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2019年3月 の投稿

骨まで愛して

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 小泉 武夫 、 出版  新潮社
思わずヨダレがわき出てくる美味しい料理のオンパレードです。
築地(つきじ)がなくなったのは残念ですが、この本はまだ築地が健在なころに、日本初の粗(あら)料理専門店を開店して繁盛していく様子を活写しています。
これまで見捨てられていた魚の粗が、あれよあれよと魅惑の一皿に大変身していきます。
皮からジュルジュル、コラーゲン。
骨酒グビグビ、コピリンコ。
目玉の周りは、トロットロ。
読めば涎(よだれ)がピュルピュル出てくる絶品人情小説。
この本は、魚好きな人なら誰だって、読まないと損をしてしまいますよ。
新鮮なイカから腸(わた)、あるいはコロと呼ばれる肝臓を、袋をつぶさないように取り出し、身は頭の先から脚の先までぶつ切りにしておく。鍋にバターの塊を入れて溶かし、ニンニク数片を粗つぶしにして加え、そこにイカの身を入れて、その上から腸(わた)を袋からしぼり出し、炒めながら全体にからめて、塩と胡麻で味をととのえる。一度食べたら忘れられなくなるほどの魔性を秘めた味で、イカの上品なうま味と優雅な甘み、肝臓からの濃厚なうま味、バターのコクなどがからみあって絶妙だ。
カツオの腹皮料理の二種。腹皮とは、カツオの砂ずりの部分を皮ことに切り取ったもので、脂肪やゼラチンがたっぷり乗って、まことに美味だが、一般的な料理では、ほとんど使われない。
腹皮料理の一つは、「腹皮の生姜焼き」で、腹皮を、おろした生姜の搾り汁に漬け込んでから、塩を振って焼いたもの。腹皮の身の大半は、脂肪とゼラチンなので、口の中でコリコリとしながらトロトロと溶けていく感覚は絶妙である。もう一つの腹皮料理は、衣をつけて油で揚げた腹皮の天プラで、辛口の日本酒や焼酎にピタリとあう。
いやあ、すごいすごい。魚料理をこんなにも美味しそうに文章表現できるとは、さすがです。ぜひ、味わってみたいです、粗料理のホンモノを・・・。
(2018年12月刊。1300円+税)

60歳の壁

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 植田 統 、 出版  朝日新書
すごい人です。大学を出て長くサラリーマン生活をしていた人が、50歳を間近にして、夜間ロースクールに通って司法試験に合格し、54歳で弁護士を開業したのです。
東大医学部在学中の医学生が司法試験に合格したと聞いて、すごい、天才的だなと思いました。新潟県知事だった人も同じ経歴でしたね。若いってすばらしいと思いましたが、この本の著者は50歳で司法試験にチャレンジして合格したというのですから、その大変さが想像を絶します。
著者は弁護士になって良かったといいます。
自分の性格にあっている。自分ひとりで判断できる。案件ごとに特殊性があり、そのたびに勉強しなければいけないけれど、それが面白い。
そして、60差になって考えたのです。60歳の壁がある。この60歳の壁を打ち破れる人は少ない。でも、打ち破れる人がいる。どんな人なのか・・・。
人とのつながりがあるかどうか、社会に必要とされていると感じているかどうか、これが幸福感を左右する。このポイントは、お金もうけを続けることではなく、人や社会との関わりを保っていくこと。お金は、その結果だと考えたほうがいい。
60歳の壁を越えた人は・・・。
一、組織に頼らず、自分ひとりで生きる覚悟をもっている。今やらなくて、あとで後悔したらどうしよう。だから、今やる。
二、人とのつながりを大切にして、人生を切り開いている。
三、決断力があり、実行力がある。
四、勉強熱心で、毎日、新聞を読み、本を買って読む。
五、明るく健康で、いかにも元気そう。
いやあ、私もだいたい合格点もらえそうです・・・。
年齢(とし)をとっても、知能や記憶力は低下しない。要は、意欲があるかどうかの問題なのだ。
うんうん、そうなんだ。よくぞ、言ってくれましたよ・・・。
新しい人脈をつくる。ただ、名刺交換するだけでは何の役にも立たない。じっと待つ必要がある。商売は信頼関係がないとできない。
ふむふむ、なるほど、そうだよね・・・。
新しいものに挑戦していく。ガラケーをもっているようではダメ。
トホホ・・・です。こればかりは仕方ありません。
得意分野をしぼりこんで、専門分野を決めること。どこかの分野でナンバーワンの人は、他の仕事の依頼も来る。特徴がないのが一番ダメ。
ふむふむ、私も、いちおう特徴はあるんですけど・・・。
きっちり勉強している人は、見た目もきっちりしている。
うーん、これは、これから、気をつけましょ・・・。
あせると逃げられる。ゆったりしていると、なぜかうまくいく。
うむうむ、たしかにそうなんですよね・・・。
早い、安い、うまい。弁護士にとって、「安い」は避けたい。でも「早い」と「うまい」は必要。「早い」のはクライアントから一番評価される。
著者は、とても合理的な生き方で貫いてきたようです。大いに見習いたいものです。私も、80歳まで現役の弁護士として、なんとかがんばるつもりです。
(2018年11月刊。790円+税)

裁判官は劣化しているのか

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 岡口 基一 、 出版  羽鳥書店
すごいタイトルです。なにしろ、現職裁判官が自ら問いかけているのですから・・・。
そして、弁護士生活45年の私の体験からして、明らかにイエス、劣化している、残念ながら断言します。いえ、まだ一部に尊敬できる裁判官がいることは事実です。しかし、全体としての裁判官の劣化は今や隠しようがありません。
問題なのは、当の裁判官たちは、自分たちが劣化しているという自覚をまったく欠いていることです。多くの裁判官たちは自分は優れているという自意識過剰状態に陥ったまま、ひたすら上を気にしながら目の前の裁判業務をこなすのに汲々としています。
なぜ、私がそのように言い切るのかというと、原発裁判に典型的にあらわれています。3,11で原発苛酷事故、メルトダウンが起きているのに、あたかも原発は安全性を備えているかの幻想に依然としてとらわれた判決・決定を平然と書いている裁判官がほとんどです。信じがたい知的水準の劣化です。そして、そのような間違った判決を書いても裁判所内部で恥ずかしいと思わずに生きていける職場環境に今の裁判所があるという事実です。
著者は、この本で次のように指摘しています。
今の裁判官は、最初から、裁判所当局に嫌がられるような動きをしようともしない。
今の裁判官は司法の本質論、その役割論について学ぶことがほとんどない。
むしろ、現在では、裁判官のなかで、この手の話はタブーになっていて、職場でも飲み会でも話題にならない。
最近の若者は、前とちがって政治的な話自体をあまりしないし、リベラルな政治思想を口にすることを避けたがる。
民主主義が正常に機能しているかを審査し、それでも救えない少数者の権利を救済するのが裁判所の役割だと抱負を述べて最高裁判事になった人(泉徳治元最高裁判事)もいるわけですが、そのことが裁判官の常識になっているとはとても言えないという悲しい現実があります。
それを著者は端的に指摘しています。
裁判官が200人以上もいる東京地方裁判所で著者が見聞した事実です。
エリートコースに完全に乗った裁判官、完全には乗っていない裁判官、全然乗っていない3種類がいて、それが混ざってギスギスしている。あからさまに実力者にすり寄ろうとする裁判官が少なからずいる。いやはや、そう聞くと、なるほどそうなんだよね、と思いつつ、嫌になってしまいます。
そして、若手裁判官は、「議論が苦手なコピペ裁判官」にならざるを得ない状況に置かれている。著者が若手裁判官だったころは、裁判所内部で先輩裁判官の飲み会が連日のようにあっていて、また書記官からもいろいろと教えられていた。しかし、今や、そのような飲み会を絶無となり、先輩が後輩に「智」を伝達していくシステムが断たれてしまった。
まあ、この点は、弁護士界の内部でもそうなりつつあるのが現状です。若手育成システムは一応つくられていますが・・・。
私は著者のFBを毎日のように眺めていて、いろいろ教えられるところが大きくて感謝しています。ただ、著者の強烈な個性のため反発が強いのも事実です。こんな裁判官の裁判なんて受けたくないと高言する弁護士も少なくはありません。でも、自称変人の私からすると、少しばかり変人で嫌われ者こそが世の中を変えていく、つまり変革の推進役なのです。その思いからすると、著者程度の変人が裁判所にいなくて、みな上ばかり向いて上を気にするだけのヒラメ裁判官たちだけだったら、あまりにもむなしく、絶望するばかりです。その意味からも、今回の最高裁や国会の著者への仕打ちには反対せざるをえません。
要は、もっと裁判所内に自由にモノが言える空気をつくり、少数者の権利を保護するためにこそ裁判所はあるという正論が堂々と通用し、実践できるようにしたいものです。
著者の引き続きの健闘を心から期待します。
あなたも、ぜひ手にとって読んでください。160頁ほどの薄い本なので、一気に読めます。
(2019年2月刊。1800円+税)

まなざしが出会う場所へ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 渋谷 敦志 、 出版  新泉社
一瞬、目をそむけたくなる写真があります。でも、現実から逃げるわけにはいきません。この一瞬にも、世界中に戦争が絶え間なく、飢えで死んでいく子どもたち、病気にかかっても十分な治療をうけられずに亡くなる人々がいます。そして、なんと多いことか・・・。
いま、日本の首相は国会も含めて、あちこちで、ウソを高言して、はばかりません。あたかも世界と日本の平和を守るために安保法制法がすぐにも必要だと言っていましたが、安保法が成立しても悪いほうに事態が動いているだけではありませんか。トランプに押しつけられたアメリカの高額兵器の爆買いなんて、とんでもありません。そのうえトランプがノーベル平和賞をもらえるようアベ首相が推薦しただなんて、まさに白昼に悪夢を見ている思いです。
著者は高校2年生、17歳のとき写真家になると決意したとのこと。それから26年たっています。本当に写真家になってしまったのです。その苦難の歩みを撮った写真とともに紹介している本です。
著者は大学生のとき、ブラジルに留学し、サンパウロにある日系の法律事務所に研修生として入った。そして、30日間のブラジル縦断の旅に出た。日本に戻ったあと、今度はアメリカはサンフランシスコでソーシャルワークの仕事をはじめる。
日本に帰ってからは大阪の釜ヶ崎に入りこんだ。1泊600円の個室。3畳1間に布団一枚。掛け布団はじめっとして重く、かぶるのをためらうほど黄ばんでいる。
大学を出て、国境なき医師団の随行カメラマンとしてアフリカに渡る。
外は10分も歩くと息苦しくなる暑さで、水をいくら飲んでも小便が出ない。
アンゴラ難民。極度にタンパク質が不足すると、お腹が膨らみ、手足が腫れる。外から入る栄養がないので、体が自分の体を食べて破壊している。ここまで重症化すると、「はいどうぞ」と食事を与えたら、助かるというより、逆に命とりになる。長時間の飢餓状態によって体内の消化機能は壊され、食事を受けつけない身体になっているから。免疫システムも十分に働いていないため、簡単に感染症を引き起こし、途端に重症化するリスクもかかえている。そして、もし治療がうまくいったとしても、なんらかの障害が残って成長の妨げになる可能性が高い。
写真家として食べていけるというのは至難のことだと思います。居酒屋でのアルバイトで食いつないでいたこともあるといいます。
それでも写真の訴求力というのは大きいですよね。想像力を大いに刺激します。こんな大切な仕事をすでに26年間もしてこられたことに、私は著者に対して心から敬意を表します。
買って読むべき本だと思います。ぜひあなたも手にとってみてください。世界各地の重たい現実の一端に触れることができます。
(2019年1月刊。2000円+税)
 3月も半ばとなり、すっかり春めいてきました。わが家の庭に、例年どおり土筆が可愛い顔をのぞかせ、チューリップも咲きはじめて、300本のチューリップが咲きそろうのも間近となりました。2月に始まった花粉症はこのところ少し落ち着いていて、夜はぐっすり眠れます。ところが、なんと坐骨神経痛に悩まされています。右のお尻から膝下までピリピリ痛いのです。しばらくすると嘘のようにおさまるので助かりますが、脊柱管狭窄症ではないかと私を脅す人もいたり、要するに華麗なる加齢現象だと言う人がいて、年齢(とし)はとりたくないものです。

多喜二・百合子・プロレタリア文学

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 多喜二・百合子研究会 、 出版  龍書房
小林多喜二の『蟹工船』が突如ブームとなったのは何年前のことでしょうか。日比谷公園での「年越し派遣村」と同じころだったでしょうか・・・。そのころは、連帯だとか友愛というのが言葉だけでなく実体があると実感していました。ところが、今ではヘイトスピーチのほうが、ひょっとしたら実体があるのかも・・・と心配になってくる雰囲気があります。残念です。
『蟹工船』って、わざとあいまいにしているのがあるんですね。初めて知りました。まず、労働時間です。船内では何時から何時まで働いたのか、明示されていません。朝3時から夜10時までの可能性もありますが、はっきりとは書かれていません。
漁夫と雑夫の違いも明確ではありません。そもそも、この船に何人乗っているのかも、あいまいです。「200人」とか、「3,400人」とか「400人に近い」というだけです。
『蟹工船』は、書かれていない空白部分があることによって、時代と国境を越えた普遍的なアピールを獲得した。
ふうん、そういう見方もできるんだねと思ったことでした。
監督の浅川については、血も涙もない残虐な監督というイメージが強い。しかし、浅川が直接的に肉体的暴力を振るった場面はほとんどない。むしろ、「人命よりはお金」という合理的な行動が認められる。
多喜二は「ノート稿」をつくっていました。まず大学ノートに書いて推敲したのです。そして、最後に原稿用紙に清書しました。かなりの「ノート稿」が残っているそうです。一度、現物を見てみたいものです。小樽の多喜二資料館に行けば見れるでしょうか・・・。
多喜二は、とても明るく、茶目っけがあって、楽しい人だったとのこと。
「中央公論」に『不在地主』が掲載されたことから、多喜二は拓殖銀行を解雇された。
多喜二は、1930年に『蟹工船』で不敬罪に問われ、治安維持法違反で起訴され、豊多摩刑務所に入れられた。1931年1月に保釈されたあと、7月にプロレタリア作家同盟の書記長となり、10月に日本共産党への入党が認められた。同年9月には中国で柳条湖事件が起きて、中国への侵略戦争が始まっている。
1932年春、文化団体への大弾圧が始まり、活動家は地下に潜った。
1933年(昭和8年)1月、多喜二は最後の小説『地区の人々』を書きあげた。同年2月20日正午過ぎ、スパイの手引で築地署の特高に逮捕され、その日のうちに拷問で虐殺された。ちょうど今から86年前の出来事です。
多喜二に関する論評のあと百合子の小説が論じられ、さらにプロレタリア文学の批評があります。黒島伝治というプロレタリア作家がいるとのことですが、その小説を私のセツラー仲間だった三浦光則氏がコメントしています。
戦前の日本が、あっというまに戦争に突き進んでいったプロセスを失敗の教訓として学ぶことには大きな意義があると、この本を読んで、つくづく思いました。ベース(三浦氏のセツラーネームです)、ありがとう。さらなる健筆を期待しています。
(2019年2月刊。1500円+税)

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