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2016年3月 の投稿

安保法制の正体

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  西日本新聞安保取材班 、 出版  明石書店
 西日本新聞で連載していた安保法制の問題点が一冊の本になりました。
 「安保法に反対と言うけど、国民はすぐに忘れるよ」
アベ政権の側は、そう思って期待しているようです。それが現実にならないよう、新聞人として「知らせる義務」に汗をかき続けたい。その思いで走りまわった成果が、この本に結実しています。ですから、一人でも多くの人が本書を手にして、記者の労苦にこたえ、さらに励ます必要があると思いました。
アフガニスタンで今もがんばっている中村哲医師(ペシャワール会)は、こう言っています。
 「平和には戦争以上の力があり、平和には戦争以上の忍耐と努力が必要だ」
 ドイツはアフガニスタンへ国連の国際治安支援部隊(ISAF)として最大5000人を派兵した。それは、戦闘には直接かかわらない治安維持のはずだった。ところが現実には、何回となく戦闘に巻き込まれ、第二次世界大戦後はじめて本格的な地上戦を経験したドイツ兵となった。その結果、アフガンでのドイツ軍の殉職者は事故死や自殺をふくめて55人。戦死者も35人にのぼった。殺し殺される戦闘ストレスから帰還兵1600人がPTSD(トラウマ)を負った。
 ドイツ人の画家は、記者にこうこう語った。「日本が戦後、海外で一人も殺さず、殺されずにきたことを恥じる必要はありません。誇るべきなんです」 
 私も、本当にそう思います。平和な国・ニッポン。この平和ブランドを自民・公明の安倍政権が汚れた手で黒く塗りつぶそうとしています。とんでもありません・・・。
日本の自衛隊が、アメリカでアメリカ軍と一緒になって戦闘訓練をしている。カルフォルニアの砂漠地帯です。明らかに中東での戦闘を想定した訓練です。
そして、自衛隊は今度、アメリカ軍海兵隊のつかう水陸両用車「AAV7」を計52両、2015年度だけで30両も導入する。1両6億円。うひゃあ・・・。国立大学の授業は年間40万円とか、どんどん値上げして日本の若者を苦しめているのに、軍事予算のほうは気前よくアメリカの高価な兵器をどんどん買っているのです。
「AAV7」って、実は、日本では使い勝手がいかにもわるい。サンゴ礁や岩礁の多い島には向かない。水上では時速13キロなので、攻撃を受けやすい。船酔いがひどくて、上陸直後は戦えない。海でつかうたびにアメリカ本土へ持ち帰って分解整備が必要。
まるで役に立たないおもちゃ、みてくれだけのバカ高い代物ですね、これって・・・。
弾道ミサイルを迎撃して撃ち落とせるはずはありません。それは鉄砲のたまを鉄砲で撃ち落とすようなものなんです。できっこありません。それを、出来るかのように多くの国民をペテンにかけて導入したのが「PAC(パック)3」です。福岡県内に4隊あるというのですが、危険なおもちゃの類です。ところが、この役に立たないシステムになんと国は1兆円もかけています。つまるところ、軍需産業を喜ばせているだけです。そして、自衛隊高級幹部の天下り先の獲得には確実に役立っています。私たちの税金が、こんなにしてムダに使われているのかと思うと腹が立ちます。それより、もっと人を育てるほうに、福祉のほうに税金をつかってほしいものです。
 この本にも、中村哲医師の活躍ぶりが少しだけ紹介されています。砂漠と荒地に水を引いて、緑の農地に変えていくという苦難の取り組みです。なんで日本政府は、もっともっとこんな活動に力を入れないのか、援助しないのか不思議でなりません。中村哲医師のレポートを西日本新聞で読むたびに元気をもらう者として、この本にも紹介されていて、うれしく思いました。
日本が国際社会から求められているのは武力ではなく、この中村医師のような平和的貢献だと確信するのです。ぜひ、あなたも手にとってお読みください。
(2016年2月刊。1600円+税)

フランス人の新しい孤独

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  マリー・フランス・イリゴエン 、 出版  縁風出版
 山田洋次監督の映画『家族はつらいよ』を見ました。天神の映画館は、ほぼ満員で、笑いが絶えませんでした。でも、テーマはシリアスです。だって、老後になって妻から「離婚したい」と告げられるのですから・・・。
 1999年、フランスの一人暮らしは720万人で、全世帯の30%。これは10年前より25%も増えている。5人に1人は、日常的に話す相手がいない。友人がいない、一番身近な人を失ったため、病気のため・・・。2004年には830万人、全人口の14%が一人住まいをしている。 フランスでは、出会いを求める5行広告と結婚相談が増加している。今日では、出会い系サイトが主流を占める。多くの出会いがウェブ上でなされているが、それは幻想を与えるための餌にすぎない。つまり、存在的孤独をごまかすための仮面にすぎない。
 離婚申出は女性からのものが増えていて、今や70%近くが女性によるものとなっている。保護される必要のない強い女性の前に、男性は動揺する。
 僕は何のためにあるのか・・・。女にとって、ベッドで男を求めるというのは、最悪の生活を覚悟しなくてはいけない。経済的な面で拘束されるばかりか、自由そのものがなくなってしまう。だったら、セックスなしのほうが、よほどまし・・・。
 今日、男であることは、そう簡単なことではない。男らしさという基準が変化したからだ。人類学者によれば、女性は妊娠し、子どもを産めるという特権を持っているのに対し、男性は女性のお腹を支配し、子どもを占有するために常に女性を従属させておく必要があるという。性的快楽と出産が別のものになることによって、女性の性的自立が可能になったのに対して、多くの男性は自分の男らしさに確信をもてなくなっている。多くの男性は、愛情と独占力を混同している。今日の女性は、もはや男性に従属したくはない。
 離婚は日常茶飯事になっている。そして、離婚は、前よりも早くやってくる。
 今では、ウェブは、巨大なセックスショップになっている。しかし、バーチャルは誰かと関係をもてる幻想を与えるけれど、実際には孤立化を深めるだけのこと。
人間にとって、セックスというものは大切なものです。でも、それを上回るものがあるというのも事実です。それは各人によって異なるものなのでしょう・・・。
 考えさせる分析の多い、フランス人の生活でした。
(2015年12月刊。2200円+税)

病める社会、相談現場から

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  ふくみつ 洋一 、 出版  くらしの相談センター
 横須賀市内で、くらしの相談センターを営んできた著者のすさまじい活動が活字になっています。今の日本社会のかかえている問題点を生々しく紹介した貴重な記録です。
 私は、本書を読みながら、北九州市小倉北区で同じような活動をしていた西辰雄さんを思い出しました。西さんも、著者とまったく変わらず、いろんな生活相談を受けていました。大変な苦労を伴う活動だと思うのですが、いつもひょうひょうとした物腰で、疲れを見せませんでした。
 「不況で勤め先が倒産。ハローワークに通っても求人はない。50歳を過ぎると、足を棒にして探しても就職先は見つからない。いま3人家族で、妻のパート給料の6万円で暮らしている。お先、真っ暗。どうにもならない」
 「下町で事業をしていたが、共同経営者は蒸発。膨大な借金をひとり背負って倒産。59歳だが、妻は半年前に心筋梗塞で死んで、家賃も半年分滞納している。追い出されたホームレスになってしまう・・・」
 「小学生2人をかかえた40代のシングルマザー。求人広告を頼りに面接に出かけても、子どもかかえた40代の女性は雇ってもらえない。今月中に支払わないと、電気・ガスも止められてしまう」
 「生活保護を受けようと思って保護課に行くと、病気で働けないという医師の診断書がなければ、と断られた。週3日、パートで働いている。もっとたくさん働ける仕事を探してから来るように言われた。そう言われても働く場所なんて見つからない」
 1ヶ月に100人ほどの相談を受けたことがあった。新規相談だけでも50人。平均して月30件の新規相談。土曜も日曜も休みなく、平日だって夜7時からスタートすることがある。一人の相談時間は平均して2時間。DVについて、親子をまじえて5時間かけたこともある。午前10時から夜8時すぎまで、びっしり。昼食が3時ころになったこともある。
 不誠実な人、利用するだけしようという人には突き放すこともある。しかし、ほとんどの人は、悩み、苦しみ、すがる思いでやって来る。なので、どんなに疲れていても、疲れた顔を見せれられた信頼関係が成り立たない。どの人とも対等平等に話し合う。
 事務所を維持するのに月30万円はかかる。すべてカンパに頼る。 
 「眠れなくなった。食欲もない。パートの仕事は出来なくなった。自殺も失敗した・・・」
 「ケータイ料金を支払えずに止められた。ケータイがないと仕事も見つからない。ケータイを買うお金がない」
 「ネットで知り合った男性と同棲するようになった。事業資金が足りないというので、親戚のおばさんを騙して借金して貸してやった。男性は、お金をもち逃げした。男に騙されていたことが分った・・・」
 本当に深刻な相談のオンパレードです。それを20年以上も受け止めてきたのです。偉いですね。ゆっくりおやすみください。
 横須賀の根岸義道弁護士から押し売りされた本です。いい内容なので紹介したくなりました。
(2015年10月刊。1500円+税)
 わが家の庭はすっかり春満開となりました。色とりどりのチューリップがたくさん咲いています。朝、雨戸を開けるのが楽しみです。朝のうちは、三角おむすびのような形をしていて、昼には花が開いています。ハナズオウの木が小豆(アズキ)のような豆粒の花をたくさんつけ、アスパラガスが採れはじめました。春の香りを口中に感じる楽しみは、まさしく春を満喫していると実感します。
 団地のソメイヨシノも満開です。
 ビックリグミの木にとまってウグイスが澄んだ声で高らかにホケキョと鳴いているそばで、メジロが一心に花の蜜を吸っています。春は本当にいい季節です。花粉症さえ出なければ、、、。

植物は「知性」をもっている

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者  ステファノ・マンクーゾ、アレッサンドラ・ビオラ 、 出版  NHK出版
 結論からいうと、植物は「知性」をもっているということです。この本は、いろんな角度から、それを論証しています。日曜ガーデニング派の私は、まったく同感です。
植物は、どこから見ても知的な植物だ。根には無数の司令センターがあり、たえず前線を形成しながら進んでいく。根系全体が一種の集合的な脳であり、根は成長を続けながら、栄養摂取と生存に必要な情報を獲得する分散知能として、植物の個体を導いていく。
 動物は、植物が作り出した物質とエネルギーを利用する。植物は、太陽のエネルギーを自分の必要を満たすために利用する。つまり、動物は植物に依存しているが、植物は太陽に依存している。
 植物は地球上の生命に対して、あまねく作用している。動物にそんなことは出来ない。
 植物に脳はない。しかし、脳は本当に知性の唯一の「生産」の場なのか・・・。人間だって、脳だけでは知性が生まれてはいない。脳は単独では何もつくり出すことは出来ない。どんな知的な反応をするにも、体のほかの部分から届けられる情報が必要不可欠だ。
 植物は、口がないのに栄養を摂取し、肺がないのに呼吸している。植物は見て、味わって、聞いて、コミュニケーションをし、おまけに動いている。だったら、どうして植物が思考しないと決めつけられるのか・・・。
 「知性」とは、問題を解決する力なのだ。だったら、植物にあると言って、おかしいことではない。植物には神経がない。しかし、植物は体のある部分から別の部分に情報を送るため、三つのシステムを活用している。その一つは電気信号をつかうこと。電気信号は、細胞壁に開いた微小な穴を通って、一つの細胞から別の細胞への伝えられる。
 植物は、水や化学物質も信号として使っている。光は、人間の血管系とそっくり。ただし、体の中心部にポンプはない。さらに、化学物質(植物ホルモン)の信号も送られる。
植物は、自分でも「におい」をつくり出す。ローズマリー、バジル、レモンなど・・・。「におい」は植物の言葉だ。
 植物が害虫に食べられたとき、警報を発する。トマトがその一例だ。植物に「知性」があるというのは間違いありませんよね・・・。
         (2016年2月刊。1800円+税)

マヤ文明を知る事典

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  青山 和夫 、 出版  東京堂出版
  マヤ文明というとメキシコ半島でしょうか。でも、頭の中では、インカ文明と似たようなものでは・・・と、明滅します。しかし、この本を読むと、マヤ文明についての間違った認識があちこちで正されます。
マヤ文明は9世紀に崩壊したのではない。16世紀まで社会全体として発展していた。現在も800万人以上のマヤ人が、30ものマヤ諸語を話し、今も生きている文化を力強く創造し続けている。
マヤ文明は、前1000年ころから16世紀にスペイン人から侵略されるまで続いた。マヤ文明では、16世紀まで鉄器を用いずに、石器を主要な利器として使い続けた。
マヤ文明は、人類史上でもっとも洗練された、究極の「石器の都市文明」であった。
マヤ文明は、人類史上でゼロの概念を最初に発明した。
マヤ人は、手足両方の指で数をかぞえて20進法を使った。マヤ文明は、ゼロの概念を知っていた。
マヤ文明では金属器が実用化されず、鉄は一切使用されていなかった。マヤ文明は機械に頼らない「手作りの文明」だった。
大型の家畜がいなかったために、荷車や犂(すき)は発達しなかった。
マヤは、「ミルクの香りのしない」人力エネルギーの文明だった。家畜は七面鳥と犬だけでウシやウマなどの大型家畜はいなかった。牧畜もなく、リャマやアルパカのようなラクダ科動物もいなかった。
マヤの支配層は、王、貴族、戦士を華ね、美術家、工芸家でもあった。多様な農民とは一線を画した。
マヤ族ではなく、マヤ人と呼ぶべきだ。ただし、標準語の「マヤ語」なるものはない。マヤ民族という単一民族は過去にも現在も存在しない。
マヤ原産の花には、コスモス、ポインセチア、マリーゴールド、ダリアがある。うひゃあ、私の庭にも咲いている花たちです。
マヤ文明には、暦があった。マヤ文明は、太陽、月、金星その他の星を肉眼で驚異的に正確な天文観測を行った。
マヤ文明には文字体系があった。それはアルファベット原理とは異なり、漢字仮名まじりの日本語とよく似ている。そして、マヤ文字は支配層だけが使う宮廷言語であり、王族と貴族の男女の秘技だった。
マヤ文字の碑文には、天文学、暦や宗教そして個人の偉業や歴史も含まれている。
マヤ人は死後の世界を信じていた。
世界の「四大文明」というのは事実に反していると厳しく批判しています。南米のアンデス文明と中米のメソアメリカ文明をふくめて世界6大文明と言うべきだとしています。この本を読んで、そこに写真で紹介されている遺跡と発掘物の見事さを知ると、なるほどと思いました。
トビラ写真にある戦闘場面を描いた壁画のカラー写真をみると、たしかにここにはすごい文明があったと実感させられます。
(2015年11月刊。2800円+税)

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