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2017年7月 の投稿

裁判所の正体

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 瀬木 比呂志・清水 潔 、 出版 新潮社
元裁判官で現在は大学教授が、ジャーナリストに対して裁判所の内幕を明らかにした本です。
法廷に出る前に裁判官は黒い法服を着る。あれを着ることによって「人間」ではなくなる。一種の人間機械ともいえる。ところが、アメリカでは裁判官は少しえらい「普通の人」である。
家裁の裁判官は、身の危険を感じることが多い。当事者から、恨みを買いやすい。帰宅するときにあとをつけられたという裁判官もいる。
法廷にたくさん人が入っていると、裁判官は強権的な訴訟指揮をしにくいし、弁護士も主張・立証のあり方についてきちんとしてくるので、わずかでも見ている人がいる裁判は違ってくる。たくさんの人が継続的に傍聴にきている裁判では、それなりによく考えるというのは、まともな裁判官だったら、ありうること。たくさんの人が傍聴に来ていれば、より慎重に判断しがちだ。真面目にきちんと聞いている人が多いほど、まともな裁判官なら動かされる。人間は社会的動物だから。
裁判官の官舎は、裁判官を管理・隔離するうえで、非常に都合がいい。
裁判官の官舎には、必ずちょっと変な人がいて、非常に住みにくいところ。
裁判官は、そのときどきの自民党の中枢の顔色をうかがう傾向は強い。たとえば、夫婦別姓については、まさに「統治と支配」の根幹にふれ、自民党主流派の感覚にもふれるから、絶対にさわらない。
非嫡出子の相続分については、そんなに大きな問題ではないので、民主的にみえる方向の判断を下す。最高裁はそんなバランスをとっている。つまり、国際標準の民主主義にかなう判決はわずかでしかない。
日本の裁判官の多数派は「俗物」だ。エリート行政官僚と何ら変わらない。ただ、行政官僚よりも、はるかに伸び伸びできないので、陰にこもった人間が多い。
最高裁の裁判官になったあと、最近は、昔と違って、平気で天下りする人が多い。民間企業への天下りは、本当に節操がなく恥ずべきことなのに・・・。
多くの裁判官は、きわめて想像力に乏しい。
日本の裁判官は、権力そして時の世論に弱い。日本がどんどん悪くなっているとき、歯止めになる力がきわめて乏しく、それはごくごく一部の裁判官にしか期待できない。
裁判官の給料は、20年を過ぎると、出世レベルが上のほうだと2000万円に手が届くくらい。65歳で裁判官をやめるときには、家と土地があって、退職金をふくめて1億円くらいある。
裁判官の不祥事は、近年ふえている。2001年から2016までの16年間で10件の懲戒処分が公表されている。これは、実際に発覚した件数。
裁判所というのは、現実感が薄い。一種の精神的収容所なので、ものが見えにくくなる。裁判官の世界は、閉ざされて隔離された小世界である。いわば「精神的な収容所」である。外の世界から隔離されているので、価値観まで、おかしくなっている。裁判官って、本当に孤独。
裁判官は、期を中心として切り分けられ、競争をさせられる集団である。
裁判官の再任請求を市民ととも審査する。再任を拒否された裁判官は、年に4人、5人も出た。理由も告げられずクビになったということであれば、全体が萎縮する。その結果、能力に自信のない裁判官たちは、ひたすら上ばかりをうかがうヒラメになって保国を図ることになりやすい。
最高裁には人事評価の二重帳簿がある。絶対極秘の個人別評価書がある。
若くて能力の乏しい裁判官を中心にコピペ判決が増えている。裁判官の能力は下がりつつある。最近の若手裁判官は、大事務所を勝たせる傾向が強い。権力とか、力をもっているもののほうを勝たせる。国や地方公共団体、そして、大企業を勝たせようとする。
最高裁が裁判官協議で事務総局が局見解として打ち出したものをみて、裁判官は、非常に萎縮する。
著者の指摘には、一部これは違うというように違和感を覚えるところもありますが、全体としては、鋭く問題点をついていると思いました。
(2017年5月刊。1500円+税)
 キャナルの映画館で「ハクソーリッジ」をみてきました。日本軍は前田高地の戦いと呼ぶようです。
 宗教上の信念と子ども時代の苦い思い出から銃を持たないという「良心的兵役拒否者」が、結局、衛生兵として戦闘部隊の一員として戦地の沖縄に赴任します。平穏に上陸したかと思うと、地獄のような戦場に一変し、衛生兵が大活躍せざるをえなくなるのです。戦場のむごさ、残酷な現実が、嫌やになるほど再現されます。ノルマンディー上陸作戦を描いた「プライベート・ライアン」に匹敵するほどの凄惨な戦場シーンが続き、思わず身を固くして息をひそめてしまいます。
 上官たちが、戦争は人を殺すものなのだ、敵を殺すしか自分の身は守れないと喩すのですが、軍法会議にかけられても、自分の主張・信念を貫こうとするのです。
 自衛隊を軍隊にするとき、今でも実質は軍隊というものの、人殺しを経験していないという歴史上かつて存在したことのない軍隊ですが、「私は敵を殺したくない、捕虜にすればいい」と兵士が言いだしたら軍隊(自衛隊)はどうなるのでしょうか・・・。
沖縄戦については、「シュガーローフの戦い」(光人社)を前に紹介しました。1945年5月12日から180日までの一週間でアメリカ軍の第六海兵師団は2000人をこえる死傷者を出したのです。
 アメリカ軍による沖縄侵攻作戦は、55万人の将兵と1500隻の艦船を動員するものだった。攻撃開始日だけで18万2000人が参加したので、前年のノルマンディー上陸作戦のロデイを7万5000人も上まわっている。
 シュガーローフの戦いの現地は、いまはモノレールの「おもろまち」駅の付近です。
 今では、アメリカ軍の無理な攻撃自体が戦略上のミスではなかったかという厳しい批判がなされているとのことも知りました。「ハクソーリッジ」をみた人には、この「シュガーローフの戦い」(光人社)も読んでほしいと私は思います。

スタンフォード式・最高の睡眠

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 西野 精治 、 出版 サンマーク出版
スタンフォード大学の医学部教授であり、睡眠生体リズム研究所所長である著者による初めての日本語著書です。
睡眠は本当に大切ですよね。私は、朝おきたときに空腹感があるのが健康のしるしだと考えてきましたが、本書に同じことが書かれていて、うれしくなりました。
朝、起きたら、おなかがすいている。これは、質の良い睡眠がとれているかどうかのバロメーターだ。
一流のアスリートは、真剣に睡眠と向きあう。眠りの力を認識し、力を入れて取り組んだ選手だけが一流になれる。
睡眠の質は、眠り初めの90分で決まる。最初の90分さえ質が良ければ、残りの睡眠も比例して良質になる。最初の90分間のノンレム睡眠は、睡眠全体のもっとも深い眠りである。ここで深く眠れたら、その後の睡眠リズムも整うし、自律神経やホルモンの働きも良くなり、翌日のパフォーマンスが上がる。
週末の寝だめでは、睡眠負債は解決しない。そもそも眠りは、ためられない。普通の人は、最低でも6時間以上眠ること、これがベスト。
レム睡眠は、ストーリーがあって実体験に近い夢をみる。ノンレム睡眠は抽象的で辻つまのあわない夢になることが多い。
最初の眠気のタイミングは絶対に逃してはいけない。眠くなったら、とにかく寝てしまう。そうしないと、そのあと深い眠りはやって来ず、いくら長く寝ても、いい睡眠とはならない。
質の良い眠りには、ノンレム睡眠だけではなく、レム睡眠も欠かせない。
質の良い眠りなら、体温が下がる。体温の低下が睡眠には欠かせない。脳が興奮していると、体温も下がりにくい。
睡眠中は、温度を下げて臓器や筋肉、脳を休ませ、覚醒時には温度を上げて体の活動を維持する。健康な人だと、入眠前には手足が温かくなる。皮膚温度が上がって熱を放散し、深部温度を下げている。
いつものベッドで、いつもどおりの時間に、いつもどおりのパジャマを着て、いつもどおりの照明と室温で寝る。音楽を聴くなら、いつも同じ単調な曲。考えないままスイッチオフで眠る。眠れなかったら、ベッドから離れる。
良質の睡眠の意義と、その確保の仕方がとても具体的かつ実践的で、大変参考になります。
(2017年5月刊。1500円+税)

うんちの正体

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 坂元 志歩・鱈 耳郎 、 出版 ポプラ社
毎日お世話になっている「うんち」の本です。へそのゴマから話が始まる面白い絵本です。子ども向けのようでいて、実は大人向けの健康教本です(私は、そう思いました)。
まず、病気を治すのに、健康人の「うんち」を薄めて、病人の鼻からチューブで腸へ注入するという治療法があるというのに驚きます。つまり、腸内の菌を殺すのではなく、腸のなかの菌の多様性を増進することによって、病気を治すのです。その病気は大腸炎ですが、なんと、この方法で9割以上が治るというのです。
大腸には、100兆個もの菌がいて、全身になると1000兆個もの菌がいる。これに対して、ヒトの身体は37兆個の細胞から出来ている。
へそのゴマには、2368種もの菌がいて、そのうち1458種が新発見の菌の可能性があった。ヒトのへそに共通の菌はいなかった。
宇宙飛行士は、宇宙船のなかで、おならをし、便を排せつする。その処理は大変だ。無重力の世界では、おならもゲップも、吐い息さえも、まとまって動く。しかも、おならには、燃える成分だって含まれている。
宇宙船のなかで、「うんち」が爆発したり、漂ってしまった事故が2度も起きた。「うんちバッグ」のなかで、殺菌剤とよく混ぜあわせておかないと、破裂してしまうのだ。
快食・快眠そして快便が私たちの健康を支えてくれます。この本は、そのなかの快便について、分かりやすいマンガつきで解説してくれています。子どもと一緒に読める楽しい絵本です。
(2015年2月刊。1300円+税)

植物はそこまで知っている

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ダニエル・チャモヴィッツ 、 出版  河出文庫
じっとしていて動かないように見える植物が、実は動いていて、意外に賢い存在だと認識を改めさせられる本です。
遺伝子という観点で比べると、植物は動物よりも複雑であることが多い。
植物は中枢神経系、つまり体全体の情報を調節している「脳」は存在しない。それでも、植物は環境に最適化するよう、各部位を緊密に連携させて、光や大気中の化学物質、気温などの情報を根や葉、花、茎で伝えあっている。
植物は、さまざまな方法で光を見ている。それは、人間の見えない色まで見ている。
植物に屈光性が生じるのは、植物の苗の最先部が光を見て、その情報を中央部に伝えて曲げさせるため。
植物は光を浴びている時間を測っている。植物の視覚は、ヒトの視覚よりも、ずっと複雑だ。植物にとって、光とは単なる合図以上のもの、食料そのものだ。植物は光を使って、水と二酸化炭素を糖に変える。受けとる器官が異なるだけで、植物もヒトと同じく、光を感知している。
植物は、匂いを嗅いでいる。古代エジプト人は、イチジクの実を収穫したあと、まず2個か3個に深い切れ目を入れておくと、残りの実すべてが熟すことを知っていた。それはエチレンガスがもれ出して、ほかのイチジクの完熟を促したのだ。
ネナシカズラは、明らかに匂いを嗅いで食べ物を探している。
葉を食べる昆虫が襲来すると、木々は、互いに警戒しあっている。
植物は、病原菌やウィルスの攻撃を受けたときにサリチル酸をつくる。植物にとって、サリチル酸は、免疫機構を増強する「防御ホルモン」だ。
植物は触覚を感知できる。オジギソウの葉の基部には葉枕(ようちん)という膨らんだ構造があり、その中に葉枕細胞という、運動細胞がある。ここに電気信号が作用すると、オジギソウの葉は垂れる。筋肉がなくても葉枕は葉を動かしている。
シロイヌナズナは、1日に数回、人の手でさわられると、何もしないシロイヌナズナに比べて、草丈がずっと低く、開花もうんと遅れる。
植物は聞いている。
植物は、地面に対して垂直に育っているのか、斜めに育っているのかを知っている。
この本を読むと、植物について、まったく誤解していたとしか言いようがありません。知的刺激にあふれた本です。
(2017年3月刊。800円+税)

世界の産声に耳を澄ます

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 石井 光太 、 出版  朝日新聞出版
身体を張った突撃取材で定評のある著者が、今回は世界各地の出産事情を取材するのです。知らないことが多々ありました。
タイでは代理母出産です。日本人も多く利用しているようです。アメリカだと代理母出産は1500万円。インドでは3分の1の500万円ですんでいた。ところがインド政府が規制を強化したら、タイへ移っていった。タイでも500万円かかる。
代理母の女性への報酬は122万円。分割で支払われる。契約時に10万バーツ、妊娠期間の9ヶ月間に1ヶ月ごとに1万バーツ、残りは出産後に支払われる。ただし、女性は20代に限る。30歳をすぎたら代理母にはなれない。
ヨルダンの難民キャンプ。ここでは物価が町より安くて、2分の1とか3分の1。そこで、品物をここで買い、難民キャンプの外へ持ち出して転売すると、利益が出る。難民キャンプには、いろいろな利権がある。
そして、難民キャンプでは出産が増えている。その母親は十代も多い。親からすると、厄介払いの面もある。そして、出産には帝王切開が多い。これだと予定日がずれるということがない。
アフリカのスワジランドは、HIV大国と呼ばれるほど、エイズ患者が多い。出産のときに母子感染することがある。18歳から49歳までの3人に1人がHIVに感染している。平均寿命は49歳。13歳から24歳までの女性の3分の1がレイプを体験している。性的暴行は膣を傷つけるので、一般の性行為よりHIV感染率が4倍も高い。HIVは、子どもから両親を奪ってしまう。エイズ孤児は、5万人以上もいる。
フィリピンでは母乳をのむと病気になるというデマが横行している。そのため、母乳をやって子どもを病気にしないために民衆は粉ミルクを求める。そして、実は、粉ミルクを母親が与えるのは、母親である女性がタバコやお酒、そして、シンナーやドラッグをやっているからでもある。
子どもを安心して出産でき、安全・快適な環境のもとで育てていける環境づくりこそ、世界平和の基礎だと痛感させられました。
安全に気をつけて、これからも突撃取材に励んでください。
(2017年5月刊。1500円+税)

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