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2017年5月 の投稿

原点

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 安彦 良和、斉藤 光政 、 出版  岩波書店
私は見たことも読んだこともないので、どんなストーリーなのかも全然知りませんが、『機動戦士ガンダム』の作者が自分の生い立ちなどを語っている本です。著者は私と同じ団塊世代で、弘前大学で全共闘のリーダーとして活動していて、大学占拠の罪に問われて警察に逮捕され、刑事被告人にもなったとのことです。
弘前大学というと、連合赤軍事件で生き残って逮捕された植垣康博と青砥幹夫という二人も著者と同じころの卒業生になります。
「弘前大学の全共闘運動をとおして、大まじめにばかをやった。いま考えると、たしかにこっけいだけど、シリアスな問題もかかえている」
著者は、このように語っています。
「憎しみをバネにした革命の時代は終わった。そういう革命は、人を幸せにしない」
この言葉には、私もまったく同感です。もしも全共闘が革命に成功して、天下をとっていたら、カンボジアのポルポト政権と同じようなこと、大虐殺をしていたことでしょうね。恐ろしいことです。なにしろ、「敵は殺せ」の論理でしたから・・・。
いま、著者のマンガは、分かりあえない時代や社会だからこそ、分かりあえたら、どんなにいいだろう、という考えに立脚しているとのこと。素晴らしいです。惜しみない拍手を贈ります。
著者は、北海道北部の北見地方に生まれ育った。父親は屯田兵二世。
幼いことから絵を描き、マンガを描いていた。ちばてつやも同じでしたね。
イラストやマンガは習うものではない。教えてくれる人はいなかったので、見よう見まねで幼いころから描いていた。自分の絵に師匠はいない。
著者は手塚治虫の虫プロダクションに入り、アニメの世界にもしばらくいました。そのうち、独自の世界を切り拓いていったわけです。
この本の最後にある著者の言葉を紹介します。
「いま、ぼくが描いている機動戦士ガンダム・ジ・オリジンは戦争の話だ。戦争に巻き込まれる人たち、これから巻き込まれるであろう人たちが、たくさん登場する。大量死の運命を避けられない市民や、大切なぬいぐるみを抱いて親に手を引かれ、逃げる子どもも出てくる。そんな絵を描くのはとても辛い。そこに生があり、生活があるのを感じるから、あったのを感じるからだ。生は死よりも重い。たぶん、ずっとずっと、重い」
大学解体なんて無責任なことを言って、建物だけでなく人間関係を破壊していた全共闘だった人のなかに、今、こんなに真面目に、人の優しさを大切にしようと考えている人がいるのを知ると、うれしくなります。また、同じような思いを抱いている人の存在を知って、力強く思います。
(2017年3月刊。1800円+税)
この連休中、近くの小山にのぼりました。頂上で知人一家が食事中なのに遭遇して驚きました。私は、いつもの360度パノラマの地点で、おにぎり弁当をいただき、帰りはミカンの白い花を愛でながらおりました。
庭にアスパラガスが毎日のように伸びています。連休中は一度に5本もいただきました。春の香りを口中に味わう幸せを感じます。
いま、庭は、キショウブの黄、ショウブのライトブルー、そしてオレンジなど、見事にカラフルです。ウグイスの声を間近にききながら、ジャガイモの手入れをしました。6月の収穫が楽しみです。

新しい日本外交を切り拓く

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 猿田 佐世 、 出版  集英社
著者はアメリカと日本を結ぶ若手の国際弁護士であり、美人弁護士としても有名です。そのバイタリティーあふれる行動力には、驚嘆せざるをえません。アメリカでロビー活動をし、沖縄でシンポジウムを開き、沖縄の翁長知事や稲嶺市長が訪米するときには、アポをとってアメリカの国会議員との面会のセッティングをこなします。そして、著者は日本の新しいシンクタンク「新外交イニシアティブ」を設立し、その事務局長として、運営するのです。
著者は若くして司法試験に合格したあと、アフリカのタンザニアに渡り、難民キャンプでの救援活動に従事した。大学生のときには、「アムネスティ日本」の会員として、10年以上ボランティア活動に従事している。そして、2002年から2007年まで、日本で弁護士をして、2007年にアメリカに渡り、2009年からワシントンに居住した。そして、ワシントンで、日米外交の偏ったシステムに強い疑問を抱き、それを克服することを目ざした。
アメリカの国務省の日本部長だったケビン・メアの言葉は忘れられません。
「沖縄の人は、ゴーヤもつくれない、なまけもの」
「沖縄は、基地をつかって東京からお金をもらう、ゆすりの名人だ」
とんでもない暴言です。日本語ペラペラの人ですが、まったく日本人を馬鹿にしきっています。
訪米団の企画・同行には、考えられる、すべての手段を駆使しながら、数週間、数ケ月間にわたるものなので、体力も精神力も消耗する厳しい作業となる。
日本政府は、アメリカのシンクタンクに対して、1億円をこす大金を提供し続けている。
そもそもは影響力のない存在であったとしても、日本のメディアや政府が繰り返し「アメリカの声」として取りあげることで、日本の国会をふくむ世論に大きな影響を与えるようになる。その結果、「神話」が現実化していく。
アメリカの対日外交に関する発言には、「日本の誰かがアメリカに言わせている」のと、「アメリカ自らが言っている」という両方の構図がある。
そんな状況で、本当の日本の声をアメリカの連邦議会にきちんと反映させようとする著者の努力は大いに評価されるべきものだと思います。
私も、ささやかながらNDI(新外交イニシアティブ)に賛同しています。
(2016年10月刊。1400円+税)

働く青年と教養の戦後史

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 福間 良明 、 出版  筑摩書房
今からちょうど50年前(1967年)の4月に上京して、大学生活を始めました。そして、高校の先輩に誘われて学生セツルメント活動に足を突っこんだのです。
私は、子ども会ではなく、青年部に所属し、地域の若者サークルにセツラーとして加わりました。私たちのサークルではグラフ「わかもの」という雑誌をつかっていましたが、近くに「人生手帖」をつかった緑の会という労働者のサークルがあり、その会合に私も参加したことがあります。いかにも真面目な労働者のサークルという雰囲気でした。やがて、そのなかのごく一部の人たちが「京浜安保共闘」を名乗り、赤軍派になり、連合赤軍へとつながっていったようです。もちろん、それはごくごく一部の人たちです。日本安保を考える無数の若者サークルが出来ていたころのことです。
この本は、その「人生手帖」と緑の会の歴史的な歩みを解明していますので、私にとっては、ぜひ読みたい本でした。
「人生手帖」は8万部近くを発行していたが、「中央公論」の12万部、「世界」が10万部、「新潮」6万部に比べて、決して少なくはない。
中卒で集団就職して大都会に出てきた勤労青年層には、進学への希望を抱きながらも、高校に進学できず屈折した思いを抱く人が少なくなかった。彼らは安穏に書物に親しめる環境にはなかった。長時間労働で、休暇は少なく、安い賃金は思う存分に書物を買うゆとりはなかったし、経営者から思想傾向を知られて警戒されたりもした。
それでも、彼らは学歴エリートとは異なる形で、教養を求めて駆り立てられた。
「人生手帖」のような人生雑誌には、知識人層へのいら立ちが吐露されていたが、同時に知や知識人への憧れも強かった。
「人生手帖」に対しては、「マルクスみかん水」という批判もあった。マルクス主義を水でうすめ、糖分や香料も加えて口当たりを良くしているというのだ。
高校進学率はどんどん上昇していた。1950年代半ばに5割ほどだったのが、1961年に62.3%、1963年に66.8%、1965年には7割をこえた。そして、1970年には82.1%に達した。
大学進学率は、1968年には、23.1%でしかなかった。今日の半分以下の水準である。
「人生手帖」のような人生雑誌は、高校進学率が70%をこえ、8割を上回るよいうになると、衰退していくしかなかった。進学できない理由が家計の問題から学力の問題へと移行していった。
私が「人生手帖」の緑の会を知ったのは1967年から68年にかけてだと思いますので、中卒の集団就職組のなかの知識への渇望に踏み出していた労働者の集団を目撃していたということになります。ちなみに、そのころテレビはもちろんありましたが、まだ白黒テレビでしたし、カラオケはなく、ボーリング全盛時代でした。オールナイト・スケートとか早朝ボーリング大会などを若者サークルの連合体として企画していました。もちろん、若者がたくさん集まり、それはそれはにぎやかなものでした。若者たちが群れをなして、話し合い、歌っている時代です。
(2017年2月刊。1800円+税)

保健と健康の心理学

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 大竹 恵子 、 出版  ナカニシヤ出版
日本は長寿国ですが、幸福度はそれにともなっていません。
平均寿命は女性87歳(世界2位)、男性81歳(世界4位)。ところが、幸福度は世界53位。
健康心理学は、人間の健康に関するさまざまな問題を心理学の観点から検討し、そこから得られた知見を社会に役立てることを目指した心理学の応用領域の一つ。
感情は、病気にかかる率だけでなく、寿命にも影響を及ぼしている。
ポジティブ感情には、ネガティブ刺激による交感神経系の活性化を速やかに活性化させる「元通り効果」をもっている。
日常的にポジティブな感情を多く経験しているほど、中枢神経系、自律神経系、内分泌系、免疫系に良い影響を及ぼし、これらのシステムの相互作用により、結果として健康状態や寿命に良い影響を及ぼす。
日本のうつ病の患者は、平成8年に20万人、その他の気分障害をふくめて43万人だった。ところが平成20年度には、うつ病患者が70万人、その他をふくめると100万人。3倍にも増えた。
同じ心的外傷体験をしても全員がPTSDになるわけではない。レジリエンスという、一時的に心理的不健康の状態に陥っても、それを乗りこえ、精神的病理を示さず、よく適応する人がいる。
交代制勤務は、睡眠覚醒リズムを乱れさせる。乳ガンのリスクが高まり、前立腺ガンのリスクが2倍から3倍も高まる。
望ましくない出来事はコントロールできるという信念は、健康的な生活習慣やストレスへの上手な対処をもたらし、健康への悪影響を少なくする。
首尾一貫感覚(SOC)は人生経験によって形成され、とくに一貫性、負荷のバランス、結果の形成への参加という3つの経験が重要である。
ルールや責任の所在が明確な一貫性のある経験は把握可能感の基礎となり、また、処理可能感を育む。
自分だって、やれば出来るんだという感覚は大切ですよね。
やや難しいところもありましたが、私の生き方から共感できるところが多々ありました。
(2016年12月刊。3400円+税)

果鋭

カテゴリー:警察

(霧山昴)
著者 黒川 博行 、 出版  幻冬舎
これも警察小説と言えるのでしょうね。といっても、活躍するのは現職の警察官ではなく、問題を起こして辞めた(辞めさせられた)元刑事なのです。
パチンコ屋を舞台として、暴力団や暴力団まがいの連中と伍角の危ない勝負をして、大金をせびりとっていきます。まるっきり、邪悪の世界です。
そもそも、パチンコと警察の関係は、「パチンコ業界が警察に天下り等で利益を提供し、その代わりに換金黙認や釘調整黙認などの利益を得る」というギブ・アンド・テイクの図式で成り立っている。この図式が2002年の日韓共催サッカーワールドカップで様相が一変した。このときパチンコ業界と警察が対立した。
70年代から80年代にかけて、ゲーム喫茶やゲームセンターを家宅捜索した保安係や風紀係の刑事たちが最初にすることは、店のさい銭箱やゲーム機の収納ボックスを開けて、仲に入っているお礼を自分のポケットに隠すことだった。
1982年に発覚した「大阪府警ゲーム機汚職事件」では、当時の巡査長や前任の大阪府警本部長が首吊り自殺をした。
パチンコ業界は、ヤクザからも警察からも喰われてきた。これは、私も、パチンコ経営者本人から聞いたことがあります。
今では、パチンコ店はホール全体がコンピューターと化している。したがって、素人がパチンコに勝つ方法はない。パチプロでも勝てない。パチンコ台がコンピューター化されるにつれて、釘調整の必要性が薄れ、今では釘師(くぎし)の存在は薄い。
今のパチンコ台は、一台で40万円もする。デフレの時代にもかかわらず、遊技機の単価は、20万円から、30万円、40万円の値上がりし続けている。
店は日によって還元率を変える。80%だと客は全滅。90%だと勝つ客もいる。日曜・祭日や年金支給日は80%、平日は90%にする。
客は生かさず殺さずだ。遠隔操作で、機械と客を騙くらかす。
私も、40年以上も前の司法試験の受験生時代には、図書館に向かうはずが私鉄駅前のパチンコ店に朝10時の開店と同時に入店して、パチンコしていた時代もあります。そのころは、玉を一発一発、手で穴に入れて打つ方式でした。今では、車を運転している途中にトイレを借りるために入店するくらいです。あの騒音が耐えられません。
警察組織において、監察は特異だ。彼らは上層部の指示で警察官の悪を暴き、世間に対しては隠蔽する。それは決して正義のためではなく、上層部の権力闘争やライバルを追い落とすためのシステムとして機能する。すべての警察官は、監察を畏怖し、嫌悪する。鑑察のメンバー自身は、強烈なエリート意識をもっている。監察はたしかにエリートであり、その閉鎖性は公安に似たところがある。他の警察官の恥部をにぎっているだけに昇進は早い。
警察にたかられて弱っているという人の相談を受けたこともあります。被害者だったり、加害者だったりして警察官と顔なじみになると、事件が終わってからも顔を見せるので、なにかと接待し、手土産を持たせるというのです。もちろん、何も問題のない企業であれば、そんなことをする必要もないのでしょう。でも、現実には日本を代表する超大手企業から、町の零細工場まで、たいてい叩けばホコリの出てくるものなのです。警察にたかられたら、もう逃げるところはないと、その人は苦笑していました。
小説なので、誇張とデフォルメがすごいのだろうなと思いながらも、こんな元刑事には近寄りたくないものだと思ったことでした。
(2017年3月刊。1800円+税)

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