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2018年12月 の投稿

徳政令

カテゴリー:日本史(室町)

(霧山昴)
著者 早島 大祐 、 出版  講談社現代新書
徳政とは、ある日突然、借金が破棄され、なくなってしまうこと。公権力が徳政令という法令を出して債務破棄を追認していた。
徳政一揆というものがあり、当時の庶民がおしなべて徳政、つまり借金の破棄を求めていたというイメージがあります。でも、この本によると、必ずしもそうとは限らないようです。
徳政をめぐる摩訶不思議な社会のカラクリを見事に謎解きしてくれる新書です。といっても、それはあまりに謎にみちみちていますから、私が全部を理解できたというわけではありません。ほんの少しだけ分かったかな・・・というところです。
中世の公権力であった朝廷や幕府は、基本的に金銭貸借などの民事紛争には関心がなく、裁判のような面倒くさいことに関わりたくはなかった。ところが15世紀以降、室町幕府は民事訴訟を積極的に取り扱うようになった。
中世前期・鎌倉幕府は御家人救済政策として債務破棄のための徳政令を発布した。そして、中世後期には、民衆による徳政一揆が主体となって債務破棄を主張する徳政要求があった。つまり、徳政観念と徳政を求める主体が変化したのだ。
京都近郊の農民を中心とする徳政一揆は京の高利貸である土倉(どそう)を襲撃し、幕府はその動きに突き動かされて債務破棄を認める徳政令を発令した。
ところが時代が移って、武士・兵士たちが兵粮代わりに土倉たちを襲撃し、幕府がその動きを追認するかたちで徳政令を出した。これを人々は嫌った。
中世社会では、借りたお金は返さなければならないという法が存在すると同時に、利子を元本相当分支払っていれば、借りたお金は返さなくてもよいという法も、条件つきながら併存していた。
中世の利子率は、一般に月利5%。年に60~65%で、2年ほど貸せば、元本と利子をあわせて2倍になる。
中世の人々は、勝つまで何度も訴訟を提起した。
室町幕府の第四代将軍の足利義持は、訴訟制度を整備するなど、裁判に熱心な権力が誕生した。
日本人は昔から裁判が嫌いだったという俗説がいかに間違っているか、ここでも証明されています。
徳政は、当初は民衆が結集する旗印だったのが、次第に変わっていき、ついには逆に社会に混乱をもたらし、民衆を分断させる要因へと変質していった。
戦争に参加する兵士たちを除けば、多くの人々にとって徳政令のメリットは減少し、ただ単に秩序を乱すものに過ぎなくなってしまった。
徳政とは借金帳消しという単純なものではなく、当時の人々の意識、土地売買契約など、さまざまな観点から考えるべきものだという点が、よく分かりました。
中世社会を知るために欠かせない視点が提示された新書だと思います。
(2018年8月刊。880円+税)

「右翼」の戦後史

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 安田 浩一 、 出版  講談社現代新書
日本の右翼って、今では反天皇であり、アメリカべったりなのではありませんか。靖国神社の前宮司は今の天皇を憎悪しているらしいですね、信じられません。
天皇なんて、黙って利用されていたらいいんだという考えのようです。
そして、財界べったりは戦前からの右翼の伝統なんでしょうが、今では反米どころか親米というより従属(隷属かな)ですよね。日本人の良さを売りにするのは、一体どうなってしまったのでしょうか・・・。
右翼は国家権力の手足として振る舞うだけでよいのか、そんな思いをかかえながら著者は本書を書いたといいます。
右翼とは、単に「反左翼」「アンチ隣国」の運動にとどまっていないのか。「愛国心」を自称しながら、あまりに不平等な日米地位協定を無条件に受け入れているのは、矛盾もはなはだしい。ときのアベ政権を批判しただけで「売国奴」と罵られ、在日外国人であることをもって「出ていけ」と脅迫される時代を見過ごしていいものなのか・・・。
いま外国人労働者を大量に日本へ呼び込もうとしているのは右翼の大好きなアベ政権で、そのためには、まずは労働条件を適正にするのが必要なのではないかと、「左翼」だけでなく世の中一般が批判しているのを、右翼はどうみているのでしょうか・・・。
昔は、日韓の裏社会は太いパイプで結ばれていたので、在日コリアンが暴力団のトップとなり、日本の右翼を支援していた。韓国が民主化されたことで、右翼と韓国のパイプは消滅した。
ネトウヨと右翼の一体化についても指摘されています。右翼がいまの天皇を悪しざまにののしっていることが世間に広く知れわたってしまったら、右翼の威信は(果たして、そんなものがあるのかどうか知りませんが・・・)、たちまち失墜するのではないでしょうか。
日本の右翼の過去と現在を紹介した新書です。
(2018年7月刊。840円+税)

シエラレオネの真実

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 アミナッタ・フォルナ 、 出版  亜紀書房
読みすすめるのが辛くなる本でした。
著者が10歳のとき、父親は逮捕され、翌年、国家反逆罪で絞首刑となりました。
父親はシエラレオネで生まれ育ち、イギリスに渡って医師となります。スコットランド出身の白人女性と結婚して、シエラレオネに戻って医師として活躍するのですが、腐敗した国内政治を立て直すために政治家となり、財務大臣をつとめるのです。ところが、権力者の首相とそりがあわず、ついに辞表を出し、首相からぬれ衣を着せられて逮捕・有罪(死刑)となったのでした。
シエラレオネはアフリカ大陸の西側にある共和国で、面積は北海道よりも小さい。人口は1975年当時300万人で、現在は720万人。1961年4月にイギリスから独立した。シエラレオネはダイヤモンドを産出し、その利権をめぐって国内の民族を背景とする党派が激しく争った。映画『ブラッド(血)ダイアモンド』に状況が描かれています。
ユニセフ親善大使として黒柳徹子もシエラレオネを訪問していますが、子ども兵士がいたり、腕や脚を切断するなどの残虐行為も横行していました。
ガーナのエンクルマ大統領が一党制国家を提唱した。複数政党制民主主義は民族の分断を助長し、社会や経済の発展のために本来の仕事からあまりに多くのエネルギーを奪うとした。ケニアのケニヤッタ、タンザニアのニエレレ、ザンビアのカウンダ、アラブのバンダが単一政党制の政府をつくった。いずれも独裁政権をつくって腐敗していったのです。これって、いまのアベ「一強」と似たところがありますよね・・・。
著者の父は、被告席に立たされ、感情をこめて演説した。しかし、それはムダだった。そこには法も正義もなく、あったのは、ためらわずに前進し、みんなを圧倒したままにする、腐敗した巨大な法律の罠だけだった。死刑を宣告された父は、命乞いすることは拒んだ。判決の翌日、絞首刑を執行された。刑務所の前で棺の蓋を開いて公開された。墓地に運ばれると、酸をかけて集団墓地に投棄された。
アフリカの民主化というのはなかなか苦難の道をたどっているようです。暴力に頼っていては何事も解決しないと思うのですが、理性をみんなが発揮する日が来るのはまだ遠い先のことなのでしょうか・・・。暗然とした気分になりました。
(2018年10月刊。2400円+税)

「おしどり夫婦」ではない鳥たち

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 濱尾 章二 、 出版  岩波科学ライブラリー
面白いこと、このうえない本です。鳥の本当の姿を知ることができるという以上に、生命とは何なのかについて考えさせられました。
人は見かけだけでは判断できない。その行動をよく見てから判断すべきだとよく言われます。そのとおりだと思うのですが、では鳥の場合には、どうやって行動を見て判断したらよいのか・・・。鳥を個体識別しないと何事も始まりません。でも、一羽一羽の鳥をどうやって識別するのでしょうか・・・。
ニホンザルやチンパンジー、そしてゴリラなら、じっと観察していたら一頭一頭(ゴリラは一人一人と数えます)の顔や体の違いが識別できるようになるそうです。でも、小鳥には無理ですよね。でも、不可能を可能にするのが学者の仕事です。絵の具を羽に吹きつけたりして、なんとか個体識別の努力をしているのです。頭が下がります。そうやって、一体、何が判明したか。驚くべきことが徐々に分かってきたのです。
オオヨシキリは一夫多妻。第1メスの子は58%がオスなのに、第2メスの子は46%がオスだった。第2メスは第1メスほどオスが子育てに協力してくれないので、質の高い子を育てられる保障がない。そこで、メスを産んでおけば一定の子は残せる。なので、第2メスになったら、産む卵はメスにしたほうがよい。
では、どうやって鳥はオスかメスかを産み分けることができるのか・・・。精子ではなく、卵細胞にメスになるものとオスになるものの2種類がある。しかし、それにしても、どうやって産み分けているのか、そのメカニズムの全貌はまだ解明されていない。
北米のツバメでは、巣立ちまでに死亡したヒナの1%が子殺しによるもの。それは、独身のオスがヒナをつついて殺して、被害者のメスを結婚相手として獲得しようとしている。繁殖に失敗したら、しばしばつがいを解消するからである。
鳥全体では一夫多妻の種は数%にすぎず、9%以上の種は一夫一妻で繁殖している。子育ての制約があるからだ。
一夫多妻といっても、一夫多妻のオスがいる一方で、メスを得られなかったオスがいるというのが実態。それはそうでしょうね。みんながみんな一夫多妻というのは、オスとメスの数に圧倒的な差がないと不可能ですから・・・。
鳥のオスは、つがい相手を得ることと、つがい外交尾を行うことの二つの手段を駆使して、自分の子を少しでも多く残そうとしている。
これって、人間の浮気にも通じる話ですよね、きっと・・・。
アマサギでは、34%の交尾が、つがい外のオスとメスによって起きていた。
一夫多妻のオスは、メスが「浮気」しないよう一瞬も気を抜かずにメスに張りついておかないといけない。体重が1割も減るほどの難苦です。
一部の種のオスは、メスが抱卵中につがい外交尾(一夫多妻)を目ざす。これって、人間の男のすることでもありますね。
鳥のメスは、少しでも優れたオス、たとえばよい縄張りをもつオス、捕食者から逃れる能力が高く、病気にも強いオスとつがいになろうとする。つまり、メスは繁殖に際してパートナーを厳選している。
アマサギのつがい外交尾は、メスはつがい相手より優位なオスだと交尾を受け入れ、劣位なオスだと攻撃して追い払う。
一夫多妻の鳥は少なく、全種の1%以下でしかない。
メスの死亡率は高い。それは、繁殖・子育ての負担。そして、捕食者に襲われやすいから。
托卵にしても、宿主となった鳥が卵を拒否することが20%ほどある。また、宿主が托卵鳥のヒナを拒絶することがあることも判明した。
こういうことが判明したのはDNA鑑定によって鳥の識別が可能になったからですが、しかし、その前に取りの識別が必要なことは言うまでもありません。そのためには、山中に何日も泊まり込んで観察を続けるなどの苦労を必要とするわけです。好きでないとやってられない仕事だと思います。でも、そのおかげで、居ながらにして、いろんな生命体の存在形態をこうやって知ることが出来るわけです。ありがたいことです。
(2018年8月刊。1200円+税)

愛と分子

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 菊水 健史 、 出版  化学同人
面白い本のつくりです。まずは写真。なかなか見事な、そして意味ありげな写真が続きます。その次に、文章で解説されると、なるほど、そういうことなのか・・・、と。
鳥のウズラの場合。オスは、大きな声でよく鳴き、メスにアピールする。オスの鳴き声にひきつけられたメスが、オスの目の前にひょっこり現れると、オスは瞬時に鳴きやんでメスに近づき、交尾を試みる。このとき、オスは、目の前にあらわれたメスの頭部と首を見て、その見た目の美しさに見ほれ、交尾行動を開始する。
男は目で恋し、女は耳で恋に落ちる。
ショウジョウバエの場合。メスはオスに出会ったときは逃げまわるが、オスの熱心な求愛歌を聞くと、うっとりしたかのようにゆっくり歩く。これはメスがオスを受け入れつつあるサインだ。
ハツカネズミの場合。オスはメスに出会うと、ヒトには聞こえない高い周波数の超音波で、鳥のさえずりのような歌をうたっている。そしてメスは、自分とは遺伝的に異なる系統のオスがうたう音声を好む。
メダカの場合。メスは、長くそばに寄り添ってくれたオスをパートナーとして選ぶ。以前からよく見かけていたオスを記憶し、視覚的に識別して、恋のパートナーとして選んでいる。
プレーリーハタネズミの場合。オスもメスも、親元から離れて巣立つと、一人で草原の探検を始める。そこで、見知らぬ異性と出会い、そこで交尾すると、そのまま妊娠し、夫婦としての絆を形成する。絆をつくった夫婦は、ともに食事に、ともに子育てし、パートナーが死ぬまで添いとげる。オスは、たとえ若いメスが縄張りに入ってきても、求愛するどころか、攻撃して追い払ってしまう。
ええっ、そうなのか、そうなんだ・・・と、思わず納得してしまった小冊子みたいな本でした。
(2018年3月刊。1500円+税)

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