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2016年10月 の投稿

受難

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者  帚木 蓬生 、 出版  角川書店
済州島に行くフェリーが沈没し、修学旅行のために乗船していた韓国の高校生が300人も亡くなった、世にも悲惨な事件は、私にも忘れることが出来ません。本当にひどい話でした。
この本は、その実話を取り込んだ小説です。事件の背景がよく分かる展開です。
沈没してしまった船は、もとは日本の船でした。それを韓国の船会社が買って大改造したのです。乗客を積め込めるだけ積め込む利潤本位でしたから、安全性は完全に無視。問題は、それを見逃した当局の監視体制の甘さです。
そして、事故が起きたときの対処にも問題がありました。なにしろ、船長たち幹部船員が真っ先に船から脱出し、高校生たち乗客には、じっとして動くなという船内放送を繰り返して、脱出のチャンスを奪ったのでした。こんなひどい話はありません。
ところが、船員は船長以下、ほとんど非正規社員だったというのです。愛船精神が生まれる余裕なんて、なかったようです。となると、オーナーと海運当局、そして救難体制の不備が問題となります。
それはともかく、300人もの前途有為な高校生をいちどに失った親族の悲しみはなんとも言えない深さです。国家的損失でもあります。本当に思い出すだけで悲しい、悔しい話です。
この本は、この事故で水死した少女が細胞再生技術によってよみがえる話を中心にして進行していきます。やや出来すぎという感を受けましたが、それも小説だから許せます。
日本だって、安全第一のはずの原発で大事故が起きたのに、今なお原発の安全神話にしがみつき、金もうけしか念頭にない電力会社と政治屋の一群がいます。それには、本当に許せない思いです。
それにしても、人間の再生技術って、簡単なことではないでしょうが、それは是非やめてほしいと思いました。人間が人間ではなくなりますから・・・。
(2016年6月刊。1800円+税)

江戸のパスポート

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者  柴田 純 、 出版  吉川弘文館
江戸時代、旅行している旅人が病気になったり、お金がなくなったとき、病人の郷里まで安全に送り届ける仕組みがあったというのです。
56歳の女性が旅の途中で仲間とはぐれて一人旅になってしまったあと、足を痛め、所持金も乏しくなったので、保護願いを出したら、村役人が郷里まで無事にリレー式で引き継いで届けてくれた。
保護から送り出しまでの過程がシステム化していた。旅の途中で困難にあい、しかも所持金がなくても、往来手形さえ携帯していれば、何とか国元まで送ってもらえた。このように十分な旅費をもたない旅人が、途中で野垂れ死にを心配せず、旅に出る条件が生まれていた。
往来手形を発行してもらえる人々にとっては、パスポート体制は福音だった。他方、往来手形を発行してもらえない無宿(むしゅく。無国籍の人々)は、パスポート体制から完全に除外されていた。
江戸時代の庶民の旅は、元禄時代、つまり17世紀末から18世紀初めから増えはじめ、18世紀後半から急増し、19世紀前半にピークを迎えた。旅行難民対策が整備され、旅行難民救済システム体制が日本列島全体で機能しはじめたので、19世紀前半のピークを迎えたのだ。
加賀藩は、歩行できなくなった旅人に対して、本人が希望すれば、馬や駕籠を使い、足軽を差し添え、「宿送り」を続けていた。ただし、全国どこの藩でもそうだったというのではない。このように旅行難民対策は、諸藩がそれぞれ異なった対応をとっていた。
19世紀前半のころ、田辺城下には、少なくとも年間10万人ほどの順礼が宿泊していた。うひゃあ、これって、すごく多人数ですよね・・・。
日本の往来手形に保護救済規定が入ったのは、往来手形が領主の側からではなく、民衆の救済慣行をもとにして、自律的に形成されたものであるからと考えられる。
江戸時代の日本人は、現代日本人と同じく、旅行が大好きだったようです。女性の一人旅も珍しくなかったというのですから、まさしく平和の国、ニッポンならでは、ですよね。
そして伊勢参りやら、「ええじゃないか」の大群衆など、旅行好き日本人の面目躍如だったのですね。江戸時代の世相を知ることのできる本です。
(2016年9月刊。1800円+税)

バーニー・サンダース自伝

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 バーニー・サンダース 、 出版  大月書店
 思わず涙が出てくるほど感動しました。大学生時代の初心を、こうやって今なお貫いていること、そしてそれが多くの心あるアメリカ市民に支持されていること、それを知って私の心まで熱く震えてしまいました。すごい人です。
 バーニー・サンダースはアメリカで民主党の大統領候補にあと一歩というところまで迫りました。ヒラリー・クリントンが金持ち階級の代弁者だとして人気がないことにも助けられたのでしょう。でも、バーニー・サンダースの主張は、アメリカの多くの若者の心をがっしりつかんだのです。ここに私は、アメリカの未来があると思いました。
 バーニー・サンダースは社会主義者を名乗り、一貫して無所属だった。大統領選挙に向けてだけ民主党員になった。
 今のアメリカには貧困層と弱者を代表する主要政党がない。そして、貧困層を叩くことは、今や「上手な政治」だ。
「この国の貧困層は、母豚の乳を吸う大きな子豚だ。彼らは、この国のもたらす便益をみんなもっていってしまう。いつも人を食い物にしているんだ」
アメリカでも日本でも、保守反動の政治家は貧困層を叩いて、中間層の喝采を得ています。自らは金力も権力もある自民党の政治家が、ことあるごとに生活保護受給者を目の敵にして、ぜいたくな生活をしているかのように叩いています。そして、その尻馬に乗る、決してリッチではない中間層がいます。悲しい現実です。
 アメリカの現在の主たる危機は、失業ではなく、労働者階級の賃金が急送に低下していること。失業率が高いことは問題だが、それよりさらに深刻なのは、アメリカの労働者の実質賃金が過去20年間に16%も低下したこと。
 これは、日本も同じですよね。アベ政権下で、労働者の賃金が低下する一方なので、消費・購買力が低下しているため、日本の経営回復の目途がいつまでたってもたちません。アベノミクスの失敗は明らかです。
バーニー・サンダースは、シカゴ大学の学生のとき、人種平等会議、学生平和連合、青年社会主義者同盟の一員だった。図書館では、マルクス、エンゲルス、レーニン、トロッキー、フロイト、フロム、そしてもちろん、ジェファーソンもリンカーンも読んだ。すごいですね。そして、ベトナム反戦運動にも取りくんでいます。
サンダースが公職に立候補しようと思ったのは、今日この国の政治状況が本当に危険であることに多くの人が気がついていないと思ったから。
 はじめは1%、そして2%・・・。バーリントン市長に選出されたときには、わずか14票差(数え直しの結果、10票差)だった。ところが、その後は市長に3回も再選された。
サンダースの選挙運動の基本は戸別訪問。運動員が組んで、一軒一軒を歩いてまわり、対話して支持を広げていくのです。日本で戸別訪問が禁止されているのは、本当におかしいと思います。買収の温床になるというのですが、とんでもないことです。個別訪問を一律に禁止するのは憲法違反だとする下級審の判決がいくつも出ましたが、自民党は一向に公選法を改正しようとしません。買収で摘発されるのは圧倒的に自民党なんですけど・・・。
 アメリカ社会の重大な政治的危機は、働く人々が黙ってしまうことだ。もし組織労働者の5%が政治的に活発になれば、アメリカの政治的・社会的政策を根本的に変えることが出来るだろう。今日、大多数の低所得労働者は投票に行かない。働く人々の圧倒的多数は無力感を抱いている。
そして、投票率をあげるだけでなく、政治プロセスについて、市民への教育をもっとしっかりやらなければいけない。今こそ、学校で若者に民主主義の教育をすべきだ。
労働組合の積極的役割について、テレビのゴールデンタイムで語られ、紹介されるべきなのだ。
戦争は政治家が始める。そして、戦場で政府のために命を危険にさらした男女がいざ助けを必要としているとき、その同じ政府に背を向けられてしまう。許しがたい非道だ。
これは、アメリカのことですが、今、同じ状況が日本にも起きようとしています。
 アフリカ(南スーダン)へ日本の自衛隊を派遣して、なんで日本の平和が守れるというのですか。反対ではありませんか。日本の若者がアフリカの地で、殺し、殺されることを日本にいる私たちは黙って見ていいのですか。私は、そんなことは止めてほしいと思います。弁護士会も、そのための行動を起こしています。
 久しぶりにたぎる思いに接し、胸が熱くなりました。あなたも、ぜひ手にとってお読みください。 
(2016年6月刊。2300円+税)

セブン・イレブン、鈴木敏文帝国崩壊の深層

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  渡辺 仁 、 出版  金曜日
 鈴木敏文は1932年生まれだから84歳。イトーヨーカ堂の伊藤雅俊は92歳。この二人が争ったようですね。やはり老害なのでしょうか。本人は認めていませんが、鈴木敏文は二男の鈴木康弘を後継者にしようとして、社内で猛反発を受けたと書かれています。
「オムニチャネル」とは、スマホやネットで注文した商品を全国のセブン店で、24時間いつでも受けとれるという、次世代ネット通販の総称。
 ところが、これでは、本部は利益を得るけれど、加盟店はわずかな手数料収入だけになってしまう。商品のショーウィンドーであり、単なる配送拠点でしかなく、店舗オーナーは完全に無視される。これは反発必至ですよね。
 セブン・イレブンの3代目社長は、陸上自衛隊の師団長(陸将)をつとめた人間だった。レイテ沖海戦の「謎の反転」で有名な栗田健男・海軍中将の息子でもある。自衛隊上がりの栗田元社長が、社内の組織を自衛隊式に変えた。
 セブン・イレブンには、売上金の毎日送金を拒む「未送金オーナー」を力でねじ伏せる非合法組織がある。鈴木敏文会長直属の特殊部隊だ。
その写真も紹介されていますが、不気味です。レジから売上金を抜きとってしまうのです。
 セブン・イレブンの広告量が莫大なだけに、スポーツ紙や夕刊紙も、広告大スポンサーである「天下のセブン」にだけは完全なる沈黙。何の批判にもさらされていない。
セブン・イレブンの広告宣伝費は2525億円。しかし、現実には、オーナー夫妻の自殺や過労死は後を絶たない。セブンは、自殺遺族の口封じをしている。
セブンの利益率31%はあまりにも異常に高い。あのトヨタ自動車だって、利益率は6%でしかない。売上金の毎日送金システムが、この異常利益を支えている。
セブン本部には、全国1万5800店から、100億円もの現金が入ってくる。月3000億の大金をどのように運用しようと、セブン本部の勝手だという仕組みになっている。
コンビニ商法一般の恐ろしさでもありますが、ちょっとひどすぎますよね・・・。
現場で働く人は、本当に大変と思います。ますます、コンビニには近寄りたくないと思いました。
(2016年5月刊。1400円+税)

食い尽くされるアフリカ

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 トム・バージェス、 出版  集英社
 巻末の解説文を紹介します。
 中国はアフリカ経済を発展させるといって資源開発を次々にすすめている。しかし、今までのところ、アフリカの人々には、その恩恵はまったく及んでいないというのが現実だ。エネルギーを輸出するためにつくられた交通インフラは、人々のために役立っていないどころか、むしろ安価な中国製品が大量に流出するルートになり、アフリカ現地の工業化を大きく妨げている。そのうえ、そのインフラ建設費の3割は汚職によって消えている。
 天然資源関連の産業は、国内に雇用を生まない。そのため、アフリカの人々のあいだに大量の貧困が発生している。
 中国の汚職官僚たちは、中国内で略奪システムを構築し、そのシステムを通して蓄えた富を秘匿性の高いタックスヘイブンに隠すテクニックを身に付けた。今のアフリカの天然資源国における略奪システムは、中国の高級官僚によってつくられた汚職システムが修正されて、アフリカに輸出されたものと言ってよい。
 中国とアフリカとは、今このような関係になっているのですね・・・。
 植民地時代のヨーロッパの帝国や冷戦時代の超大国が姿を消し、資源の宝庫であるアフリカ大陸には新たな支配の形が生まれている。アフリカに生まれた新たな帝国を支配するのは、もはや国家ではない。何ら国民に責任を負わず、影の政府を通じて国土を支配するアフリカの政治家、彼らを世界の資源経済と結びつける仲介者、企業秘密を盾に汚職をおこなう東西の多国籍企業、この三者の連合勢力がアフリカを支配している。
 中国は、ニジェールでウランを採鉱し、未開発の油田を掘削する権利を受けとる代わりに、独裁者タンジャが独裁政治を遂行するために必要な手段を提供した。そして、5600万ドルのうちの4700万ドルは反乱を鎮圧するための武器の購入にあてられた。
 中国は、アフリカの変化にあわせてアフリカ諸国に支援の手を差し伸べている。中国は2004年にアンゴラで協定を結んだあと、コンゴやスーダンとも同じ取引をした。いずれも、インフラを提供する見返りに天然資源をもらうという数十億ドル規模の取引である。
中国の海外での契約の3分の1はアフリカとの契約である。アフリカにおけるインフラ支出の3分の2は中国に資金が占めている。
アフリカの主要水力発電ダム10基の建設資金の大部分を中国が提供する。これらのダムによって、アフリカ大陸全体の発電量の3分の1の電力を生産する。
 エピオチアでは中国が構築した携帯電話鋼が利用され、中国が建設した空港を通じて貨物が流通している。アフリカ連合の新しい本部ビルは2億ドルかけて、エチオピアの首都アディスアベバにつくられたが中国が資金を提供した。
アフリカへの融資の最大の資金源は、国有の中国輸出入銀行だ。
中国の国有企業は、シエラレオネから南アフリカに至るアフリカの天然資源をもつ欧米の企業から230億ドルを費やして持分を購入した。
中国は、欧米の諸国と競争だけでなく、協力もしている。
アフリカの資源国家の支配者は、国民の同意を得なくても国を統治できる。それが資源の呪いの核心にある。資源ビジネスがあるかぎり、支配する側と支配される者との社会契約は成立しない。
アフリカにおける中国の存在感は日に日に強大となっていますが、そこには大きな問題もあることを認識させられる本です。
(2016年7月刊。1900円+税)

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