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2018年6月 の投稿

ターゲテッド・キリング

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 杉本 宏 、 出版  現代書館
大統領が暗殺を命じてよいのか。
裁判手続によらずして処刑するというのは許されることなのか。
アメリカが、その強大無比の軍事力でもって、他国の主権を無視してよいのか。
この本は、これらの疑問を考える素材を提供しています。
私は、いずれの問いにも、NON!否と答えます。
ターゲテッド・キリング(標的殺害)とは、国家が安全保障上の脅威と見なす人物を特定し、狙い討ちにすること。国家による無差別・大量殺害と対義の関係にある。
この本は、CIAの諜報員が戦場以外で「非公然活動」の一環として行う国家殺害を扱っている。アメリカ政府が影で糸を引いていることを分からないように工作して行う謀殺、つまり闇討ちである。
アメリカ軍は非公然活動には適さない。アメリカ軍も機密作戦を展開することはあるが、非公然活動にまでは手を染めない。これがペンタゴン(アメリカ国防総省)の公式見解だ。アメリカ軍のなかの非正規の特殊部隊が、身元を隠して非公然のブラックな隠密作戦を展開している。
9・11以前は、非公然にテロリストを殺害することには、暗殺という負のイメージがこびりついていた。しかし、2001年9月7日、ブッシュ大統領が署名した文書によって、対テロ標的殺害と計画・実行する権限をCIAに一括委託し、テロリスト狩りにゴーサインを出した。それで、CIAは、標的殺害のたびに大統領の許可を求める必要はなくなり、CIA長官が作戦の「最高指揮官」となった。
しかし、この戦術は、マイナス面も深刻である。いかに非公然型の標的殺害が効率的であったとしても、民間人の巻き添えによる犠牲は避けられない。オバマ政権当時の無人機攻撃(パキスタン)による民間人の犠牲者は600人を上回る。このうち70人前後が子どもだ。
アメリカとテロリストとのあいだでは、妥協の余地がないため、お互いの利害にもとづく「暗黙の了解」は成立しにくい。この新しいゲームには、ルールがまったくない。
対テロ戦争が拡大するなかで、CIAとアメリカ軍の活動、公然と非公然の境界があいまいになった。本来は文民の情報機関であるCIAが戦闘集団化し、無人機攻撃をひんぱんに行ったり、公然の軍事行動を本務とするアメリカ軍の特殊部隊が、CIAの非公然型と似たような対テロ標的殺害を多用したりするようになった。9・11の衝撃で、公然と非公然の境界が崩れだした。
非公然のテロ標的殺害によるテロリストの死者は少なくとも3000人と推定される。
標的殺害を実行するCIAの準軍事要員に戦闘員の資格が認められるのか・・・。答えは、ノーだ。CIAは軍隊の要件を満たしていない。
アメリカ軍の無人航空機は、2017年末に9347機もいる。アメリカ人の過半数が無人機をつかった対テロ標的殺害を支持している。さらに、無人航空機に標的を殺害すべきかどうかの判断がまかされようとしている。
ビンラディン殺害(2011年5月1日)は、無法地帯でも、自然が復活すると予期される状態でもないのに、裁判抜きの「処刑」が行われた。
アメリカが日本以外でやっている軍事作戦を容認すれば、同じことを日本国内でもアメリカ軍はやれるし、そのことを許すことになります。本当に、そんなことを許していいのでしょうか・・・。
知らないことは恐ろしいことです。知ったら恐ろしいけれど、まだ、この状況から逃れることを考える余裕があると思います。いかがでしょうか・・・。
(2018年3月刊。2200円+税)

エマニュエル・マクロン

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 アンヌ・フルダ 、 出版  プレジデント社
昨年(2017年)5月、フランス大統領にエマニュエル・マクロンが当選した。
人好きのする笑顔と、いかにもフランスの名だたるエリート校(グランゼコル)で学んだ高級官僚といった、つるりとスマートな外見をもつマクロンは、どうにもとらえどころがない。
実のところ、誰もマクロンのことをよく知らない。友人もほとんどいない。
マクロンは、グランゼコルを卒業したあとロスチャイルド(ロチルド)系の投資銀行につとめていた。そしてオランド大統領の下で大統領府(エリゼ宮)の副事務総長に抜擢(ばってき)された。
マクロンの妻ブリジッドは、マクロンが高校生16歳のときに知りあった(生徒と教師として)、24歳年上の人妻で3人の子をもつ教師だった。マクロンの両親は、ともに医師で、離婚している。マクロンに大きな影響を与えたのは妻の母、つまり、祖母だった。祖母(故人)は中学校の校長だった。
16歳のマクロンに教師として接したブリジットは39歳だった。夫と3人の子どもと、何ひとつ不自由のないブルジョアの暮らしを過ごしていた。アミアンのマカロンで有名な老舗の菓子店を営む名家の娘でもある。しかし、何かが物足りなかった。夫は銀行家だった。
二人は高校で演劇を通じて急速に親しくなった。エマニュエルにとって、ブリジットは唯一の女性であり、自分の子どもを持つことをあきらめても一緒になりたかった女性だった。
すごいですね。16歳のときに24歳も年上の教師に恋をして、結局、「ものにする」のですから・・・。
ブリジットにしても、マクロンとの愛を貫くために、銀行家の夫と3人の子どもを捨てたのですから、勇気がありました。「捨てた」といっても、マクロンの選挙戦で勝利したとき、妻ブリジットは子どもたちと孫と一緒に祝福したようですね・・・。
長男はエンジニアに、長女は心臓医に、次男は弁護士になったとのこと。
妻ブリジットは、家庭内で絶えずマクロンに自信をつけてくれる存在だ。一番の話し相手であり、マクロンが16歳のときから、その解放者であり、同伴者だった。マクロンに寄り添い、選挙や就職などのキャリアアップ、そして恋愛上の成熟を支えてきた。
フランスの若き大統領の素顔を少しのぞいてみることができました。
(2018年4月刊。2000円+税)

植物、奇跡の化学工場

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 黒柳 正典 、 出版  築地書館
植物っていうと、動物と違って動かないし、ただ花を咲かせて食べられるだけ。そんなイメージがありますよね。ところが、この本によると、植物は精密な化学合成をする生命体だというのです。
一見受け身な感じのする植物だが、植物同士でも繁殖場所の争奪戦のために化学物質を用いて競争相手を排除している。
季節変化に応答し、決まったサイクルで生活を続ける植物には、動物やヒトと異なる生命維持のメカニズムがあり、その中心を担うのが植物ホルモンという植物独特の生理システムである。光合成システムの構築は、植物の最大の化学戦略である。
昔から多くの科学者が人工光合成に挑戦したが、今なお実現していない。水と二酸化炭素と光で有機化合物をつくるのは、人工的には非常に困難。しかし、植物は、進化の過程で構築した複雑なシステムを用いて、いとも簡単に光合成をやってのけ、二酸化炭素と水からグルコースを合成し、酸素を放出して地球の生命を支えている。光合成能力を獲得した植物は、二酸化炭素と水を材料にし、太陽の光エネルギーを用いてグルコースを合成することができる。
地球上の植物は、1年間に100億トン以上の無機の炭素を糖に変換し、地球上に生活する生物のエネルギー源を供給している。
植物も動物と同じように外界からの情報を何かの方法で受信している。なかでも、光は大切な情報源である。
植物ホルモンとは、植物の細胞により生産され、低濃度で植物の生理作用を調節する物質と定義される、植物独特のものである。8種類の植物ホルモンが認知されている。この植物ホルモンは活性が高いため、植物にふくまれている量が極微量であり、その分析が困難なため、高等植物からの分離・発見は遅れている。
まったく何もせず、ひたすら枯れるまで何ひとつ動かすこともなく、ただじっとしているだけのように見える植物が、なんと偉大な科学者に勝る存在だとは・・・。世の中は驚きに満ちていますね。
(2018年3月刊。2000円+税)
 いま、町のあちこちに淡いブルーの花火のようなアガパンサスの花が咲いているのを見かけます。もちろん、我が庭にも咲いています。
 きのうの日曜日は年2回の仏検(フランス語検定試験。1級です)の受験日でした。どうせ合格できないと分かっていても、それなりに準備しますし、当日も緊張するのです。このところ、毎朝、NHKフランス語講座の応用編を繰り返し書き取りしていますので、少しは上達したかと思うと、あにはかろんや、ますますレベルが下がっているようで本当に困っています。試験が終わって自己採点するのですが、いつものように自分に甘く採点して57点(150点満点)でした。4割にたどり着けません。実観としては2割か3割ほどです。なんとか挽回するのは、いつも書き取りなのですが、今回は聞き取りも、あまり芳しくはありませんでした。でもでも、ボケ防止と思って、くじけずに続けます。ちなみに、我がベターハーフはいま必死で韓国語に挑戦中です。こちらは孫と話せるようです。

日本人は知らない中国セレブ消費

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 袁 静 、 出版  日経プレミアムシリーズ
日本人と中国人の生活習慣の違いを知っておくのは必要ですよね。
たとえば、日本人にとって、レストランに入って、氷の入った水をコップでウェイトレスが持って来るのは当然のサービスです。ところが、中国人は熱いお茶を飲むのを習慣としているため、氷水なんて飲みたくない。
日本人はホテルや旅館で角部屋にあたると大喜びする(見晴らしがいい)が、中国人は、鬼(幽霊)がいるのを心配して嫌う。
日本人は白いお米のご飯がないと物足りなく感じるが、中国人は、ご飯は外食で食べるものではないと考える。なので旅館が夕食前に小腹の足しにおにぎりを出しても中国人は喜ばない。
日本人は今でも店で現金支払いを好む人が多い。中国人はスマホ決済一辺倒。
中国人はウィーチャットを偏愛している。中国人はウィーチャットで自分を高く売りつけるように努める。日本人の多くはそんなことはしないし、したくない。
中国人は、子どもを学校に上げると、競ってPTAの役員になりたがる。子どもが学校でいい扱いを受けるために親は必死になる。日本ではPTA役員の希望者が少なく、いつだって押しつけあいで決まる。
知っておいて損のない話だとおもいます。みんな違って、みんないい。金子みすずの世界です。
(2018年2月刊。850円+税)

受験で合格する方法100

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 佐藤 亮子 、 出版  ポプラ社
あまりにも合理的な子育て法に圧倒されます。この本を読んで思うことは、自分でやれると思ったところを真似してやってみたらいいんじゃないか、ということです。無理して、みんなやろうとすると、息が切れてしまうかもしれません。
佐藤ママの包容力はたいしたものです。そこまでの自信がない人は、自分の身のたけにあったところで、やれることをやったらいいと思うのです。ですから私は、佐藤ママのやり方を全否定するかのような批判には組みしません。それぞれの置かれた条件で、やれるところをやったらいいのです。佐藤ママのやり方を批判するなんて、まったく意味がないと私は思います。
大学受験は、与えられた18年間をいかに効率よく使えるかという勝負。
私には、こんな発想はまったくありませんでした。びっくりしてしまいました。
基礎の問題は、もう解きたくない、つまらないと思えるくらいまでやって、それから過去問(カコモン)に移るのがいい。
そうなんですよね。なんといっても基礎学力をいかにしっかり身につけるのか、この点は本当に大切なことだと思います。
寝る時間をきちんと確保する。
これまた大切なことです。まともな睡眠時間をきちんと確保するのは、頭が正常に働くために不可欠です。ダラダラが一番いけません。
「宿題の丸つけは親がする」。うむむ、これは、さすが佐藤ママのコトバです。なかなかフツーの親には、こんなこと出来ませんよね。でも、たしかに言われてみれば、そうなのだと私も思います。
受験は、「余裕」をもてた者が勝つ。そのためには絶対に「やり残し」をつくらない。
なるほど、この点は、まったく同感です。ああ、あの分野が弱かったよな・・・、そんな思いを引きずって本番の試験会場にのぞんではいけません。私も体験を通じて、そう思います。
子どもに絵本を1万冊よんであげる。
いやあ、まいりましたね・・・。私も、自分が本を好きですし、子どもたちにもたくさんの絵本を読んでやったつもりですけれど、さすがに1万冊という目標というか課題設定までは考えませんでした。
先日、亡くなったかごさとしさんは川崎セツルメントの先輩でもありますが、カラスのパン屋さんシリーズや、「どろぼう学校」など、読んでるほうまで楽しくなる絵本を、私も子どもたちに声色を変えて一生けん命に読んでやっていました。楽しい思い出です。
歴史を学ぶときには、マンガで日本史も世界史も読んでおくといいというのも、私はやっていませんが、これはなるほどと思います。マンガを馬鹿にしてはいけません。手塚治虫のマンガは面白いというだけでなく、人間と歴史を考えさせてくれる哲学書でもあります。
親は「元気でウザいくらいがちょうどいい。親がいつも笑顔でいれば、子どもは安心して過ごすことができる。
子どもには、素直な感情を出せる環境が必要。そのためには、親は、いつもニコニコ笑顔が構えていることが大切。親は「家の壁紙」のような存在なのだ。
これが、この本で、もっとも肝心なところです。親が子どもの前で、いつもニコニコしている、これこそ容易に実行できることではありません。それを佐藤ママはやり切ったのです。子どもたちがインフルエンザにかかっても、佐藤ママにはうつらなかったのです。
私も、同じようにインフルエンザにかかって寝込んだ、ということは一度もありません。毎日、いつも、やりたいことがたくさんあって、寝てる場合じゃない、そんな気分で弁護士生活45年をやってきました。やるべき仕事があって、やりたいことがあるなんて、なんて幸せなんだろうと、感謝の日々を過ごしています。
子どものときには、なるべく失敗の経験はさせない。子どもに必要なのは自立ではなく、自活。自活とは、親が仕送りしなくても、自分で稼いて、食べていけること。
本当にそうなんですよね・・・。子育てがとっくに終わった私からすると、この本を読んで反省するしかないことだらけです。でも、子どもたちから切り捨てられてはいないのが、私にとっての救いです。
家庭が明るいこと、親が笑顔で子どもと接することができること、佐藤ママは本当に大切なことを指摘してくれています。
(2018年2月刊。1500円+税)

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