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2019年2月 の投稿

村役人のお仕事

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 山﨑 善弘 、 出版  東京堂出版
徳川社会は、村を基盤とした兵農分離の社会であり、村の運営は村役人らによって支えられる傾向が非常に強かった。
徳川社会を構成している最大の要素は村だった。その構成員の大半が百姓で、全人口の8割前後。支配者である武士は1割以下。
全国の村の数は、元禄10年(1697年)の時点で6万3千ほど。
領主は名主を中心とした村役人を通じて間接的に百姓を支配する方法をとった。幕藩領主は、村役人に村政を代行させることで、全国6万3千の村々を掌握し、百姓を支配した。
村の総括責任者は名主(なぬし)。地域によっては、庄屋あるいは肝煎(きもいり)。
名主は家格にもとづき領主によって任命されることが多く、百姓たちの推薦があるときでも、領主の許可が必要だった。
組頭(くみがしら)は、百姓の推薦や入札(いれふだ)で選任されるのが一般的だったが、この場合も領主による許可を必要とした。百姓代の選任方法は、百姓の推薦が一般的だった。
村は自治の単位であり、村役人がその先頭に立っていたことは事実だったが、村は幕藩領主によって支配の単位とされ、村役人はその内部で領主支配を実現する任にあたっていた。
村役人のうち、ときに重要な立場にあったのは名主で、名主は村の政治と自治の両方を担う存在だった。つまり、名主は村の行政官であるとともに村の代表者でもあった。
庄屋は村民の一員として公認され、村政を委任されていた。
村民は庄屋を、あくまで彼らの一員として公認し、村政を委任する形をとることによって、自分たちの代表者としてとらえ返した。
名主を中心として不断に働く村の自治に依拠することで、幕藩領主は村の支配も円滑に行うことができた。前者(村の自治)が後者(村の支配)を補完していた。
一般百姓が選挙によって名主を選んだことから、名主が村の代表者として位置づけられていたことは明らかだ。
年貢の徴集と上納は、名主の仕事のなかで、もっとも重視されていた。年貢や諸役などを村に上納させる制度を「村請(むらうけ)制」と呼び、その中心的役割は名主が担った。
名主は、ほとんど名誉職のようなものだった。
江戸時代、百姓はきちんと休んでいた。ただし、百姓の休日は全国共通ではなかった。徳川時代の百姓の休日は村ごとに決められていた。
徳川時代の後期には、商品・貨幣経済の進展によって農村内にも華美な風俗が浸透していった。そして、貧富の差が拡大した。
名主の仕事は、税務・警察・裁判などに及ぶ幅広いもの。徴税を行い、治安の維持に携わり、裁判権がなくても村の紛争解決にあたった。
大庄屋は、庄屋の上意に位置する村役人だった。大庄屋は村役人であり、百姓から任命された。自治を行うような性格(惣代性)はもたず、もっぱら藩権力の領内支配を担う藩役人的存在だった。
村の構成そして自治の実際を知ることが出来る、面白い本でした。
(2018年11月刊。2200円+税)

鷹と生きる

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 谷山 宏典 、 出版  山と渓谷社
鷹使いとして生きてきた松原英俊氏の半生を紹介した本です。
こんな生き方もあるんだね・・・、驚嘆しながら一気に読了しました。
松原(以下、この本にならって呼び捨てします。他意はありません)は、慶応大学を卒業している。鷹使いを志して1974年9月に鷹匠に押しかけ弟子入りし、1年半後に独立した。
電気もガスも水道も通っていない山小屋に移り住み、鷹と暮らした。
鷹はクマタカ。居間にクマタカがいる。これが日常生活。
鷹匠は、かつて中央または地方の権力(天皇家や将軍家、または大名家)に属し、鷹の捕獲、飼養、訓練にあたっていた役職名。これに対して、鷹使いは、役職でもなんでもなく、鷹を飼養、訓練して鷹狩を行うことが出来た農民や猟師を指す。
山形県鶴岡市の田麦俣(たむぎまた)集落に生活していたが、今は同じ山形県内の天童市田麦野に住んでいる。
東北地方の山間農村部に伝わる鷹狩では伝統的にクマタカが用いられる。クマタカは翼を広げたとき、オスで1.5メートル、メスで1.65メートルになる。オオタカやハヤブサより大きい。獲物は鳥類、ヘビ、ウサギ、テン、リスなど。木々の間をぬって飛ぶのが得意なので、山岳地帯の森林での狩りに向いている。
クマタカは神経質なので、そのままの状態で人に慣れることはない。時間をかけた地道は訓練が必要。秋、10月下旬から11月ころ、鷹の訓練を開始する。訓練は5段階。据え、絶食、据え回し、呼び戻し、突っ込み。据えとは、鷹を腕に留まらせること。
鷹を慣らすためには、一に据え、二に据え、三、四がなくて、五に据え。据えは、鷹狩りにおける基礎中の基礎。鷹を人の腕に据えさせるためには、いくつかの段階を踏まないといけない。第一段階では、光の入らない真っ暗な部屋で、ほかの生きものの気配が感じられない環境の下でやる。鷹は何も見えず、飛べないため、おとなしく鷹使いの腕に乗る。暗闇のなかでの据えを数日間続けると、次に部屋のなかにろうそくを灯す。はじめは部屋の反対側にろうそくを置く、その薄くほのかな明るさに1週間ほど慣らす。そして、徐々にろうそくを自分と鷹のほうに近づける。1本の光に慣れたら、次にろうそくの本数を増やしていく。こうやって、鷹使いがすぐそばにいることにさせる。暗室での据えが十分できるようになったら、夜の居間で家庭用の照明の明るさに慣らす。次に夜明けごろの薄明かりの外光に慣らし、最終的には日中の明るい状態でも鷹使いの腕におとなしく留まっている状態にする。この据えの訓練には2週間から3週間かかる。
据えの訓練と同時に「絶食」も開始する。鷹は満腹の状態では、獲物を見つけても飛びかかっていかない。過度な絶食は鷹を餓死させてしまう。はじめに10日間絶食させて、その後、ウサギやニワトリなど脂身の少ない肉を与える。次に1週間、絶食させて肉を与え、5日間絶食させて肉を与え・・・と、徐々に絶食期間を短くし、餌の量を調整していく。
最後の仕上げは、「突っ込み」。獲物を捕まえるための訓練。勢子が雪原に獲物を放ち、鷹が逃げる獲物を目がけて一直線に飛んでいく。そして、鋭い爪でがっちりと獲物をつかみ、押さえ込む。これができるまで、1ヶ月半。長いと2ヶ月から3ヶ月かかる。
いやあ、大変な訓練ですよね。気が長い人でないとやれませんよね・・・。
もっとも鷹狩りに適している時期は2月末から3月、4月。
山に入ると、地図はほとんど見ない。目の前の地形を見て、狩りができそうな場所を探す。
鷹は、4キロ先にいる動物を見つける視力をもっている。狩りが成功する確率は、10回のうち、よくて3回ほど。ウサギは身をかわすのがとにかくうまい。
鷹が獲物をつかまえると、走って行って、取り上げる。そして、鷹が怒って泣き叫ぶので、餌箱の肉を少しほうびとして与える。鷹の好物の心臓やレバーをほうびとして与える。
ひと冬にだいたいウサギを10羽から15羽とる。昔はひと冬に平均200羽ほどとっていた。
ウサギの肉は、鍋や刺身にして食べる。ウサギの肉は1羽2000円、毛皮は50円ほどにしかならないので、商売にはならない。
鷹使いでは生活できない。それで、アルバイトをするし、生活でムダづかいはしない。
よくぞ、こんな生活で結婚できたと不思議です。山好きの女性とめぐりあい、子どもも出来ました。いやはや、すごい生活です。それでも、こんな人生を過ごす人が世の中にいることを知ると、なんとなく生きる元気が出てきますよね・・・。
(2018年12月刊。1600円+税)

太平洋

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 蒲生 俊敬 、 出版  講談社ブルーバックス新書
太平洋も動いているのですよね。その海底が少しずつ移動していて、地球の奥深く沈み込んでいくプレートテクトニクス理論は、初めはウェゲナーの大陸移動説と同じで、信じられませんでしたが、どちらも今では定説になっています。
日本に地震が多いのは、そのせいです。そんなところに原発をつくったり、使用ずみ核燃料の最終処分場を地底深くに置いておこうなんて、いずれもとんでもありません。
この本に、地球上の海について、その表面だけでなく、深いところでも海流があると書かれていて、驚きました。
北大西洋から始まった深層流が最後に北太平洋まで到達するのに、約2000年かかる。この階層海流のおかげで地球の高緯度域と低緯度域との温度差がやわらげられている。つまり、深層海流は、地球にとってエアコンのようなありがたい存在だ。
深層海流の速さは、1時間に40キロメートル、つまり時速5キロ。
地球が受けている潮汐力の7割は月による。月という衛星のあるおかげで、海洋の熱塩循環が続き、そのエアコン機能によって、地球の温和な環境がたもたれている。
POPsとは、難分解性有機汚染物質。海洋生物に取り込まれたPCBsの一部は、やがて生物の死骸の断片とともに、海洋表層から深層へと沈降していく。世界でもっとも深い、西太平洋のマリアナ海溝のなかにあるチャレンジャー海淵(水深1万920メートル)で採取されたエビ類の体内から、高濃度のPCBsが検出された。恐るべきことだ。
海水中では、光と音は、対照的だ。海水中で、光はほとんど通らない。これは、水の分子が光のエネルギーをさかんに吸収してしまうからだ。音については、海水はきわめて優れた伝導体となる。海中では、空気中に比べて4倍以上の速さ、毎秒1500メートルだ。
宇宙を飛行した人類は全世界に550人をこえた。これに対して、水深1万メートル以上の深海底に到達した人類はわずか3人のみ。
調べてみると、深海の海溝水は豊富に酸素を含んでいることから、海溝の内部と海溝の外側とで、海水の入れ替わりがひんぱんに起こっていた。
地球も海も、まさに生きているのですよね・・・。宗教家は、それでも、地球も海も、神がつくったと説明するのでしょうか、不思議です。
(2018年9月刊。1000円+税)

ニワトリ、人類を変えた大いなる鳥

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 アンドリュー・ロウラー 、 出版  インターシフト
JR久留米駅にある美味しい鶏の唐揚げの店で読了しました。この店は大量生産のブロイラー(鶏)ではないと表示されていますが、なるほど肉質が違います。かみしめると、味わい深さに舌が驚いてしまうのです。
ニワトリは恐竜の子孫です。では、なぜ恐竜が絶滅したというのに、ニワトリだけは生き残っているのでしょうか・・・。
鶏肉は、豚肉や牛肉より風味が付けやすいので、ファストフードにぴったり。
2001年までのアメリカ人は、年間36キロの鶏肉を食べていた。これは終戦直後の1950年当時の4倍。今では、年間45キロに近づいている。
アメリカのタイソン社だけで、売上高は3000億ドル、週間生産高は60の工場で、4100万羽を突破した。
ブロイラーの80%以上を三大育種企業が管理していて、そのうち2社はアメリカの企業。
2010年に、アメリカの育種企業の孵化場300ヶ所で90億羽のブロイラーが生産された。
1950年には平均して70日かかり(体重1ポンドあたり)、体重1ポンドあたり3ポンドの飼料を必要とした。これが2010年には、わずか47日間で育った。必要な飼料は2ポンドですんだ。ヒヨコは生後1週間で、体重が4倍に増える。
ニワトリの寿命は10年で、20年も生きることさえある。
ニワトリの原種は、ビルマ(ミャンマー)の原生種であるセキショクヤケイだ。
人間のいる至るところにニワトリがいる。その数は200億羽にのぼる。ニワトリがこの世からいなくなったら、きっと各地でパニックが起きるだろう。
ニワトリは食材でありながら、かつ、インフルエンザのワクチンをつくる入れものとして、人類に貢献している。
子どものころ、我が家でもニワトリを飼っていました。エサのために草をとってきていました。父がニワトリを殺し、腹をさばいて卵が出来ていく過程を見て、たまげました。
(2016年11月刊。2400円+税)

世界史を変えた新素材

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 佐藤 健太郎 、 出版  新潮選書
ゴールド。金。現在までに採掘された金の量は、世界中すべてあわせても、オリンピックプール3杯分ほどでしかない。
そんなバカなと私も思いましたが、金は水の20倍ほど重たいので、重量の割には嵩(かさ)が非常に小さいことにもよる。
1台のスマートフォンには、平均で30ミリグラムの金が使われている。2000億円分の金が世界中のスマートフォン14億6000万台、世界中の人々のポケットにおさまっている。
コラーゲンは、人間の身体にたくさん含まれるたんぱく質の一種。コラーゲンは、細胞と細胞の隙間(すきま)を埋め、互いに貼りあわせる役割をもつ。
人間の身体を支え、形を保たせているのは、コラーゲンのおかげ。人体のタンパク質の3分の1はコラーゲン。
日本語では、コラーゲンのことを膠原(こうげん)と呼ぶ。
外科手術のとき、コラーゲンでつくった糸で傷を縫えば、やがて糸はゆっくりと分解吸収されるため、抜糸する必要がない。
クモの糸は、防弾チョッキに用いられるケプラー繊維の3部だった。
クモの糸の実用化は進まなかった。それは、カイコとちがって、一匹のクモが少なかったこととあわせて、一匹のクモがつくる糸の量が少ないこと、下手するとクモは、共喰いを始めてしまうから。
大変興味深い話が満載の面白い本でした。
(2018年12月刊。1300円+税)

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