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2016年11月 の投稿

ペルーの異端審問

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 フェルナンド・イワサキ 、 出版  新評論
16世紀の南アメリカはペルーでのキリスト教会での異端審問の実情を掘り起こした本です。ポルノグラフィーでしかありません。性を必要以上にタブーとした教会は、そのなかではおぞましいとしか言いようのない実情だったようです。
教会は教えのなかで、セックスを人々の不安材料へとゆがめ、おとしめることで、社会に対して抑制やタブー、暗黙の懸念を強いる。しかし、それは支配の道具にほかならず、欲求不満と神経症の源と化す。
1629年のある日、リマの修道院で暮らしていた修道女が異端審問所に出頭してきた。背教および悪魔との契約、その邪悪な悪魔と肉体関係をもったことの罪を審問官に自供した。
事件はペルーの首都リマに不安を巻きおこした。悪魔というものが形態のない存在だとすれば、恐るべき堕天使ルシャーは、女たちとの性行為に及ぶため、墓地から掘り起こした遺体に乗り移っていることもある。
わずか150ページの軽い本です。16世紀ころの南アメリカでの出来事ですが、ヨーロッパでも同じようなものだったのではないでしょうか。宗教に名をかりてインチキなことをするのは古今東西を問わないですね。
(2016年7月刊。1800円+税)

マタギ奇談

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 工藤 隆雄 、 出版  山と渓谷社
私も一度だけ秋田の白神山地に行ったことがあります。ブナの林がありました。といっても車で行ったのです。本当は、自分の足で歩いて登るのでしょうか・・・。
明治35年(1902年)の八甲田山の雪中行軍にマタギが案内人にたったのです。青森連隊のほうではなくて、弘前連隊のほうです。
青森連隊は210人のうち、199人が凍死してしまいました。弘前連隊のほうは、同じころ、同じ場所を行軍していて、マタギのおかげで一人の死傷者も出していません。にもかかわらず、連隊の将校は世話になったマタギを途中で放り出してしまうのです。恩知らずもいいところです。日露戦争(1904年)の直前で、ロシアとの冬場の戦争に備えた雪中行動でした。
青森連隊のほうは、案内人を雇わなかったのです。
「お前ら案内人ごときより優秀な地図とコンパスがある。案内人を雇えというのは、お金が欲しいからだろう。案内人などいらぬ」と豪語し、結局は山の雪中で道に迷い全滅に近い状況に陥ってしまったのでした。その後の日本軍の行方を暗示しているような事件です。
新田次郎の『八甲田山死の彷徨』は、もとの報告書を参照しながらマタギの苦労に何ら触れていない。事実を追及した書物は歴史に埋もれてしまった・・・。
新田次郎の本は私も読みました。こんなエピソードがあったのですね。
マタギは、ただ獲物を獲るだけでなく、山の隅々までを知って大切にしている人のことを言う。もし好き勝手に獲物だけを獲っていたら、いまごろ白神山地には生きものが一匹もいなくなっていただろう。マタギは、ただのハンターと違って、白神山地の番人なのだ。
白神山地は世界遺産に指定され、さらに鳥獣保護区に指定された。そのため、白神山地では一切の猟ができない。マタギという文化は、当然に終わりを告げた。
マタギが何をしていたのかを知るうえで貴重な本になっています。
(2016年10月刊。1100円+税)

長崎奉行の歴史

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 木村 直樹 、 出版  角川選書
江戸時代の長崎奉行というのは、たくさんの役得がある美味しい地位かと思っていましたが、意外に気をつかう、大変な激職だったようです。
長崎奉行は、幕府の老中の配下にあって、幕府の遠隔の直轄地を支配する遠国(おんごく)奉行の一つ。定員は2名で、うち一名は長崎で勤務する在勤奉行。もう一名は江戸にいて、幕府の諸役人たちと調整をおこなう在府奉行。
在府奉行は7月下旬に江戸を出発し、9月に長崎に到着、それまでの在勤奉行と引き継ぎする。交代した奉行は9月下旬に長崎をたち、11月には江戸に戻ってきて、翌年夏の出発まで、江戸城内で勤務する。
長崎奉行所は、長崎には二ヶ所あるが、江戸城内にはない。
長崎は18世紀はじめの最盛期には6万人の町人をかかえる九州屈指の大都市であり、日本各地の商人や遊学する者など、出入りが多い。
長崎奉行は身分は町人だけど他役人という下級支配層という地元出身の町役人を2千人を部下としている。長崎は6人に1人は役人と称する都市であった。長崎奉行の平均的な在職期間は4年。
正保4年(1647年)、ポルトガル船2隻が長崎に入港してきた。これに対して、九州各藩は競って将兵を送り込み、5万人の軍勢が長崎湾の内外に展開した。船を横に並べて仮設の船橋を構築してポルトガル船を長崎湾内に封じ込めた。結果としては、双方とも発砲することなく、平和裸に終結した。
キリシタン摘発も長崎奉行の仕事の一つだった。1657年(明暦3年)の大村郡崩れ(くずれ)では600人以上のキリシタンが捕まっている。18世紀の長崎奉行は、目付から就任したパターンがとても多い。次は、他の遠国奉行からの就任。とりわけ佐渡奉行からの就任が目立つ。18世紀半ば以降は、勘定奉行が長崎奉行を兼任するようになった。
貿易を幕府の財源の一部として期待し、そのために勘定奉行が直接乗り込んでくると、どうしても長崎の町人の反発をかってしまう。幕府の利益や国家的利益と、長崎会所に代表される長崎に留保されて都市長崎に還元される利益は、相反していた。
長崎奉行には、たしかに役得があった。長崎奉行に就任するときには、1000両を幕府から借りることが出来た。そして、わずか1年で返済することになっていた。それほど役得は大きかった。
名奉行は、長崎の市中に利潤が留保されないように、いろいろ工夫をこらした。
19世紀に入ると、長崎奉行は、国際情勢の変動に気を配りながら長崎の都市支配をすすめていくという新しい段階に入った。
長崎奉行という職種の変遷を江戸時代を通じて把握しようとする意欲的な本でした。
(2016年7月刊。1600円+税)

錆と人間

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ジョナサン・ウォルドマン 、 出版  築地書館
サビをめぐる面白い話です。
アラスカには1300キロの長さの原油を運ぶパイプラインがある。そのパイプラインの中を錆探知のロボットが走っている。すごいロボットです。長さ5メートル、重さ4.5トンというのです。それをどうやってパイプラインの中を動かすのでしょうか・・・。並々ならぬ工夫と努力が必要なようです。そして、それをクリアーしてこそアラスカの地に人間らしい生活ができるというわけです。そこには、どうやら日本の科学技術も貢献しているようなのです。なにしろ、敵はサビです。どうやって見つけ、また、その手当てをするのが、難問ぞろいでした。
サビのおかげで、原子力発電所では少なくとも数人が死亡し、あわや原子炉がメルトダウンを起こしようになった。核廃棄物の保管も困難である。
世界最強のアメリカ海軍にとっての最大の脅威は、なんとサビなのである。そして、世界最強のアメリカ海軍は、サビとの戦いに敗北しつつある。
給水本管を守るため、水道水にも腐食防止剤が含まれている。水を陽イオン満載にして、腐食性を弱めようとしている。
宇宙にすらサビがある。そこでは分子酸素ではなく、原子状酸素があるからだ。ほとんあらゆる金属が腐食の餌食になる。
ニューヨークの港にある自由の女神像も骨組みがサビついていた。女神像にある1万2千個の骨組み用リベットの3分の1は緩んでいるが、あるいはなくなっていた。骨組みの約半数が腐食していた。
異種の金属同士が触れると腐食が起こる。それは、電池が機能する仕組みによる。銅と鉄の間に水分があるのは、こつの金蔵が接触しているのと同じほどの問題がある。結局、塗料のせいで、女神像は巨大な電池と化していた。
高さ91メートルの女神像の修復のためにカンパで集めた14億ドルがつぎ込まれた。
食品缶詰工場で働く人々の乳ガンの発症率は一般集団の2倍になっている。それも閉経前なら5倍である。
防食技術者の平均年収は10万ドル。防食技術者の11%は年に15万ドルを稼いでいる。年収20万ドルをこえる人も4%いる。
サビとは、金属原子が環境中の酸素や水分などと酸化還元反応を起こすことで生成される腐食物。
サビについて、人間との深い関わりを認識しました。
(2016年9月刊。3200円+税)

プリズン・ブック・クラブ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 アン・ウォームズリー 、 出版  紀伊國屋書店
刑務所のなかで読書会をしているというのに驚きました。それに参加した著者によるカナダでの実践記録です。
刑務所には手作りの焼き菓子の持ち込みは禁止されている。なかにやすりやぎざぎざした金属片など武器になるものを隠せるから。
読書によって受刑者を中流階級に引き上げたいという願いがある。受刑者に幅広い文化を体験させたいということ。読書会は徹底して無宗教で運営される。
カナダでは、国民全体の自殺率は10万人のうち11.3人に対して、連邦刑務所内では84人にのぼる。
受刑者は、ほかの人たちよりずっと本から多くのことを学びとっている。時間とエネルギーがあるぶん本に集中できるし、学ぶ必要に迫られてもいる。
刑務所内では、グループできっぱり分断されている。ムスリムのグループ、ケルト人のグループ、先住民族のグループ、ヒスパニックのグループ、BIFA(黒人受刑者友好協会)のグループ。ふだん受刑者は仲間同士で固まって、ほかのグループとは接触しようとしない。しかし、読書会がそこに風穴を開けた。
受刑者が本の中の恋愛に関心を寄せるのも不思議ではない。彼らにとって恋愛は、いつか刑務所を出てパートナーと晴れて人生をやり直せるときまで、外の世界を忘れないでいるための支えなのだから。
本を大量に読むことで、受刑者暮らしに耐えてきた。でも、一緒に読んでくれる仲間がいないと、気力が出ない。読書の楽しみの半分は、ひとりですること。つまり本を読むこと。あとの半分は、みんなで集まって話し合うこと。それによって内容を深く理解できるようになる。本が友だちになる。
これは、私にとっても言えることです。まず、一人で本を読みます。そして、こうやって書評を書いて、感想をあなたと共有したいのです。
戦争とは、数ヶ月に及ぶ退屈に、ときおり恐怖が混じるもの。兵役期限が満了したころになると、兵士のほとんどが故郷へ帰りたがらない。これは、長いこと服役している囚人も同じ。居場所は刑務所しかない。ここを出ても、何もない。安心できる場所は刑務所だけ。戦場で求められるのは、仲間の面倒をみることと、敵を殺すことだけ。
バラク・オバマの本『マイ・ドリーム』すごく分厚いけど、よく読まれている。
読書会でとりあげる本の選定には苦労しているようです。この本には、O・ヘンリーとか、私の知っている(読んだ)本もいくつか出てきますが、大半は知らない(読んだことのない)本でした。『ベルリンに一人死す』とか『卵をめぐる祖父の戦』は読みました。どちらも大変面白い小説です。
この世界には、なんとさまざまな囚われびとがいることだろう。監獄の囚人、宗教の囚人、暴力の囚人。恐怖の囚人もいる。読書会への参加を重ねるたびに、その恐怖から徐々に解放されていった。
この読書会は受刑者の更生を直接の目的とはしていない。ただ、文学作品を読むことが他者への共感につながっていく。文学作品をよく読む人は、ノンフィクションの読者や何も読まない人に比べて、共感力や社会適応力がすぐれている。
こういう読書会は日本でもやられたらいいと思いました。受刑者にとって外部の実社会との接点が広がることは、とてもいいことだと私は思います。
(2016年9月刊。1900円+税)

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