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2018年2月 の投稿

動物園ではたらく

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者  小宮 輝之 、 出版  イースト新書
 上野動物園の元園長が動物園で働いた半生を振り返った興味深い新書です。
 ナチス・ドイツ支配下のワルシャワ動物園で迫害されるユダヤ人を脱出させていった勇気ある人々を描いた映画を見たばかりでした。動物園というところは、子どもに夢をもたせるばかりでなく、人助けもするところなのですね。
 この本は、動物園がなぜ人間社会に必要なのか、子どもも大人もみんなが行きたがるのかを考えさせてくれる本でもあります。
 動物園は楽しくなければいけない。私も本当にそう思います。子どもも大人も楽しめ、動物たちも生き生きと動きまわっている。そんな動物園であってほしいものです。私も旭川にある旭山動物園には2度行きましたが、圧倒されましたね。また機会があれば行ってみたいところです。
 飼育している野生動物が安心して暮らせるのは、動物たちが飼育係を自分の生きる環境として受け入れたとき。お客さんも楽しくを実現するには、動物が人前に出るのを嫌がったり隠れたりしてしまわないように、いろいろな工夫をしている。職員も楽しくするためには、自分が休日のとき、誰が世話をしても怖がったり暴れたりしないような飼育が必要になる。
動物園の役割の一つにひとの心を癒し笑顔にすることがあげられる。
 ゾウやチンパンジーの飼育係になれるかどうかは、動物たちが担当者として認めてくれるかどうかが大切。いつまでたっても認めてもらえない人もいる。
 ライオンには馬肉を中心として、1頭で1日に5~7キロのえさを与える。
飼育係の職業病の人は腰痛。えさを準備するときに重労働で腰に負担がかかる。また、長靴を常用するので水虫になりやすい。
 動物園内の樹木はエサにすることがあるので、害虫防除のために農薬は使えない。
熊にえさを与えるには、できるだけ同じ時間、決まった時間に熊舎に行く。いつもどおりの時間に飼育係が来ないと不安がる。いつもと違うことをするのは、絶対に避ける。
 動物たちにとって、夕方から夜、そして夜明けを迎えて朝になる。人のいない16時間こそ、マイペースで過ごせる大切な時間なのだ。
 人工保育で育てた動物は、成長してからも人間を恐れない。しかし、動物同士で溶け込めず、繁殖行動がとれない危険がある。
野性のゴリラは群れで暮らし、群れのなかで子は育つ。子が1歳ころ、母親は子育てを父親にまかせる。ゴリラの子は父親に遊んでもらいながら、ゴリラ社会のマナーやルールを学んで成長する。
飼育係は危険と隣りあわせの仕事でもあります。私の小学生のころ、動物園からトラが逃げ出し、そのとき、飼育係と見物客が死んだ(殺された)という事件が起きて大騒動になったことがあります。見物客が便所のなかに隠れ、トラが扉をガリガリひっかいていたというのです。生きた心地はしなかったでしょうね・・・。
昔、上野動物園にパンダが来たばかりのころ、子どもを連れて見物に行きましたが、寝ている姿がちらっと見えただけでした。パンダを間近に見たいなら、やっぱり白浜のアドベンチャーパークですね。読んで楽しく、ためにもなる動物園の話です。
 (2017年11月刊。880円+税)

あるフィルムの背景

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  結城 昌治 、 出版  ちくま文庫
昭和時代の傑作ミステリ短編が復刊された文庫本です。よく出来ていて、思わず唸ってしまいました。
少女のとき、知り合いの青年についていったら、まさかの強姦被害にあった女性が、そのトラウマから男性恐怖症どころか人間不信となり、社会適応すらできなくなって、職を転々として生きていった。そして、あるとき加害者の男性が婚約者らしき女性と楽しそうに旅行しているのを見かけ、忘れかけていた過去を思い出し、我を忘れて・・・。切ないストーリーです。
DV夫から長年にわたっていたぶられてきた妻。夫が右半身不随になったとき、妻は恐るべき報復に出た。
私も実際に似たようなケースで妻の刑事弁護人になったことがあります。若いころに散々妻に対して暴力をふるっていた夫が老齢になって半ばボケかかってきたとき、娘とともに抵抗できない夫を殴りつけて重傷を負わせたというケースでした。その供述調書を読みながら、もっと早く別れておくべきでしたよね、子どもたちが可哀想だと思ったものでした。子どものために辛抱したなんて、子どもは言ってほしくないのです。
「あるフィルムの背景」は、検察官の妻がブルーフィルムに登場してくる女性そっくりなところから、容疑者たちを追求し、ついに真相を突きとめたときには妻は自殺していたという、なんともやるせないストーリーです。
読んでいて元気が出てくる話ではありませんが、なるほどこんな心理状態になっていくのだろうなと共感させられるところの多い話でした。
少々ネタバレ気味で申し訳ありませんでしたが、推理小説ファンには見逃せない傑作ぞろいです。
(2017年12月刊。840円+税)

スクリプトドクターのプレゼンテーション術

カテゴリー:人間

著者  三宅 隆太 、 出版  スモール出版
 著者は映画監督、脚本家、脚本のお医者さん(スクリプトドクター)、心理カウンセラーです。効果的なプレゼンテーションをするために必要なことを伝授してくれました。
 プレゼンは、人数に関係なく、対話である。プレゼンは一方通行のものではない。
 プレゼンが苦手なひとは、緊張するあまり、相手に伝えたいという想いが減ったり欠落してしまう。それでは、残念ながら聴き手の心には響かない。聴いている側も集中力を失い、退屈してしまう。
プレゼンでは、ウソをつかない、フリをしないことが大切。
 ミステムより、共感を重視する。
聴衆が大勢いる会場で話すときに、聴衆をジャガイモと思えば気が軽くなっていいという考え方があるが、それはまちがい、むしろ逆効果だ、逆に、会場を、聴衆ひとりひとりの顔をよく見ないといけない。
 そうなんですね。私は1万人大集会だったら知りませんが、100人くらいの会場だったら1人ひとりの参加者の目を見ながら「対話」するようにしています。
 小説は、内面の描写が描ける点が最大の魅力である。
 人前で話すことの難しさ、苦しさ、そしてやり甲斐が率直に語られていて参考になります。
(2017年10月刊。1600円+税)

ヤナマール

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者  ヴュー・サヴァネ 、 バイ・マケベ・サル  出版  勁草書房
 セネガルの民衆が立ち上がるとき、というサブタイトルのついた本です。
 2011年6月23日、アフリカ大陸の西端にあるセネガルの首都ダカールに、大規模な民衆騒乱が発生した。市民の広範な抗議行動を主導したのは、社会運動体「ヤナマール」。あくまで非暴力の市民的不服従を訴える社会運動体だ。
 ヤナマールは、フランス語で、もう、うんざりだという意味。
政権は、反対勢力を骨抜きにして服従させ、統制を企ててきた。だから市民側が警戒を怠ってはいけない。ホワイトカラーが処罰されない一方、ちっぽけなこそ泥たちには、異例の厳しさで司法の剣が振りおろされている。庶民がしばしば飢えや必要に迫られて、あわてて仕出かす犯罪に、司法は道理にあわないほど、情け容赦のない態度を示す。ちょっとした窃盗を犯した庶民が刑務所に何年も服役する一方で、数十億CFAを不正に巻き上げる連中には、目を瞑らせるか、無罪になる。これって、まるで今の日本と同じです。「アベ友」はやりたい放題で捕まらず(アベに見捨てられたカゴイケ夫妻は半年も拘置所ですが・・・)、コンビニの万引きは容赦なく逮捕して刑務所へ・・・。
 国家は、金持ちになるためのたんなる手段。支配をめざすエリートたちの賭金になりさがった。カケコータローが記者会見することもなく(奇妙なことに週刊誌の突撃取材もありません)、カゴイケ氏は半年近くも冷たい拘置所のなかに・・・。この差別扱いはひどすぎます。
 ヤナマールは、この人、あの人といった個人のものではない。ケータイとスマホで、呼びかけあう運動体だ。
 ちょっと読みにくい本ですが、アフリカ諸国で民主化運動が始まっている状況が紹介されています。やはり、何事もあきらめてはいけないのですよね。
(2017年8月刊。2500円+税)

女子高生の裏社会

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  仁藤 夢乃 、 出版  光文社新書
 現代日本社会にこんな現実があるって知りませんでした。女子高生が路上で客引きをして売春まがいの行為をしているという現実があるんですね、驚きました。前川喜平氏ではありませんけれど、そんな場所に出かけていって、なぜそんなことをしているのか、その実際と原因をしっかり認識したいと思いました。本書は、そんな願いを代わって実行した成果です。
家庭や学校に居場所がなく、社会的なつながりを失った高校生を難民高校生と呼ぶ。
子どもの6人に1人が貧困状態にある。高校中退者は年間5万5千人。不登校は中学校で年間9万5千人、高校で年間5万5千人。未成年の自殺者は年に500人以上、10代の人工中絶は1日55件、年間2万件以上。
JR秋葉原駅をおりると、「JKお散歩」や「JKリフレ」の店が並んでいる。そして、女子高生が路上で客引きをしている。
都内のJKリフレ店は80店。JKお散歩店は秋葉原だけで96店。1店舗につき、20~40人が働いていて、年間60人が働いている。都内だけで5000人以上が「立ちんぼ」をしている。
JKお散歩やJKリフレのスカウトは、水商売や風俗店のスカウトマンがやっていることが多い。彼らは、少女たちに声をかけ、店に紹介し、紹介料をもらう。女子高生に声をかけ、巧みな話術で連絡先を聞き出す。
高校生はまだ子供だ。声をかけられるとすぐに信用したり、抵抗なく連絡先を教える。スカウトする大人は目が肥えていて、連絡先を教えてくれそうな少女を目利きできる。
高校生を一人つかまえたら、そのあとは簡単。友だちも一緒に働けるよというと、たいてい一人は不安だから誰か誘おうと思い、友人を連れてくる。その少女がまた友人を紹介して・・・、芋づる式に集まってくる。
大人たちが本当に少女を心配していたら、不特定多数の男性とお散歩なんかさせるはずがない。彼らは、少女を「商品」として気にかけているにすぎない。しかし、少女たちは、自分は心配されていると錯覚し、安心する。
「観光案内ツアーガイド募集」「がんばり次第で1日3万円以上稼げます」「お客様を案内する仕事です」「入店祝い金として1万円を差し上げます」「モデル事務所と提携しています」「風俗店ではありません。個室や接触、女の子が嫌がることは一切ありません」
たしかに、これに惹かれる女子高生は少なくないのでしょうね。
友達紹介制度は、最初の1ヶ月間、友人が稼いだ売上げの10%が紹介者の少女に入る仕組みだ。
JK産業で働く女子高生の平均月収は6万7千円。
働いていることを親に隠していると答えたものが31人のうち27人。友人には25人が内緒にしている。JKリフレやお散歩で働く少女の多くは家庭から排除されている。彼女らにとって自宅は安らげる場所ではない。
性被害にあったとき、誰にも頼れず苦しむ女性は多い。誰にも言えない経験から少女が家族や学校、社会から孤立していってしまうことは少なくない。取材に応じた31人のうち4人がレイプ被害にあっていた。
貴重なレポートです。考えさせられる現実を知りました。
(2014年9月刊。760円+税)

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