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2017年3月 の投稿

お寺さん崩壊

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 水月 昭道 、 出版  新潮新書
坊主、丸もうけ・・・なんて、大ウソなんですよ。そう訴えている本です。
この本を読むと、なるほど、そうだろうなと納得します。だって、それほどお寺をみんな利用していないでしょ。
たとえば、お葬式にしてもそうですし、戒名にしても、私の身内が亡くなったとき、本人の遺思でつけませんでした。私も、そんなのいりません。
檀家が激減して、寺院経営は大ピンチ。そのとおりだと思います。
ところが、その一方で、怪しげな「寺院」のボッタクリ商法は昔も今も繁盛していますし、インチキ占いも相変わらずです。人間、困ったときには、どこかにすがりたいのですよね・・・。
いま、日本全国で、急激な勢いでお寺が崩壊している。いうまでもなく、経営難からだ。
清らかな精神的空間が日常から消えていくとき、荒れがちな「私」の心を鎮める装置を、いったいどこに求めたらいいのか・・・。
この10年間に、中国地方で宗教法人が減少した。広島で22法人、島根で24法人。とくに、浄土真宗系に多い。全国的には、6万法人(36%)が25年後には消滅していると推測されている。
代務住職とは、そのお寺本来の住職に代わって法事や葬式をつとめる近隣のお寺の住職のこと。
檀家の限界点は300軒。浄土真宗は葬儀のときお布施が他宗派より比較的安くて、100軒の檀家(門徒)がいるとして、年に300万円の収入となる。300軒だと900万円になる。年会費(護持費)は、1~2万円が普通なので、300軒の檀徒だと300~600万円。ところが、一般的なお寺では檀家は300軒にならないところが圧倒的。
したがって、お寺の住職は、年200万円ほどの給与となる。
宗教法人には、住職をふくめて3人以上の責任役員を置くことが法律で決まっている。
坊守(ぼうもり)は、住職の妻のこと。
寺族は、寺院に生まれた人間や住職の妻のこと。
ご院家(いんげ)さん。お坊さん同士の呼びかた。
住職の息子が跡取りを拒否することも珍しくない。
院号は、20万円以上の寄付があった人が対象。立派な布施行をしたことに対して授けられるのが院号。地方寺院が院号授与によって浄財をもらうことはない。ということは本山へ行く。ただし、後日、寺院に手数料として15%の「お返し」が本山からある。
浄土真宗本願寺派では、前年比で4億円のマイナスとなっている(H27)。
浄土真宗は、阿弥陀如来一仏が中心。
お布施は、本来なら、自分の手にあまるものを仏さまに差し出すことで、はじめて心に安らぎをいただけるという考えにもとづくもの。
他力本願を、努力しないで人頼みにするというのは、まったくの誤用。仏の本当の願い、それ(他力)に導かれることによって、煩悩の固まりである私たちであっても悟りの世界を垣間見られるようになるみたいだ。これが本願他力とされるもの。
水月とは、みづきと読むそうです。福岡のお寺の若き(若くもないのですが・・・)住職による本です。
(2017年1月刊。760円+税)

キャスターという仕事

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 国谷 裕子 、 出版  岩波新書
インタビューする前には、徹底して調べておく。だけど、本番では、いったん白紙に戻して、目の前の人物の話によく耳を傾ける。そうすることで話についていけ、的確な質問が出来る。予定した筋書きばかりを追おうとしたらダメ。
これはキャスターとしての心構えですが、弁護士の反対尋問についても言えることです。
ともかく目の前の証人の言葉そして表情を、よく聞き、また見てから、その隠された弱点をあばき出すのです。下を向いて必死でメモをとっていたらいけません。
準備は徹底的にする。しかし、あらかじめ想定したシナリオ本番では捨ててのぞむ。言葉だけでなく、その人全体から発せられているメッセージをしっかりと受けとめる。そして大切なことは、きちんとした答えを求めて、しつこくこだわる。
良いインタビューは、次の質問を忘れて相手の話を聞けたときに初めて行えるもの。
キャスターは、はじめに抱いた疑問を最後まで持ち続けることが大切だ。
インタビューに必要なものは、その人を理解したいという情熱だ。
著者が高倉健をインタビューしたとき、答えがかえってくるまでに、なんと17秒もの空白が生じたそうです。沈黙の17秒って、すごく長いですよね。でも、著者はじっと耐えて待ちました。えらいですね。並みの人にはマネできませんよね。
「あいまいな言葉で質問すると、あいまいな答えしか返ってこない。正確な質問をすると、正確な答えが返ってくる。明確な定義をもつ言葉でコミュニケーションすれば、その人は自分の言葉に責任をもつようになる」
これは、カルロス・ゴーンから聞いた言葉だそうです。さすがにフランスで高等教育を受けた人の言葉だと思いました。
正確な答えを引き出すためには、インタビューは、まさに正確な質問をしなければならない。難しいのは、入念に準備をして、その準備のとおりインタビューしようとすると、大失敗につながりかねないこと。
想定問答を練って、そのとおりに質問すると、実際のインタビューでは絶対にうまくいかない。相手の話が全然聞こえてこなくなる。自分のシナリオばかりに気をとられ、頭の中は、「次に何を質問しようか」ということで一杯になってしまうので、目の前の人の話や身体全体から出ている言葉を聞くことができなくなってしまう。
これは、法廷における敵性証人の反対尋問と、まったく同じことです。
23年間もNKHの「クローズアップ現代」でキャスターをつとめた著者ならではの話が紹介されていて、なるほど、そうだったのかと思いました。といっても、私自身はテレビは見ませんので、「クロ現」をみたことは、ほとんどありません。
緊張感のある番組づくりに著者たちが精魂かたむけていたことが、ひしひしと伝わってくる本でもあります。
NHKには、このあいだまで史上最低といわれた籾井会長が君臨していましたが、新会長のもとでも、相変わらずアベ政治の片棒かつぎをしていくのでしょうか。やめてほしいです。
権力におもねることのない番組づくりを期待します。
(2017年1月刊。840円+税)

愛は戦渦を駆け抜けて

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 リンジー・アダリオ 、 出版  角川書店
報道カメラマンというより戦場カメラマンと呼んだほうがいいように思えるアメリカ人カメラマンの体験記です。
アメリカ人としてパキスタンの現地に行ったとき、次のように言われたそうです。
「お引き取りください。空爆が始まって、アメリカはイスラムの兄弟を殺しています。あなたたちアメリカ人は、いまや招かれざる客です」
まさしく、そのとおりではないでしょうか。世界中に戦争を起こしておいて、武力衝突のタネをばらまいていながら、それによって途方もない甘い汁を吸っているのに、表面上は世界平和を語り、民主主義をお説教するなんて、私にはとてもまともな国のすることとは思えません。
トランプ大統領になって、一段と、その間違った方向が強まることを恐れています。武力(軍事力)によらない民生支援を世界はもっと真剣に考え、行動すべきだと思います。
そんなこと言うと、理想だけ、現実を知らない者のたわごとだと非難されるかもしれません。
でも、著者はカメラマンとして、世界最強のアメリカ軍に随行していて、アメリカ軍兵士が殺されていくのを目撃しています。なぜ、そもそもアメリカ軍がベトナムのジャングルに行ったのか、もう歴史が証明していると思います。完全にアメリカは間違っていました。同じ誤ちを今も世界各地でくり返しているだけなのではないでしょうか。
アメリカ軍は、アフガニスタンにおける軍事作戦においてドローンを駆使しています。戦場に倒れている人物が生きているのか死んでいるのか、赤外線センサーを搭載したドローンを飛ばして、熱を感知するかどうかで、司令部にいる指揮官は判断している。
指揮官たちは、司令部にいて、それぞれの部隊が現場で戦っている映像を壁を埋め尽くす画面で見つめている。そして、電話によって、遠隔地にある基地から部隊を出動させて、要請に対応している。高級指揮官たちは、タマの飛んでこない遠くの安全地帯にいて画面上の捜査で指揮しているというわけです。
そして、現場で何が起きるか・・・。
「もう無理だ。これ以上は歩けない。ぼくはやめる」こう言いながら若い兵士が泣きじゃくる。
もう限界だと言い続ける兵士を、ほかの兵士がうしろら押して前進させている。戦場の実際を写真と映像で伝えてくれる報道カメラマンの存在は貴重だと改めて思いました。
それにしても、本当に危険な仕事です。実際、著者は拉致・監禁もされています。
たくさんの臨場感あふれる写真があり、危険な状況がひしひしと伝わってきます。
(2016年9月刊。1900円+税)

罪と罰の彼岸

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ジャン・アメリー 、 出版  みすず書房
1933年3月21日。ポツダムの日に、直前の選挙結果をかなぐり捨てて、ナチスに全権をゆずり渡したとき、ドイツ国民は喝采した。
ナチズムという妖怪は、未開の後進国で徘徊したわけではない。
言葉が肉体をとり、いかにひとり歩きして、やがてはどのような死体の山を築いたか。その一部始終をみてきたのだから・・・。人間焼却炉からの煙があれほど多くの墓を空に描いたというのに、またしても火遊びがはじまりかけている。私は火災警報を出そう。
著者はユダヤ人であり、ベルギーにおけるレジスタンス運動の一員として、ブーヘンヴァルト、ベルゲン、ベルゼン、そして、アウシュヴィッツで過ごした。
アウシュヴィッツ、モノヴィッツでは、手に職をもった者はそれまでの職業に応じて配属が決められた。ところが、知的な職業の者には事情がまったく別だった。ここでは、一介の肉体労働者にすぎず、労働条件においてきわめて不利だった。大学教授たちは、小声で教師と答えた。大学教授と答えて怒りを買いたくなかったから。弁護士は、しがない簿記係に変身した。
ジャーナリストは作家と言った。大学教授や弁護士たちは、鉄管や木材を背中で運んだが、いたって不器用だったし、体力がなかったから、やがて焼却施設へ送られていった。
強制収容所では、身体の敏捷さ、野蛮さと紙一重の関係の頑丈さがものをいった。
ともに、精神生活を何よりの糧としてきた人が、あまりそなえていない特性である。
そして、知識人の多くは、友人を見つけることができなかった。収容所スラング(方言)を口にしようとすると、全身が抵抗して、口が利けなくなるのだった。
アウシュヴィッツでは知識人は孤立していた。
これに対して、ダッハウでは、政治犯が収容者の多数を占めていたし、管理が政治犯にかなりの程度までまかされていた。ダッハウには図書室すらあった。
精神の社会的機能あるいは無能さという点で、ドイツで教養をうけたユダヤ知識人にとって、事態はさらに深刻だった。自分がよって立とうとする当の基準が、ことごとく敵のものだったからである。
ある男は職業を問われ、愚かにも馬鹿正直に「ドイツ文学者」と答えたばかりにSSの猛烈な怒りを買い、半殺しに殴られた。
ドイツ系ユダヤ人はドイツ文化を自分のものと主張できない。その主張を認めてくれる社会性を欠いていたからである。
戦場での兵士の死は名誉の戦死、収容所での死は家畜の死だった。収容所では死が義務づけられた。兵士にとって死は外から運命としてやってきた。収容所では、死は、前もって数学的に定められた解決策だった。
収容所のなかの人々は、死の不安をもっていなかった。ガス室送りの選別が予期された当日にも、人々はそれをさっぱり意に介さなかった。むしろ、その日のスープの濃度について、一喜一憂しながら語りあった。このように、やすやすと収容所の現実が死を打ち負かしていた。収容所では、死が恐怖の境界をこえていた。
強制収容所においては、精神はさっぱり役立たなかった。ただし、精神は、自己放棄のためには役立った。
ゲシュタポと強制収容所のなかでの2年あまりの生活において、サディストには一人も出くわさなかった。
拷問された者は、二度と再び、この世にはなじめない。屈辱の消えることはない。最初の一撃で既に傷つき、拷問されるなかで崩れ去った世界への信頼というものを、もう二度と取戻せない。
ドイツ人の多くは、ユダヤ人をめぐって起きていることを正確に知っていた。臭いをかいでいたのだから。
つい昨日、ユダヤ人の選別場で手に入れたばかりの衣服を着ていた。労働者も小市民も学者もヒトラーに票を投じた。
ユダヤ人であることは、初めから執行猶予中の死者だった。殺される人間であって、偶然しかるべき執行を受けていないだけ。さまざまな猶予の形があり、程度の違いがあるにすぎなかった。
ユダヤ人に対する侮辱の過程は、ニュルンベルク法の公布とともに始まり、当然の結果として強制収容所へと導いた。
1984年に刊行された本の新版です。ドイツ映画(2014年)『顔のないヒトラーたち』は、強制収容所にいたナチスの高官たちが戦後、何くわぬ顔で社会的地位について平然と働いていたことを暴き出す内容でした。
今の日本だって、黙っていたらアベ政治が危険な方向に流れていく気がしてなりません。
すごく読みすすめるのに骨の折れる重たい本でしたが、なんとか読み終えました。
多くの人に一読をおすすめします。
(2016年10月刊。3700円+税)

民事裁判実務の留意点

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 圓道 至剛 、 出版  新日本法規
ひところ福岡地裁で裁判官だった著者(弁護士任官でした。今また弁護士に戻っています)による若手弁護士のためのハウツー本です。裁判官だった経験も生かして、とても実践的な本です。
ちなみに、著者の名前は、「まるみち むねたか」と読むそうです。なかなか読めない名前ですね。
この本には、100頁もの書式サンプルまでついていますので、その点からいっても、すぐに今日から参考にできる本です。
証人尋問心得という書面があります。この本では5頁にもわたる詳細な心得です。
「証言中はメモを見ながら答えることはできません。裁判官のほうを見て、回答して下さい。裁判官は、供述内容と同じくらい、供述態度を見ています。正面を見て、堂々と答えて下さい」
反対尋問については、「想定外の質問もあり得ます。よく考えたうえで、端的に答えて下さい。言葉尻をとらえられる恐れがありますので、できるだけコンパクトに答えて下さい。意図的に挑発してくることも考えられますが、決して熱くならないで下さい。常に冷静さを保ち、淡々と答えるようにして下さい。どうしても回答に困ったら、ちらっと私のほうに目をやって下さい。何らかの異議を出すなどの方法により、適宜、助け船を出すようにします」
うーん、どうでしょうか。私は、「そんなときには『分からない』と答えていいのです」とアドバイスしています。もちろん、異議を出すべきだと判断したら、立ち上がって異議を述べることもあります。
事前の証人との打合せは、私ももちろんしていますが、この本では証人テストを3回するとしています(事案が比較的単純な場合には1、2回ですが・・・)。
3回目の証人テストは、前日ないし当日午前中に行うといいます。しかし、私は、依頼者や証人に対して、「前日は記録など読み返すことなく、ぐっすり眠っておいてください」といつもアドバイスしています。前日読んで、「どう書いていたかな、ここは何と言うべきかな」などと考えて、一瞬の間があいてしますのが裁判官から変に勘繰られたりして良くないからです。
この本にも、尋問事項の丸暗記はまずいとしています。つまり、記憶にもとづいて自分の言葉で答えるというのが一番大切なことです。
裁判所に対して、マイナンバーの提供はすべきでないと断言しています。まったく同感です。
和解を成立させる形式として、受諾和解(法264条)、裁定和解(法265条)そして、「17条決定」(調停に代わる決定)がある。
私は裁定和解なるものがあることを知りませんでした。この本では、あまり使われていないということなので、少しだけ安心しました。
反対尋問では深追いしないことが肝要。敵に塩を送ってやるような有害無益な結果になりかねない、からです。
控訴権の濫用だと思えるようなら、控訴答弁書において制裁金の納付を命じるよう裁判に求めることが出きるそうです。私は、そんな条文があること自体を知りませんでした。これは申立権はないものの、裁判所の職権発動を促す目的です。
大変勉強になりました。著者のひき続きのご活躍を心より祈念します。
(2016年7月刊。4200円+税)

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