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2017年10月 の投稿

日中戦争全史(下)

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 笠原 十九司 、 出版  高文研
1938年1月の大本営政府連絡会議において、陸軍の参謀本部は中国との長期泥沼戦に突入するのを阻止しようとした。なぜか・・・。
このころ日本陸軍は、3ヶ月に及んだ上海戦に19万人を投入し、戦死傷者4万人という大損害を蒙っていた。それ以上に戦病者も膨大だった。南京攻略戦に20万人の陸軍を投入し、「首都南京を占領すれば中国は屈服する」はずだったのに、失敗してしまった。ゴールの見えない長期戦・消耗戦に、陸軍はこれ以上の負担と犠牲を蒙るのを回避しようとしたのである。
これに対して海軍首脳は、日本という国の運命より、日中戦争に乗じて海軍臨時軍事費を存分につかって、仮想敵のアメリカ海軍・空軍に勝てる艦隊戦力と航空兵力をいかに構築するのかばかりが関心事だった。本当に無責任きわまりありません。海軍は平和派なんて、真っ赤なウソなのです。
1938年末、日本の動員兵力は陸軍で113万人、海軍で16万人、合計129万人。このうち中国に派遣されたのは関東軍をふくめて96万人に達していた。
1939年7月のノモンハン戦争において日本軍は圧倒的な近代兵器を大量に駆使するソ連赤軍に惨敗してしまった。戦死傷者は2万人近い。
敗戦の責任をとって関東軍のトップは更迭された。ところが強硬論によって関東軍を泥沼の苦戦に引きずり込んだ作戦参謀の服部卓四郎中佐や辻政信少佐は、やがて東京の参謀本部の作戦課長、作戦班長に就任し、アジア太平洋戦争開戦の推進者となった。
まことに無責任な軍幹部たちです。そして、服部卓四郎は戦後は戦史研究者として長生きしています。この服部史観は海軍を擁護する俗説を広めました。
1940年8月、八路軍が百団大戦を開始した。このころ、八路軍・新四軍は60万人、民兵は200万人。解放区の人口は4000万人に達していた。日本軍は八路軍の戦力を軽視し、分隊単位で高度分散配置していたので、八路軍は、道路・鉄道の各所を破壊して分断したうえで奇襲攻撃をかけた。
百団大戦は、日本軍(北支那方面軍)の八路軍に対する認識を一変させ、その作戦方針を転換させる契機となった。主敵が国民政府軍から共産党軍に移っただけでなく、軍隊を相手にすることから、抗日民衆を相手にする戦闘に変化していった。
百団大戦後、日本軍は「正面戦場(国民政府軍戦場)」と「後方戦場」(敵後戦場)(共産党軍戦場)という二つの戦場での戦闘を強いられるようになった。
1943年2月のガタルカナル作戦を立案した参謀本部の主役は田中新一作戦部長、服部卓四郎作戦課長、辻政信作戦班長だった。
「海軍は陸軍にひきずられて太平洋戦争に突入した」という俗説があるが、真実は、その逆だ。海軍は日中戦争を利用して仮想敵である対米決戦に勝利するために軍備と戦力を強化し、南進政策に備えた。
日中戦争のおぞましい実態、軍部指導部の無責任さが如実に描写・分析されている労作です。広く読まれることを願います。
(2017年7月刊。)

父の遺言

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 伊東 秀子 、 出版  花伝社
規律正しく、仁慈の心をもつ日本人が中国大陸で虐殺したなんて真っ赤な嘘、だと真顔で言い張る日本人がいます。そんな人と、それを聞いてそうかもしれないと思っている人にはぜひ読んでほしい本です。
日本内地では善良な夫であり、優しい父親だった日本人が中国大陸に渡ると、罪なき中国の人々を殺害し、女性を強姦しても何とも思わない「日本鬼子」に変貌してしまうのです。恐ろしいことです。戦争が人間を殺人鬼に変えてしまいます。そこには、殺さなければ、自分が殺されるという論理しかないのです。
著者は国会議員になったこともある北海道の女性弁護士です。私より先輩ですが、今も元気に現役弁護士として活動しています。その父親が憲兵隊に所属していて、かの悪名高い七三一細菌部隊へ44人もの中国人を送ったのでした。その全員が石井四郎中将の率いる七三一部隊で人体実験の材料とされ、なぶり殺されてしまいました。
「日本鬼子」の非道さには言葉も出ません。戦後、父親は中国軍に収容され裁判にかけられます。しかし、死刑にならず数年の刑務所生活を経て日本へ帰国してきます。そして、日本では、昔のように好々爺として孫たちと接するのです。同時に、罪の償いをしなければいけないと子どもたちに伝えたのです。
著者は、その父親の思いをしっかり受けとめて生きてきました。
著者の父親は、満州にあった憲兵隊司令部に勤務し、満州各地で憲兵隊長をつとめた。著者の母親は、満州での特権的な暮らしに否定的だった。「よその国を占領し、中国の人たちを『満人』と呼んで奴隷のようにこき使い、特権的な生活をするなど、日本のやっていることはどこかおかしいといつも思っていた」
父親は中国で禁錮12年の刑期を終えて、1956年に日本へ帰国した。56歳だった。
父親は著者に対して、中国で裁判を受けた45人は、みな死刑になって当然のような残虐非道な戦争を指揮した者ばかりだったのに、誰も死刑・無期刑を受けなかったと語った。
大和民族の優秀さを示すために、中国人はダメだ、朝鮮人は下等だと、いつも民族に序列をつけていた。
中国人の1人や2人を殺したって、どうってことはない。どうせチャンコロだ。そんな大それた考えをもっていた。
中国では、日本に帰って共産主義を広めろと言われたことはない。そうではなくて、日本に帰ったら、平和な家庭を営んでください、それだけだった。すごいですね。泣けてきますよね・・・。
「戦争は、あっという間に起こり、起こったら誰も止められない。それが戦争というものだ」
「どんな真面目な人間でも、戦地では平然と人を殺し、他人の物資を奪い、女を見れば強姦する」
「戦局が不利になると、指揮官も兵隊もますます狂っていく。強気一辺倒になる。いま思えば、自分もそうだった」
Jアラートが鳴り響くなかで、恐怖心があおられ、「無暴なことをする北朝鮮なんか、やっつけろ」の大合唱が起こりつつあります。まさしく権力者による戦争誘導が今の日本で起きて、進行中です。私たちはもっと冷静になって、足元を見つめ直すべきではないでしょうか。
この本は、そんなカッカしている頭を冷ます力をもっています。ぜひ、ご一読ください。
(2016年8月刊。1700円+税)

危機の現場に立つ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 中満 泉 、 出版  講談社
いま国連で大活躍している日本人女性です。現在の肩書は国連軍縮担当事務次長・上級代表で、先日の国連総会では核兵器禁止条約の成立を国連の側で支えて活躍しました。スウェーデン人の外交官と結婚し、二人の娘さんは高校生と小学生。日本語、スウェーデン語、そして英語、フランス語ができるようです。頼もしい限りです。
早稲田大学を卒業していますが、途中でアメリカのジョージタウン大学に学び、国連での活動を志したようです。大学生のころから世界に目を向けていたことにも驚かされますが、なによりその行動力には敬服します。
そして、国連に入ってからは国連難民高等弁務官事務所に働くようになり、ユーゴスラビア・サラエボの「民族浄化」作戦の真只中に飛び込み、現地の軍指導者と激しくやりあったのでした。恐るべき土根性です。そして、アフリカに渡ったあと、スウェーデン人外交官と結婚し、出産、子育てし、再び国連へ・・・。その間に、日本では大学教授にもなっています。
これまでに世界115ヶ国に出かけたというのですから、さすがのアベ君も真っ青ですね。
国際的に活躍する日本人女性としては緒方真子さんが有名でしたが、今では著者がバトンを受け継いでいるようです。
私は電車に乗っている1時間で、息もつかさず集中して読了したところで終点到着となりました。叩きのめされて声が出ないほど圧倒されたのです。
いま、世界中で6000万人以上の人々が第二次世界大戦直後と同じように家を追われて避難生活を送っている。これは、世界各地で、今も戦争が絶えないことによる。
国連で仕事を始めるときに重要なことの一つは、良い上司の下につくこと。
仕事をするうえで重要なことは「誠実さ」。正直に努力を重ねて、ときには苦しみ悩みながら、自分のもっているモラル・コンパス(論理基準)を磨き育て、それを使っていろいろなことを判断し、日々、仕事を積み重ねていく。
分からないことは分からないとすぐに正直に言う。軍人に対しても、考え方や仕事のやり方に違いがあることを臆せずはっきり言う。そのうえで歩み寄る方策を考える。
イタリア軍の食事が各国の軍隊と比べると一番おいしい。フランス軍の食事には、ワインだけでなく、食後のコニャックまでついている。
軍隊と人道支援機関が一緒に活動するのは難しいもの。
国連の「中立」とは、紛争のどの当事者にも偏らないという意味の中立性。これって、現地ではなかなか難しいと思います・・・。
国連PKOで重要なのは、現場レベルでの「抑止力」、つまり暴力を起こさせない力。国連PKOは必要最小限の武力しか行使しないが、そのためには、もし必要なら武力行使をためらわないという明確な態度表明が常に必要だ。タマは一発も撃ちませんでは、攻撃してくださいというメッセージを送ることになる。この微妙なバランスが難かしい。たとえば、国連PKO部隊の兵士は反撃するにしても、なるべく下半身を狙う訓練を受けている、とか・・・。
著者は福岡の小学校にも通っていたそうです。
「母ちゃん大好き、愛してる。世界をたのむ」とは、著者への娘さんからのメッセージです。すごくいいメッセージですね。しっかり子育てしていることが伝わってきます。
いやあ、日本女性って、実に勇敢ですね、ほれぼれしてしまいました・・・。ぜひ、多くの日本の若者に世界平和のために続いてほしいものです。
(2017年7月刊。1400円+税)

なんで「あんな奴ら」の弁護ができるのか?

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 アビー・スミス、モンロー・H・フリードマン 、 出版  現代人文社
「あんな奴は、さっさと死刑にしてしまえばいいんだ」
「悪いことした人間の弁護人って、むなしいでしょ・・・」
日本でも多くの人が口にする言葉です。それはアメリカでも同じ状況です。そして、アメリカには、これに露骨な人種差別、階級差別が加わります。
全人口の1%近い200万人以上のアメリカ人が現在、刑務所または留置場に収容されている。このほか、少年収容施設に10万人の少年が入っている。
執行猶予または保護観察になっている人も含めると、700万人を優にこえる。
アフリカ系アメリカ人は人口の12%でしかないのに、薬物犯罪で逮捕される者のうち34%を占め、薬物犯罪のために州刑務所に収容されている人の45%を占めている。
今日うまれたアフリカ系アメリカ人男性の3人に1人が生涯のどこかの時期で刑務所に入る運命にあり、ラテン系アメリカ人男性は6人に1人が刑務所に入る運命にある。これに対して、白人男性ではわずかに17人に1人である。若い黒人の半数以上が、刑務所にいるか執行猶予中か保護観察中である。
アメリカの連邦の学生ローンは、少年時代の薬物犯罪という軽罪であっても、一定の有罪判決を受けた者には認められない。
両親不在のときにエクスタシーの錠剤をのみ、コカインを鼻から吸収していた裕福な家族の子どもは逮捕されない。路上で大麻を吸っていた貧しい家庭の子どもは逮捕される。
貧しい家庭の非白人の子どもは白人の子どもとは別の不利益が課される。彼らは犯罪者としてのレッテルを貼られ、番号をつけられ、法制度のなかで一緒くたにされる。家族から引き離され、生活は破壊される。
恥ずべきは、金持ちが熱心な弁護を受けることではなく、貧困者や中間層が熱心な弁護を受けられないことである。
今日では、共産主義は脅威ではなくなったので、共産主義者を弁護することは普通になった。しかし、テロで訴追されたイスラム教原理主義者を弁護することは評判が悪い。
自由社会では、政府の圧倒的な権力に対するカウンターの存在が不可欠である。なぜなら、権力は、それを行使する人によって容易に濫用されるからである。
死刑囚に実際に面会してみると、決して怪物ではないことが分かる。会う前は荒くれ者で、攻撃的で、恐ろしい人たちだと考えていたが、実際には、礼儀正しく、親切ですらあった。
ミシシッピー州の死刑囚の多くが黒人で全員が貧困層の出身であった。
殴って虐待する母親についていくよりも、レイプする父親と暮らすことを選択した娘、罰として子どもたちに水を与えない養親、憎しみのあまり小さな子どもをムチ打つ親、ティーンエイジャーにもならないのに、食べ物を得るために売春する子どもたち。学校にあがる6歳の子どものための服が断然必要なのに、なけなしのお金でコカインを買ってしまう親・・・。
刑事弁護人は依頼者を信じなければならない。依頼者の人間性、尊厳、経験、奮闘を信じるのだ。依頼者を嫌ってはいけない。弁護人は、やる気とあわせて深い技術を身につけておかなければならない。
私たちが弁護を担う特権を有している依頼者たちが、変わった人であるとか恐ろしい人であると示唆するような行動をとることは、弁護人の援助を受ける権利とアメリカの民主的理想とを損なうものだ。
「あんな奴ら」を弁護するのは、「あんな奴ら」とは我々のことだから・・・。
アメリカの高名な刑事弁護人が、なぜ「悪い人間」の弁護をするのか、自らの体験を通して語っていて、とても説得的です。法制度の違いは多少ありますが、日本の弁護士(人)にも大いに役立つ内容になっています。司法試験に合格したら、早速、読んでほしい本の一つです。
(2017年8月刊。3200円+税)

老人一年生

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 副島 隆彦 、 出版  幻冬社新書
私たち団塊の世代が古稀の世代に突入しつつあるなかで、身体のあちこちが悲鳴をあげている人が目立ちます。私も、ほんのちょっとしたことで先日来、膝が痛くてたまりません。
この本は、私たちより少し年齢(とし)下の著者が老人とは何かを端的に表現していて、なるほど、そうだよねと深く大きくうなずいてしまいました。
老人とは何か。それは、痛いということ。老人は痛いのだ。
としをとると、あちこち体が痛くなる。老人になるとは、体があちこち順番に痛くなることなのだ。誰もが老人痛になる。それが運命だ。老人病は治らない。体のどこが悪くなるかは、その人の運命だ。その運命を運命として引き受けるしかない。自分の体を医師に丸投げせずに、病気と向き合いながら、その時その時、自分自身で対処していくしかない。
著者はビールを飲むのをやめて焼酎党になったとのこと。私も同じです。ビールはもう5年以上も前に飲むのを止めました。今も、焼酎の水割りを飲みながら書いています。20度の焼酎を10倍以上に水がわりに薄めて飲んでいるのです。もちろん冬は、お湯割りです。
著者は鍼灸師に月に2回通っているとのことです。子どもが身近にいたら、私も鍼灸をしてもらいます。ツボに温灸をすえるのも気持ちのよいものです。すっきり、しゃきっとした効果があります。そして、膝の痛みには全身マッサージをしてもらいます。血行を良くするのです。昔、膝にヒアルロサンの注射を打ってもらったことがありますが、注射は怖いので、1回だけでやめました。
虫歯はありませんが、一本だけ差し歯にしています。目は白内障の徴候があると診断されています。耳は聞こえにくくなりました。
著者の薬嫌いは徹底していて、高血圧なのに血圧を下げる薬を飲んでいないそうです。私も基本的に薬は飲みません。皮膚科の軟こうはすぐに塗りますし、目薬もよく目にさしますが、飲む薬はほとんど飲みません。
老人になるとは、どういうことなのかを同世代の人々に分かりやすく説明した本でした。
(2017年5月刊。760円+税)

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