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2016年11月 の投稿

きばれ長崎ブラバンガールズ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 藤重 佳久・オザワ部長 、 出版 学研 
福岡の精華女子高校の吹奏楽は私も一度だけ見聞したことがあります。そのマーチングしながらの吹奏楽には、つい見とれてしまいました。その精華女子高の吹奏学部を全国屈指の名門校に押し上げた指導者が定年退職し、長崎の活水高校に移り、そこでも吹奏学部を指導して、またたく間に九州大会を勝ち抜いて全国大会へ出場したというのです。すごいです。
この本には、そこに至る苦労が女子高校生たちの思いとともに明かされています。読み物としても、本当によく出来ています。幕明け前の心理状況そして、演奏が始まってからの音楽の推移が豊かに再現されていきます。その筆力にも圧倒されます。
その指導者の名前は、藤重佳久。実は初心者が大切。演奏は半年がんばったら、どうにか一人前まで成長できる。先輩が初心者の面倒をみることで、バンド全体の力が上がってくる。人間関係も良くなる。初心者でもやれるという可能性を生徒にも周囲の人々も見せてやりたい。
活水には、精華からの転校生もいたし、東京からやってきた生徒もいた。そして、人数が足りないのを中学生が補った。
マーチングは体を動かすので、非常に健康的。そして動きを視覚的にとらえられる。これは重要なこと。座奏は基本的に音だけで、聴覚の世界。目には見えない。形もなければ、言葉も、具体的なものもない。ところが、マーチングでは、音楽と連動した動きによって、視覚と体で具体的に取り組むことができる。生徒の姿勢も表情も良くなる。それに、お客さんも喜んでくれる。やはり動きがあったほうが目で見え楽しめるし、分かりやすい。
つくろうとしているのは、うねるような、しなやかな音楽。
音楽はデジタルではない。一定でないところに音楽の面白さ、人間らしさがある。
コンサートでは、まず演奏者が楽しんで演奏すること。そして、作品を完成させ、その感動を観客に伝え、楽しんでもらう。これが何より大切。
コンクールも、コンサートのように人を楽しませ、自分たちも楽しむ。これが基本。
笑い顔がいい。それは、口のまわりの筋肉をもっともうまく使える形だから。演奏が非常にフレキシブルで楽になり、ハイトーンも低い音も出るようになる。
演奏が上手な生徒は、生活態度もきちんとしていて、真面目。上手な人のやり方を真似ること、観察して盗んで自分のものにすることが必要。
コンクールで良い成績を収めるより、人柄の良い人間として育ってほしい。そのためには、たくさんの人間のなかでもまれる必要がある。社会に出てからでは遅い。
相手が喜ぶ演奏をする。相手に伝わる音楽をすることが大切。思いやりがあるから、良い演奏ができる。
女子高生に接するときには、決して嫌われないこと、必ず平等に接すること。まんべんなく全員に目配りし、差をつけず、一人ひとりに声をかけるのが大切。
良い音楽を奏でる生徒は共通している。性格が明朗活発で、元気がいい。声も大きい。それだけ日常においても表現力が豊かだ。日常の表現力と音楽の表現力はリンクしている。
ここまで読んでくれば、いちどぜひ活水のブラスバンドとマーチングを見て聞きたいですよね。読んで元気の出る、いい本でした。
(2016年5月刊。1300円+税)

日本国憲法は希望

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 白神 優理子、 出版  平和文化
いま大いに注目されている若手弁護士です。そのさわやかな話しぶりは、憲法の伝道師を名乗る伊藤真弁護士に匹敵します。
なにより、弁護士生活3年だというのに、憲法を語る学習会の講師を100回以上もつとめたというのですから、ただものではありません。私なんか、3年間で片手もあるかなという体たらくなのです。まあ、なんといっても若さにはかないません。
白神は「しらが」と読みます。著者から講師として憲法を語るときのポイントを聞きました。
まず第一に、憲法の魅力を自分の生き方を紹介しながら具体的に語ること。中学生までは、どうせ世の中は変わらない、変えられないと思っていた。ところが高校に入ってから、いや世の中は変わるし、変えられる。憲法は国民の自由を保障するもの、権力を縛るものだと知って心を動かされた。歴史は着実に前へ進んでいることを教えられた。
第二に、憲法を改正しようとする人たちの狙いは、日本を戦争できる国の体制につくり変えることにある。戦争と言えば、イラクでもアフガニスタンでも、大勢の罪なき市民が殺され傷ついている。子どもの手足が爆弾でもがれる、そんな悲惨な戦争を日本の権力者は再びしょうとしている。黙っていては危ない。
第三に、自民党の憲法改正草案は国民の基本的人権をまったく無視し、公益に反しない範囲でしか守られないとしている。つまり、国民は国家に逆らってはいけない存在になっている。
第四に、経済の視点からの話も欠かせない。戦争する国づくりは、福祉国家をこわすことになる。つまり、国民の貧困化が一層すすんでしまう。
白神弁護士は、ここまで話してきて、頭を上げてニッコリほほえみました。でも、最後に、希望を語ることが大切だと強調したのです。私も、まったく同感でした。せっかく憲法について学習しようと足を運んでくれた人を暗い足どりで帰してはいけません。しっかり元気を取り戻して、明るい気持ちで、家に帰って、周囲の人に声かけあうようにしなくてはいけないのです。
その点を白神弁護士が最後に強調したので、さすがに多くの憲法学習会で鍛えられている人は違うな、そう感嘆しました。
「ワインで語る憲法の話」という企画にも講師として参加したそうです。ワインのソムリエをしている人がアメリカ、ドイツ、スペインのワインの特長を紹介すると、この三国の憲法状況を白神弁護士が語ったというのです。すごい発想です。こんな柔軟な発想が年輩の私たちにも必要です。
都知事選挙のなかでのネガティブ・キャンペーンに踊らされる人がいかに多いか。その現実を前にして、日頃から私たちの言うことに耳を傾けてくれる人々をいかにたくさんつくっておくかがポイントだ。この白神弁護士の指摘にも、私は共感を覚えました。
このブックレットは、そんな豊富な憲法講師活動のエッセンスがまとまっています。年金・福祉や教育・予算を削る一方で、軍事(防衛)予算だけは、一貫して右肩上がりに増え続け、ついに5兆円を突破しました。そんな流れをぜひ変えたいものです。
憲法を守って、私たちの平和と人権を守り抜きたいものです。
80頁、800円(プラス消費税)という、とても手頃で味わい深い冊子です。表紙にある白神弁護士の笑顔の写真を眺めるだけでも心が癒されます。あなたに、ご一読を強くおすすめします。
(2016年7月刊。800円+税)

「その日暮らし」の人類学

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 小川 さやか 、 出版  光文社新書
東アフリカのタンザニアで15年にわたって零細商人に密着し、そのタンザニアの町での商慣行、商実践そして社会関係を調査している日本人(女性)学者のレポートです。
ところ変われば、品変わると言いますが、日本人にはとても理解できない状況です。そこでは、日本人の一般常識はまったく通用しません。
タンザニアでは、一つの仕事に収入源を一本化するのは、リスキーなことである。
タンザニアの人々のもつ事業のアイデアは、その後の人生において実現することもあるが、少なくとも、その実現が一直線に目ざされることはない。
タンザニアの都市住民にとって、事業のアイデアとは、自己と自身が置かれた状況を目的、継続的に改変して実現させるものというより、出来事、状況とが、その時点でのみずからの資質や物質的、人的な資源にもとづく働きかけと偶然に合致することで現実化する。
このような仕事に対する態度は、彼らの危機的な生活状況を反映している。彼らは一方で、計画を立てても、本人の努力ではどうにもならない状況に置かれている。
計画的に資金を貯めたり、知識や技能を累積的に高めていく姿勢そのものが非合理、ときには危険ですらある。
「明後日の計画を立てるより、明日の朝を無事に迎えることのほうが大事だ」
一日くらい食事を抜いても、同じ境遇の仲間がいて、明日を語りあうことが楽しいと思えるし、重労働をこなせる自らを誇りに思うことができる。
広告産業が未発達なタンザニアでは、流行がコントロールされていないので、消費者の需要・嗜好の多様性はゆっくりとしか変化していかない。
タンザニアでは、2000年ころから、中国に渡航して商品を買いつける商人が急増している。国の法や公的な文書は価値をもたず、香港や中国に商人本人が出向いて、みずから対面交渉をし、そこで取引の詳細と輸送までの手続をたしかめる。そうしなければ騙されやすい。人々は大企業の権威を無視し、具体的な人間との関係性でしか動かない。対面的な関係こそが信頼できるすべてである。
旅行者扱いで短期的に中国・広州に入ってくるアフリカ人は年間20万人にのぼる。
中国のコピー商品は、消費者の心を動かす価格にまで一気に引き下げ、そこから売れた商品の価値を徐々につり上げていく。
アフリカでは、今、ケータイによる送金サービスが発展している。これは、銀行のサービスを利用できない人でも、利用できるので、どんな奥地の農村部でもつかわれている。
いやあ、目を大きく開かせられる思いのする、面白い本でした。著者は、よほどアフリカ、タンザニアの現地に溶け込んでいるようです。アフリカの人々の物事の考え方を理解するに役立つ本だと思いました。
(2016年7月刊。740円+税)

大元師と皇族軍人

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 小田部 雄次、 出版  吉川弘文館
昭和天皇は戦争遂行と密接に関わっていた。何も知らなかったとか軍部にだまされていたというのは事実に反する。昭和天皇は、当時もっとも多くの情報を得ていた。戦争の大きな流れも、現地の戦闘情況もおおむね報告されて知っていて、それらに指示も与えていた。
昭和天皇こそが戦争指導の指揮権を握っていたのであり、ときに軍部を叱責することがあった。とはいえ、昭和天皇は、はじめから計画的に世界征服を考える侵略主義者でもなかった。むしろ、英米と協調しながら軍縮や戦争放棄への道を目ざした時期もあった。
昭和天皇は、学習院初等学科5年生、11歳のときに陸海軍少尉となった。しかし、士官学校も海軍兵学校も経験しなかった裕仁(ひろひと)の軍事的技能は一般の職業軍人と比べて優秀であったとはいいがたい。
昭和天皇はヨーロッパに行ったとき、第一次世界大戦の激戦地の跡に立って自らの目で確かめた。まずは世界戦争の惨禍を心に焼き付けた。
 ヨーロッパ旅行から帰って以降、昭和天皇はベットにじゅうたん、イス式の生活で統一し、和服は一切着なかった。晩餐会では、軍服ではなく、モーニングか燕尾服にした。そして側室制度を廃した。子どもたちは、みな本当に皇后が産んだようです。
 昭和天皇は憲法順守と国際協調を重視し、軍の革新運動には好意的ではなかった。そのことが、かえって軍部や民間右翼に「君側(くんそく)の奸(かん)」論による側近攻撃を活性化させ、以後のテロ・クーデター事件を誘発したとも言える。
 昭和天皇の弟たちは、陸軍士官学校、海軍兵学校に入り、相応の勉学と訓練を重ねて、卒業後に少佐となり、さらに現場で勤務しながら順次、佐官、将官となっていった。
 1928年に起きた張作霖爆殺事件の処理をめぐって、昭和天皇の政治的・軍事的判断はしばしば軽視された。そのことから昭和天皇は軍部と政治への対応に苦慮した。
 また、1930年の軍縮条約のときに、軍部の艦隊派は31歳の昭和天皇を軽んじる動きをみせた。1931年の満州事変の勃発に際しても、昭和天皇の許可なく朝鮮軍が独断で出兵した。
 結局、昭和天皇は、最終的には、軍のつくった既成事実を追認してしまった。
軍は、自らの「野心」を遂げるため、昭和天皇の「寛容さ」にも利用していった。
皇族たちは参謀総長や軍令部長になり、「キングの側」に立って軍を抑えるというより、政治活性化した軍に利用されることで、それぞれ陸軍や海軍の意向を直接に天皇に上奏する立場となった。
皇族軍人たちは、政治的に台頭する軍部や右翼に担がれ、かつ皇族自身も自らの見解を政治や軍事に反映させようとするようになっていた。そのことが軍部や右翼の非合法活動をさらに増長させ、ついには二・二六事件を引き起こしたと言えなくもない。
 昭和天皇と、それを取り巻く皇族たちの動きが軍部との関係が深く分析されていて大変興味深い内容でした。
 天皇を表看板に出して、実は軍部が天皇を軽んじて独走していたこと、昭和天皇といえども、軍の暴走を止めることが出来なかった(まったく出来なかったわけではないのでしょうが・・・)ことがよく分かる本です。
(2016年7月刊。1900円+税)

安保法制を語る!自衛隊員・NGOからの発言

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 飯島 滋明・佐伯奈津子ほか、 出版  現代人文社
 アフリカ(南スーダン)にいる日本の自衛隊員がついに戦争に巻き込まれようとしています。「平和な国・ニッポン」という貴重なブランドが今はがされようとしているのです。残念です。
 安保法制が日本国憲法9条を踏みにじるものであることは、最高裁の元長官や内閣法制局の元長官、憲法学者のほとんどが声を大にして叫んでいます。
 この本では、「戦地」へ行かされる自衛隊員や危険な紛争地帯で活動しているNGOの活動家が切々と訴えています。
自衛隊内では思想教育がなされていて、共産党や自衛隊を敵視するものは敵だと教え込まれる。選挙が間近になると、「自民党に入れろ」と言われる。
自衛隊は、海外で軍隊として扱われない。ジュネーブ条約やハーグ条約の捕虜規定が適用されない武装集団である。だから、どんな殺され方をしても、そのひどさを国際刑事裁判所に訴え出ることはできない。
 そして、戦死しても生命保険の対象外になる。イラク特措法では最高9000万円だったが、今は6000万円が最高額。そして、どんな場合が最高額になるのか、明確な基準はない。
予備自衛官は、1年間に5日間、訓練に参加する。1日8100円が支給され、別に月4000円の手当が出る。
防衛大学では、1ヶ月に11万円近い学生手当とボーナスが年に33万円9千円をもらえる。
 アフリカで日本人が殺し、殺されることが、なぜ「日本を守る」ことになるのか、とても理解しがたい。むしろ、テロを日本国内に誘引してしまう危険のほうが現実化するだろう。
現役の自衛隊員は、なかなか声を上げられないので、退職者が代弁している本です。この視点も欠かせないと思いました。
(2016年5月刊。1500円+税)

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