法律相談センター検索 弁護士検索
2017年9月 の投稿

紫式部日記を読み解く

カテゴリー:日本史(平安)

(霧山昴)
著者 池田 節子 、 出版  臨川書店
「源氏物語」の紫式部より、「枕草子」の清少納言のほうが10歳ほど年長と推測される。「蜻蛉(かげろう)日記」の道綱母は、紫式部より40歳ほど年長である。
「源氏物語」の作者である紫式部とは、いったいどんな女性だったのか・・・。
「紫式部日記」は、紫式部による宮仕え生活の記録。しかし、これは、通説の言うような公的な記録ではなく、第三者的な見聞録にすぎない。
紫式部の娘(大弐三位)は後冷泉天皇の乳母になった。天皇の乳母になることは、中流貴族女性にとって最高の出世である。つまり、紫式部は、女手ひとつで娘を心確かな女性が選ばれる天皇の乳母に育てあげた。
紫式部は、「おっとりした人」のふりをしていたのではないか・・・。
紫式部は21歳で結婚しているが、当時の女性としては結婚が遅かった。
ええーっ、21歳の女性で晩婚とは、信じられません・・・。
紫式部と藤原道長とのあいだに男女関係があったとしても、それは召人の関係にすぎなかった。紫式部は道長の訪問を受けて、うれしかった。悪い気がしなかった。それは、女としてうれしいというだけでなく、道長からサービスされる自分、女房として大切に思われていることへの喜びもあった。
「源氏物語」をもう一度じっくり読み返してみたいと思わせる本でした。
(2017年1月刊。3000円+税)

アルカイダから古文書を守った図書館員

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 ジョシュア・ハマー 、 出版  紀伊國屋書店
西アフリカのマリ共和国の都市トンブクトゥは、古くからコーラン学校やモスクが存在する学術都市だ。そこに保存されてきた古文書がアルカイダによって廃棄される危険が迫ったとき、図書館員たちが身を挺して守り抜いたという実話も紹介した本です。なにより、アフリカの古都に大量の古文書が保存されていたというのが驚きです。
本に使われる紙は、ぼろ布を原料としていた。インクと染料は、砂漠の植物や鉱物から抽出された。本の表紙は、山羊や羊などの革からつくられた。当時は製本術が伝わっていなかったので、リボンや紐できつくしばっていた。
先日、太宰府の国立博物館でラスコー展をみてきましたが、2万年も前に、今も鮮やかに残る顔料で色彩豊かに牛などが描かれているのに圧倒されました。やはり、古いものは、きちんと保存すべきですよね・・・。
トンブクトゥの書物のなかには、男女の性の喜びを最大限に高めるための秘訣を伝えているものがあるそうです。驚くほかありません。
トンブクトゥは、からからに乾ききっているから、古文書が残った。ナイジェリアのような蒸し暑い地域だったら、とっくの昔に台無しになっていた。
トンブクトゥは、アラビア語の古文書保存の世界的な中心地のひとつとして復興している。町全体で38万冊もの古文書が収蔵・保存されている。
アルカイダの武装勢力は、貴重な古文書をバーミヤンの仏像と同じく敵視していますから、見つかったらすぐにも破壊されてしまいます。そこで、大量の古文書を避難させる作戦が始まったのでした。
貴重な古文書を後世に伝えるのは、今を生きる私たちの当然の責務だと思います。アフリカの地で大変な苦労があったようですが、とりあえず、めでたしめでたしの結果だったようで、ほっとしています。それにしても、文字の解読には苦労しなかったのでしょうか。
(2017年6月刊。2100円+税)

現代史とスターリン

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 不破 哲三、渡辺 治 、 出版  新日本出版社
この本を読んで、スターリンという独裁者は、ナチス・ドイツの独裁者ヒットラーと同じレベルの最悪・最凶の人物だったとつくづく思いました。
たとえば、朝鮮戦争が始まったとき、国連の安保常任理事会にソ連代表は欠席したわけですが、これまで私はなぜなのか不思議でした。この本によると、スターリンは、アメリカを朝鮮半島で戦争に巻き込みたかったのです。それは、アメリカがソ連との間で二正面作戦をとることにつながり、それだけソ連への直接的な圧力が弱まることを狙ったというのです。アメリカとソ連がヨーロッパで直接対決する事態が生じないように、「第二戦線」をアジアにつくる狙いがあったわけです。
毛沢東も、スターリンの思惑を承知して、新生中国の力を見せつけるべく大量の人民義勇軍を朝鮮半島に送り出したということなのです。
うひゃあ、そうだったのか・・・、そんな驚きに満ちている本でした。
そして、ヒトラーによるナチス・ドイツ軍の電撃的なソ連侵攻をスターリンが最後まで信じなかったのは、スターリンはヒトラーと手を組んで、世界を独・伊・ソ連そして日本の四ヶ国で再分割しようという、ヒトラーの謀略的誘いに騙されていたからだというのです。ヒットラーのほうが、スターリンより騙しの役者の点では一枚上だったというわけです。
ところで、この本は、スターリンがヒトラーの侵攻で不意打ちを喰って1週間ほど雲隠れしていたという説をとっていません。ええっ、本当でしょうか・・・。ヒトラーにすっかり騙されたスターリンが、しばらく気落ちしていたというほうが私にとって素直に理解できるのですが・・・。
フランス共産党がフランス人民戦線政府に参加していたら、もっと世の中はいいほうに変わっていたと思うのですが、スターリンは断平として、それを認めませんでした。フランスの進歩など、スターリンにとってはどうでもいいことだったのです。
そして、ポーランドです。スターリンは、ドイツと分割統治の秘密合意を成立させ、ポーランドの共産党を壊滅させ、反対しそうな知識層を一掃しようとしました。すべては、自分のソ連領土の拡張のためなのです。
いま安倍首相の下に内閣人事局が置かれ、警察官僚がトップにすわっています。トップが「一強」としてすべてを支配しているとき、身内びいきから腐敗が起こり、官僚政治がズタズタにされるという状況が日本で展開しています。これにメスを入れてたださないことには、完全な独裁政治体制になってしまうと思います。
大変知的刺激にみちみちた本でした。80歳をすぎても学問的に究明しようとする不破さんには心から敬意を表します。
(2017年6月刊。2200円+税)

私にはいなかった祖父母の歴史

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 イヴァン・ジャブロンカ 、 出版  名古屋大学出版会
ナチス・ドイツによるユダヤ人絶滅作戦によって殺されていったユダヤ人たちの生きざまを丹念な取材によって極力再現しようとしたフランスのユダヤ人歴史学者による力作です。
先日、天神の映画館でみた映画「少女ファニーと運命の旅」の背景にあった歴史的事実も紹介されています。
ユダヤ人住民の保護を組織する機関の一つ「アムロ委員会」は、フランスにおけるレジスタンス組織のなかではもっともはやい時期に成立した。「休暇学校」は、ユダヤ人の子どもたちを田舎に住まわせ、強制収容所に小包を送る。1943年来、500人のユダヤ人の子どもが隠れて生活していた。パリに近い、パリから300キロの範囲内。農村家族による受け入れが目立つ。受け入れ家族に頼り、子どもたちを分散させる。
そして、強制(絶滅)収容所におけるゾンダーコマンドが、これまた映画「サウルの息子」に描かれた状況ですが、詳細に再現されています。私は、ゾンダーコマンドが武器をもって反乱に立ち上がったこと、そして死体焼却棟を必死で爆破しようとしたことに深い感銘を受けました。人間の崇高さを感じ、頭が下がります。
1943年3月4日の晩に第49番列車から降ろされたユダヤ人は993人。そのうち男性100人と女性19人が選別され、残り874人は収容所に入ることもなく、ただちにガス室で殺された。彼らにとってアウシュヴィッツは、ただ殺害されるだけに降りた鉄道の終着駅だった。
1944年10月7日に起きたゾンダーコマンドの反乱は、第49番移送列車にいて選別された男性100人のうちの二人によって指揮された。この二人は、戦間期のパリで活動していたポーランド人組合活動家だった。
死体焼却炉をつくったトプフ社は、5台の焼却炉で1日につき1140体まで燃やすことできると言っていたが、実際には1日に1000「個」までいかなかった。それでも、トプフ社のナチ技師は自分の発明に大きな誇りをもって特許をとった。
ガス室から死体を引き出すのはユダヤ人からなる特別作業チーム「ゾンダーコマンド」。生き残った人は次のよう語る。
「一番ひどい瞬間はガス室を開けるときだった。あの耐え難い光景。人々は玄武岩のように押しつぶされ、固い石塊になり、なんとガス室の外に崩れ落ちてきた」
死体を焼くときには、人体の脂は燃焼を助けるが、「ムズルマン」と呼ばれる絶望した人々の死体を焼くときには体に脂がないので、コークス発生炉を運転させた。よく燃えなかった骨盤は取り出して砕く。
死体焼却炉で人々が焼かれる状況が描写されます。
「最初に火がつくのは髪の毛である。肌は気泡で膨れ、数秒にして破裂する。腕と脚はよじれ、血管と神経は引っ張られて四肢が動く。すでに体全体に炎がまわり、肌は破れて、脂が流れ出す。烈火の燃え盛る音が君にも聞こえるだろ。もう体は見えず、地獄の猛火が内側で何かを焼き尽くすのが見えるだけだ。腹が破裂する。腸や内臓が噴き出し、数分でもう跡形もない。頭は燃えるのに、もう少し時間がかかる。二つの小さな青い炎が眼窩の中で瞬いている。一番奥にある脳漿とともに燃え尽きていく眼だ。口の中では舌がまだ焦げている。全過程は2分続く。そして、一つの体、一つの世界が灰に帰す」
1944年夏。ハンガリーのユダヤ人絶滅のため、死体焼却炉はフル稼働し、このときゾンダーコマンドの人員は900人と最大になった。
1943年夏以降、ゾンダーコマンドの内部に抵抗の核が形成された。
1944年6月、ナチは反乱の計画を察知し、ゾンダーコマンドを昼も夜も死体焼却棟の中に閉じ込めた。
アウシュヴィッツの非ユダヤ人抵抗者は、できる限り長く持ちこたえるべきだと考える。それに対して、ゾンダーコマンドのユダヤ人は、自分たちがいつでも粛清される恐れがあることが分かっている。
レジスタンスたちは、外部のポーランド・レジスタンスと連携し、死体焼却棟における女性たちのガス殺の写真をとってひそかに外部へ送る。弾薬工場で働く女性たちが生命の危険を冒して渡してくれた爆薬を蓄えていく。
そして、1944年10月7日、パリ解放の1ヶ月半後、ゾンダーコマンドたちは決起した。大勢が収容所の外へ逃げていくとき、二人が残って死体焼却棟を爆破する。決起・反乱は失敗し、450人のゾンダーコマンドはナチによって処刑された。
指導者の一人は、収容所で起きたことを書いて、ガラス瓶に入れて地面深く埋めた。戦後になって発見され、活字になって紹介されたが、それは1970年代になってからのこと。
本書はフランス学士院賞をとったとのことです。思わず息を吞みこむほど、大変な迫力のある力作でした。
(2017年8月刊。3600円+税)

暴走する自衛隊

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 纐纈 厚 、 出版  ちくま新書
自衛隊は今日、世界有数の実力をもつ武力組織にまで成長している。24万人の自衛官から構成される自衛隊は、高度に組織化された専門職能集団でもある。自衛官は国家防衛を目標とし、きわめて強固な団結心で結ばれている。自衛隊を特徴づける高度な技術性・一体性という性質は、日本国内における諸組織のなかでも際だっている。
安倍首相は、本来なら「自衛隊は・・・」と言うべきところ、思わず「わが軍は・・・」と国会(参議院予算委員会)で答弁した。安倍首相は、自衛隊が名実ともに軍隊以外の何ものでもないと捉えていると思わせるに十分な発言だった。
自衛隊の正面装備を外観すれば、先進諸国の軍事大国の軍と肩を並べるに十分な質と量を備えていて、国際社会ではすでに「軍隊」として通用している。
2007年1月に、防衛庁が防衛省に昇格した。これは単独予算編成権を獲得したということ。
そして、事実上の文官統制廃止が実現した。
シビリアン・コントロールといっても、シビリアンなるものが稲田朋美のような、政治による統制に積極的に服従する、軍人以上のミリタリズムへの信奉者であったり、非妥協的で露骨な軍事政策を強行しようとする政治家であれば、ほとんど意味がない。
海上自衛隊は、陸上自衛隊と違って、旧日本軍の組織論や教育論がストレートに持ち込まれた。したがって、文民統制という政治による統制には、強い抵抗感を示してきた。
田母神論文は、自衛隊の国防軍化への強い要求があることを意味している。自主防衛・自主独立の志向がある。つまり脱アメリカへの転換を目ざす。
現行憲法を正確に読めば、自衛隊は明らかに憲法違反の存在である。
安倍首相の加憲論は、自衛隊の違憲性を払拭するだけだと言いつつ、実質的な国防軍化を目ざすものですから、まさしくアベ流ごまかし政治です。
自衛隊の本質は、効率的な大量人殺しを任務とする軍隊です。ところが、世間一般がそう思ってはいません。大災害のときにいち早く出動して被災者を救助する救助隊という善意のイメージが本質を見えにくくしています。そして、見えないものは存在しないことになるのです・・・。
(2016年2月刊。820円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.