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2015年10月 の投稿

新・自衛隊論

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  自衛隊を活かす会 、 出版  講談社現代新書
 自公政権のゴリ押しで安保法制法が「成立」しました。憲法違反の法律は無効なわけですが、アベ政権は来年にもアフリカ(スーダン)へ自衛隊を派遣しそうです。
政府があるのか分からないような国、コトバも通じない国へ、アメリカの言いなりになって自衛隊を派遣したら、しかも今度は民生支援ではありませんから、「戦死者」が続出するのは必至です。
「日本の平和のための抑止力」なんて、とんでもありません。アベ首相の嘘によって日本人が殺される(現地の人を殺す)なんて、本当にとんでもない事態が生まれようとしています。
 この本は、11人の元幹部自衛官と安全保障論の専門家が日本の国を本当に守るためにはどうしたらよいのかを論じています。説得力があります。
いま守るべきなのは、ながく大切に守ってきた「非戦のブランド」だという点には、私もまったく同感です。
今のアメリカと中国の関係は、最大の貿易相手国、投資の対象国、国債保有国というものです。
 今朝(9月23日)の新聞には、アメリカのカリフォルニア州の高層ビルや豪邸を、中国人が次々に買収し、建築しているという記事がありました。豪邸のほうは平均1億円、それを中国人が即金(現金)で買うというのです。恐るべき状況です。
 ですから、アメリカも中国も、お互いに戦争するなんてことはまったく考えていないし、ありえないのです。日本人だけが、アベ政権のあおりたてる「中国脅威論」を素直に信じ込まされてます。
 日本の安全には、アメリカだけでなく中国の関与が欠かせない。中国の安全にも、日本やアメリカの関与が欠かせない。国の安全は、政治体制の違いを超えて、一国だけで成り立つものではなくなっている。
 北朝鮮は、たしかに危険だ。たいした力は持っていないが、追い詰めると何をするか分からない。追い詰められたときに怖いのは、核ミサイルと十何万人の特殊部隊。日本の原発が特殊部隊のテロ攻撃・自爆攻撃にやっれてしまったら、日本はもの破滅です。それは防ぎようのないことです。
日本が北朝鮮の敵基地を攻撃するなんて、口で言うのは簡単だけど、実際には不可能。そもそも敵の基地がどこにあるのか、日本の自衛隊はまったく把握していない。敵の基地は動きまわるし、地下にあるから把握しようがない。
海外で抑留された日本人の救出作業を自衛隊がするといっても不可能なこと。アメリカ軍のスペシャルフォールに出来ないことが、日本の自衛隊に出来るはずがない。アメリカ軍の救出作戦はこれまで一度も成功したことがない。日本の自衛隊には情報がなく、情報収集手段がなく、訓練もしていない。訓練していないことが出来るはずはない。
 中国の指導部にとっては、国内社会が不安定化することこそ、もっとも恐ろしいこと。
 中国には空母が一隻しかないが、それはロシアから購入した中古船であり、動いているのが奇跡というような艦船。発着艦訓練もできておらず、まったく実戦用ではない。
 日本の陸上自衛隊は、用意周到動脈硬化。海上自衛隊は、伝統墨守唯我独尊。
 航空自衛隊は、勇猛果敢支離滅裂。
 日本は国土全体を守るのがとても困難であり、また長期にわたる消耗戦にはまったく向かない地政学的特徴がある。だから、日本にとって大切なことは、紛争を未然に防ぎ、万一、紛争が起きたときには、それをできるだけ局地的なものに限定しつつ、早期に収拾すること。
 日本と世界の平和を武力によって守ろうとか、抑止力を強めて日本を守るなどというのが、まったくの夢物語であり、危険なものだということがよく分かる本です。
 ぜひ、あなたもご一読ください。
(2015年6月刊。900円+税)

三くだり半と縁切寺

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 高木 侃   出版 吉川弘文館
 
明治のころ、日本は男尊女卑だったから、江戸時代はもっと男尊女卑は徹底していたに違いない。実は、これは、まったくの誤解なのです。
明治中期ころ以降、男は勝手な理由で気に入らない妻を追い出し、離婚していた(夫の専権離婚)。しかし、江戸時代の離婚の多くは、「熟談離婚」だった。
江戸時代にも姦通罪はたしかにあった。しかし、それは単なるタテマエでしかなかった。
ところが、明治時代以降には、実態(ホンネ)として強制されるようになった。
江戸時代の『女大学』は、一種の絵空事(えそらごと)であり、現実を反映したものではなかった。
「世に女房を養う顔をして、女房に養われる亭主多し」
武士の離婚率は高く、10%をこえ、しかも、離婚後の再婚率は50%に及んでいた。再婚へのためらいはなく、とくに夫の死亡後は再婚していた。
離婚したら、夫は妻の持参金を返還する必要があった。
女性は、未婚・既婚を問わず、家族内で重要な役割をになっていた。労働を支えていた妻は、夫と対等だった。
当時の妻は、破れ草履(ぞうり)を棄てるように、いとも簡単に夫の家から飛び出てきた。きらいな夫、生活力のない夫の元をいつでも妻が飛び出すことができたのは、その労働力が期待され、すぐに受け皿としての再婚先があったから。
庶民の離婚率は高く、8割以上が再婚した。そして、明治前期の離婚率もきわめて高い。これは江戸時代の高い離婚率の名残だ。それが、明治31年の民法施行によって激減した。
三くだり半は、再婚許可状だった。そして、この三くだり半は再婚免状であるから、具体的な離婚理由は記載されなかった。
夫が親族等の意思を無視して、恣意に妻を離婚することはできなかった。
三くだり半の実物に照らして論述されていますので、強い説得力があります。
江戸時代の縁切寺は、鎌倉・松ケ岡の東慶寺と上野国の満徳寺の二つの尼寺だけ。妻からの離婚請求はかなり認められていた。東慶寺へ駆け込んだ女性は江戸末期の150年間に2000人をこえた。
離婚に際しては、別れたい方が、お金を支払わないといけない。1992年に出版された本のリバイバルですが、補論がついています。
夏目漱石の父・小兵衛は江戸牛込馬塚下横町の名主だった。知りませんでした、、、。また、井上ひさしの『東慶寺、花だより』も紹介されています。
日本の女性を視る目が180度変わる本です。
(2014年12月1日。2400円+税)
 

「北支」占領、その実相の断片

カテゴリー:未分類

(霧山昴)
著者  田宮 昌子 、 出版  社会評論社
 三重県出身の3人の兵士の日記・手紙と写真によって、日中戦争の断片を新幹線内でガソリンをかぶって焼身自殺した71歳の男性がいました。51歳の女性がそのあおりをくらって亡くなられました。本当に痛ましい話です。
 私は安倍内閣が強引に成立させようとする安保法制法案が成立したら、日本国内の至るところで、自爆テロの危険があるようになることを今から心配しています。
 イギリスでもフランスでも地下鉄や新聞社などで自爆テロが発生しました。
 アメリカと一緒になってイラクやアフガニスタンへ日本の自衛隊が出かけていったとき、その報復として日本が自爆テロ攻撃の対象とされないなんて考えるのは甘すぎるでしょう。身内が理不尽に殺されたら、仕返しをしたくなるのが人情というものです。
 政治は、そんなことを防ぐためにあるはずなのですが、自民・公明の安倍内閣は戦争してこそ平和が得られるというのです。まるで間違っています。
 この本は、アルジェリアでイスラム原理主義勢力がはびこるのを嫌って、イギリスへ渡った男性が無意味な殺し合いをやめさせるためにフランス、そしてイギリスの諜報機関のスパイになったという実話を紹介しています。このアルジェリア人の男性は何回も殺されかかっていますが、テレビで顔を出していますから、今も生きているのが不思議なほどです。
 モスクでは、ビデオを見せられる。激しい戦闘の様子や、イスラム戦闘員の遺体が写っている。
 「こうやって殉職者になって天国に行くんだ。きみたちも、欧米の不信心者と戦えば、天国が拘束されている」
 「きみたちの今ある生命は本当の命ではない。ジハードで死んだあとに、きみたちの本当の命が息を吹き返し、そこから人生が始まるのだ」
 「殺せ、不信心者を殺せ。アルジェリア兵を殺せ。アフリカ人を殺せ。殺せば、おまえたちは天国に行ける」
 メッセージは明確だ。生き方に迷っている若いイスラム教徒にとって、「おまえの進むべき道はこっちだ」とはっきり指示してくれる人間が必要だった。言い切ってくれることで、迷いが吹き飛ぶ。
 モスクは、ありあまるエネルギーに火をつけてくれる刺激的な場所だ。イスラム信仰心にあつい者は酒も麻薬にも手を出さない。恋人をつくったり、酒に酔って夜のパーティーに出かけることもしない。ひたすらコーランを読んで、それを実践しようと心がける。
酒に酔って、パーティーに明け暮れる西洋文明は、腐り切った汚れた社会だ。
 ビデオを見て、洗脳されて若者の心を「戦って天国に行け」という訴えが射貫いた。若者は、やがて自分も欧米人を相手に実践に参加して、殉職者になることを夢見るのだ。
 これは、戦前の日本の軍国少年育成と同じ話ですね・・・。
 宗教を盲信してしまうことによる恐ろしさ、殺し合いが日常化してしまったときの怖さが、じわじわと身に迫ってきました。そんな世の中にならないように、日本はもっと恒久平和主義を世界にアピールすべきなのです。
 安倍政権の積極的「戦争」主義は根本的に間違いです。この本を読んで、ますます私は確信しました。
(2015年5月刊。1800円+税)

失われゆく、我々の内な細菌

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  マーティン・J・ブレイザー 、 出版  みすず書房
 1850年のアメリカでは、生まれた赤ちゃんの4人に1人が、1歳の誕生日を迎えることなく死亡した。今では、1000人のうち1歳になる前に亡くなる赤ちゃんは、わずか6人のみ。
 1990年には、アメリカ人の12%が肥満だった。2010年には、30%をこえた。
 2008年の世界人口のうち、15億人の成人が過剰体重。うち2億人の男性と3億人の女性が肥満。このわずか20年ほどの間に世界的な体脂肪の蓄積が起きた。
近年の喘息発祥の増加も異常だ。2009年には、12人のうち1人、2500万人のアメリカ人が喘息をもつ。これは人口の8%。そして、子どもの10%が花粉症に苦しんでいる。
 ピロリ菌は、ある種の成人には病気を引き起こす。しかし、多くの子どもたちに利益をもたらすものでもある。ピロリ菌の根絶は、利益よりも、より大きな健康被害を人類にもたらすかもしれない。
 ヒトの体は、30兆個の細胞よりなる。そして、ヒトは、100兆個もの細菌や真菌の住かでもある。
母親は赤ん坊の臭いを知っているし、赤ん坊は、母親の臭いを知っている。臭いは重要である。それは、たいてい微生物に由来する。
 ある種の細菌は、ビタミンKを産生する。ビタミンKは血液の凝固に必須なビタミンであるが、ヒトはそれを産生できない。ヒトの細菌は、内在性の「バリウム」さえ産生する。
 細菌叢のもっとも重要な役割は、免疫の提供。ヒトの体内細菌は、数百万個の独自の遺伝子をもっている。
抗生物質は効果がてきめんで、明らかな副作用はないと思われてきた。問題は、私たちの子どもの世代だ。子どもたちは、今の私たちが予想もできないような脆弱性を抱えることになる。抗生物質過剰使用のもっとも明らかな例が、上気道感染症として知られる疾患だ。
 ところが、抗生物質の使用量は膨大であり、毎年、伸び続けている。抗生物質の過剰使用と耐性菌の出現によって、製薬会社の新薬開発が耐性菌の出現に追いつかないという危機が生まれた。抗生物質を使えば使うほど、耐性は出現しやすく、抗生物質の有効期限は短くなっていく。
 アメリカで生産される抗生物質の大半は、巨大な飼育場で使用される。ブタやニワトリ、七面鳥なのである。抗生物質は太らせるために使われている。食肉生産の最大化が目的だ。
 2011年、アメリカの畜産農家は3000万ポンドの抗生物質を購入した。これは、史上最高だ。これを、日本人の私たちも知らないうちに食べているわけです。
糞便移植という治療法が何年も前から実践され、効果をあげてきた。
 ある人から別の人へ、糞便を計画的に移植する、健康な人から、新鮮な糞便を手に入れ、食塩水で便の懸濁液をつくる。生じた不透明な茶色の液体から、管や経鼻的に十二指腸内視鏡を通して、胃に、あるいは逆方向を直腸から大腸内視鏡によって投与される。
 すなわち、腸内・生態系が破壊された人に対して、失われた細菌を戻してやるのは、有効な医療でありうるということ。
 人類は、細菌が人体内で機能する機構を解明しきれていないのだ。
生長促進を目的として家畜へ抗生物質を使用するのは直ちに禁止すべきだと思いました。
 ヨーロッパでは既に禁止されていますが、アメリカではまだです。日本はどうかというと、この分野でも、アメリカにならって全面禁止にはなっていません。問題ですよね。
 私がマックやケンタを食べないのは、そのせいでもあります。
(2015年7月刊。3200円+税)

平泉

カテゴリー:日本史(平安)

(霧山昴)
著者 斉藤 利男   出版 講談社書選書メチエ
 
中尊寺とは、清衡による奥六郡支配の最初に、奥州の中心に位置することを意識して創建された寺院だった。奥大道を通行する人々は、金色堂以下の壮麗な伽藍を間近に見る仕掛けだった。中尊寺は、すべての人々に開かれた「公の寺」だった。
奥州藤原氏は、「北奥政権」にとどまっていなかった。平泉開府の最大の意義は、衣川を越えて、「俘囚の地」奥六郡の南へ出たことにある。そして、清衡の目は、奥羽南部から関東・北陸、さらに首都京都を越えて、西国九州に達し、博多の宋人商人を介して、寧波(ニンポー)、中国大陸に及んでいた。
初代清衡は、大治3年(1128年)7月に73歳で病死した。
清衡の死は、わずか2週間後に京都の貴族に死んだことや年齢まで日記に書かせた。この日記が今も残っていることから、さらに多くのことが解明できたのでした。
平泉は、海のシルクロードの東の終点に位置する都市である。それは、院政期仏教美術の直輸入ともいえる中尊寺の仏像、仏具類、海外産の材料(夜光貝)象牙、紫檀材など。都の一流の匠・工人に依頼することなしでは、建立不可能だった中尊寺金色堂。
そして、ここには中国・海外産の経典・宝物などもある。
平泉・中尊寺は私も何回か行きました。その金色堂の見事さには、言葉が出ないほどの衝撃を受けたものです。
(2014年12月刊。1950円+税)

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