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2019年1月 の投稿

江戸の目明かし

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 増川 宏一 、 出版  平凡社新書
江戸時代、目明かしがもっとも使われたのは天保の改革のころ。ということは、江戸も末期ということになります。
天保4年(1833年)に判決が言い渡された「三之助事件」では、処罰された士分の者だけで33人、百姓・町人をあわせると総勢64人が処罰された。与力・同心そして目明かしである。
水野忠邦が主導した天保改革の真の狙いは思想統制にあった。反対意見を封殺して、幕府の権威を取り戻そうとした。そのために出版規制を強めた。
このころ、かるた賭博もさいころ賭博も、特別な賭場ではなく、普通の民家でおこなわれ、商人、職人、主婦が気軽に参加していた。
目明かしは、元犯罪者であることが多い。目明かしになる最初のきっかけは、自分が捕えられたときや入牢中に、他人の犯罪を訴えること。訴えた犯罪者は減刑されたり、特赦された。幕府は、犯罪捜査に役立つとして、これらの元犯罪者を目明かしとして採用した。元は犯罪者であった目明かしの弊害はすぐに表れた。江戸市中では、目明かしと自称して強請(ゆすり)をする者があとを絶たなかった。
このころ、現在の東京23区より狭い地域に60万人の町人が住んでいた。これを、わずか100人弱の同心で取り締まるのは不可能だった。そのため、同心の補助として目明かしが必要とされた。しかし、この目明かしは、お金をむさぼりとって賭博を見逃した。
目明かしは、奉行所の収入から同心を通じて定期的に手当を与えられていた。ところが、目明かしたちは、些細なことで町民に難癖をつけて強請(ゆす)ることを日常的におこなっていた。目明かしとその子分たちは、権力公認の暴力団ともいえる存在だった。
債権者より依頼されて借金の取立てをするときには、債務者に犯罪の容疑となる証拠もないのに逮捕し、その親類に借金を返済したら釈放するといって返済を強要する。取立がうまくいったら、債権者に礼金を強請る。
目明かしは、入牢したら裏切り者として牢内でリンチされる危険もあったので、入牢することを非常に恐れていた。
天保8年(1837年)に大坂の与力だった大塩平八郎の乱が起きた。
水野忠邦は天保14年(1843年)に老中を罷免された。明治維新まであと20年ほどです。水野忠邦は、その後いったん老中に再任された(1844年)が、翌年に辞職し、完全に失脚した。
天保の改革が終わって庶民がひと息ついたとき、黒船が来航し、世情は騒然とした。
明治維新の直前には、目明かしとその子分、そしてその手引たちが1500人ほどもいて、その横暴は目に余るものがあった。目明かしの存在じたいが治安を揺るがす問題となり、幕府も取り締まる姿勢を示さざるをえなかった。
目明かしは、決して「正義の味方」ではなく、非道の輩(やから)だったということがよく分かる面白い新書でした。
(2018年8月刊。780円+税)

戦国の城の一生

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者 武井 英文 、 出版  吉川弘文館
私は弁護士になってしばらく、鎌倉の大船に住んでいたことがあります。フラワー公園のすぐ近くの玉縄のアパートでした。すぐ近くに玉縄城という有名な城跡があったようです。福岡に来てから知り、行ったことがなかったのを残念に思いました。
『のぼうの城』で有名になった埼玉の忍(おし)城にも行ってみたいと思います。石田三成が、秀吉の高松城の水攻めにならって水攻めをやってみたけれど失敗して撤退したというお城です。
古城といえば、なんといっても原城ですよね。廃城といいつつ、城壁どころか建物まで残っていたようです。ここで、3万人もの百姓が皆殺しにされたというのですが、今は何もなく実感が湧きませんでした。
この本には登場しませんが、戦国の城では安土城には2度のぼりましたし、朝倉氏の越前一乗谷の城下町にも2度行って、往時をしのびました。
城跡は、日本全国に数万ヶ所もあるそうです。城めぐりを趣味とするサークルがあり、旅行会社のツアーまであるというので、驚きました。
埼玉県嵐山(らんざん)町にある杉山城という大論争の城にも行ってみたいものです。
地選(ちせん)・・・城の位置を決める。地取(じどり)・・・場所を確保する。経始(けいし)・・・縄張を決める。普請(ふしん)・・・土木工事。作事(さくじ)・・・建築工事。鍬初・鍬立(くわだて)・・・地鎮の儀式。新地(しんち)・・・新規に築城する城。
城の築城期間は、およそ10ヶ月あまり。丈夫な土塁をつくるには、土だけでつくるのではなく、萱を入れることが必要だった。しかも、前年に刈って乾燥させた萱が良かった。
山城のなかには、一定の竹木を植えついたし、水源を確保するために必要だった。それだけでなく、家(城主)の繁栄のシンボルでもあった。
戦国時代には大名だけが築城したのではなく、自立的な村落が自分たちの身を守るために自ら主体的に城を築いた。村の城という。
城は聖地を意識して築かれることもあった。
城には、いざ籠城となったときのことを考えて、それなりの数の備品を常備していた。そのため、その維持管理は大変だった。兵粮は大名にとって悩みの種の一つだった。
人や馬の糞尿は、毎日、城外へ出して場内を清潔にするよう定められていた。その場所は場内から遠矢を放ち、その矢の落ちたところより奥の場所となっていた。
城には門限があった。朝9時ころに開門し、夕方6時ころに閉門していた。
お城オタクの、若い著者のお城探訪記のような本でもあります。
(2018年12月刊。1700円+税)

つたえるエッセイ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 重里 徹也、助川 幸逸郎 、 出版  新泉社
心にとどく文章の書き方というサブタイトルがついた本ですので、早速、手にとって読んでみました。というのも、私の敬愛する先輩から、もう少し味わい深い文章を書くことに挑戦したらどうかと最近、苦言というか助言を受けたからです。
私は小学生のころから日記をつけていましたし、中学校で作文がうまいわねと担任の教師から賞賛されたことに自信をもったあとからは文章を書くのは苦になりませんし、早く、分かりやすく書けます。ところが、そこに味つけをしろというアドバイスを受けたのです。私の課題となりました。
何のために書くか・・・。答えは二つ。一つは、他人に伝えるため。もう一つは自分自身で自分の思想や感情を知るためだ。この二つのことが同時にできるのが、文章を書くことの醍醐味なのだ。
タイトルのつけ方で文章は決まる。タイトルを本気でつけるのが、レポート改善の特効薬。
私は小見出しが大事で、小見出しなしの文章は読みづらいし、しまりがないと考えています。小見出しを先につけて、それにあわせて文章を書くことはよくあります。
最初に自分が何を書きたいのか、はっきりさせる。その点を意識すると、最後まで滞りなく仕上げることができる。
ディテール(細部)が大事。それが文章にみずみずしさ、新鮮さをもたらす。
センテンス(一文)を短くすると、読みすすめるうえでの抵抗感が減る。
一文の長さを切りつめると、一気に文章の完成度があがる。
文章は、他人分かってもらうことを目ざして書く。
他人に伝わる文章を書くためには、自己を相対化することが必須で、そのためには寝かせることがもっとも有効。寝かせるというのは、何日か放っておいて、しばらくしてから読み直してみるということです。
締め切りよりも早く原稿を送るのが売れないライターの心得。たくさん書いて、あとから削る。さいしょは2.3割よけいに書いて、あとから規程の量まで減らすと、密度の濃い文章ができあがる。
文章は、自分が望む反応を相手から引きだすために書く。
私は、一文は短く、分かりやすく、そして速く書き上げることをモットーとしています。そのうえで、味つけを考えないといけません。さあ、どうしましょ・・・。
とても役に立つ文章の書き方が満載の本でした。
(2018年10月刊。1600円+税)

居酒屋チェーン戦国史

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 中村 芳平 、 出版  イースト新書
居酒屋の盛衰史を知ることができて、最後まで興味深く読み通しました。
酎ハイとサワーは同じもの、男性向けに酎ハイと呼び、女性向けにはサワーと呼ぶ。そんなことも知りました。そして、酎ハイは、居酒屋の稼ぎ頭なんですね、驚きました。
酎ハイの原価は、わずか数十円。それが280円とか300円で飛ぶように売れ、酎ハイほどけた外れに売れる商材はなかった。そして、女性受けするように、まったく同じものを「レモンサワー」と名づけて売り出した。酎ハイを開発したのは「村さ来」。しかし、どこの居酒屋もすぐ真似した。
居酒屋は、リスクは高いが一発あたれば大もうけができる。固定客に恵まれると、居酒屋ほどもうかる商売はない。ファミリーレストランの客単価が850円であるのに対して、居酒屋だと客単価は3000円から3500円。
居酒屋では「コバンザメ商法」が流行している。知名度や集客力、資本力で劣る店が自店にまさる店の近くに出店して、おこぼれをちょうだいしようとする戦略だ。これなら、立地の選定やマーケティング調査などに時間や費用をかける必要がない。
居酒屋業界では、「二番手商法」が大手を振ってまかり通る。要するに模倣が通用するのだ。真似ても文句を言われない。
「サイゼリヤ」は包丁なしで調理できるシステムを開発した。串打ちされた冷凍焼き鳥を乗せたら自動的に焼き上がる「串ロボット」、ジョッキを乗せると15秒ほどで自動的にビールを注げるサーバー。肉・魚・パン・ピザをジェット噴射で素早く調理するジェット・オーブン。
「ハイテク居酒屋」では、5人で150席の店舗を切り盛りできる。これで人件費比率を30%から25%へ引き下げた。
居酒屋チェーンの第一世代は「養老乃瀧」、「村さ来」、「つぼ八」。第二世代は「モンテローザ」、「ワタミ」、「コロワイド」。第三世代は「鳥貴族」、「串カツ田中」、「立吞み晩杯屋」。居酒屋チェーンは、常に新旧交代劇が繰り返されてきた。
いま、居酒屋離れ、居酒屋チェーン離れが加速している。人手不足から来る人件費の高騰、原材料調達コストの上昇。
消費者の節約志向は根強く、宅飲み、家飲みの風潮が広まり、イート・イン・コーナーを利用したコンビニ飲みが流行している。
そして、「ちょい飲み」が吉野家やガスト・サイゼリヤなどの外食チェーンで広がり居酒屋チェーンに脅威をもたらしている。
私も、もちろん居酒屋に入ったことはありますが、出張先で一人のときには本を読みながら食事のできる小さな小料理屋かイタリアンにしています。あまりに騒々しいのは本に集中できません。そして、本が読める明るさがほしいのです。
(2018年10月刊。861円+税)

先生、脳のなかで自然が叫んでいます!

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 小林 朋道 、 出版  築地書館
先生シリーズの番外編です。
今度の主たる観察対象は、ヒト。著者は長らくヒトの精神と自然とのつながりを研究してきたのです。
いつものように軽妙なタッチで、ヒトとはいかなる存在なのかが、比較対象となる動物との対比で考察されます。
生後6ヶ月のヒトの赤ちゃんにヘビを見せると、瞳孔が瞬時に大きく拡大する。それは、世界各地の未開の自然民を調査すると、死亡理由の上位に毒ヘビに咬まれることがあげられることと結びついている。
脳には、生物の認識に専用に働く領域がある。
幼稚園から小学校低学年までの世代が、野生生物を中心とした自然の事物・事象についてもっとも多くの知識を吸収する時期である。自然物との十分な接触を妨げられた子どもは、その多くが、強い好奇心をもっているのに、虫を気持ち悪いと感じなくなる体験を妨げられている。だから、「気持ち悪い」という気持ちは、その後もずっとそのまま脳内にとどまり、多くの大人が虫を気持ち悪いと感じるのだ。
私と私の子どもたちは、幸いにしてたくさん自然の生物に触れ、生物の息吹きとともに育ちました。きっと彼らの心神は健康に育っていることと確信しています。
自然豊かな大学のキャンパス内外で、動物の世話に明け暮れている学生は、とても幸せな環境にあります。でも、在学中は、この美点になかなか気がつかないようにも思います。
(2018年9月刊。1600円+税)

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