高校生がICUの理科(化学系)に合格し、入学を認められた。
実は、私の娘は、この盲学校に入る前はICUで学び、キュレーターを目指していたのでした。
その後は、東大の教授たち3人が盲学校にやってきて、「ぜひ、東大に来てほしい」と要請したというのです。世の中はいい方向に動いているのですね・・・。
今では、盲ろう者の福島智さんが東大教授になっています。すばらしいことです。
ところで、点訳ボランティアの平均年齢が70歳代になっていて、後継者の確保が大変になっているそうです。
この盲学校の授業は、生徒たちの発見をもとにして進んでいくけれど、生徒がそれぞれ自由に発言するだけでは、授業は前に進まないし、考察は深まっていかない。ただの雑談に終わらせない見通しをもった工夫が求められる。
この授業では、教員は生徒たちに知識を押しつけない。生徒が目の前にある骨を自分でしっかり触って、生徒自身で考える。この姿勢が一貫させている。これが大切だ。そのため、教師は、いろいろ質問し、観察するためのヒントを小出しにする。
すばらしい生物の授業です。私もこんな授業を受けてみたいと思ったことでした。
(2019年2月刊。1500円+税)

戦神(いくさがみ)

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者 赤神 諒 、 出版  角川春樹事務所
面白い。ぐいぐいと戦国時代の大分県あたりに引きずりこまれていきます。歴史小説ですが、どこまで史実を反映しているのか、あまりに面白い展開なので首をかしげながら読み終えると、最後になんと、その種明かしがしてありました。
著者が、本書の末尾に、本作は書き下ろし歴史エンターテインメント小説であり、史実とは異なります、と断っているのです。なるほど、そうか、やっぱりそうなのだね・・・、それにしてもよく出来ている。私は、そう思いました。読書の楽しみをしっかり堪能(たんのう)できましたので、史実と異なっていることを知っても不満はありません。だって、やはり小説は読んで面白いかどうか、ですから・・・。
歴史的事実を平板になぞられても、ちっとも面白くありません。そこはやっぱり、どんな運命なのか、男女の愛はむすばれるのか、どんな邪魔が入って、それをいかにして乗りこえていくか・・・。ぜひぜひ知りたいじゃないですか・・・。
著者は弁護士です。前回の『大友二階崩れ』より、本書のほうが、私にはしっくりきましたし、読ませました。
戦国時代の大分を支配していた大分義鑑そして大分義鎮を当主として、その配下で敗戦を知らない日本一(ひのもといち)の武士(もののふ)、戸次(べっき)鑑連(あきつら)が主人公です。あとでは立花道雪と呼ばれた武将です。かの有名な立花宗茂の父でしょうか・・・。
舞台となるのは、大友家の支配する豊後(ぶんご。大分)と日向そして豊前です。いえ、肥後や出雲にも出陣します。
戸次八幡丸(べっきはちまんまる)。14の歳(とし)に初陣で大功をあげる。その後、生涯にわたり数えきれないほどの軍功を立てる。その采配する戦で、一度たりとも敗北しない。戦で勝てる敵はついに現れない。戦神(いくさがみ)と言ってよい。
こんな予言がことごとく的中していく運命です。ところが、預言者は次のようにも言うのでした。
「戦に明け暮れる、お前の人生は苛烈で苛酷だ。世のあらゆる災厄が次々と振りかかってくるだろう。華々しく勝利する戦で、万(よろず)の人間が生命を落とす。おまえは鬼だ。その人生で、母を殺し、父を殺し、兄を殺し、弟を殺し、妹を殺し、妻を殺し、子を殺す。あまりに深き罪業(ざいごう)のゆえ、おまえの血は後世に残らない」
いやはや、この予言が具体化するストーリー展開です。
40歳の弁護士が本格的な作家デビューしたことを心から祝福します。
(2019年4月刊。1800円+税)

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