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2017年10月 の投稿

アフガン・緑の大地計画

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 中村 哲 、 出版  石風社
著者は福岡県人の誇り、いえ、日本の宝のような存在です。今なお戦火の絶えないアフガニスタンで、砂漠を肥沃な農地へ変えていっている著者の長年にわたる地道な取り組みを知ると、これこそ日本がやるべきことだと痛感します。
残念なことに現地に常駐する日本人は著者ひとりのようですが、一刻も早く日本の若者たちが現地の人々と交流できるようになってほしいものです。
この本を読むと、砂漠地帯に水路を開設することの大変さが写真と図解でよく理解できます。日本から最新式の大型重機を持ち込んだら工事は速く進捗するかもしれませんが、その管理と保全策を考えると、現地にある機材をつかい、現地の人が技能を身につけるのが一番なのです。その点もよく分かります。
それにしても著者の長年の現地でのご苦労には本当に頭が下がるばかりです。すごいです。養毛剤の使用前と使用後の比較ではありませんが、砂漠で防砂材の植樹を開始したころ(2008年)と現在の緑したたる農場の二つを見せられると、涙がついついこぼれてきます。
農場で育つ乳牛でチーズをつくり、サトウキビから黒砂糖をつくる写真を見ると、これこそ平和な生活の基礎をなすものだと思います。アフガニスタンは、今は砂漠の国と化していますが、本来は豊かな農業国なのですね。水さえあれば、なんとかなるのです。
ところが、急流河川が多く、真冬の水位差が著しい。山麓部にある狭い平野で集約的な農業が営まれているというのがアフガニスタンの特徴。干ばつが起き、ときに大洪水が襲う。
重機やダンプカーをつかってコンクリートの突堤を築いても、その場は良いかもしれないが、長期間もつ保証はない。また、コンピュータ制御は、まともに電気がこない地域なので、無理。そこで登場するのが、福岡の取水堰の経験なのです。
この計画の全部が完成したら、耕地面積1万6500ヘクタール、60数万の農民が生活できるうえ、余剰農産物をアフガニスタン各地へ送ることができる。なんとすばらしい計画でしょうか。日本政府も財政的な後押しをすべきだと私は思います。
著者が現地の人々と一緒に苦労して水路を開設して農地をよみがえったおかげで、ジャララバード北部4郡は、抜群に治安が良いとのこと。ケシ栽培も皆無。食べ物を自給できる。ところが、ジャララバード南部は耕作できないため、多くの失業者を生み出した。現金収入を求めて、やむなく兵士、警察官、武装勢力の傭兵になっていく。治安は過去最悪となっている。やはり、生活が安定しないと、暴力抗争も発生してくるのですよね。
アフガニスタンの農村はかつての日本のように、強い自治性をもっているようです。
したがって、国家的な管理・統制はあまり効かないのです。援助するにしても、現地の自主性を尊重しながらすすめるしかありません。そこを、著者たちは長年の行動で強固な依頼関係を築きあげているのです。
この15年間の歩みが豊富な写真と解説によって私のような土木素人にもよく分かるものになっています。著者が、今後とも身体と健康に留意されてご活躍されることを同じ福岡県人として心より願っています。一人でも多くの人に読んでほしい本です。
(2017年6月刊。2300円+税)

パパは脳研究者

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 池谷 裕二 、 出版  クレヨンハウス
脳を研究する科学者が我が子の成長過程を刻明に記録していて、とても面白い本です。
オキシトシンは、子宮を収縮させるホルモンで陣痛促進剤。ところが、脳にも作用し、相手を絶対的に信じ、愛情を注ぐためのホルモン。
赤ちゃんに大人が話しかけるときには高い声になる。マザーリーズと呼ばれ、世界共通。音程の高い声で話しかけると、乳児はよく反応する。
乳児に話しかけをしないで育てようとしても、3分の1は死んでしまうというデータがある。それほど人間の脳は食欲と同じく、関係性欲求の本能が強く備わっていて、他人とのコミュニケーションを本能的に欲する。
胎児に音楽を聴かせると、生まれてからも曲を覚えていることが証明された。
新生児は、母親の胸部のにおいを自分の母親以外の人と区別することができる。
赤ちゃんは、生後4ヶ月ころ、テレビに映っている人と、実際の人とを区別できる。
IQ(知的指数)は、生涯あまり変化しない。しかし、知能は、教育によって高まる。
記憶は、正確過ぎると実用性が低下する。いい加減であいまいな記憶のほうが役に立つ。一般に記憶力のいい人ほど、想像力が乏しい傾向がある。記憶力のあいまいさは、想像力の源泉だ。
イヤイヤ状態に入ったら、娘を抱いて鏡の前に連れていき、「ほら、泣いている子がいるよ」と鏡を見せる。「泣いているのは誰?」と話しかける。鏡を通じて自分を客観視させる。
1歳10ヶ月になるとウソをつく。ウソは認知的に高度な行動で、高度な認知プロセスだ。
イヤイヤ期は、人間形成に本当に必須なプロセスなのか、科学的には証明されていない。しかし、成長過程から考えると、子どもが「どこまで求めたら、限界にぶつかるのか」を経験を通して学ぶ機会になっているのは間違いない。
胎児は、無用なほど過剰な神経細胞をもって生まれる。そして、3歳ころまでに神経回路の基礎をつくり、必要がないものを捨ててしまう。
ヒトの神経細胞は、もともともっていたのを100%とすると、3歳までに70%が減り、30%が残る。不要な神経細胞はエネルギーをムダに消費するので、捨ててしまう。その後は、この30%だけで生涯を貫く。つまり、どの神経細胞を残すかが決まるのは3歳まで。3歳までのあいだに、あれこれと刺激を受けて、これは大切だから残す、これは不要だから捨てると判断している。
3月生まれと4月生まれには差はない。知能の劣等感は十分に克服できる。早くから教育を始めても、必ずしも有効ではない。
幼児教育では、知識の詰め込みよりも大切なことがある。自然や実物に触れる「五感体験」、忍耐力。物事を不思議に思う疑問力や知識欲。筋道を立てて考える論理力。本来のことや他人の心の内などの見えないものを理解する推察力、そして適切に判断する対処力。多角的な解釈を可能にする柔軟性、自分の考えを伝え、人の考えに耳を傾ける疎通力なども大切な養成ポイント。
ストレートにほめるのは禁じ手。えらいね、上手だねと何度もほめるよりも、すごいな、面白いねと、成果そのものを一緒に喜ぶようにする。
さて、マシュマロ・テストに挑戦しましょう。マシュマロを見せて、15分間ガマンしたら、もう1個マシュマロをあげるよと言って、子どもを何もない部屋に1人にして様子をみるのです。何もない部屋ですから、手もちぶさたで、退屈です。目の前にはおいしいマシュマロがあります。15分間、マシュマロを食べずにガマンできたら合格。4歳で合格するのは全体の30%この3%は、大人になっても好ましい人生を送る傾向がある。
私は、そんな自信はありません。年齢(とし)とった今なら、ガマンできる自信はあるのですが・・・。もう遅いでしょうか。
(2017年8月刊。1600円+税)

ザック担いで、イザベラ・バードを辿る

カテゴリー:日本史(明治)

(霧山昴)
著者 「日本奥地紀行」の旅・研究会 、 出版  あけび書房
名古屋大学ワンダーフォーゲル(ワンゲル)部のOBが明治11年のイギリス女性の東北・北海道旅行の行程をたどってみました。参加者はのべ109人、23泊34日、東北から北海道までをザック担いで歩いたのです。すごい企画ですね。うらやましいです。メンバー表をみると、私たちの団塊世代の少し前の世代のようです。
イザベラ・バードが歩いた明治11年(1878年)というのは、西南戦争が明治10年ですから、その翌年ですし、明治になってまだ10年しかたっていない農村地帯だったので、ほとんど江戸時代そのままだったことでしょう。その街道の多くは今では主要国道になっていますので、そのまま歩いたのでは危険をともないます。そこで、名古屋大学ワンゲル部OBは、時代に取り残された峠道を丹念に拾って歩いたのです。
大内宿は、今も江戸時代へタイムスリップできることで有名です。私もぜひ行ってみたいと考えています。イザベラ・バードが泊まった「問屋本陣」が今も残っていて、土産物屋になっているとのこと。築300年以上だそうです。
イザベラ・バードが休憩した茶屋で、水しか飲まなかったところ、お金を受けとろうと、しなかったという話も紹介されています。「律義で正直」な日本人がいたのですね・・・。
マタギの郷(小国町)では、熊肉がキロ1万円以上で売られているとのこと。高級和牛並みの値段です。熊皮は7万円から10万円もします。すごい高値です。
イザベラ・バードが東洋のアルカディアと命名したのは米沢平野。ここは台風も地震もなく、雪さえ我慢すれば非常に住みやすいところ」、とは地元の人の言葉。
イザベラ・バードは明治11年当時、47歳の独身の「おばさん」でした。そして、日本には合計5回やって来ています。1904年に72歳でイギリスで亡くなりました。
同伴者の伊藤鶴吉は18歳で、実践的な英語力がありました。英米の公使館でボーイとして働いたことがあったからです。とても有能な通訳・随行者だったようです。
マンガでイザベラ・バードを紹介している本があるようですね。ぜひ読んでみましょう。
(2017年9月刊。2200円+税)

西郷隆盛

カテゴリー:日本史(明治)

(霧山昴)
著者 家近 良樹 、 出版  ミネルヴァ書房
2018年のNHKの大河ドラマで主人公として取り上げられる西郷隆盛の実像に迫った本です。なんと本文だけで550頁もある大著です。それだけの分量をもってしてもまだまだ十分に西郷隆盛なる偉人を十分に分析しきれていないのではないかという感想をもちました。
著者は本書の最後で、次のように西郷像をまとめています。
たしかに豪傑肌で、これ以上ない大役を与えられても見事に演じきれるだけの力量のある千両役者だったが、その反面、律義で繊細な神経の持ち主だった。そして、そのぶん、苦悩にみちた人生を歩み続け、最後は城山で悲惨な死を迎えざるをえなかった。
西郷は、多情多感ともいえるほど情感の豊かな人物で、人の好き嫌いも激しく、しばしば敵と味方を峻別し、敵を非常に憎むこともある人物だった。つまり、西郷は完全無欠な神のような人物ではなく、人間臭く親しみのもてる人物だった。西郷は人を激しく憎むことができるほど他人と深く関われたぶん、愛されることも多かった。
幕末の上野戦争、つまり上野での彰義隊との戦争で西郷は作戦の陣頭指揮をとった。事前に十分な準備をしていたことから大勝利を収めた。このとき、従軍看護婦が活躍したが、西郷はその処遇について細かく指示した。また、爆薬を運搬する臨時雇いの軍夫の給金を7日文ごとにきちんと支払うよう指示したり、こまごまと具体的に指示している。
このように西郷の実際は、のほほんとした無頓着な人物ではなかった。
それに続く戊辰(ぼしん)戦争において薩摩藩の仇敵ともいうべき庄内藩が降伏、開城したあと、西郷は残酷な仕返しを禁じ、寛大で平和的に処遇した。西郷は、相手が白旗を掲げれば許すという考え方の持ち主だった。
この寛大な処遇が西郷の指示によるものだと知った庄内藩の人々は、西郷に対して敬愛の念を抱き続けた。明治3年には、旧藩主が70人を連れて鹿児島に行き、数ヶ月間も兵学の実習を受け、西郷に教えを乞うた。
西郷隆盛は若いころは、180センチの長身だったが、やせてスマートでもあった。太ったのはストレスによるものだった。
西郷は、若いころ、はじめは赤裸々に自分の感情を相手にぶつけていたが、次第に本心を心の奥深くにしまって対応することが再上洛後は格段に多くなった。西郷は計算高い男だった。西郷は苦しい状況下になればなるほど、めげることなく強気の姿勢に徹した。
そして、冷静な現状分析から対策を講じた。西郷は策略家としての本性を発揮した。西郷は、事前に対策を綿密に立てるのがすこぶる好きな人物だった。そして、それは常識的な判断の下になされた。自分のところに集まってきた各種の情報を客観的に理詰めに分析し、そのうえで相手の意表に出るのを得意とした。
廃藩置県は日本史上でも指折りの転換点だったが、これも西郷の積極的な同意によって初めて実施が可能になったものである。
では、なぜ西郷は十分な準備もなく西南戦争を始めてしまったのか・・・。そして、途中で止めなかったのか・・・。大いに疑問です。
西郷隆盛には5人もの子どもがいたようです。その子孫は今も健在なのでしょうか・・・。弟の西郷従道のほうは子孫がいると思いますが、隆盛の直系の子孫がいるとは聞いたことがありません。どなたか教えてください。西郷隆盛の実像に迫った興味深い本です。
(2017年8月刊。4000円+税)

弁護士日記 タンポポ

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 四宮 章夫 、 出版  民事法研究会
倒産法の分野で高名な大阪の弁護士が日記を本にしたものです。これが3冊目です。
この本を読んで、著者が私と同じ年に生まれていることを知りました。私と違って、8年間の裁判官生活のあと、弁護士になっています。ですから私と同じ団塊世代です。
団塊世代について、「団塊の世代こそ、戦後の一時期、花開いた民主主義を満喫できた、幸せな時代を生きた世代であった」としています。なるほど、そうなのかもしれないと私も思いました。ただ、「幸せ時代」を団塊世代が独り占めしてはいけないとも考えます。やはり、後の世代になんとかして平和な時代を受け継がれるようにするのも団塊世代の義務ですよね。
その点、著者はこの日記のなかで、いくつも需要な指摘をしています。
日本は急激に貧困化している。日本の格差社会は国際金融資本から強制された構造改革がもたらしたもの。日本の富裕層が、グローバル資本の圧力を追い風として、自民党政府に対して構造改革の推進を迫り、積極的に自らの所得の拡大を図り、その結果、日本の格差は拡大した。
金持ち優遇税制は、所得税と住民税の最高税率が1986年に88%だったのが、1994年には65%、2006年からは50%というようにあらわれている。1億円以上の報酬を得ている会社役員が408人もいる。
新自由主義と呼ばれる経済運営の手法は、経済規模を拡大し、資本家を喜ばせるだけの政策にすぎず、もたらされる利益が労働者に還元されるというのは誇大宣伝にすぎない。
連合(日本労働組合総連合会)は、「高プロ」に同意するなど、全国の労働者を裏切っている。
以上のような著者の指摘に、私はまったく同感です。
ロータリークラブの会員が1997年に13万人だったのが、2015年に9万人にまで減っているというのを初めて知りました。これも日本の中小企業の衰退を反映しているのではないでしょうか・・・。
著者は、裁判所、調停委員に対して苦言を呈しています。この点も、私は同感するところがあります。裁判所は伝統的に権力と大金持ちに甘いですが、今も同じです。
家庭裁判所の裁判官の劣化は著しい。調停委員にしても、当事者の主張に十分に耳を傾けず、自分の意見を押しつけようとするばかりだ・・・。
著者は最高裁長官が司法権の独立を自ら踏みにじっていたことを厳しく批判しています。私も前に指摘している田中耕太郎のことです。
田中耕太郎は自衛隊違憲の判断をした伊達判決をひっくり返すためアメリカ大使と面談し、その指示を受けて、裁判官の評議内容まで全部もらしていたのです。この事件ではアメリカは実質的な当事者ですが、その一方当事者から判決内容についてことこまかく打合せ(実際には指示されていた)をしていたというわけです。こんな男が最高裁判官だったというのですから軽蔑するしかありません。まさに唾棄すべき男です。今からでも遅くありません。最高裁長官だったことを取り消すべく、何らかの措置を今の最高裁長官はとるべきです。そそて、国民に向かって謝罪すべきです。それは、ハンセン病患者の法廷を非公開でしていたことについて、その非を認めたのと同じ措置をとるべきだということです。やろうとすればやれないはずありません。なにしろアメリカ政府側の公文書公開によって明らかとなった事実なのですから。そのような措置をとらない限り、今の最高裁には司法権の独立を唱える資格はないということになります。
著者は6年前に電車に乗っていて脳梗塞の発作を起こしたとのことです。幸い後遺障害がないので、本書のように書くことも弁護士の仕事も出来ているとのこと。これからも健康に留意されて活躍されんことを心より祈念します。
(2017年10月刊。1300円+税)

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