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2016年5月 の投稿

安倍政権にひれ伏す日本のメディア

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  マーティン・ファクラー 、 出版  双葉社
 ニューヨーク・タイムズ前東京支局長が、日本のメディアはジャーナリズムの精神を失っていると激しく怒ってます。この本に書かれていることのほとんどに、私も、まったく同感です。
権力の与党であることを売りものにしているかのようなヨミウリ・サンケイって、まともなジャーナリストなんでしょうか・・・。たまには権力から嫌がられるような「正論」を記事にしてほしいものです。
メディアが政府から完全にコントロールされている現在の日本のジャーナリズムは、およそ健全ではない。
アメリカ人の記者から、ここまで断言されているのですから、日本人ジャーナリストも、少しは奮起してほしいですよね・・・。
健全な民主主義が機能するうえで重要な権力のチェック機能を果たすはずのメディアが、第二次安倍政権が生まれてから、腰砕け状態に陥ってしまっている。組織防衛を優先させ、ジャーナリズムを放棄している。そんな信じられない現実が、日本の新聞やテレビといった大手メディアの内部で雪崩(なだれ)のように起きている。
 安倍首相のいる官邸はテレビや新聞を毎日こまかくチェックし、官邸にとって気に入らない報道があれば、担当者に電話をかけ、直接クギを刺す。
 同じメディア内部で、政治部の記者は他の部門にこんな圧力をかけている。「官邸を怒らせないでほしい、取材できなくなるから」。なんということでしょうか・・・。これでは、単なる権力の僕(しもべ)ではありませんか。
日本のメディアのトップたちは、安倍首相と頻繁に一緒に食事をしている。それも高級料亭やフレンチ・レストランなど・・・。
安倍首相は、ニューヨーク・タイムズの取材をあからさまに避け続けている。安倍首相は、ぶら下がり会見が少ないし、そもそも記者会見の回数がとても少ない。
朝日新聞を攻撃した読売新聞は部数を大きく減らした。その減り方は朝日より読売のほうが大きかった。朝日を叩いて拡販しようという戦略は完全に裏目に出た。むしろ、新聞全体への不信感が強まっただけだった。
朝日がこんな「ヘマ」を犯したとき、ヨミウリ・サンケイは権力と同じく朝日をたたきに狂弄した。なぜ、権力と対峙して朝日を擁護しようとしないのか・・・。
 安倍政権の言うとおりに報道していればコトは簡単です。ところが、少しでも批判しようとすると、記者の心身の安全がはかられません。ロシアでは既に何人もの優秀な記者が消されてしまっています。それでもがんばっているメディアがあるといいます。
 日本のメディアは、安倍政権のやろうとしていることの恐ろしさを国民にもっとはっきり伝えてほしいものです。
(2016年4月刊。1000円+税)
 子どもの日(5月5日)、例年のように近くの小山にのぼりました。山の中の少し開けたところで養蜂家が巣箱を開いて作業しているのを見かけ、日本ミツバチにもがんばってもらいたいと思ったことでした。
 かなり急斜面をのぼりますが、大きな岩がごろごろむき出しです。こんなときに地震にあって、岩がころがり出したら、もう逃げようがありません。というのも、出かける30分前に余震が2度もあったのです。熊本では震度3とか4でした。早くおさまることを願うばかりです。
 山頂に着くと、子どもたちが大勢いて、そのにぎやかな歓声がひびいていました。保育園児と親たちの遠足のようです。こんな子どもたちの声を騒音だといいつのる大人の気がしれません。
 ゆっくり見晴らしのいいところで、おむすび二つをいただき、英気を養いました。生命の洗濯です。
 帰りにはミカンの木に丸粒のような白い花がびっしりでした。3時間あまりで、1万5427歩を記録して、いい運動になりました。

ザ・町工場

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  諏訪 貴子 、 出版  日経BP社
 読んで元気の出る、町工場の話です。まだ若い女性社長の下で、若手から70歳すぎまで働いている精密加工業の中小企業での奮闘努力の過程が惜しみなく公開されています。なにより表紙の写真がいいですね。みんな目が生き生きしています。
 社員34人のうち20代が11人、30代が10人、40代が6人、50代以上が7人。ところが、この会社では定年が70歳。65歳になったら給料は20%減だが、70歳までは同額、そして70歳を過ぎても本人が希望するなら働き続けられるといいます。現に70歳すぎの人が3人も働いているというのです。これは驚きましたし、敬服します。前に、アメリカの小さな会社に、そんなところがあったのをこの欄で紹介しましたが、日本でも同じようなことを実践している会社があるのですね・・・。
 それにしても若者が入社して、定着率もいい。そのなかで会社がつぶれることもなく業績を伸ばしているなんて、すごいことです。そこには、どんな秘訣があるのでしょうか・・・。
 未経験者をゼロから育てる。求職者は3か月間、お試し期間として働いてもらい、ハードルを下げる。採用面接は社長がする。そのとき重視するのは、ヒューマンスキルの高さ。誰とでも親しく接することのできるコミュニケーション能力、素直さ、謙虚さ、向上心。このニューマンスキルがあれば、早くから周囲に溶け込み、技術も知識も短期間で習得できる。学歴は一切関係ない。
自分の短所が答えられない人は採用に至らないことが多い。ネガティブに答える人もバツ。後ろ向きの発想では何事も良い方向には進まない。
誰が見ても優秀な人材は、すぐには採用しない。他社を見たうえで、自らの決断で入社した社員は決してすぐには辞めない。
 未経験の新人にも、いきなり本物の製品の加工をさせる。練習では緊張感がないし、集中しないので、一向に上達しない。
入社して1ヶ月間、社長と大学ノートで交換日記をつける。それで毎日の様子を見る。
職場を楽しい雰囲気、居心地のいい空間にする。2年に1回は社員旅行に出かける。
法律事務の活性化にも大いに役立つような内容の本でもありました。
 日本の中小企業の底力を確信させてくれる本でもあります。引き続き、がんばってくださいね。
(2015年6月刊。1000円+税)

携帯乳児

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  紺野 仲右ヱ門 、 出版  日本経済新聞出版社
 明治41年に制定された監獄法によって、刑務所内で育てられる「子」を「携帯乳児」と呼んだというのです。子どもを「ケータイ」と呼ぶのには、すごく抵抗がありますよね。それでも、女性が刑務所内で出産することはありうるでしょうし、その母子を別にするのも良くないことが多いでしょうから、やむをえない措置だとは思います。
この監獄法は、100年続いたあと、平成18年に全面改正され、翌19年に施行されています。いまでは「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」という長い名前の法律になっています。
刑務所につとめていた夫婦の合作ですので、さすがに刑務所の内外の様子が詳しく描かれていて参考になります。
刑務所内の処遇課と分類課は昔からそりが合わないと描かれています。現場重視の処遇課に対して、理論派の分類課という構図です。
心理技官の多くは分類課に籍を置いている。
刑務所は刑を執行するところなので、刑期を全うさせることが大原則。一方で、受刑者の犯罪の特性を正確につかみ、改善や更生をさせて社会復帰をはかることも、一般社会が刑務所に望む重要な役割だ。けれども、現実には刑務所に出来ることとしては、限られた職種の工場に、受刑者をなるべく適切に割り当てることぐらいだ。刑務所に入れることが罰であり、そこに犯罪抑制力があると、処遇課は声高に主張する。
刑務所内の収容者にも、いろんな人がいて、むしろ満期までいたいという人もいるようです。そして、精神遅滞の人や、親兄弟と縁を切った(切られた)人もいて、なかなか複雑です。刑務官にしても、さまざまな人生を歩んでいます。
そんな人たちの思いと行動が複雑に交錯して話が進行していくのでした。
(2016年2月刊。1600円+税)

白日の鴉

カテゴリー:警察

(霧山昴)
著者  福澤 徹三 、 出版  光文社
 電車のなかで痴漢の疑いで捕まったとき、どうするか・・・。一番いいのはそこから逃げ出すことでしょうね。ただし、あとで捕まらないというのが条件です。あとで捕まってしまえば、なんで、あのとき逃げたのかと厳しく追及されるでしょうから・・・。
 弁護士の立場で言えば、逮捕されたら一刻も早く弁護士を呼ぶように警察に求めることです。とはいっても、あたりはずれがあるのは弁護士である私の体験からしても否めません。
 当番弁護士としてやって来た弁護士が、被疑者の言い分をちゃんと聞くことなしに、一般的な弁護士の解説を長々と説明するという弁護士もいるようです。目の前の被疑者の置かれている状況、彼が何を訴えたいのかを聞き出すこと抜きに、抽象的な刑事訴訟手続を解説されるだけでは、弁護人として役に立ちません。
 この本でも、ともかく早く認めて罰金を支払って出たほうがいいと説明する弁護士が登場します。これも、現実をふまえた善意からのアドバイスであることは間違いありません。でも、それでは、一個の人格ある人間として納得できないではありませんか・・・。
苦難な過程を選択してしまった被告人は、ついに「ぬれぎぬ」を着せた男女とその背景にいる黒幕をあばき出すのに成功します。もちろん、いつも、こんなにうまくいくとは限りません。でも、そんなこと、あってほしいなと思わせる、いくばくかの希望をもたせた異色の警察小説なのです。
(2015年11月刊。1800円+税)

自衛隊の転機

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  柳澤 協二 、 出版  NHK出版新書
 先日、著者には福岡でも講演していただきました。防衛官僚のトップ近くにいた体験にもとづき、自衛隊の海外派兵の危険性を力説されました。もちろん、安保法制にも反対です。
自衛隊員の生命を軽々しくもてあそんではいけない、国民の人権を踏みにじってはいけないという信念は強固なものがあり、とても分かりやすい話でした。聞いていて、胸にストンと落ちました。
著者は1970年に防衛庁に入って退官するまで40年間、防衛官僚として仕事をしてきました。2004年から2009年まで、内閣官房副長官補として首相官邸で働きました。
自衛隊の海外派遣は、三つの矛盾をかかえている。その一は、国内で戦うことを前提としているため、補給などの後方支援部隊の規模を小さくしていること。第二に、隊員の心構え。自衛隊員の多くは、人助けのために入ったというもの。第三、憲法との整合性。武器の使用を考えてこなかった自衛隊員が海外で「交戦」など出来るはずもない。
海外警備活動は、これまで3回しか発動されたことはない。これは、あくまで警察行動であるから、自衛隊員が出ていっても、海外公船に対する実力行使はできない。
イラク派遣のときには、アメリカへの付きあいなのだから、危険をおかすまでもないというのが当時の政権の認識であり、これを反映していた。
当時は、自衛官が撃たれることばかりを心配していた。
武器使用は、自衛官個人の権限として想定されているものなので、自衛官個人が一義的に責任を負うことになる。
安保法制ができて、自衛隊のリスクは格段に高まった。軍法のない自衛隊は使えない。
アメリカは、陸戦(陸上戦闘行為)には、ほとほと嫌気がさしている。
日本の自衛隊は、冷戦時代の防衛力に比べて一回り小さい規模になっている。「陸」は18万人から16万人弱へ、「海」は60隻から54隻へ、「空」は430機から340機へとそれぞれ減っている。
現場感覚にもとづき、自衛隊のあり方とその実態について議論がたたかわされた本でもあります。                          (2015年9月刊。780円+税)

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