法律相談センター検索 弁護士検索
2018年2月 の投稿

夜の放浪記

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  吉岡 逸夫 、 出版  こぶし書房
 東京の夜をさまよって得た取材記です。
 都内を夜に走るダンプカーが必要なのは分かります。午前2時半から5時まで、横浜と町田間の90キロを走るのです。積荷は建設用の砂。ダンプの運転手は、夜10時から午前1時半まで3時間半眠り、仕事が終わって、朝6時半から寝て9時半に起きる。あとは自由。
 トラックはデコトラ。派手に装飾されている。映画「トラック野郎」(菅原文太主演)に協力・出演した。デコトラのクラブが全国に500もある。すごいですね。でも、前ほどは見かけない気がします。
 新宿の新大久保には24時間の青果店があり、客の9割は外国人。中国人、韓国人、ベトナム人、ネパール人などなど。タイ人もいれば、ミャンマー人も来る。深夜にも客が絶えないとのこと、どうなってるんでしょうか・・・。
 渋谷区の恵比寿横町には、ギターを手に夜の酒場をめぐる「流し」の歌姫がいる。そう言えば、昔はギターを抱えてスナックやクラブを渡り歩く「流し」をよく見かけました。今は、私の身近には見かけません。そもそもスナックもクラブも人口減少のあおりもあって不景気で、それどころではないようです。
 両国の国技館の売店で売られている焼鳥は夜中に全自動でつくられている。うひゃぁ、そうなんですか・・・。
眠らない職場といえば、私の身近にも多いのが介護施設です。介護の現場で働く人には、本当に頭が下がります。必要な仕事ですが、きつい割には低賃金のため、定着率が良くないですよね。残念です。役にも立たないイージス・アショアにまわすお金(2600億円以上もします。とんでもない大金です)があるんだったら、そんなのやめて介護・福祉予算にまわすべきです。
そして、24時間保育園もあります。夜の仕事をしている母親にとって、なくてはならない施設です。でも、ここでも保育士の確保に苦労しているようです。
私は24時間コンビニなんていらないという考えですが、それでも病院のように24時間オープンの施設が必要なことも現実です。その一端を改めて認識させられた本です。取材した記者(著者)も病気で倒れたとのこと。気をつけてがんばって下さい。
(2017年12月刊。1800円+税)

ブラック職場

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  笹山 尚人 、 出版  光文社新書
 電通に入社して2年目、24歳の女性社員が過労自殺してしまったことは本当に心の痛むニュースでした。電通には前科があります。何度も繰り返すなんて、ひどい会社です。憲法改正国民投票が実施されたら、またまた電通は大もうけするとみられています。テレビ番組の編成を事実上、牛耳っているからです。アベ改憲と手を組んで日本を変な方向にもっていきかねないので、ますます心配です。
 それはともかくとして、なぜブラック職場が日本社会からなくならないのか、本書はその根源をたどっています。
労働事件を担当して、たくさんの経営者と接してきたが、個々の経営者は、それぞれ普通の人間であり、他者の人生を平気で切り捨てることに何ら痛痒を感じない人には見えないことが多い。つまり、経営者個人が悪質な人間だというのではなく、そうした経営者が動かす企業体が組織の論理で利益を追求するという価値判断を行ったとき、人の人生を押しつぶすことをいとわなくなる。
 資本主義の世の中では、企業はとにかく無限に利益を追求する。したがって、事業の運営を人が理性をもってきちんと制御しないかぎり、利益の追及は無限の欲求となってたちあらわれてしまう・・・。
職場に労働契約が根づいておらず、労働組合が有効に機能していない。そもそも労働組合が存在しないところが多い。労働法が労働者を保護するために存在するということを知らず、考えたことのない労働者は多い。
著者は「やりがい搾取」というコトバを使っています。私は初めて聞くコトバでした。
仕事自体はとてもやり甲斐のある仕事。それを日々感じることができる。だから、給料が安くたっていいじゃないか、サービス残業が多いからといって問題にしなくていいじゃないかという考えで経営者があぐらをかいている。そのため長時間労働の問題にメスを入れず、長時間の拘束にきちんと対価を支払おうとしない。これを「やりがい搾取」という。なるほど、ですね。
「やりがい搾取」の本質は、「やりがい」を隠れ蓑にして、使用者が法律上そして契約上果たすべき責任をとらないことにある。
最近、裁判所で解雇事件についての解雇の正当性のハードルが以前に比べて下がってきているようだ。つまり、解雇しやすくなっている。
これは私の実感でもあります。やはり非正規雇用があたりまえ、ありふれた世の中になっていますので、クビのすげかえなんて簡単にできるものという風潮が社会一般にあって、裁判官もそれに乗っかかっているのです。
 この本で労働基準監督官が全国に3000人しかいない、本当は現場に出る人が5000人は必要だと指摘していますが、これまたまったく同感です。
労働基準法違反は犯罪だという感覚を日本社会は取り戻すべきで、そのためにも労働基準監督官の増員が必要なのです。
ブラック職場をなくすためには労働法の規制を強化すべきですが、いまアベ内閣はますます規制緩和しようとしています。残業時間の規制をゆるやかにし、解雇の自由をおしすすめようとしています。
若者を職場で使い捨てするような社会に未来はありません。安定した職場で、まっとうな賃金をもらって安心して働ける条件をつくり出す必要があります。
本書は職場の実情の一端を紹介するとともに解決策が示されています。若い人にも、中高年にも、ぜひ読んでほしい新書です。
(2017年11月刊。780円+税)

インターネットによる郷土史の発信(2)

カテゴリー:日本史(戦後)

(霧山昴)
著者  樋口 明男 、 出版  久留米郷土研究会
 筑後部会の樋口明男弁護士は郷土史を丹念に調べて写真とともにインターネットで発信しています、一冊の冊子になっています(2冊目です)。大変小さな活字ですし、たくさんの情報が詰まっていますので、読みにくいという難点はありますが、その豊富な情報と写真に思わず圧倒されてしまいました。
 久留米には、第一次世界大戦に日本軍が参戦し、中国の青島(チンタオ)にあったドイツ軍の要塞を攻略したあと日本に連れてきた、ドイツ兵捕虜を収容していた収容所がありました。全国5ヶ所に4800人のドイツ兵を分散収容したのですが、久留米には、そのうち1300人がいました。
そのドイツ兵たちはスポーツ大会をしたり、コンサートを開いたりしていました。また、ビールを飲み、ハムを製造したりしていたのです。その様子を伝える写真がたくさんあります。収容所には2つの楽団があったというのも驚きです。日本軍は第二次世界大戦での北京大虐殺のような残虐行為をしなかったということですね。相手がドイツ人(白人)だったというのも大きいような気がします。
この青島要塞攻略戦には、私の亡母の異母姉の夫(中村次喜蔵。終戦時に師団長・中将)も参加していて、宮中に呼ばれて天皇へ進講しています。久留米市史にも載っている話です。高良内には今も石碑が建っています。
大牟田の三池炭鉱の歴史についても豊富な写真つきで解説されています。三井港倶楽部は今もレストランとして残っていて、大牟田支部の裁判官の送別会の会場としてよく利用しています。そこに暗殺された団琢磨の小さな銅像があります。新大牟田駅前には巨大な全身像がそびえています。これは少し違和感があります。
三池炭鉱には、私も一度だけ坑底におりて採炭現場まで行ったことがあります。三川鉱の坑口から坑内電車に乗り、マンベルトに乗ったりして採炭現場までたどり着くのに1時間ほどかかりました。もちろん周囲は漆黒の闇です。その怖さといったらありません。ずっと生きた心地はしません。二度と入りたくはありませんでした。
大きな炭鉱災害がいくつも起きていますし、大小さまざまな事故が頻発していました。炭鉱存続というのは、人命尊重の立場からは簡単には言えないことだと、実際に、ほんのわずかの体験から考えています。
著者はまだまだ発信中ですが、こうやって冊子にまとめられると、一覧性があり、身近な郷土史の記録集として歴史をひもとくのに便利で活用できます。
樋口弁護士の今後ますますの健筆を期待します。
(2017年10月刊。非売品)

すごい進化

カテゴリー:人間

著者  鈴木 紀之 、 出版  中公新書
 一見すると不合理の謎を解くというサブタイトルがついています。
つわり。妊娠初期に妊娠が特定の匂いに対して過敏に反応してしまう。このつわりには、それなりの効用、すなわち進化的な合理性がある。実は、胎児を守るために機能している。つわりのときに反応しやすい匂いの中には、胎児によくない影響を支える物質が含まれている可能性があり、とくに外的な刺激が胎児の成長に影響を与えやすい時期にだけ、こうした反応が出やすい。つわりが起きれば妊婦はそうした匂いをもたらす物質を遠ざけようとし、結果として流産などのリスクを抑える効果がある。
 なーるほど...、人間の体はうまく出来ているのですね。
カフェインは、コーヒーの木やお茶の原料となるツバキの仲間やチョコレートの原料になるカカオ、そしてオレンジやガラナといった植物にも含まれる化学物質。これは、本来は葉を食べる昆虫から身を守るために植物が生産しているもの。
 オスの目的は自分の子を残すこと。たとえ別種に似ていようが、同種のメスである可能性が少しでもあるなら、ためらわずにアタックすべし。同種のメスへ求愛したところで、交尾までたどり着ける可能性は少ないのだから、他種のメスかもしれないというリスクがあったとしても、同種と交尾できたときのリターンがとてつもなく大きいので、オスのみさかいのなさはなくならない。なんせ、生涯に1回でも交尾できれば御の字なのだから。これが、別種を識別する能力がいつまでたっても進化しない背景だ。
 なるほど、生物の世界には、もちろん人間様も同じですが、一見すると不合理な行動のように見えていても、実はそれだけの理由があることがほとんどなのですね。だったら、失恋しても、そんなに嘆き悲しむ必要はないのですが...。
 一味ちがった角度から生物の実際を眺めることができるようになる本です。
(2017年5月刊。860円+税)

守教(下)

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者  帚木 蓮生 、 出版  新潮社
 話は、いよいよ佳境に入ります。
 広大な筑後平野のなかの一つの村でしかない今村に江戸時代を通じてカクレキリシタンが一村丸ごと残ることができた不思議が解明されていきます。
 信者を率いるリーダーが自己犠牲となり、信者たちは殉教しないで信じる道を行くことにし、村の寺院も藩当局も表向きの棄教を真に受けたふりをしていく・・・。なぜなら、彼ら村民は、いかにも真面目な農民であるため、彼らを根絶やししてしまえば領内統治の基礎がなくなってしまうからです。
 しかし、それにしても棄教を迫る残虐さは目を覆いたくなります。そのため、いかにも強い信念をもつ外国人神父ですら、例外的に棄教する人が何人か出てしまったのでした。その点、殉教を避けた今村の村民たちは賢明だったということになります。
 有馬豊氏公が願っているのは、城下の繁栄と百姓の保護。城は二の次。町人百姓の繁昌こそが城。領内から百姓が逐電すれば、家臣をふくめて領民すべてがくたびれてしまう。要するに、百姓に逃げられては、公儀は立ちゆかない。真面目に田畑の仕事に精を出し、物成(ものなり)をきちんと納める百姓は宝物なので、本当は信仰を捨てていないと思われても、お上は黙認していた。そして、村のほうでも異教徒は誰ひとり村内に入れないようにした。これで信仰が保たれた。
 今村では、男女とも20歳になると嫁婿選びが始まる。もちろん相手はイエズス教の信徒でなければならない。しかも、同じ血族で四親等以内の同族同士の結婚は禁止。そこで他村に残っている信徒から嫁を迎えたり、婿入りするほうが好まれた。そして、庄屋が、イエズス教の信徒の心得を言い聞かせる。
今村のカクレキリシタンの存続を小説化したものとして、記録されるべき本だと私は思いました。
(2017年9月刊。1600円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.