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2019年4月 の投稿

候補者たちの闘争

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 井戸 まさえ 、 出版  岩波書店
今の日本で、政治家になりたいと言う人が一定数いるという現実があるのが、私にはちょっと理解しがたいところです。
トップがアベシンゾーのようなペラペラと意味の乏しいコトバをまき散らす人物なので、それなら自分だってやれると思うのでしょうか・・・。何らかの政策と信念を実現すべく政治家になりたいというヒトばかりであってほしいものです。
小池百合子の希望の党で候補者となれたのは、政治家としての資質や地道な活動というよりも「勝てるか否か」だった。
現在の日本で、女性政治家が立身出世するロールモデルの一つは、たとえば極端な右傾化をし、背伸びして男性並みの発言をすること。たとえば、女性への偏見・差別の問題について、男性擁護の発言をする。女性が女性差別などないと発言すると、それだけで重宝がられるので、さらに過激化する。
男性では発言しにくい慰安婦問題で、ネトウヨの主張にそった内容で女性が発言することで重宝がられる。
杉田水脈は、そのような「立身出世コース」に乗っている。稲田朋美もまた、それによって身の丈にあわない役職に抜擢され、失速した。杉田水脈は日本維新の会で衆議院議員に初当選し、その後、次世代の党、日本のこころと政党を移りながら、根拠のないネトウヨ的発言を繰り返し、名を売り、仲間を増やしていった。
選挙に出られるのならば、どの党でもいいという人は少なくない。自民党でも、民主党でも、希望の党でも、立憲民主党でも、選挙に出られたら、どれでもいいという人は意外に多い。
人を裏切るのは平気。ウソをつくのに何のためらいもない。これが出来ないような人は、この世界では生きのびることが出来ない。
いやはや、政治の世界とは、かくもおぞましいところなのですか・・・。
そうすると、なおさら小選挙区制の弊害は大きいということになります。中選挙区制だと、何人かの議員のなかには少しはまともな人もまぎれ込める可能性があるからです。一選挙区に1人だと、権力に弱いかお金のある、おかしな人しか議員にはなれないでしょう。
そして、高額の供託金と没収制度も、出たい人より出したい人を出せなくしています。
日本の選挙の現状を内側から、つまり候補者の側から、かなりあからさまに暴露している面白い本です。
(2018年12月刊。1700円+税)

82年生まれ、キム・ジヨン

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 チョ・ナムジュ 、 出版  筑摩書房
読んでいて切なくなるストーリー展開です。これは、隣国の話というより、私は日本の話だなと思いながら読みすすめていきました。
たしかに、チョンセとかチュソクとか、日本と風習・習慣が違うところがあります。でも、「ママ虫」というあたり、また、東京医科大学入試での男子ゲタはかせ慣行のように女性があからさまに差別されているところは本質的に同じです。家庭内でも男性優先で、女性はあとまわしというのも、日本全国で最近まで(今もかな)ありましたよね・・・。
親の給料は、兄や弟の学費に使われ、女の子はあとまわし。一家を盛り立てるのは男の子であり、それが一家全員の成功であり、幸せだと考えられていた。娘たちは、喜んで男の兄弟を支えた。
日本も同じです。私自身も男3人は大学に行き、姉の一人は高卒で就職しました。
海苔巻きの具には、たくあんが必須で、これが抜けると大失策というのも日本人には分からない習慣です。
2014年、韓国の既婚女性5人のうち1人が、結婚・妊娠・出産・幼い子どもの育児と教育のために職場を離れた。
秋夕(チュソク)は、1年でもっとも重要な祭礼の日で、里帰りして先祖の墓参りするのが恒例。
3番目以降の子どもの性は男児が女児の2倍以上だった。要するに、女児だと判明すると妊娠中絶する親が多かったということ。
韓国では、基本的に高校受験がなく、地域の高校に割り当てられる。これは、知りませんでした・・・。
女性は、能力が劣っていたらダメ、優れているのもダメ、その中間だと中途半端だからダメだと言われる。
「味噌女」とは、家族や恋人に経済的に依存しながら、ブランド物を買ったり、高いスタバのコーヒーを飲んだりする。見栄っ張りの女性をおとしめて言う、2005年ころの流行語。
韓国は、もっとも女性が働きづらい国。男女の賃金格差がOECD加盟諸国のなかでもっとも大きい国だ。日本もあまり変わらないのではありませんか・・・。
韓国の戸主制度は2008年に廃止された。もはや韓国に戸籍はなく、人々は自分ひとりの登録簿だけで問題なく暮らしている。ふむふむ、なるほど、ですね。ただ、結婚のとき、同氏(姓)の人と結婚しないという点は、今はどうなっているのでしょうか。
韓国で100万部という驚異的なベストセラー小説となったものが日本でも出版されたのです。女性の不屈なたたかいはまだまだ当分続くことでしょう。私たち男性も、そのたたかいをしっかり支える必要があることを切々と痛感させてくれる本でした。ベストセラーの名に恥じません。
(2019年2月刊。1500円+税)

植民地遊廓

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 金 富子、金 栄 、 出版  吉川弘文館
日本が朝鮮半島を植民地として支配していたとき、日本の兵隊たちはどんな性生活をしていたのか・・・。
それまで公娼制のなかった朝鮮に日本は日本式「遊廓」を持ちこみ定着させた。そして、日本軍憲兵隊は兵士の性病予防に必死だった。それほど日本人兵士は性病にかかり、戦闘能力を喪っていた。
とても実証的に探求している本なので、説得力があります。
前近代の朝鮮社会では、朝鮮王朝政府が性売買を政策的に禁止していたため、徳川幕府が公認していた吉原遊廓のような公娼制はなかった。ところが、朝鮮「併合」のあと、日本式の性売買は、名称を変えながら朝鮮人を組み込み、朝鮮社会の性慣行を次第に「日本式」に変えていった。
日本の植民地都市を特徴づけたのは神社と遊廓だった。植民地の遊廓には、常に日本人娼婦が存在した。欧米の植民地にも売春する女性はいたが、支配側出身の女性が売春女性になることは少なかった。
前近代の朝鮮社会において、一般庶民層は、早婚の風習もあって性売買に無縁な生活だったし、売春を専業とする女性はごく少数だった。
これに対して、近世日本では、吉原遊廓などに公認の遊女がいて、準公認の飯盛女など、また非合法(陰売女)などきわめて広範囲に性売買が展開し、遊廓は実質的な人身売買による売春強制の場だった。
近代朝鮮での性売買の普及は、日清戦争と甲午改革(1894年)が大きな節目だった。
日清戦争、そして日露戦争によって大量の日本軍兵士が朝鮮に常駐することになって、日本軍将兵への性病対策が重視された。
1910年に韓国併合のとき、朝鮮在留の日本人は17万1000人だった。
1929年の朝鮮半島での遊廓営業者の6割は日本人、娼婦の6割弱も日本人、遊興費の9割を日本人男性が占めた。
日本人娼婦の出身地は、長崎、福岡、熊本、広島、佐賀の順に多かった。長崎だけで4分の1を占めた。カラユキさんと言われるように、島原が多かったのでしょうか・・・。
遊廓経営は、とてもうま味のあるビジネスであり、赤荻與三郎は大富豪になったうえ、府会議員にまでなっている。また、その利益の一部は在朝日本人子女の教育費として使われた。
1921年のデータによると、在朝日本人の5万人以上が性病患者だった。同じく朝鮮人は10万人近い。日本国内に比べて、植民地在住の日本人男性の性病罹患率は格段に高い。
朝鮮人娼婦には、16歳、17歳、18歳と十代の少女が多く若い、安いという特徴があった。
当時の朝鮮人女性のほとんどが文字の読み書きは出来なかった。
朝鮮人娼婦たちは、人身売買や劣悪な処遇に対して、自殺や心中、逃亡などで対抗し、また断髪や同盟休業、同盟断食などで抵抗した。
女性を集めるとき、多くの場合、詐欺による募集や誘拐まがいの不法な人身売買が横行しているのが実情だった。
日本による植民地支配のなかで、まだ十代の年若い朝鮮人女性の多数を日本式の娼婦にしていったのですから、日本の責任はきわめて重大だと改めて痛感しました。
この現実を日本人は忘れてはいけないと思います。大変貴重な労作です。
(2018年10月刊。3800円+税)

日本の戦争Ⅱ.暴走の本質

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 山田 朗 、 出版  新日本出版社
安倍首相のいかにも軽薄な言葉に接するたびに、こんな無能なリーダーの下で我が子や孫たちが戦場に駆り出されて死んでしまったら、哀れというか無惨というか、悔み切れないだろうと、つくづく思います。
この本は、戦前の帝国軍の実情をさらけ出し、戦争というものがいかに無駄死をもたらすものなのか、じっくり考える素材を豊富に提供してくれます。いま読まれるべき本として、一読をおすすめします。
戦争は、決してある日突然に起こるものではなく、必ず国家の政策の延長、外交的対立の帰結として起こる。戦争とは、国家戦略・政策の延長線上にある武力行使であり、軍事力による他者(国家・民族)への意思の強要である。
日露戦争の前の日本は、まだ主力艦クラスの艦艇を国内では建造できなかった。国産の主力艦は一隻もなく、すべてイギリス製の戦艦であり巡洋艦であった。
日露戦争のあと、欧米の陸軍は、火力主義の強化、砲兵の重視を学んだ。ところが、日本陸軍は逆に火力主義から白兵主義へと基本理念を転換した。
日本海軍の飛行機搭乗員の養成方針は、完全な少数精鋭の「名人」をつくることに主眼を置いていた。そこで、航空戦で日本軍精兵が「消耗」してしまうと、戦力は急激に低下し、連鎖的に全体的崩壊をもたらした。
日露戦争において、実は、日本軍はホチキス式機関銃を268丁(これに対してロシア軍は56丁)を使用していて、戦線によっては日本軍がロシア軍よりも多数の機関銃を投入していた。
戦死した軍人を軍神に祭り上げることが多かったが、それは軍指導部の失敗・過程を隠蔽するためだった。旅順港閉塞作戦で戦死した広瀬武夫海軍少佐の戦死もそれだった。久留米の肉弾三勇士の戦死も同じこと。
日本には、日本陸軍と日本海軍は存在したが、一元化された日本軍は存在しなかった。
日清戦争のあと、戦時における最高司令部としての大本営が設置されたが、今度は、政府と大本営とがそれぞれ天皇に並立・直属し、国家戦略の統一的な決定機関が存在しないことになった。
弾薬を大量に消費することを嫌った陸軍は、機関銃の研究・開発を遅らせた。戦車は、おくまで歩兵の突撃を支援する物として研究・開発された。したがって、本格的な戦車戦で日本軍は完敗した。日本軍兵士にとって、日中戦争とは、つらい徒歩行軍の連続だった。
自動車化が遅れた(積極的に進めようともしなかった)ため、輸送手段は馬に大きく依存した。人員61万人に対して馬14万3千頭、つまり人員4.3人に馬1頭の割合だった。
日本軍は、広大な中国大陸において小人数の将兵を分散配置するしかなく、中国軍が小隊単位以上の組織的な攻撃を仕掛けてきたら、必ず包囲され、つねに「全滅寸前」の危機に陥ることになった。
航空特攻作戦は、それによる戦死者のことを忘れてはいけないが、さりとてそれをただ顕彰し、美化するだけでは、彼らの死を意味あるものに変えることはできない。特攻という、あってはならない行為を顕彰・美化することは、死者を使って戦争への批判的な言動を封じようとするものであり、かえって死者を冒涜する行為なのだ。
日本軍の真実から目をそむけ、ひたすら美化しようとする動きが強まっている社会風潮がありますが、それを克服するには、やはり私たち自身が戦場の現実をきちんと認識する必要があると思ったことでした。
(2018年12月刊。1600円+税)

狼の群れは、なぜ真剣に遊ぶのか

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 エリ・H・ラディンガー 、 出版  築地書館
圧倒的な面白さです。オオカミたちの顔は輝き、畏敬の念を思わず抱いてしまいます。タイトルどおり、本当に真剣に遊んでいる様子もうかがえます。オオカミの研究がすすんでいることを、この本を読んで実感しました。
著者はオオカミとの接触が20年以上、オオカミとの出会いは1万回以上も体験した元弁護士です。弁護士として、犯罪事件、賃貸トラブル、離婚といった問題に次第にストレスがたまり、熱意をもって公正な勝利に導く代わりに、裁判が苦痛でしかなくなった。優れた弁護士が必要とする距離と非情さに欠けていた。ふむふむ、弁護士稼業も辛いのですよね・・・。
自然のなかで生きるオオカミの寿命は9年から11年ほど。囲い地オオカミだと15年ほど。
オオカミを身近に観察できる人は、静かで控え目な人だ。
人間と同じように、オオカミでも、本当に重大な問題は、最高位の女(メス)が決める。オオカミの家族にとって重要なことは、すべて最終的には彼女の必要性に適応させる。
アルファオオカミだけが交尾を許されているというのは誤った理解だ。これが訂正されるまで20年を要した。オオカミの4分の1は、ほかのパートナーと交尾し、その結果として、一家族内の多数の雌(メス)オオカミが赤ちゃんを産み、その一部は、家族みんなで育てる。
リーダー夫婦はたいてい生涯を通してともに暮らし、リーダーが死ねば、次に経験の豊富な雄がそれに代わる。リーダーの地位をめぐって家族内で真剣な争いが起きることは野生オオカミでは、ほとんどない。
リーダーのお気に入りは、子どもたちとじゃれあい、格闘すること。負けたふりをするのが一番の楽しみだ。これもオオカミの知性のあらわれ。
オオカミの狩りの80%は失敗に終わる。オオカミは純粋な肉食ではなく、死肉、魚、野菜や果物も食べる。最良のハンターは2歳から3歳。
獲物を倒すのは雄のほうに利があるが、雌は動きが敏捷で、狩り立てを得意とする。
オオカミの子どもたちは、遊びながら公正さや協力を学び、していいことと悪いことを区別するようになる。遊びの重要な特徴はセルフコントロールにある。
大人のオオカミも、追いかけっこ、引っ張りあい、かくれんぼといった遊びをする。
遊びは学習とトレーニングの時間であり、相手をよりよく評価するための経験を全員が積む。そのなかで、自分がしてほしくないことは、ほかのものにしないことを学ぶ。
オオカミの家族関係を知ると、人間はオオカミからも学ぶべきことがたくさんあると思いました。
(2019年2月刊。2500円+税)

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