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2017年3月 の投稿

はたらく動物と

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 金井 真紀 、 出版  ころから
読んでいると、ほんわか心の温まってくる本です。生き物って、みんな人間と変わらないんだなって思わせてくれます。
盲導犬にふさわしい犬の特性の一つに、寝るのが大好きなこと、というのがあって、驚きました。
エネルギーが多い犬は、かまってかまってと人間に甘えてくる。かまってやらないと、わざと注意をひこうとして、悪さをする。人間が忙しくしているときには、黙って寝ているような犬のほうがいい。ただし、「かまってかまって」のタイプの犬であっても、それにきちんとこたえられるユーザーなら、相性がいいことにはなる。
なーるほど、そういうことなんですね・・・。
馬と仲良くなる方法・・・。いきなり馬に近づいてはいけない。距離を保って静かにしていると、馬のほうから気がついて、「ふむ?」とサインを出してくる。それから近づく。馬に向かってちゃんと頭を下げて挨拶し、鼻先に手をさしのべて自分の匂いをかいでもらう。そうすると馬と仲良くなれる。
鵜飼の鵜は、茨城県の太平洋岸で生けどりされたウミウ。25年ほど生きる。死ぬ間際まで仕事をする。若いときには片足で立てる鵜が、年をとると両足で立つようになる。そして、最後の最後は立てなくなってしゃがむ。しゃがむと食欲がなくなり、それから1週間で死ぬ。
野生の鵜が連れてこられたら、籠のなかに入れて、毎日、2、3回は頭からお尻まで全身をなでてやる。人間との触れあいを毎日やって、3ヶ月たち、4ヶ月目に籠から出す。そして、ほかの鵜の仲間に入れる。
昔は飛べないように羽の筋を切っていたが、今は切らない。それでも飛んで逃げていくことはない。鵜飼の仕事を鵜は楽しんでいる。
鵜は、二羽がペアを組んで生活しているが、つがいではない。京都で卵からヒナがかえったときにはビッグ・ニュースになった。それほど、子は産まれない。だから、毎年、野生の鵜を捕まえる。
長野県には猿害対策のために飼われている犬たちがいる。
モンキードッグという。全国23都道府県で、351頭ものモンキードッグが活躍している。このため、法律改正までされている。モンキードッグは猿だけを追い払い、猫や鶏は追わない。これは繰り返しの訓練のたまもの。ほめるのと気合い。この二つがとても大切だ。
人間と一緒に、いろんな動物が生きて、役に立っているのですね。興味深い本でした。
(2017年2月刊。1380円+税)

アウトサイダー

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 フレデリック・フォーサイス 、 出版  角川書店
実に面白い本です。『ジャッカルの日』や『オデッサ・ファイル』など、ワクワクドキドキする本の著者が自分の人生を振り返っています。
まさしく波乱万丈。なるほど、これなら陰謀うず巻くなかを生きてきた状況が、そのまま本になると感じ入りました。ですから、著者がイギリスのスパイ機関の元締めであるMI6に協力していたことを知っても、私は驚きませんでした。
その一環として、南アフリカに核爆弾があること、それをマンデラ政権に移行するときにどうするか、著者が頼まれて探ろうとしたというのにも違和感がありませんでした。むしろ、南アフリカが核兵器を持っていたことのほうが驚きでした。
著者は、アフリカのビアフラにおける大量餓死事件の真相に迫り、イギリス政府の責任を厳しく追及しています。
イギリス政府(ウィルソン政権)のナイジェリア連邦に対する密かな全面的支援がなかったなら、ビアフラの悲劇は起こりえなかった。イギリスの国益を守るために支援する必要はあったのか。100万人の子どもを死なせてまで守らなければならない国益とは何なのだろうか・・・。イギリスは、その大きな影響力を行使して、ナイジェリア連邦に停戦を迫り、和平会議を開かせて、政治的に解決することができた。その機会はいくらでもあったのに、やろうとはしなかった。
うぬぼれた官僚たちと、臆病な政治家たちが、わが祖国イギリスの名誉にいつまでも消えない汚点を残した。彼らを許す気は絶対にない。
戦争は高貴なものではない。戦争は、残酷で非人間的なものだ。そこでは、人の心を荒廃させること。記憶に傷を残すようなことが起きる。なかでも、いちばん残忍な戦争は内戦だ。
スパイというのは、本来、公的機関や企業に雇われていながら、その公的機関や企業の秘密情報を盗み出して、誰かに渡す人間を指す。
この行為を仲介する人間は、資産(アセット)、資産を運用する情報部員は、工作管理官(ハンドラー)と呼ばれる。
秘密情報部門部の人間は、自分たちの組織を「オフィス」と呼ぶが、外部の人間は「ファーム」と呼ぶ。「ファーム」の部員は「フレンズ」だ。アメリカのCIAでは、組織のことをエージエンシーまたはカンパニーと呼び、局員はカズンズという。
フォーサイスは、イギリスの上流階級の出身ではなく、中流階級の出身。父親は、裕福な一商店主だった。
フォーサイス少年は、名門ケンブリッジ大学に進学できるのに、そうではなくて、17歳で空軍に入り、パイロットにあこがれる。そこから転身してジャーナリストになり、BBCの特派員としてナイジェリアに派遣される。
フォーサイスの自伝は、その小説に匹敵するほど波乱万丈で痛快だ。
なんだ、これは。人生、楽しすぎだろ。
人生は冒険だ。何でも見て聞いて、そして考えよ・・・。
ところが、並はずれた幸福を引き寄せつつも、厳しい現実に悩まされる。いつもおカネに困っている。マネージャーにだまされて、全財産を失ったどころが、巨額の借金を背負わされた。小説を書く衝動は一つしかない。それはマネーだ・・・。
ちょうど私の10年だけ年長ですから、やがて80歳になろうとする著者は、今の政治のあり方にもズバリ苦言を呈したのです。一読に値する本です。
(2016年12月刊。2000円+税)

ハイジが生まれた日

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 ちば かおり 、 出版  岩波書店
1974年に始まった『アルプスの少女ハイジ』は、私が弁護士になった年でもあります。
日曜日の夜7時半から、私はテレビの前で食事をとりました。そのころもテレビはほとんど見ていませんでしたが、この番組だけは楽しみに見ていたのです。そして、そのころ私はまだ日本酒を飲んでいましたので、ひとり手酌で飲みながら食べながら、『ハイジ』の世界に浸っていました。
『ハイジ』には、魔法も武器も超能力も登場しない。ドタバタギャグもなければ、大事件もない。自然への回帰と再生、人の心の温かさと大切さを描いている。等身大の人間が丁寧に描かれている。
『ハイジ』は、生粋の日本産アニメ。ところが、ヨーロッパ人は、誰もが自国の制作だと思っている。
『ハイジ』の主人公の女の子って、日本人である私からすると、どうみたって日本の少女だと思うんですけれど、ヨーロッパ人にもスイスの女の子として違和感がないというのは不思議です。
スペインでは『ハイジ』の放映時間になると、町から人が消えた。『ハイジ』は、ヨーロッパ各地で大ヒットし、さらにアラブ諸国やアジア圏にも『ハイジ』旋風が巻きおこった。ハイジというキャラクターは、世界共通のシンボルとなった。
ところが、意外にも、スイスではまだ一度も放映されたことがない。
それでも、『ハイジ』の舞台となったマイエンフェルトには、世界中から観光客が押し寄せ、『ハイジ』は、この町の重要な観光資源になっている。
原作には、犬のヨーゼフは登場しない。これは、日本でアニメをつくるときに、創作されたもの。
この本は、『ハイジ』が制作される前史も丁寧に紹介しています。そして、『ハイジ』制作の苦労と工夫が語られます。
『ハイジ』には、キリスト教との関わりが慎重に扱われている。原作では、信仰は大きな柱になっている。これをアルムの小屋の裏に三本の大きなモミの木を置いて、ハイジの心の支えにした。このことによって、『ハイジ』は世界中で受け入れられる普遍性をもった。なーるほど、ですね・・・。
スタッフは、スイスへロケハンに行った。少しでも現地の風景と人々を再現しようとしたのです。若き高畑勲、宮崎駿がスイスに行って10日間、あちこち見てまわったのでした。
高畑勲は、『ハイジ』に日常芝居の可能性をかけていた。地味ともいえる生活の描写を積み重ねることで、ハイジという少女にリアリティが生まれ、視聴者がその世界を実感し、ハイジの心に共感できるようになる。
まさしく、そのとおりです。『ハイジ』のテーマソングが流れると、既に大人だった私もワクワクしながらみていたものです。
著者は柳川市生まれとのことです。いい本を、ありがとうございました。
(2017年1月刊。1800円+税)

史上最高に面白いファウスト

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 中野 和朗 、 出版  文芸春秋
ゲーテの「ファウスト」は古典的名作だというので、私も一度だけ読んでみましたが、あまり面白いとは感じられませんでした。
この本は、83歳になるドイツ文学者が「ファウスト」の面白さをたっぷり解説してくれています。なるほど、そういうことだったのか、それなら、もう一度よんで、面白さをしっかり認識させてもらおうと思ったことでした。
「ファウスト」の面白さを知るためには、ゲーテその人をよく知る必要があるようです。
ゲーテは22歳で弁護士を開業しました。しかし、実際には、弁護士業に身を入れることなく、小説を書いていました。
ゲーテの父親は法学博士でしたが、教育熱心で、ゲーテに家庭教師をつけ、勉強だけでなく、美術、音楽、ダンス、乗馬までデーテはこなすようになりました。英語、フランス語、イタリア語を習得し、詩作をする少年として知られました。
ところが、長じてからは父親の期待を裏切り、法律の勉強を嫌って、芸術や美術に関心を寄せるようになり、成績も素行も悪い学生になりました。
ゲーテは父親からライプツィヒ大学の法学部へ入学させられますが、自堕落で不健康な生活のあげく、健康を害しました。
ゲーテが弁護士になってから書いた小説は「若きウェルテルの悩み」でした。大変な反響を呼んでいます。その後、ワイマル公国の宰相として、活躍するようになりました。他方、ゲーテは、「ドイツの光源氏」と言えるほど、生涯に多くの女性を愛しています。
ゲーテがワイマル公国の宰相だったころ、フランス革命が起こり、その後、ナポレオン軍に攻め込まれています。
ラストシーンをふくむ「ファウスト」第二部は、ゲーテの遺言によって死後まで発表されなかった。なぜか・・・。
伝説のファウストは、最期は必ず地獄に堕ちることになっていた。ところが、ゲーテのファウストは我欲に固執し、いくつもの罪を犯し、悪魔の手におちた罪人であるにもかかわらず、天国へ救済される。これは当時の社会常識を大逆転する結末だ。
「ファウスト」の重要な主題のひとつは「自由」。人間をしばっている、あらゆる桎梏からの解放を希求する魂が、ゲーテに「ファウスト」を書かせた。
ゲーテは、自分自身も罪深い、出来そこないの男の一人であることを、自虐をこめて痛烈に批判し、かつて傷つけた女性たちに対し、許しと救いを求めた。この意味で「ファウスト」はゲーテの「人生の清算書」だと言うことができる。
ゲーテは、詩人、作家、哲学者、政治家、弁護士、自然科学者など多くの顔をもった、正真正銘の天才マルチ人間だった。
1832年にゲーテは82歳で亡くなったが、当時としてはずいぶん長生きした。
伝説上の人物と考えられていたファウスト博士には、実在のモデルがいる。ゲーテよりも300年前に生きていた。実在のファウストは、魔術師、降霊術師、占星術師、錬金術師であり、医師だった。近代自然科学の黎明期に生きた、科学者のパイオニアだった。そして、この科学に関心をもったファウストが、身のほど知らずにも人智をこえた力を手に入れようと悪魔と結ぶ、神の罰を受けるのだ。
このような解説とともに、この演劇台本を読むと、その奥深さを垣間見ることができて面白く感じられるのです。
それにしても、ゲーテって、たくさんの女性にもてもてだったようで、うらやましい限りです。
(2016年10刊。1300円+税)

人質の経済学

カテゴリー:アラブ

(霧山昴)
著者 ロレッタ・ナポリオーニ 、 出版  文芸春秋
誘拐がビジネスになっている、そのことがよく分かる本でした。
そして、誘拐がジハーディスト組織を育てているのです。さらに悪いことは、そんな誘拐ビジネスを生み育てたのは、アメリカ軍であり、それに追随した欧米諸国なのです。ですから、日本だって、その責任を分担する義務があるということです。
9.11以来、誘拐件数は飛躍的に増え、身代金の要求額もうなぎ上りになっている。
2004年には、200万ドル払えばイラクで誘拐された欧米人を解放することができた。今日では、1000万ドル以上も支払わされることがある。
欧米人の人質予備軍は無限に存在している。政府と交渉人は、自国の市民を解放しようと躍起になる。その結果、情報提供者から手配師、ドライバーに至るまで、値段は押し上げられる。
9.11が起きるまでは、世界の麻薬取引の大半は、アメリカで洗浄され、クリーンな米ドルに替えられていた。麻薬取引の80%」は、ドル建ての現金決済だった。そのドルをアメリカ国内に運び込む主なエントリーポイントになっていたのは、西インド諸島にあるオフショア金融機関や偽装銀行である。だが、9.11のあとにアメリカが制定した愛国者法によって、このプロセスは不可能とは言わないまでも、きわめて困難になった。
アメリカの金融当局には、世界中のドル取引を監視する権限が与えられた。したがって、アメリカの銀行やアメリカに登記した外国銀行は、世界のどこであれ疑わしいドル取引に気がついたとき、それをアメリカ当局に通報しないと刑事罰に問われる可能性がある。
コロンビアの麻薬カルテルは麻薬ビジネスであげた利益をアメリカ国内で洗浄できなくなっただけでなく、アメリカ当局に気づかれずに、そして誰からも通報されることなく、利益をある国から別の国へ移し、世界のどこかでどうにかしてドルの洗浄をやってのけなければならない。
この問題を解決したのが、イタリアの犯罪組織と手を組むこと。南米とイタリアの犯罪組織が手を組んだのは、ヨーロッパには愛国者法のような法律がなかったから。ヨーロッパにとって、文字どおりマネーロンダリング黄金時代が到来した。
麻薬カルテルは、ベネズエラと西アフリカに目を付けた。麻薬ビジネスは途方もなく、もうかる。
古い密輸ルートが再発掘された。これで活性化した密輸業者が、もう一つの禁制品である人間という商品に手を出すようになった。この商品には二種類ある。一つは、身代金目当てで誘拐される外国人。もう一つは、ちゃんと料金を払える難民。
いったんやり始めると、誘拐はすぐに麻薬の密輸を上回る利益をもたらした。
外国人の誘拐がひどくもうかることが分かると、アフガニスタンのアルカイダは、がぜん誘拐に熱心になり、傘下のジハーディスト集団にも、誘拐をやれと奨励するようになった。
どの国の政府も、実は、人質に優先順位をつけている。そして、人質ごとに、払ってもよい金額を決めている。つまり、誘拐組織だけでなく、政府も人質一人ひとりを値踏みし、この命とあの命に重みをつけている。そして、誘拐組織は、政府が人質に順位をつけていることをよく承知している。
難民キャンプから、国際的な人道支援組織(NGO)の要員を誘拐する目的は三つ。
一つは、難民キャンプからNGOを追い払うこと、二つには欧米に拘留されている仲間のジハーディストを解放すること。三つ目は、身代金をせしめること。
海賊ビジネスでは、誘拐より多額の初期投資を必要とするため、出資者を募って確保する必要がある。多くの場合、攻撃する小型艇のほかに、やや大型の母船が必要となる。
それでも海賊ビジネスでは投下資本のリターンは、きわめて良かった。出資者が実に利益の75%をとる。海賊の取り分は25%のみ。
国連の推定によると、2005年4月から2012年12月までに、ソマリアの海賊ビジネスは、4億ドル前後の利益を上げた。
2006年に誘拐された人数はわずか188人だったのが、2010年には1181人にまで増えた。身代金の額も増えた。2006年には、一人あたり平均して100万ドルだった。2011年には500万ドルに値上がりした。
2011年の海賊業の収入は年間2億ドルを上回り、ソマリア第二の収入源になっている。ちなみに一位は出稼ぎ労働者の本国送金。こちらは年間10億ドルである。
ソマリア人は、海賊を犯罪とは考えておらず、生きのびるために必要な手段だとみなしている。この地域では、ほかに生きていく手段はない。海賊ビジネスの上げる利益は国の経済の一部になっている。
イスラム国には、冷徹な戦略がある。一部の人質は処刑し、それを大々的に宣伝するほうが価値があると判断し、他方、一部の人質は身代金または捕虜と交換するほうが価値があると計算している。
安倍首相が「イスラム国と戦う諸国に2億ドルの支援を約束します」と言ったことから、日本もアメリカ軍に加担すると受けとられ、日本人の人質が殺害されることにつながった。
人質ビジネスの実態を鋭く暴露した本です。読んでいくと、ますます日本は欧米の軍事行動に加担してはいけないと確信しました。
(2016年12月刊。1750円+税)

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