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2016年10月 の投稿

人はなぜ星を見上げるのか

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 髙橋真理 、 出版  新日本出版社
最近はあまり行っていませんが、プラネタリウムは私の好きな場所です。広大な宇宙にいること、ちっぽけな存在であることを実感させてくれる貴重なひとときがそこにあるからです。
そのプラネタリウムや星・宇宙というのを20年も仕事のパートナーとしている女性が書いたロマンあふれる本です。うらやましいですよね、高校生のころの夢を実現できるっていうことは・・・。
北海道大学に入ったときには、オーロラ研究をすると意気込んでいたとのこと。でも、北大はオーロラの研究はしていなかったのでした・・・。そして、アラスカにいる星野道夫に会いに大学2年生のときアラスカへ飛び、ついに蛇のように激しく上空を舞う緑色のオーロラに出会いました。
 私の身近にもアラスカまでオーロラの写真を撮りにいってきた人がいますし、これから行きたいところとしてオーロラをあげている知人もいます。私自身はマイナス40度の寒さに耐えられそうもありませんので、写真で我慢します。
 そして、著者はオーロラの研究ではなく、ミュージアムをつくることを思いたったのでした。それからの行動力がすばらしいのです。好きなことをやって生きていこうという敢闘精神にあふれています。私も、こうやって本を読んで、本を書き、好きなことばかりをして生きています。
 プラネタリウムで星などを見た子どもたちの疑問が面白いのです。はっとさせられる内容です。太陽は沈んだあと、どこに行くのか・・・。地球がまわっているというのになぜ私は落っこちもせず、立っていられるのか・・・。きわめつけは、星は、何のためにあるのか・・・。これって、自分は何のために存在しているのかに通じる疑問ですよね。
小学4年生のとき質問を書いて送ってきた女の子に答えていると、その後も今日まで交流が続いているというのです。すごいことです。
 では、時間はどうか・・・。時間というのは、不思議な存在である。えっ、時間は存在するもの、なのでしょうか。過去というのは、いったいどこへ行ってしまうものか。過去は、どこかへ行ってしまうものなんですか・・・。時間は、無限の過去から無限の未来に向かって一直線に伸びていくものなのか。
プラネタリウムにうつしだされた星空を見て、ある人が天国っていうのは、あそこにあるのかねえ、とつぶやいた。
「きっとそうですよね、たぶん、すごく美しいところだと思います」と答えた。すると、その人は、「そうだよなあ、みんな行ったきり帰ってこねえもんな。いいところなんだよな」と、小さい声で言った。
 そうなんですね。夜の星空の向こうにこそ天国があるんでしょうね。
 宇宙のことを考えていると、その年齢が138億年とか聞かされると、わずか100年も生きていない人間のちっぽけさを感じずにはおれません。
 プラネタリウムに、また行きたいなと思いました。
 
(2016年8月刊。1800円+税)

イランの野望

カテゴリー:アラブ

(霧山昴)
著者 鵜塚 健 、 出版  集英社新書
浮上する「シーア派大国」というサブタイトルのついた新書です。イラン・イラク戦争とかシーア派とスンニー派の争いといっても、日本人の私には、なかなかピンと来ない話です。
安易な選択肢の一つは、考えないこと、関心をもたないこと。二つ目は、諸悪の根源をはっきりさせ、徹底的に根絶すること。いずれも、これで問題がうまく解決した例はない。
そうなんです。そうすると、私たちは知るしかありません。そして、単純な「善悪二元論」ではなく、複眼的な見方が求められます。
イランは、今や、中東では希少な、安定した大国である。
ISは、2015年12月の時点で、月8000万ドル(96億円)の収入を得ている。その50%は支配地域での税金徴収や財産没収による。残る43%は石油の密売による収入。豊かな財源と領土を確保している。
イランはイスラム教のなかの少数派のシーア派に属している。かつてイラン王朝が栄えた国だ。
イランは、1979年のイスラム革命のあと、反米路線をかたくなに貫き、アメリカはイラン「封じ込め」に力を注いできた。皮肉にもアメリカの政策は、その意図に反し、結果的にイランに有利な状況をもたらした。
16億人いる世界のイスラム教徒の9割はスンニー派で、残り1割がシーア派だ。
イランは国内人口の9割以上をシーア派が占めている。
イラン・イラク戦争のとき、アメリカはイラクを支援したため、「殉教者」の家族はイラクだけでなくアメリカに対して怨念のような感情を抱く。そして近年の核開発でイランを抑え込もうとするアメリカへの反発心が、共鳴し、増幅している。
イランは産油国であるだけでなく、7900万人の人口をかかえる中東の大国だ。一定の富裕層に加え、購買力のある中間層は分厚く、トルコと並んで魅力的な市場になっている。
最近、中国がイランで存在感を高めている。中国は、イランにとって、最大の貿易相手国となった。イランの原油輸出先の第1位は中国である。
イランは、近い将来、国内に20基の原発を設置する計画で、その中核を担うのがロシアと中国だ。ロシアはイランにおける原発利権で突出している。
イランの実情の一端を知った思いがしました。
(2016年5月刊。720円+税)

悪夢の超特急・リニア中央新幹線

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 樫田 秀樹 、 出版  旬報社
リニア中央新幹線って、日本にとって百害あって一利なし、ですよね。そんなこと、詳しく知るまでもなく、一見明白だと思います。だって、東京と大阪を2時間ちょっとで行けるというのに、それを1時間に短縮して何が変わるというのですか。
ところが、この本を読むと、莫大な国家経済の損失というだけでなく、放射能汚染をまき散らしたり、電磁波被害を拡散させたり、自然環境を破壊したり、とんでもない巨悪の計画だということが如実に示されています。
こんな計画は直ちにストップさせるべきです。
なぜ、時速500キロでなければいけないのでしょうか。運転士はおらず、事故にあったとき、乗客が仮に無事だったとしても、何キロも歩いて脱出口を目ざさなくてはなりません。
岐阜県では、日本最大のウラン鉱床地帯にトンネルを開ける可能性がある。
新幹線の3倍以上の電力を消費するので、それこそ原子力発電所を必要としてしまう。
強力な電磁石を使用することから電磁波が発生する。それによる人体への悪影響が心配される。
すでに2兆2千億円もの借金がある会社が、さらに9兆円もの事業に乗り出すことには大きな疑問がある。
ところが、一般のマスコミはリニア新幹線のかかえる問題を報道しようとしない。
いやはや、とんだ税金のムダづかいであり、国民の安全と健康無視の計画です。ゼネコンと一部政治家・暴力団のために日本という国が動いていることを実感させられます。こんなムダづかいを止めたら、もっと福祉や教育、人材育成にお金をつかえます。日本という国の流れを早く変える必要があります。
(2016年8月刊。1600円+税)

パナマ文書

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 バスティアン・オーバーマイヤー 、 出版  KADOKAWA
パナマ文書は、世界のスーパーリッチたちが税金のがれためのインチキをしていることを暴露したものです。パナマの法律事務所の極秘文書が外部へ漏出したのです。
この本を読んで大変もどかしかったのは、日本人のスーパーリッチもいるはずなのに、本文では全然ふれてなく、解説にもありません。ぜひ日本人の関わりを明らかにしてほしいです。
国際金融の世界はオフシェア業界のおかげで潤っている。
世界中が一致団結してタックスヘイブンに向かって攻撃を仕掛けたら、さすがのオフシェア業界も存続の危機になるだろう。
銀行口座の情報が世界中で自動的にやりとり出来るようにすれば、オフシェア対策に有効だ。EUだけでも、毎年1兆ユーロが脱税と節税のために失われている。
スーパーリッチとは、自由に使える資産が50万ドル以上もっている人。ウルトラ富裕層というのは、少なくとも3000万ドル以上をすぐに投資に回せる人のこと。
たとえば、スペインで家を買うと、10%の不動産取得税がかかる。だけど、家ではなく、その家を所有する会社の株を買ったら、その税金はかからない。
富豪やスーパーリッチが暮らすもう一つの世界では、いくつもの大陸や国をさまたいで口座や株、家屋敷、プレジャーボート、その他の資産の一部をオフショアの仕組みを使って保有するのが当たり前になっている。ペーパーカンパニーを所有すること自体は、まったく合法だ。
世界中で社会が二つの階級に分かれている。ひとつは普通に税金を支払う階級で、もうひとつは、いつ、どのように税金を払うかを、あるいは払うか払わないかさえも自分で決め、そうするための手段も持っている階級だ。
このパナマの法律事務所は世界中のいかがわしい人物、といっても、その国の大統領や首相だったりするのですが、その裏金を預かる仕事をしていたようです。そのデータが、内部告発で外部へ流出したというわけです。CIA文書を流したスノーデン氏のような勇気ある人がいたのです。
おかしな世の中です。本当は拝金主義のくせに外部に向かっては愛国心を語るなんて許せませんよね。腹の立つばかりの本ではありました。決して、世の中、お金がすべてではない。みんなで叫んで、行動に移したいものです。
(2016年8月刊。1800円+税)

アウシュヴィッツの図書係

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 アントニオ・G・イトウルベ 、 出版  集英社
アウシュヴィッツの絶滅収容所には珍しいことに一棟だけ家族収容所があり、ユダヤ人の子どもたち500人が生活していた。そこでは、大人が子どもたちに勉強を教え、本を読んでやり、話を聞かせていた。
そして、この家族収容所には貴重な本を扱う図書係の少女がいた。ナチスに見つかれば本の没収どころか、即、処刑される危険な係だ。しかし、そうでなくても絶滅収容所は毎日毎日が死と隣あわせの生活を余儀なくされていた。
図書係を担っていた少女はドイツの敗戦時まで生きのび、戦後も80歳まで長生きしたのでした。この本は実話をもとにした小説です。私は一日中、一心に読みふけってしまいました。電車のなかでは一切のアナウンスが耳に入らず、昼食のサンドイッチを食べるときも本から目を離さず、裁判所の廊下でも待ち時間ずっと読み続け、ついに読み終えたときには、もっと読んでいたかったと思いました。
アウシュヴィッツという世にも稀なる苛酷な状況のなかで13歳の少女が使命感に燃えて本を隠し、また本を読みふけるのです。それは悪臭にみちたトイレの片隅でもありました。
頁をめくる手がもどかしくなるほどスリリングな展開です。
アウシュヴィッツで固く禁じられているもの。それは銃でも、剣でも、刃物でも、鈍器でもない。それは、ただの本だ。しかも表紙がなくなってバラバラになり、ところどころのページが欠けている読み古された本。
小さいころのことはあまりよく覚えていない。いつも記憶によみがえるのは、平和な毎日には、金曜日に一晩コトコト煮込んだ、こってりしたチキンスープの香りがしたこと。そして、ロースト・ラムの味や卵とくるみのパスタの味もよく覚えている。なかなか終わらない学校、おぼろげにしか覚えていないクラスの同級生たちと、石けりやかくれんぼをして遊んだ午後・・・。そのすべてが消えてしまった。変化はいきなりではなく、徐々に始まった。しかし、子ども時代は、ある日、突然に終わった。
アウシュヴィッツで古株の囚人が新参者にきまって与える第一の教訓は、「生きのびることだけを目ざせ」ということ。大きな計画は決して立てない。大きな目標はもたない。ただ、一瞬、一瞬を生きのびる。
図書館をやっていくには勇敢な人が必要だ。勇気のある人間と恐れを知らない人間は違う。恐れを知らない人間は軽率だ。結果を考えずに危険に飛び込む。危険を自覚しない人間はまわりを危ない目にあわせる可能性がある。そういう人間はいらない。必要とするのは、震えても一歩も引かない人間だ。何を危険にさらしているか自覚しながら、それでも前に進む人間だ。勇気がある人間というのは、恐怖を克服できる人間だ。
これを13歳の少女がしっかり受けとめて、活動するのです。身体が震えます。
図書係の仕事は、どの先生にどの本を貸し出したかを覚えていて、授業が終わったら本を回収し、一日の終わりには本を隠し場所に戻すこと。
本は8冊しかない。ずいぶんと傷んだ本もある。でも、本は本だった。
アウシュヴィッツ収容所では、本はまるで磁石だ。みな本に目を引き寄せられ、イスから立ち上がって本を触りに行く子も大勢いる。本は、テストや勉強、面倒な宿題を連想させるが、同時に鉄条網も恐怖もない暮らしの象徴でもある。怒られないと本を開かなかった子どもたちが、今では本を仲間だと認識している。ナチスが禁止するなら、本は子どもの味方なのだ。本を手にとると、子どもたちは普段の生活に一歩近づく。
普通の生活は、みんなの夢だ。何かに夢中になることは、とても大事だ。夢中にならないと、前へ進めない。
絶滅収容所に家族収容所があることまでは知っていました。そこで男の子が生きのびた話が本になっていて、このコーナーでも紹介しました。でも、そこで図書係がいて本の貸出しをしていたなんて、知りませんでした。人間にとって希望を失わないことの意味はとても大きいことなのですね。一日中よんでいて、胸が熱くなりました。
ぜひ、あなたもご一読ください。
(2016年10月刊。2200円+税)

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