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2019年1月 の投稿

パール・ハーバー(下)

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 クレイグ・ネルソン 、 出版  白水社
日本軍がハワイの真珠湾を攻撃したとき、まさしくアメリカ軍は予期していませんでした。完全な不意打ち攻撃だったのです。
12日前に、「太平洋艦隊」司令長官であるキンメル大将は海軍の戦争計画担当のチャールズ・マクモリス少将に日本軍が攻撃をしかけてくる見通しがあるかを尋ねた。マクモリスは断言した。
「ゼロです。100%ありえません」
日本軍の航空機から機銃掃射される直前まで、アメリカ兵は味方の訓練飛行と思っていたのでした。
アメリカの戦艦「アリゾナ」は、わずか9分で沈んだ。海軍と海兵隊の将兵1177人が亡くなった。
真珠湾で失った日本軍機は29機のみ。アメリカ軍機は、友軍の砲撃にもやられた。しかし、真珠湾にはアメリカの空母は1隻もいなかった。だから、これが大勝利とは、とうてい言えなかった。そして、真珠湾の石油タンク群、450万バレルが無傷で残った。
30分間で、アメリカ太平洋艦隊に所属する8隻の戦艦すべてが爆撃・雷撃され、当面の作戦行動が不可能となった。さらに20分間でハワイ駐留米軍の航空兵力の3分の2にあたる180機が残骸と化した。
そして、アメリカ市民の反応は・・・。
ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン紙。
「いまや衝突は不可避となり、おかげで今回の事態は、ある種の安堵感をもたらした。まさに霧は晴れたのだ。これにより、アメリカ国民は、従来の論争を忘れ去り、やるべき仕事に邁進できるだろう」
シカゴ・デイリー・ニューズ。
「日本に感謝したい。わが国に不和と麻痺をもたらしてきた国民世論の深い亀裂は、以後、雲散霧消するだろう。もはや、やるしかないのだから」
そして、チャーチル首相は、こう言った。
「アメリカ合衆国をわが陣営にもつことは、私にとって最大の喜びだった。これでヒトラーの命運は尽きた。ムッソリーニの命運も尽きた。そして、日本は粉砕されるだろう」
アメリカ議会は、上院は満場一致で、下院は賛成388票、反対1票で可決。たった52分間で宣戦布告を決議した。
ハルゼー提督は言った。
「ジャップを殺せ、ジャップを殺せ、もっと多くのジャップを殺せ」
「日本語は、いずれ、地獄のみで語られる言語となるだろう」
真珠湾攻撃のあった日から4ヶ月ほど過ぎた1942年4月18日、日本本土はアメリカ軍機によって空襲された。アメリカ軍の反撃が始まり、日本軍は連戦連敗を重ねていくのでした。
この本は、陰謀説をまったく根拠のないものとしています。私もそう思います。
ルーズベルト大統領をはじめとするアメリカ当局は真珠湾攻撃があることを察知していながら、やらせたのだという「説」です。まったくありえない話です。
いずれにせよ、日本が無謀な世界大戦へ突入していったことは十分反省し、そのようなことが起きないよう、今日の私たちも気をつけるべきだと思います。
(2018年8月刊。3800円+税)

戦乱と民衆

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者 磯田 道史・呉座 勇一ほか 、 出版  講談社現代新書
戦乱というから戦国時代のことを論じた本かと思うと、なんと古代の白村江の戦いから幕末の禁門の変まで広く対象にしています。
豊臣秀頼の死に至る大坂の陣について、イエズス会士が詳しい報告書を書いているとのこと。イエズス会士は大坂城に滞在していて、落城前に2人が脱出して助かったそうです。知りませんでした。そして、大坂城の近郊にはオランダ人が滞在していて、彼らは主として毛織物を販売していました。
当時の大坂の人口は20万人。そこへ牢人たちが10万人も集まってきた。家族を伴って来た牢人も少なくなかった。大坂に残っていた人の大半は、豊臣方の牢人とその家族だったと考えられる。
幕末の禁門の変によって、京都の町は焼けて大変な被害にあった。
会津藩と桑名藩が一橋慶喜の指示を受けて手当たり次第に放火した。そのため、公家や大名をふくめた京都の民衆から、「一会桑」と呼ばれる一橋家、会津藩、桑名藩は恨みを買った。
そして焼け跡で何が起きたか。戦死者の胴巻に多額の所持金があり、それを遺体を片付ける人夫が自分のものとし、その後、新京極あたりで商売を始める元手として成功した人がいた。ものすごい臭気のなかでの作業だ。民衆のたくましさを示している。民衆は、ただ「やられていた」という存在ではなく、むしろ自分たちが奪う側にまわったり、戦争を機にのし上がっていこうとする、たくましい存在でもあった。
京都は幕末の騒動のため、焼け野原で空地が多かった。金融システムまで破壊されたので、再建する資金の手当ができなかった。そのため、京都は深刻な住宅不足となった。明治10年ころまで、この状態が続いた。京都が首都になれなかった理由の一つがこれだった。
明治も後半になった37年に西郷隆盛の子、西郷菊次郎が2代目の京都市長に就任した。これは、京都への資金導入を願った京都財界人が薩長との人脈に注目して要請した人事。菊次郎市長は、発電、上下水道整備、市電設置という京都三大事業を成し遂げて京都の発展を導びいた。
うむむ、民衆視点で歴史を語る話は、とても興味深いものがありますね。
(2018年8月刊。780円+税)

弁護士13人が伝えたいこと

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 久保井 一匡ほか 、 出版  日本加除出版株式会社
32例の失敗と成功。こんなサブ・タイトルがついていますので、興味をひかないわけがありません。いったい、どんな失敗をしたのかな、もって他山の石とできるものなら、安いものだぞ・・・。そう考えて読みはじめました。期待を裏切ることのない本でした。
14期から61期までの13人の弁護士が自分の扱ったケースを単純な自慢話としてではなく紹介しています。大変勉強になりました。
それにしても、ずいぶん前に終わった事件について、どうやってその顛末を語ることができたのかな、そんな心配もしました。序文には、そのことも中山巌雄弁護士(21期)が触れています。
たいていの裁判記録は保存期間終了時に姿を消す。記録とともに苦労も忘れてしまっている。紹介したケースは、記録を再現できたものばかりである。
なるほど、そうでしょう。実は私も弁護士生活45年になり、無事に古稀を迎えましたので、古い記録の大半を処分してしまいました。保存期間を経過していても、いつか参照することもあるかもしれないと思って書庫の奥にしまっていたのです。もう参照するはずはないと考えて、ごく一部を除いて大半を処分しました。この年末年始にやったことです。
混沌のなかで、いつも弁護士の念頭にあるのは正義とは何か、である。正義も多義的であり、依頼者の相手方には別の正義がある。正義も調整の対象となる。
弁護士は難しい理屈ばかりを考えているわけにはいかない。直感的に不合理だと思ったことには、本能的に必要な対応をとる。これが大切だ。
遺産分割にあたって、預金の相続は協議の対象とはならないとしてきた最高裁判例を変更させた事件の法廷での弁論が紹介されていますが、さすがの内容です。大法廷で、双方に40分の口頭弁論が認められたのでした。1人10分ずつの弁論。どうやって最高裁判事のこころを開くか・・・。
実は、私も2回だけ最高裁の小法廷で口頭弁論したことがあります。フツーの民事事件でした(通行権と交通事故)。どちらも控訴審まで勝っていたのが逆転敗訴させられたものです。結論は見えていましたが、ちゃんと原稿をつくって口頭弁論しました。ちょうど東京の大学で勉強していた息子と娘を傍聴させて聞かせました。
負けた事件の反省として、時代の大きな流れを読み誤っていたということが書かれています。うむむ、これは大変なことですね、弁護士は時代認識もしっかりしておく必要があるというわけです。
器質的損傷のないRSD症状というものがあることを初めて知りました。
RSDとは、反射性交感神経性ジストロフィーのことです。疼痛、間接拘縮、腫脹、皮膚色の変化が持続します。骨萎縮は、今では要件とされなくなっているとのことです。
和解を目的として裁判を起こすときには、対立する相手方を和解の席に着かせる道筋を考えたうえで、早い時点で和解案の準備をしておくことが、和解のタイミングを逸さず、早期に依頼者が満足できる解決に導くことにつながる。
なるほど、と思うところが多々ありました。
(2018年11月刊。2500円+税)

腸で寿命を延ばす人、縮める人

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 藤田 紘一郎 、 出版  ワニブックス新書
免疫と腸内細菌は、相互に頼りあう関係。
腸内細菌の世界の多様性が豊かになるほど、免疫力も高まっていく。赤ちゃんが、人の指でもおもちゃでも、道に落ちているものでも舐めたがるのは、腸内フローラを豊かにして強い免疫力を築こうとする本能のようなもの。
腸は、人が食事をし、排便する日中はもちろんのこと、人が眠っているあいだも活動を活発に続けている。生まれてから死ぬまで片時も休むことなく、フル活動できるだけの持続的で膨大なエネルギーを求めている。
腸内細菌は、ホルモンの合成にも働いている。セロトニンやドーパミンなど、幸せホルモンの前駆体を脳に送り出すのも腸。
悪玉菌には免疫細胞を刺激する作用がある。悪玉菌がまったくいないと免疫もまた育たない。
腸内環境を整えるためには、毎日の食事で水溶性食物繊維と不溶性食物繊維をバランスよくとることが大事。それにはキャベツを食べること。キャベツには、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維がバランスよく含まれている。1日に身体が欲するビタミンCは、キャベツの葉を4枚食べたら摂取できる。酢キャベツは、とくにおすすめ。
肉をまったく食べないと、たんぱく質が不足して、新型の栄養失調を起こしてしまう。
菌を敵視していては、決して健康にはなれない。まずは、抗菌グッズの使用をやめよう。テーブルの上やその周辺の床に落ちたものは、食べたほうが免疫は強くなる。家庭内に落ちたものならば、腸内フローラが対応できないほど困った菌が付着する心配もない。
がんを防ぐには、1に、糖質の摂取を控える。2に、食べ過ぎない。3に、ミトコンドリアエンジンをもっと意識して使う。4に、身体を温める。
毎日風呂に入って、身体を温かく保ち、免疫細胞を鍛える。運動は好きなことをする。
著者は週1回、プール通いを実行しています。私も同じです。週1回、夜に30分間で1キロを自己流のフォームで泳いでいます。
がんになると、冷たいものや甘い物が欲しくなる。冷えていて、糖分の多い飲料は、がん細胞の大好物だ。
としをとってきたら、「おいしくない」と感じる食品を無理してとる必要はない。
とても実践的で、大変わかりやすいので、即実行できるものばかりです。
さあ、今日からやってみましょう。
(2018年12月刊。880円+税)
 日曜日の朝、仏検(準一級)の口頭試問を受けました。この1ヶ月ほど、頭のなかは、それで占められていて、落ち着きませんでした。なにしろ、何が出題されるか分かりませんが、3分前に与えられたテーマについて、3分間スピーチをするのです。事前に私が予想したのは、人工知能(AI)は仕事を奪うかと、黄色いベスト現象をどう考えるか、でした。ところが、当時医学部受験で女性が不利に扱われたことが発覚したが、どう考えるか、でした。もう一つは、動物保護の問題です。医学部受験で女性が不利に扱われていたことは、私には驚きでしたので、そのことをまず言って、大学の弁明は理解できなかった、女性医師の労働条件の改善が必要だと述べました。ところが、なにしろフランス語で話すのです。単語がスムースの頭に浮かびません。そして、何が問題の本質なのか、解決のためにどうしたらよいのか、うまく展開できません。3分間スピーチなのに、2分あまりで終了し、あとはフランス人試験官の質問に答えます。質問は分かりますが、うまくフランス語で答えられません。あっというまに7分が終わって、冷や汗がどっと吹き出しました。
 受付の女性は顔見知りですので、「どうでしたか?」と尋ねられ、「いやあ、いつも緊張します。ボケ防止なんですけど・・・」と答え、そそくさと試験会場をあとにしました。1年に1度の口頭試問が終わり、肩の重荷をおろして天神に向かうと抜けるような青空が広がっていました。

大名権力の法と裁判

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 藩法研究会 、 出版  創文社
江戸時代の藩政において法令がどのように機能していたのか、学者の皆さんが、それぞれの研究成果を発表した論文集から成る本です。主として刑罰法規とその運用状況が語られています。私の関心は民事、とりわけ分散にありましたので、それを紹介します。
分散とは、今でいう破産のことです。
元禄期の岡山藩における分散の実情が紹介されています。
分散の開始にさいしては、債権者と債務者の同意が要件であった。債権者が債務者を破産させて債務を弁済させるのと、債務者が破産を申立てて債務を弁済するのと、二つあった。つまり、債権者申立の破産と自己破産の二つがあったわけです。
債権者が分散によって決着したので、「以後申分無之」と確言したときには、たとえ債権者は僅少の弁済しか得られなかったとしても、それで満足し、今後は債務者に対して弁済を請求しないと保証したことを意味する。
分散は、身代のつぶれた債務者に対する債権者の温情による債務処理という側面をもっていた。つまり、分散によって債権者は、早期に弁済を得られるが、僅少の弁済額で満足せざるをえない危険を負担し、他方、債務者は、今後債務を弁済する責任を免除された。このように、分散は、いわば経済的に破綻した債務者に対する債権者の温情による債務処理でもあった。
江戸時代にも破産手続というべき分散の手続があり、それなりに合理的な手続だったことが理解できました。
(2007年2月刊。8000円+税)

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