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2016年5月 の投稿

微生物が地球をつくった

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者  ポール・G・フォーコウスキー 、 出版  青土社
微生物は地球上で最古の自己複製する生物なのに、見つかったのは最後で、ほとんどのあいだ知られていなかった。
地球の生命の圧倒的多数は微生物だ。細菌の種は、動物と植物とをすべて合わせた種の数より、はるかに多い。その数は、少なくとも何百万種にもなる。
 生命は電気的勾配を用いてエネルギーを生成する。生命はエネルギーを使って電気勾配を生み出す。要するにすべての生物は電気発生装置だ。陽子のようなイオンを膜ごしに移動させ、それぞれの電気勾配を生成する。陽子と電子の元は水素だ。水素は宇宙に一番豊富にある元素である。電気勾配は膜を必要とする。これがないと、陽子などのイオンの濃度差もなく、したがってATPをつくるエネルギー源もない。
 共役因子と呼ばれるナノマシンは、膜の内側にまたがる文字どおり超小型モーターである。その基本的な造りは極微のメリーゴーランドのようなものだ。
 光合成の過程は、ほとんど魔法のようだ。光合成では、光は特定の分子、たいていは葉緑素という緑の色素に吸収される。特定の葉緑素分子が特定の波長、つまり特定の色の光を吸収することが、化学反応をもたらす、反応中心に収まった一個の特定の葉緑素分子が光子からエネルギーを吸収するとき、光子のエネルギーは、葉緑素分子から電子を一個押し出すことができる。およそ10億分の1秒のあいだ、葉緑素分子は、正(せい)に帯電することになる。
 光のエネルギーは、葉緑素分子から、たんぱく質複合体の提供側から需要側へと電子を押す。その結果、10億分の1秒のあいだ、正電荷をもった分子と負電荷をもった分子がタンパク質の足場にあり、両者は10億分の1メートルの距離で隔てられている。正電荷は負電荷を引き寄せる。タンパク質の足場は実際には電荷の引力のせいでわずかに崩れ、そうなると圧力波が生じる。圧力波は両手を叩くようなものだ。反応中心が電子を動かすたびに、両者はミクロの拍手となり、非常に高密度のマイクなら文字どおり検出できるような音を立てる。この現象は光音響効果と呼ばれる。ベルは、この効果をつかって光から音波を生成し、光電波という、音を伝える装置をつくった。光のエネルギーの約50%が反応中心の電気エネルギーに変換される。
最初の光合成をする微生物は嫌気性だった。つまり水を分解することができなかった。微生物が水を分解する能力を進化させるには数億年がかかった。
酸素は、地球の大気に独特のものだ。24億年前の地球には、植物も動物もいなかった。微生物しかいなかった。酸素は光合成作用の廃棄物だ。地球は、光合成によって水分解サイクルを回して酸素をつくり、呼吸によって水の清算を行うのだ。酸素は相手かまわず反応し、単独でいることを好まない。非常に反応性の高い分子で、多くの金属など他の元素と科学的に結合する。
 人間が呼吸する酸素は、恐らく100万年前につくられて、大気圏のおかげで遠くから運ばれてきた。遠い昔、植物や植物プランクトンが、地球のどこかであなたが今呼吸している酸素を生み出した。
遺伝子の伝達の間違いは、すべての生物のすべての遺伝子に、絶えず自然発生的に生じていて、場合によっては利益になることもある。絶えず生じているランダムな間違いが、遺伝子に厖大な多様性をもたらす。その多様性のほとんどすべてが微生物にある。
10の24乗の微生物が生きている。
日本人の腸内微生物は、改葬の消化を助ける遺伝子をもっている。その遺伝子は、白人の腸内微生物には見当たらない。人間の腸にいる微生物の総数は、体の細胞の総数の10倍ほどである。腸内微生物は、人間の代わりにビタミンをつくってくれる。
アメリカで消費される抗生物質の80%は、家畜生産のために使われている。そして、多くの微生物が普通の抗生物質には、免疫になっている。有毒の微生物が人間に対する反転攻勢を始めている。
微生物を知らないと、人間そして生命を知ることは出来ないということのようです。
               (2015年10月刊。2300円+税)

シベリア最深紀行

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  中村 逸郎 、 出版  岩波書店
 この本を読むと、ロシアという国は、とてつもなく奥の深い国だということがよく分ります。
 シベリアの奥地には、プーチン大統領もモスクワも、まったく及びではないという人々が住んでいるのです。なにより、シベリアという土地が広大すぎて、まるでつかみどころがありません。
 帝政時代に抑圧されたシベリアに住む少数民族にソ連政府が政治的に配慮することはあったが、ほとんど形式上の見せかけにすぎなかった。15世紀、そして16世紀の西シベリアは、まだロシア領ではなく、タタール人の領地だった。チュルク語系民族が15世紀半ばにシベリア・ハーン国を建設した。そして、16世紀になってロシア人の部隊が進出してきて、戦闘の舞台となった。
 土着のタタール人の家系であり、イスラム教徒でありながら、修道院でも祈りをささげている。西シベリアのイスラム教徒は、フルシチョフ政権下の1960年代に状況が急変し、迫害を受けるようになった。
北極海に近い地方ではトナカイを飼育し、トナカイに頼った生活をしている。遊牧民は800頭から1000頭のトナカイを飼っている。トナカイの肉は遊牧民のネネツ人にとっては主食であり、たんぱく質の供給源として貴重だ。トナカイの主食は良質なコケ。人工飼料はまったく口にしないので、トナカイの肉はとても繊細で美味しい。とりわけトナカイの心臓は高級肉で高い。
人々が一定の距離をもって暮らすのは、トナカイの食料となるコケを確保するため。たくさんのトナカイを飼っていても、一頭ごとに体の模様が異なり、顔つきにも性質にも個性があるので、家族の一人ひとりが自分のトナカイをもっていて、瞬時に見分けることができる。
 都会には住めない。騒音のため頭痛がして、平衡感覚がなくなり、調子が狂ってくる。車の排気ガスの臭いが鼻について、まともに呼吸できない。
チュームには、カレンダーも時計もない。家族全員の誕生日が不明であり、正確な年齢も分からない。まったく時間に拘束されない生活を過ごしている。
 このような先住民の正確な人数をロシア政府は把握していない。出生届がなされても死亡届が出るというのは、とてもレアケースだ。
シベリアを一つの言葉でくくることは出来ない。シベリアの中心地がどこにあるのか、誰も答えることが出来ない。すべてが隣りあわせに存在するのだから、中心がないのも当然のこと・・・。
 不思議で、つかみどころのないシベリアのことを、なんとなく少しだけわかった気がしてきました。そうすると、戦後、多くの日本人がシベリアに抑留されたとき、その所在と責任があいまいになっていったのに関係するのかもしれません。
 世界は広いということを大いに「実感」させられる本でもありました。
(2016年2月刊。2400円+税)

イタリア現代史

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  伊藤 武 、 出版  中公新書
 私は、イタリアにはミラノに行ったことがあるくらいで、ローマにもポンペイにも行ったことがありません。イタリアといったら、なんといってもスパゲッティとピザですよね。
 イタリアの政治と言えば、現在の政党の名前は、みんな新しいものばかりなんですね、不思議です。日本では共産党が戦後ずっと同じ名前ですし、イタリア共産党と言えば、強大な党でしたよね。ところが、今は存在していません。そして、イタリアといったら、かのマフィアの存在も忘れることができませんね。裁判官も検察官も次々に暗殺されてしまいました。マフィアと政治家との結びつきの強さは、日本でいうと大型公共土木工事をめぐる自民党政治家(一部でしょうが・・・)と暴力団との結びつきと同じことなのでしょうね・・・。
 日本以上に変転きわまりない(と思える)戦後イタリアの政治史をたどっている本です。
 1930年代、ムッソリーニの独裁は安定していた。そのファシズム独裁は、ファシスト党の独裁というより、ムッソリーニ個人を頂点とする国家の支配だった。ムッソリーニは、党よりも国家官僚機構を重視し、政府の長として集権的統治を目ざした。
1945年4月、スイス国境へ逃れようとしていたムッソリーニは捕えられ、裁判を経て処刑された。
武装パルチザン活動をふくめたレジスタンスが北部の自力解放に結びついたことは、その後に「レジスタンス神話」を生み出す。レジスタンス神話の浸透は、戦に多くのイタリア国民がファシズム独裁の歴史的問題の清算はすんだととらえる副産物をもたらした。
ファシズム時代、アフリカ侵攻におけるガス使用、ホロコーストへの協力など、神話と相いれない歴史的記憶は深層に潜り込んでしまった。
レジスタンス側も、暴力の責任から無縁とは言えない。
1946年6月、共産党のトリアッティ法相は、ファシズム関係者のパージの幕引きを図った。
1946年6月、イタリア史上はじめて女性に選挙権が認められた。そして、国民投票で君主制の廃止が決まった(54%の賛成と46%の反対)。選挙では、キリスト教民主党35%、プロレタリア統一社会党21%、共産党19%で、三大政党が全有権者の4分の3を獲得した。
共産党は、知識人のなかに改革の党として強い影響力をもった。統一社会党は、内部の激しい派閥抗争などから、やがて左翼第一党の座を共産党にまもなく明け渡した。
アメリカは、イタリア政権に左翼と決別するよう、強い圧力をかけた。
1960年8月、ローマでオリンピックが開催された。
大学生は、1950年に2万人だったのが、1962年には30万人、1968年には45万人へと急増した。
1968年1月、大学占拠の波がイタリア全土に広がった。日本でもフランスでも同じようなことが起きました。私が大学1,2年生のころです。
若者の抗議、新左翼運動の勃興、共産党の勢力拡大はイタリアの社会に新たな緊張をもたらした。
1970年から73年は、極右勢力が盛り返し、「右翼の3年」と呼ばれた。黒いテロリズムが勢いずき、多数の死傷者を出した。そして、「赤いテロリズム」を呼び起こした。
1970年12月、離婚を合法化する法律が制定された。
1976年の総選挙では、キリスト教民主党が38.7%、共産党が34,4%を獲得した。
1978年3月、アルド・モーロが「赤い旅団」に誘拐され、殺害された。事件の真相は、今なお闇の中にある。
1981年5月、P2事件が発覚した。フリーメイソンの支部の名簿が公表された。
1983年、共産党は大きく支持を減らした。ソ連共産党との関係を清算しきれず、そのことがマイナスに動いた。
1987年の総選挙で、共産党は26.6%しかとれず、敗退した。「正直者の党」の共産党による権力監視の機能が衰えた1980年代は、政党や行政機関、財界を巻き込み、利益誘導と政治腐敗は悪化していった。腐敗の拡大と表裏一体で進行したのが、マフィアの全国的進出だった。シチリアのマフィア、カンパニーニャのカモッラ、カラブリアのンドラゲタなどの犯罪者集団が我が物顔で横行した。
日本の政治も、いびつな小選挙区制度をやめて比例代表制にしたら、国民の意思がよりよく反映されて、すっきり風通しのいい政治になると思います。
(2016年1月刊。900円+税)

経済的徴兵制

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  布施 祐仁 、 出版  集英社新書
 自衛隊の退職者も志願者も減っている。2014年度の自衛隊の総退職者数は1万2500人。2013年の1万1939人より500人以上も増えている。そして、2014年度は志願者も減った。2013年度の3万3534人から、2014年度は3万1361人と2000人以上の減少。
 これらの減少には、2014年7月の集団的自衛権の行使容認の閣議決定が影響している。
 国立大学の学費は、1970年(昭和45年)には年1万2000円だった(月1000円)。それが、今や年50万円となっている。物価が3倍なのに、学費は45倍にもなっている。これは国の予算の使い方が完全に間違っています。人材育成にお金を使わず、ムダな軍需産業にテコ入れしているのです。お金がないのではなくて、お金のつかい方が間違っています。
 韓国、北朝鮮、台湾、ロシアは徴兵制をとっている。中国は実質的に志願制になっているが、制度としての徴兵制は残っている。
 ヨーロッパでは徴兵制を廃止ないし停止している。ベルギー、オランダ、フランス、スペイン、イタリア、ポーランド、スウェーデン、ドイツ。
 アメリカは、1973年に選抜徴兵制から完全志願制に切り替えた。ベトナム戦争で、アメリカ人青年190万人が徴兵された。拒否して起訴されたのは2万5000人。
アメリカ軍は黒人の比率が高い。陸軍では28%が黒人だ。アメリカ連邦議会の議員のうち、軍務についている子弟をもつ者は一人しかいない。
アメリカの若者が軍に志願する理由は、一に奨学金、二に医療保険。日本も、だんだんアメリカに状況が似てきましたよね、心配です。
 入隊して1年間に月100ドルを納めたら、2年以上の軍務経験で、最大6万ドルの奨学金がもらえる。うひゃぁ、これって大きいですよね・・・。
 アメリカでも陸軍の援用目標を達成できていない。そのため、新兵の質は著しく低下した。それは、ドイツでも同じこと。新兵募集に苦しんでいて、目標未達成が続いている。
 日本の自衛隊にも、経済的動機から志願する若者が少なくない。
もし戦争が起こったら、国のために戦うかという質問に対して、「はい」と答えたのは日本は15%のみで、世界78ヶ国のうちで、断トツで最下位だった。そりゃぁ、そうですよね。アベ首相のいう「美しい国・ニッポン」のため死んでこいと言われても、なぜ、どうして私が・・・と考え込んでしまいますよね。
 自衛隊に入る若者が多いところは、貧困率が高い地域だ。それは、青森、北海道、宮崎、熊本、鹿児島、長崎、大分、佐賀と続いている。九州各県は福岡を除いて多い。
「経済的徴兵制」の何が問題なのか・・・。それは、国土防衛ではなくて、富める者たちの利益のために行われる海外での戦争で、貧しき者たちの命が「消費」されることにある。それは、不正義というしかない。使い捨てにされてよい人間など、この世界には存在しない・・・。
徴兵制だってありうるのが、今のアベ政権ですよね。貧困のために軍隊に入って、殺し、殺され、戦場から無事に戻ってきてもPTSDなどのため廃人同様になる。考えただけでもゾゾっとします。
(2015年1月刊。760円+税)

安倍晋三「迷言」録

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  徳山 喜雄 、 出版  平凡社新書
 「貼られたレッテルを(国会の)審議期間の中だけでは取り去ることができなかった。結果を出していくことでレッテルをはがしていきたい」
 「(戦争法だなんて)デマゴーグ(扇動)だということを国民に説明していきたい」
 いずれも、安倍首相が安保法制に反対する国民の声に弁明・反論して言ったものです。このような紋切り型で攻撃的な言葉を羅列し、反対意見には耳を貸そうとしない。これが安倍首相の一貫した姿勢である。
 集団的自衛権について、憲法上は権利があるのに行使できないということは、禁治産者は財産に対して権利があっても行使できないというのと同じ。つまり、内閣法制局の理屈からすると、日本はいわば禁治産者なのか・・・?
 安倍流の言葉には3つのパターンがある。一つは断定口調。「戦争に巻き込まれることは絶対にない」「徴兵制は、まったくありえない。今後もない」。
もう一つは、「私は」というコトバをつかわずに間接話法を用いる。
最後は、突然キレてしまう「感情語」。
「われわれが提出する法律についての説明は、まったく正しいと思いますよ。私は総理大臣なんですから」
総理大臣が言うことが「まったく正しい」というのなら、それはまぎれもない「独裁政権」である。
安保法案について、安倍首相は「アメリカの戦争に巻き込まれることは絶対にありえない」と断言した。しかし、現実に制定・施行された安保法制は、アメリカの戦争に加担することを許している。すると、「巻き込まれる」かどうかというのは、単なる形式的な「主体性」の問題にすぎない。要するに、ごまかしということ。
安倍首相は、2015年9月の採決強行のあと、「国民に丁寧に、分りやすく説明していきたい」と述べた。しかし、本来あるべき説明とは、決める前に合意形成のためになされるものではないでしょうか・・・。
安倍は、日本の戦後史上に国民の意見を聞かず、熊本大震災のあとも原発の稼働中止を命じなかった首長として有名になるのでしょうか。そんなの嫌ですよね。
(2016年1月刊。780円+税)

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