法律相談センター検索 弁護士検索
2016年3月 の投稿

ドキュメント死刑図

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  篠田博之 、 出版  ちくま文庫
  2008年の末に刊行された本に大幅加筆したものです。既に処刑された死刑囚、死を待つ死刑囚と交流のなかで、その実情を明らかにしています。
  幼女連続殺害事件の宮崎勤は処刑されましたが、父親は自殺したものの、母親は毎月、拘置所へ差し入れに通っていたそうです。そして、被害者遺族への賠償もしています。
本人が早期の死刑執行を望むときは、異例の速さで死刑は執行される。小林薫、そして宅間守がそうだった。
  この世に生きる価値を見出せず、死んでしまいたいと考える人にとって、死刑は刑罰としての意味があるのか・・・?もともと社会から疎外され、現実社会に自分の居場所がないと思い、死んでしまいたいと考える人にとって、死刑はもう怖い刑罰ではない。
  宅間守は、自覚的に、自分を疎外するこの社会に復讐するために凶悪犯罪を犯した。死刑を宣告されてからも、早く執行してほしいと言い続けて、確定から1年間という異例の速さで死刑を執行された。
  宮崎勤、小林薫、宅間守の3人は、いずれも父親を激しく憎悪していた。宅間守は死刑確定後に獄中結婚した。彼と結婚を望んだ女性は2人いた。一人の女性は、自らも小学校のころからいじめに遭い、社会に訴外されてきた人物だった。自分も一歩間違えれば宅間守になっていたかもしれないと、犯罪を犯した側に自分を投影する人も、日本社会には現に存在する。こういう人が、社会に存在することに想像力を働かすことができないと、その犯罪を解明することはできないのではないか・・・。
  信じにくい話ですが、それが現実なのですから、お互い、ここは想像力を働かせるしかありませんよね・・・。
  小林薫は、こちらからの質問の意図も明確だったし、物事を何も考えていない人間ではなかった。恐らく、家庭環境が違っていたら、あのような犯罪者にならないですんだ人間ではないだろうか・・・。
  小林は、小学校のときに母親を亡くした。母親への思慕が強烈なのが、小林の特徴である。法廷で、母親の話が出たら涙ぐんだ。
  宮崎勤にとって、それは祖父だった。幼少期に自分を可愛がってくれた者の死が精神的ダメージを与えた。
  小林薫が父親に対して思い望んでいた6ヶ条。
  1.子どもと一緒に食卓に着き、団らんのひとときを過ごしてあげてください。
  2.子どもの話を聞いてあげてください。
  3.子どもを信じてあげてください。
  4.子どもと遊んであげてください。
  5.子どもを叱るとき、なんで叱るのか、何が悪いのか、言いきかせ教えてあげてください。 
  6.子どもが2人、3人といるのなら、平等に接してあげてください。
  ゆったり心の休まる家庭生活が子どもに本当に大切なんだなと思わせる本でもありました。  
 
(2016年1月刊。900円+税)

「音楽狂」の国

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者  西岡 省二 、 出版  小学館
  2012年7月、平壌・万寿台(マンスデ)芸術劇場。金正恩が臨席するなかで、モランボン楽団が演奏する。その曲目に登場したのはアメリカの音楽だった。「ロッキー」のテーマ。マイウェイ、そして、ディズニーの音楽が演奏された。
 アメリカは、北朝鮮にとって「不倶戴天の敵」と呼んで憎んでいる相手である。いわば「敵の音楽」だから、北朝鮮の刑法では労働鍛錬刑に処せられるはずのもの・・・。
 飢えている国民にミッキーマウスを見せて、いったい何になるのか・・・。
 モランボン楽団は突然異変のように生まれたのではなく、金日成、金正日と引き継がれた北朝鮮音楽の延長線上にある。
 北朝鮮では3代にわたり独裁体制が引き継がれた。この国は、音楽をプロパガンダ(政治宣伝)の手段として使い、歌の大半を金王朝や朝鮮労働党をたたえる内容にした。
 北朝鮮では、音楽愛好家の金正日が音楽を政治と密接に結びつけ、独裁体制を守るための手段の一つにしてしまった。その結果、楽器は、美しく感動的な音を生み出すためのツールではなく、金王朝のメッセージを伝える道具とみなされてしまった。
 北朝鮮では、「ロッキー」などの外国音楽は、一部専門家をのぞいて、だれも聞いたことがないはず。その曲がどこから来たものか知らない。だから、出自さえ明かさなければ、北朝鮮の国民は、その曲が「タブーが破られて入ってきた音楽」なのか分らない。
 音楽マニアだった金正日は、国民の音楽能力を高め、それをプロパガンダ楽曲を浸透させるための土壌とした。音楽と政治を結びつける「音楽政治」という用語を編み出して、自身への忠誠心を植え付け、社会の結束を図った。「青少年は、少なくとも1種類以上の楽器を演奏できなければならない」
 かの銃殺されてしまった、張成沢はアコーディオンの名手だったそうです。意外でした。
 北朝鮮音楽を支えるのが、幼いことから音楽教育を受けてきた北朝鮮国民であり、その中から選び抜かれた音楽家たちだけなのである。
 北朝鮮で音楽を普及させるのは、決して人々の心を豊かにするためのものではない。
 北朝鮮では、才能のある子どもたちは、専門的に音楽教育を施す機関に送られる。北朝鮮では歌が上手くなっても月給が上がるわけではない。そもそも自分の成功のために仕事をしているわけではない。
北朝鮮の素顔の一つを知った思いがしました。
(2015年12月刊。1400円+税)
天神の映画館でハンガリー映画「サウルの息子」をみました。ナチス・ドイツがアウシュヴィッツ絶滅収容所でユダヤ人を大量虐殺している過程で、その死体処理やら遺品整理をさせられたユダヤ人たちがいました。ゾンダーコマンドと言います。およそ4ヶ月間の命です。次々に交代させられ、彼らも殺されてしまします。その一人に焦点をあてて、収容所の非人間的な状況を再現しています。カメラは主人公にずっと焦点をあてています。遠景は出て来ません。大量殺人の収容所を具体的にイメージすることが出来ました。

日本はなぜ米軍をもてなすのか

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  渡辺 豪 、 出版  旬報社
  著者は『沖縄タイムス』の記者を17年間つとめていました。
  沖縄にいたら見えるもの。それは、日本が戦争に負けた国であるということ。沖縄では、敗戦と占領の残滓が日常にあふれ、日本がアメリカに従属している現実と否応なしに向き合わされる。
  日本の政府中枢そして中央官僚は、アメリカの意向を忖度(そんたく)して自発的に隷従するという、信仰にも似た強固な意識や価値概念に支えられている。彼らには、アメリカの威光を背景として、既得権益の保持や権力の強化を図る意図が働いているのでは・・・。
  日本の敗戦後、GHQの間接占領によって温存されたのは、天皇制であるとともに、官僚機構である。
日本は、憲法76条によって軍事会議を設置することができない。世界中で、軍法会議をもたない唯一の軍隊が自衛隊である。
  政権中枢と防衛省サイドには、辺野古で甘やかすと、次は嘉手納基地の返還を求めてくるだろうから、辺野古で譲歩するわけにはいかないと本気で考えているようだ。
  うひゃあ、お、おぞましい発想ですね。まさしくアメリカの奴隷の発想です。独立国日本の官僚ではありえません。恥を知れ、そう言いたくなります。
  アメリカ軍への思いやり予算が始まったのは1978年度で、このときは62億円だった。それが、2015年度は、なんと年1899億円にも達している。このほかにも、年に5000~6000億円ものお金をアメリカ軍基地を維持するために使っている。
  これではアメリカにとって、こんなにおいしい日本の基地を手放すはずがありません。
巨額の「思いやり予算」による恩恵を在日米軍に付与してもなお、アメリカへの従属的な対応から脱しきれていないのが、日本の実情だ。しかし、この「思いやり」の強要が、あたかも自発的意思にもとづくかのように、ならされているのは、日本政府だけではない。それは日本国民についても言えること・・・。
  大半の日本人は、アメリカ軍の基地があるという、意識することが不快な事実から目をそむけている。
  対米コンプレックスよりも、多くの日本人には対中国コンプレックスがある。他国の軍隊が長期間にわたって駐留し続けることから生じる、独立国家としての理念や制度の崩壊、そのことで生じる国民の犠牲や痛み、屈辱といった精神性の毀損をすべて、「カネでかたのつく問題」に転換して処理してきたのが、戦後日本の統治システムの本質だった。
  たしかに沖縄から日本本土を見ると、日本という国の本質が良く見えるのですね・・・。それにしても寒々とした光景です。
  
(2015年10月刊。1500円+税)

ヒトラーに抵抗した人々

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 對馬達雄 、 出版  中公新書
 ヒトラー・ナチスに抵抗したドイツ人は決して少なくはありませんでした。何千人ものユダヤ人を生命がけで隠し通したドイツがたくさんいたのも事実です。
 でも、大多数のドイツ人がヒトラー・ナチスのユダヤ人大虐殺の尻馬に乗り、なかにはその財産略奪によって利を得ていたというのも事実でした。これは、自民・公明を与党とするアベ政権がマスコミを強力に操作しつつある日本でも深刻な教訓として生かす必要があります。その意味で、この本は、今の日本人にとって大いに読まれるべきものだと思います。
 ヒトラー独裁は、ドイツ国民に指示された体制だった。ナチ支配には、目先の実利によって国民大衆の支持を獲得しながら、青少年にナチ思想を徹底させるという二面性があった。
 反ナチの行動の前に立ちはだかっていたのは、むしろ隣人住民、そして総統にヒトラーを熱狂的に信奉する青少年だった。彼らからすると、ナチ体制を否定する者は、生活と世界を脅かす存在であり、戦時下では自国の敗北をたくらむ反逆者であった。
 ダッハウなどの強制収容所に1933年の1年間で、共産党や社民党の国会議員をはじめとする活動家が10万人も拘禁された。
のちに反ナチ運動に身を投じたインテリ層も、ワイマール共和国末期には、反共和政的な立場をとり、ヒトラー政権の初期に登用された。政治経済エリートの大半がヒトラー、ナチ政権の誕生を肯定していた。
ヒトラーが支持されたのは、大量失業問題を早急に解決したから。失業不安と見通しのない生活の解決が最大の関心事だった。誰もが社会的な転落と窮乏の不安をかかえていた。
 ヒトラー政権発足時のドイツの人口は6500万人。ユダヤ人は50万人、混血のユダヤ系ドイツ75万人を加えても、総人口の2%でしかない。しかし、経済的影響力は絶大だった。
 戦争中のドイツ国内で、地下に潜ったユダヤ人が1万5000人いた。そのうち7000人近くがベルリンに身を潜めていた。1人のユダヤ人につき平均50人ものドイツ人が救援活動していた。生きのびたユダヤ人は、ベルリンで1400人以上、ドイツ全土で5000人いた。ユダヤ人を援護したドイツ人の3分の2は女性だった。
 ユダヤ人の家族が三人いたとして、三人は別々になって一人ひとりが生きのびるチャンスを得たようにさとされた。なるほど、と思いますね。三人全部が捕まるより、一人ずつ別々に暮らしていたほうが、リスクは少なくなるというわけです。
 ヒトラー暗殺計画は、「ワルキューレ作戦」(1944年7月20日)の前にも何回もあり、失敗していた・・・。ヒトラーって、悪運が強かったようですね。ヒトラー暗殺計画の概要が紹介されています。ヒトラーの演説会場を爆破しょうとしたドイツ人については、先ごろ映画にもなりました。ごく最近、その意義が見直されてます。
 ドイツ国民大衆の大部分は、ヒトラーから離反できないままに終戦を迎えた。ドイツ国民7500万人のうち、ナチ党員は、1939年5月以降に激増し、1933年末に390万人だったのが、1945年には850万人超にまで上昇した。
ヒトラー・ナチスと生命をかけて戦った勇気のある人々が少なからずいたこと、それを支えた家族がいたことを知ると、救われる思いがします。
  
          (2015年11月刊。880円+税)

オーロラ!

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者  片岡 龍峰 、 出版  岩波科学ライブラリー
  私は残念ながら現物のオーロラを見たことはありません。映像のみです。
オーロラほど不思議な光はない。冷たい炎のような光が色を変え、形を変え、音もたてずに空を舞う姿の圧倒的な不思議さには、驚きと畏怖の言葉が尽きない。
100年前、ノルウェーの科学者(ステルマー)が電話をつかって30キロ離れたところで写真を同時に撮影し、オーロラの高さの精密な三角測量を繰り返した。その写真乾板は4万枚をこえる。その結果、オーロラが地上100キロ、高いものだと1000キロで光っていることを突きとめた。
オーロラの緑や赤は、酸素原子がエネルギーを受けたときに自然に出てくる色。緑の光を放つには0.7秒かかるが、赤の光を放つには110秒の時間がかかる。したがって、オーロラの赤は、緑が光る場所よりももっと真空に近い、110秒ほど励起状態のまま仲間と会わずに漂うことのできるほど空気が薄い状況、つまりより高い場所でないと光ることができない。上が赤く、下が緑という、あのオーロラのクリスマスカラーは、酸素原子がつくり出したグラデーションなのだ。
北極の近くでは、オーロラは見えない。オーロラは、地球規模で「輪」を形づくっている。
地球が磁場をまとっていることによって、電子は磁場気に捕らえられ、オーロラオーバルの近くに輪のように電子が流れこみやすい状況になっている。そこで、猛スピードで大気へ流れ込んだ電子が、空の終わりの酸素原子と衝突して、オーロラを光らせている。
オーロラの全体像は、今ではほとんど明らかになった。でも、今なお、電子と陽子の動きの違いや細かなプラズマの構造など、分からないことは多い。
オーロラの解説が十分に理解できたということはありません。それでも、オーロラの生成・構造が単純なものではないことだけはよく分かりました。宇宙には不思議なことだらけですね・・・。
それにしても、マイナス40度とかいう世界でオーロラを観察しようとは思いません。やっぱり、ぬくぬくとしながら、映像でガマンしておくことにします。
  
(2015年10月刊。1300円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.