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2018年12月 の投稿

佐賀藩アームストロング砲

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 武雄 淳 、 出版  佐賀新聞社
佐賀に行き、維新博なるものを見学してきました。幕末のころ、佐賀は弘道館をつくり、人材を育成・輩出したこと、反射炉をつくってアームストロング砲をイギリスから輸入したばかりでなく自分でも製造し、活用していたというのです。
明治10年の西南戦争で田原坂が最激戦地となったのは、重いアームストロング砲を馬と人力で引き上げるには、この道しかなかったからだということのようです。上野の彰義隊も佐賀藩のアームストロング砲の前に壊滅したとされています。
いったい、なぜアームストロング砲は、それほど威力があったのか、ぜひ知りたいと思って本書を購入し、認識を深めました。
アームストロング砲は、イギリスのアームストロングにより1855年に発明されたもの。それまでの青銅鋳物(いもの)製ではなく、鉄製砲身をもち、砲尾より装弾ができる。しかも、砲身は錬鉄の4層構造。後装式施条砲は、この当時の最新鋭の兵器で、射程距離、射撃精度、そして連射性で際立った性能を有している。アメリカの南北戦争、日本の戊辰(ぼしん)戦争でフルに活用された。
アームストロング砲は、1分間に2発ないし3発と連射性があり、最長3600メートルの射程距離があった。錬鉄による層威砲身なので、砲身の強度が確保された。錬鉄の細長い棒をつくり、それを加熱して芯金に巻きつけ、コイル状にしたものから鍛造加工で筒状にした。そして径の異なる筒を焼バメして層を重ねて、砲身の強度を確保した。
佐賀藩は、アームストロング砲を完全に自前ではつくれなかったようです。というのも、佐賀藩のつくった反射炉に錬鉄をつくる性能はあっても、錬鉄をつくるパドル炉の機能がなかったからです。したがって、アームストロング砲に似せたものまでつくって明治になってしまったのではないかと著者は書いています。
それにしても、佐賀藩だけが当時、鉄製大砲をつくっていたのですね。知りませんでした。
佐賀藩は鉄製大砲を200門をつくっただろうというのです。
かの白虎隊が奮戦した会津戦争でもアームストロング砲が活用されたとのことです。
初代の司法郷として近代的な裁判制度をつくろうとした江藤新平については、もっと知りたいと考えています。今後の課題です。
(2018年2月刊。1800円+税)

新にっぽん奥地紀行

カテゴリー:日本史(明治)

(霧山昴)
著者 芦原 伸 、 出版  山と渓谷社
イザベラ・バードを鉄道でゆく。明治の初めに東北と北海道をめぐる女一人旅を敢行したイギリス人女性の足跡を鉄道で追いかけた本です。
イザベラ・バードが日本を旅したのは40代のころ、当時は独身でした。東北地方を引き馬に乗って旅をし、北海道に渡っています。イギリスに戻って出版した『日本奥地紀行』(1880年)は、発売と同時に重版というヒット作になりました。うらやましい限りです。
40歳をこえてから紀行作家として活躍したイザベラ・バードは、72歳で亡くなりました。
顔は平たく、鼻は低く、がに股で、ちんちくりんの一寸法師。これが、当時の外国人から見た日本人の印象だった。
日本には浮浪者がひとりもいない。小柄で、醜くて、親切そうで、しなびていて、がに股で、猫背で、胸のへこんだ貧相な人々には、全員それぞれ気にかけるべき何らかの自分の仕事というものを持っていた。
では、イザベラ・バードの容姿はどうか・・・。ずんぐりとした、やや太めの金髪のイギリス婦人。つまり、外見はフツーのおばさん。しかし、態度は物おじせず、きびきびしていて、とても47歳の熟年女性とは思えなかった。
英国代理領事はバードにこう言った。
「英国婦人が一人旅をしても絶対に大丈夫だろう。ただし、ノミの大群と乗る馬の貧弱なことを除けば・・・」
バードが東北地方を旅行したのは明治11年のこと。前年(明治10年)に西南戦争が起きている。そして、バードが横浜に着いた10日前に大久保利通が暗殺された。血を血で洗う激動の時代にバードは日本に来たのだった。
日光に今もある金谷ホテルの宿帳には、バードが宿泊したことが記載されている。
会津で、バードは、眠れない、食べれない、好奇の的にさらされる。プライバシーが保てない。警察官から疑われる。1日11時間を費やしても、30キロも進まない。
バードは、「ただの一度として不作法な扱いを受けたことも、法外な値段をふっかけられたこともない」と書いています。当時の人々の道徳心の高さをうかがわせます。今の日本では、果たして同じだと言えるでしょうか・・・。
バードの旅を同行した通訳でもある伊藤鶴吉は、惜しくも54歳の若さで亡くなっています。日本人へのバードの高い評価はこの通訳・鶴吉の人柄と能力によるところも大きいと思います。
バードが各地でスケッチした絵は見事なものです。明治初めのころの日本の実情をよく知ることができる紀行文として、資料的価値もあります。
面白い旅の本でした。
(2018年7月刊。1600円+税)

炎上弁護士

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 唐澤 貴洋 、 出版  日本実業出版社
今どきネットのことがよく分からない弁護士だと大きな声では言えません。スマホは持たないし、ネットは見るだけで入力はできない。ネットでの判例検索もできないので、若手に頼んでやってもらう。そんな弁護士(私のことです)にとって、ネットで炎上するって、どんなことなのか、実はピンと来ません。
しかし、うしろ姿を写真に撮られてネットで公開されたり、事務所や自宅の玄関先に見知らぬ男がやってきたら、さすがにビビッてしまいますよね。
そして、本人になりすましていろいろ、あらぬことを書きこまれるというのも困ります。なりすましで、どこかを爆破すると予告して、警察が出動したら、もう笑い話ではすまされません。
いったい、誰が、何のために、そんなバカげたことをするのか・・・。
著者によると、犯人は、たいてい10代から20代の若い男たち。部屋に閉じこもって一人パソコンを一日中ながめているような若者が多いということです。ああ、それなら、今の日本には無数にいるだろうと思います。著者は、そんな男たちと敢然とたたかっている弁護士です。
いやはや大変です。徒労感がありますよね・・・。
インターネット上で著者への誹謗中傷は、2012年に始まり、今も続いている。そして、殺害予告や爆破予告へエスカレートしている。さらに、事務所のある建物に侵入した動画をネットで公開している。
インターネット上で飛びかう情報の多くは、根拠がなく、真偽が厳密に精査されないまま、容易にリツィート・コピーされて拡散していく。マスコミの記者もフェイクニュースをうのみにして著者に問い合わせしてくることが多い。
著者は、この5年間に事務所を4回も移転せざるをえなかった。
犯人たちは、学生、ニート、ひきこもりで、全員が男性。社会的に何か生きづらさを抱えた人たち。目を合わせず、コミュニケーションが無理。犯行動機を明確には説明できず、罪の意識もない。
彼らは生身の人間としての著者に興味があるのではなく、皆が知っている著者の名前という共通の「記号」をつかって、ネットの限られた世界でコミュニケーションをすること自体が大切なことなのだ。
やったやったという自己顕示、そして、それはストレス発散法のひとつだった。
コミュニケーション能力が低いうえに、その周囲に理解してくれている人が少ない孤独な人ばかり。罪悪感はなく、刑事事件になるという認識ももっていない。
ネットのなかでしか生きられない人たちがいる。
みなが言ってるから正しいと盲信する若者が増えている。
ネット社会はドライなようで、実は感情に左右される世界だ。とくにその原動力となるのは妬み(ねたみ)。
いやあ、これは怖いですね・・・。ネットの怖さを少しばかり実感させられました。
(2018年12月刊。1400円+税)

GAFA(ガーファ)

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 スコット・ギャロウェイ 、 出版  東洋経済新報社
GAFAとは、グーグル(G)、アップル(A)、フェイスブック(F),アマゾン(A)の頭文字を並べたコトバです。
フェイスブックは従業員が1万7千人でしかないのに、従業員21万5千人のゼネラルモーターズ(GM)の1人あたり時価総額23万1千ドルに比べて、なんと2050万ドルもしている。
先進国1国規模の経済価値を生み出している。
グーグルは、20億人が毎日、自らの意思と選択で入力している。グーグルは、毎日35億の質問からデータをこつこつと集め、消費者の行動を分析している。
2013年4月から2017年4月までの4年間で、四騎士(GAFA)の時価総額は1兆3千億ドル増加した。これはロシアのGDP総額と同じだ。
四騎士は、今やビジネスや社会、そして地球にきわめて大きな影響を与えている。
グーグルは検索を武器に、もうブランドにこだわる必要はないとばかりにアップルを攻撃している。そのアップルもアマゾンに対抗している。アマゾンはグーグルにとって最大の顧客だが、検索については、グーグルにとっての脅威でもある。何かの商品を検索している人の55%が、まずアマゾンで調べている。
アメリカのネット業界における2016年の成長の半分、そして小売業の成長の21%はアマゾンによるものだった。2016年の小売業界は、アマゾンの独り勝ちで、他社にとっては大惨事だった。
2016年に、メディアはショッピングモールの終焉を嘆いた。ホリデーシーズン(2016年11月と12月)のネット販売の38%はアマゾンによるものだった。
アマゾンは、今や、あなたに必要なものすべてを、あなたが必要とする前に提供している。とくに世界でもっとも裕福な5億世帯には、商品を1時間以内に発送している。
最大の負け組は、ウォルマートだ。
グーグルもアマゾンに負けかけている。ネット通販もアマゾンのせいで斜陽になりつつある。
アップルは、製品の価格は高く、生産コストは低く、を実現した。
低コスト製品と高価格によって、アップルはデンマークのGDPやロシアの株式市場並みのキャッシュをため込んでいる。
フェイスブックは20億の人々と意義深い関係をもっている。人は毎日35分をFBに費やしている。インスタグラムとワッツアップ合わせると50分になる。
2017年現在、地球上の6人に1人が毎日フェイスブックを見ている。
フェイスブックの唯一のミッション(使命)は金もうけである。市場での立場が強すぎて、グーグルは常に国内外で独占禁止法違反の訴訟を起こされるリスクにさらされている。
消費者が何を好むかについてのデータを、どこよりも多く集めることができるのは、グーグルだ。グーグルは、あなたのこれまでの足取りだけでなく、これから向かおうとするところまで見通せる。
フェイスブックは、特定の活動と、特定の個人に結びついている。フェイスブックを毎日、積極的に利用している人は10億人いる。人びとはフェイスブックで大いに生活を語り、行動、欲望、友人、つながり、恐怖、買いたいものを記録する。
グーグルと違って、フェイスブックは特定の個人のデータを追跡できる。これは、ある特定のユーザーに商品を売り込むときに大きな力となる。
アマゾンは3億5千万人分のクレジットカードと客のプロフィールを保管している。地上のほかのどんな企業よりも、アマゾンはあなたが好きなものを知っている。
アップルは10億人分のクレジットカード情報をもち、あなたがどのメディアをよく使っているかを知っている。アップルもまた、購買データを個人に結びつけることができる。
かつては炭鉱のそばに発電所を建てていた。現在は、一流の工学、経営、教養の学位をもつ人材が集まる場所、すなわち大学の近くに企業をつくっている。
やりたいことをやるのではなく、才能をもっていることをやるのだ。自分は何が得意なのかを早いうちに見きわめ、その道のプロとなるよう力を尽くすのだ。
四騎士は、合計41万8千人の社員を雇用している。これはミネアポリスの人口と同じだ。四騎士の公開株式の価値は合計で2兆3千億ドル。つまり、この第二のミネアポリスは、人口6700万人の先進国であるフランスの国内総生産に匹敵する富を所有している。
GAFAのもつ恐るべき力を再認識させられました。
GAFAがいつまでもトップであるとは限りません。では、次に登場するのは、いったいどんな企業なのでしょうか・・・。
スマホを持たず、ガラケーはいつもカバンの中に置いている私は、いつもニコニコ現金主義(ホテルの支払いのみカード)です。私の行動を誰にも事前に予測してほしくないからです。世の中を再認識させてくれる本でした。
(2018年8月刊。1800円+税)

「身体を売る彼女たち」の事情

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 坂爪 真吾 、 出版  ちくま新書
JKビジネスは東京都内では条例によって禁止された。
JKビジネスとは、現役のJKつまり女子高生らが男性客相手に添い寝やマッサージ、散歩の相手を行うサービスの総称。
本書は、JKビジネスの業態の一つである「派遣型リフレ」を主な対象としています。店舗は存在せず、女性が直接に客の待つホテルの部屋を訪問してサービスを提供する仕組み。一般的な性風俗店とは異なり、リフレに決まったサービスメニューはない。どのような内容のサービス(オプション)をいくらで行うかは、女性と客との交渉で決まる。オプションで得られた料金はすべて女性の取り分になるため、いかに客を引き付ける魅力的なオプションを提供できるかどうかが、派遣型リフレで稼げるか否かの分かれ目になる。
最終的には手や口で射精に導くこともあり、性風俗との境界線は、かなり曖昧だ。
JKビジネスの現場にいるのは、「JK風」の女の子たち。現実の女子高生ではなく、専門学校生や大学生、そしてフリーターだ。
彼女らは、JKビジネスの危険性を知らないでやっているのではない。JKビジネスで働くリスクとリターンを冷静に計算したうえで、期限付きの自らの若さと肉体の商品価値を最大評価で換金することを目ざして、あえてこの世界に巻き込まれている。
派遣型リフレは、必ずしも貧困ではない少女たちが、積極的かつ自覚的に自らの性をきめ細かく商品化して、荒稼ぎしている世界だ。彼女たちは、全員が貧困少女でもないし、必ずしも救いや関係性を求めているわけではなく、学費や趣味のために淡々と働いている。
派遣型リフレは大きく分けて三つのリスクがある。一つは、身体的リスク。本番強要などの性暴力被害、性感染症、盗撮・ストーカー。その二は、メンタル面のリスク。単独行動中に嫌な目にあっても、自分ひとりでかかえこむしかない。友人にも話せない。三つは、20歳の壁。リフレで破格の売上を手にできるのは、せいぜい20歳前後まで。
風テラスという、性風俗で働く女性を対象にした無料の生活・法律相談事業があります。弁護士とソーシャルワーカーがチームをつくっていろんな相談に対応しているのです。そのなかには、九州の法テラスで活躍していた浦崎泰弁護士もいます。
生活保護は嫌です。
車が使えなくなると、困るんです。
家族に役所から連絡が行くのが嫌なんです。
生活保護よりもデリヘルで働くことを彼女らは選ぶ。
扶養照会や資力調査、ケースワーカーの訪問といった「社会的な恥」に耐えながら、不自由な暮らしのなかで、生活を立て直す道を選ぶか。それともホテルの密室で、初対面の男性の前で全裸になるという「個人的な恥」に耐えながら、デリヘルで働いて自由な暮らしをする道を選ぶのか。
デリヘルは、月10日出勤するだけで15万円は稼げる。無料低額宿泊所よりも、性風俗店の待機部屋のほうが「自由に過ごせる」、「居心地がいい」と感じる女性が確実に存在する。
待機部屋には、事情をかかえた女性たちがやむにやまれず身体を売っているといった悲壮感は一切感じられない。
安易に脱ぎや本番に走ると、結果的に稼げなくなる。デリヘルの世界は、本番をするだけで稼げるほど甘い世界ではない。本番嬢は長続きしない。
女性が性風俗で働く理由の大半は、マクロな視点で見たら、「自分のせい」ではなく、「社会のせい」だ。ところが、女性自身は現在自分の置かれている状況をすべて「自分のせい」だと考えている。
現代社会で何が起きているのか、よくよく考えさせられました。
私が現在かかえている案件のうちの二つで、夫(男性)側の主張として、妻(女性)は風俗で働いていたことを問題としています。本当にデリヘルは身近な問題なのだと実感して読みました。
(2018年10月刊。1600円+税)

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