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2016年1月 の投稿

ザ・ブラック・カンパニー

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  江上 剛 、 出版  光文社
  マックじゃありませんが、ハンバーガー店がブラック企業であり、そこで働く人々が過労死したり、その寸前の状況にあることを告発している本です。
 日本のマックも身売り話が出ているようですが、私はマックを食べないことを自慢にしている者の一人です。いえ、マックだけではありません。化学調味料と促成ホルモン材漬けの牛肉なんか食べたくないということです。
ハンバーガー店の店長が店内で過労死してしまった。なにしろ、店内に寝泊まりせざるをえないという過酷な労働条件。そして、売上高を確保するためには、店長自身が商品を買い取るしかない。パート従業員の賃金だって、人件費割合を削減するためには、店長が自腹を切っている。
 あまりにも長い拘束時間、ノルマに追われて精神的余裕をなくし、過酷なストレスにさらされたら、過労死しなくても、いずれ病気になるのは必至だ。しかし、本社だけではぬくぬくとしている。
 そんな商社こそ、ブラック企業そのものです。そして、理不尽な客がいて、トラブルになったり、フェイスブックやツイッターで店の悪評が書きたてられたり・・・。いやはや、大変な職場ですね。
 そして、マックに対抗する独立系のハンバーガーのチェーン店があると思うと、実はアメリカのファンド会社の支配下にある会社であり、社長以下、いつでも首のすげ替えは出来るというのです。強欲なアメリカ資本の言いなりになってはたまりません。
 過労死するまで働かされるなんて、ゴメンですよね。
 ハンバーガー店という典型的なブラック企業の実情が、面白い読み物として生き生きと書かれています。マックなどのハンバーガー店の内情を知りたいという人には必読です。
 
       (2015年11月刊。1500円+税)

帰蝶

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者  諸田 玲子 、 出版 PHP研究所
 織田信長の正妻は、明智光秀の従妹であり、斎藤道三の娘だったというのです。知りませんでした。織田信長の正室、つまり正妻です。
帰蝶は、斎藤道三(どうさん)の娘の濃姫(のうひめ)である。これまでの通説によると、本能寺の変のずっと以前に早世したが、離縁されたと考えられていた。ところが、近年そうではなくて慶長17年(1612年)に78歳で亡くなったという記載が見つかった。別の資料にも、信長の一周忌の法要を信長公夫人がとりおこなったと書かれている。
では、帰蝶は本能寺の変に至るときに明智光秀といかに関わっていたのか、そして本能寺の変が起きたあと、いかなる行動に出たのか、誰もが知りたいところです。
そのあたりを小説として、女性の立場でこまやかに丁寧に描いた小説です。
私は安土城には二度のぼったことがあります。やはり織田信長の「天下布武」という発想を知るためには、ぜひ一度は安土城の跡地に立つ必要があると考えました。
広い大手門の坂道をのぼっていき、あとは曲がりくねっています。天守閣を再現した博物館が近くにあって、当時をしのぶことも出来ます。
信長の周囲にいた女性たちが、栄光と恐怖の背中あわせに生きていたことを偲ばせる小説でした。
作家の想像力というのは、本当にたいしたものです。
(2015年10月刊。1700円+税)

リベンジ・ポルノ

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  渡辺 真由子 、 出版  弘文堂
 リベンジポルノとは、恋人や配偶者と別れた腹いせに、交際中に撮影した相手の性的画像や動画をインターネット上に公開し、拡散する行為。
 このようなリベンジ・ポルノは、実は昔からあった。30年前に女優の裸体写真が出まわった。性的な内容を撮影したいという欲求は、もともと多くの人が内に秘めている。その実現を可能にする道具を与えられたとき、欲求は開花する。
 ネットに載せた画像には、他人にも「保存」が可能だという特徴がある。
 日本よりアメリカで、このリベンジポルノによる被害は先行している。
女子高校生にとって、恋人と性交する関係に至ることは、「同級生より一歩先に大人になった」ことを意味する。そのような自分を自慢したい心理が働く。
 自分に自信のない女の子は、良い評価がほしいから、自分からわざと、そそるような画像を撮ってしまう。恋愛まっただなかの少女たちは、後先を考える余裕がない。いつか別れるかもとか、先のリスクは自分のこととして考えられない。
 10代の少女の恋愛は、あくまでもピュアなのだ。もっと好きになってほしい。浮気や自慰を防止したいという理由で少女たちは撮影に応じている。相手が自分を裏切るはずはないと信じるから撮影に応じる。
 リベンジポルノが発生したとき、撮らせた側は、まさに被害者である。
 撮らせたあなたが悪いときめつけたら、被害者として名乗り出ようとは思わなくなる。加害者が顔見知りであることが多いのも、周囲に相談できない理由の一つになっている。
 ガラケーをもち、スマホに縁のない私ですので、リベンジポルノの世界にも無縁なのですが、小さいころからスマホに慣れ親しんでいるという社会環境も、この問題の背景にあることがよく分る本でもありました。
 被害者に非はなく、被害者が責められる社会はおかしい。私もそう思います。もっと、深く考えるべきなのですよね・・・。
(2015年11月刊。1300円+税)

カルフォルニア先住民の歴史

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  野口 久美子 、 出版  彩流社
 西部劇は大好きな映画でした。いつもインディアンが悪者というか敵役で登場してくることに何の違和感もありませんでした。映画の始まりに、大草原の彼方から主人公が馬に乗って登場するのを見て心を躍らせたものです。
 大学生のころは、マカロニ・ウエスタンです。ここでは、悪役は町のボスたちであり、インディアンではありませんでした。
 そして、弁護士になって、「ダンス・ウィズ・ウルブズ」をみて、インディアンのなかで生活する白人がいたことを知りました。
 実は、インディアンこそアメリカの先住民であり、遅れてきた白人は、侵略者だったことに遅まきながら気がついたのです。そこで加害者と被害者が逆転したのでした。
 15世紀末のアメリカ先住民は500万人から1000万人いた。ところが、20世紀の初めには、その40分の1でしかない24万人まで減少した。
 2015年現在、アメリカ内に322ある先住民保留地は、全国土の2.3%を占めるにすぎない。アメリカの歴史は、その土地に脈々と社会を継承してきた先住民の大きな犠牲の上に構築されてきたのだ。
2014年現在、カルフォルニア州には109の先住民の「部族」が存在する。「部族」は、部族を基盤としながらも、その内実は、多様な歴史的経験のなかで、部族の文化的、社会的境界を大幅に脱構築して組織された集団である。
 現在、カルフォルニア州内には100の先住民保留地があり、そこに109の連邦承認部族、1つの州承認部族が存在し、78の部族が連邦政府による承認を求めている。 
 日本人女性(研究者)がカリフォルニアにあるトュールリヴァー部族に長く通って、その歴史を明らかにした本です。その粘り強い調査には大変な苦労があったと思われますが、こうやって日本に住む私たちが、居ながらにしてアメリカ先住民のことを知ることが出来るわけです。本当にありがたいことです。
(2015年8月刊。3500円+税)

会計士は見た

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  前川 修満 、 出版  文芸春秋
ソニー、東芝、スカイマークなど、世にも名高い超大企業が次々に大きく揺らいでいます。なぜ、そうなったのか、公認会計士が公表された企業決算書を読んで鋭く指摘しています。大塚家具では創業者の父親は従業員を大切にしてきたことがよく分りました。パートは正社員数の1割未満しかいない。ほとんど正社員で運営されている。たとえ実績が悪化しても、従業員を解雇せずに切り抜けようとしてきた。
 「お客様への対応は、ちゃんと教育を受けた正社員にのみ行わせる」
 「縁あって入社した従業員は、簡単にクビにはしない」
 大塚家具は無借金経営できた。誠実かつ堅実な経営をしてきた。企業者である父親は、従業員と家具をこよなく愛する社長だった。娘との争いが続いていましたが、これからどうなるのでしょうか、、、。
 ヤマダ電機に対抗していたコジマは、大塚家具と同じく、ほとんどの従業員が正社員だった。ヤマダ電機は、成長期にパートを増やしたが、同時に正社員も増やした。それに対して、コジマは、正社員を減らしてパートを増やしたため、従業員の士気が低下してしまった。
ケーズデンキは、「がんばらない経営」をモットーにしている。ポイント制をとらず、社員に売上ノルマを課さない。社員に無理はさせない。あえて一等地にも出店しない。
ケーズデンキの社員は平均年齢32歳、平均勤務年数6.5年、平均給与は426万円。そして、ヤマダ電機は、29歳、4.8年、370万円。これに対してコジマは、28歳5.6年、383万円。
結局、従業員を切り捨てる企業よりも、大切にする社会のほうが、長い目で見て、大きく伸びるということなんですね・・・。
目先の株主への高配当を最優先するような企業だったら、つぶれても仕方のないことだと改めて思いました。
(2015年12月刊。1200円+税)

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