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2014年7月 の投稿

自爆営業

カテゴリー:社会

著者  樫田 秀樹 、 出版  ポプラ新書
 カローシするまで働かせるブラック企業は許せませんが、ノルマ達成のため自腹を切らせる企業も許すわけにはいきません。
 ところが、ここでまず登場するのは、なんと、あの郵便局なのです。ええーっ、郵便局員が「自爆営業」しているのか・・・。
 郵政公社になってから、年賀状のノルマが厳しくなった。正社員なら1万枚、非正規社員でも1000~3000枚。売上げの少ない「恥ずかしい社員」は、数百人の社員のそろう朝礼のとき、「お立ち台」に立たされ、「申し訳ありません」と謝罪させられる。
 ノルマを達成しない社員は昇進できない。そこで、金券ショップに駆け込んで買ってもらう。管理職だと自腹を切る金額は数十万円になる。
 郵政公社がスタートした2003年に、精神疾患による休職者は400人だったのか、4年後の2007年度には800人近くへ倍増した。自殺者も、毎年30~50人出ている。
 ひえーっ、これって怖い数字ですよね。小泉「郵政改革」の結末の一つがこれなんですね。ひどいものです。
日本郵便の社員は正社員が10万人で、非正規社員が15万人。非正規社員が6割を占めている。そして、非正規社員の6割以上が年収200万円以下。
日本郵便は、20011年、2012年と赤字を出していたが、2013年の決算では黒字となった。それは、非正規社員の大量解雇によって500億円もの人件費を削減したことによる。
現場には、正社員がほとんどいない。非正規社員の時給は720円で、手取りは付き11万円台。
 日本郵便の社員の起こす交通事故の割合は、一般社会の4~5倍と高い。叱責と罵倒の毎日は、労働者を確実に委縮させ、気持ちを急がせ、作業から安全性と確実性を奪う。
 定時の前に出勤し、昼休みに昼食を食べず、午後と夕方の休憩時も働く。
残念なことに、こんなひどい自爆営業は、ひとり「郵便局」だけではありません。他の業種にも、今では広く認められます。そこには、労働基準法も労働組合も存在しないかのようです。でも、権利はたたかわなければ、自分のものになりません。ぜひぜひ、みんなで、少しずつ声をあげていきたいものです。
 ひどいことは許さないという声をあげるのは、自分のためであり、世の中のためなのですから・・・。
(2014年5月刊。780円+税)

順伊おばさん

カテゴリー:朝鮮・韓国

著者  玄 基榮 、 出版  新幹社
 「スニおばさん」と読みます。1948年済州島四・三事件を取りあげた小説です。
 「順伊ねえさんは、ほんとはその昔に死んだ人だ。畑を取りまいてからに、それこそ雷みたいに銃を撃ちまくったんだけども、順伊ねえさんだけは擦り傷ひとつ負わんでな、ほんとに不思議だった」
 「どうも、射撃の直前に気絶して倒れてしもうたようなんだ。気がついてみたら、自分の身体の上に死んだ人間が何人も折り重なっていたという」
 「その畑で死んだ人たちが、ぐにゃぐにゃに腐って、肥やしになって、それであくる年の芋はすごい豊作じゃった」
 夜は部落出身の共匪たちがあらわれて、入山しない者は反動だと竹槍で突き殺し、昼は巡警たちが幌付きのトラックでやって来て、「逃避者」の検束をするものだから、結局、村の若者たちは昼も夜も身を隠して過ごすしかない立場だった。
 大部分の男たちは村にそのまま踏みとどまっていたが、暴徒に追われ、軍警に追われて右往左往しながら、結局は、なすすべもなく、ハルラ山麓の牧場へあがっていき、川のそばの洞窟内に非難した。済州島は、もともと火山地帯なので、至るところに洞窟があり、暴徒と軍警の板挟みになった良民たちが、人知れずに身を隠すのには誂え向きだった。
 西北青年出身の巡警たちは、子どもたちに洋菓子を与え、父や兄の隠れ場所を教えてほしいと騙した。無邪気な子どもたちは、竹ヤブのなかや家の床下、馬小屋やわら積みの下を掘った穴に隠れている自分の父や兄を指さして教えた。
 暴徒も恐ろしく、軍警も恐ろしくて山へ避難した良民を、軍警は暴徒と見なした。
 入山者の家族まで釈放されたという噂が広がると、若者たちが続々と下山してきた。彼らは下山すると、いっていの帰順手続を踏んでから、宣撫工作隊に編入されて討伐隊の協力者となった。
 ときには、幹部級の入山者の切り取られた頭が名札をつけて展示されもした。
 朝鮮戦争が始まり、海兵隊が募集されると、帰順者たちは一人残らず入隊を志願した。アカの汚名を拭うことのできる絶好の機会だった。
 鬼神を捕まえる海兵隊として勇名をとどろかせた草創期の海兵隊は済州島出身の青年3万人を主軸にして成立した。
 以北の人間たちにやられたことを以北の人間たちに仕返してやるという感情が認められた。済州島の青年たちが6.25動乱のときに見せた戦史に輝く勇猛さは、一時、軍警側で島の住民といえば無条件に左翼視し、その獰猛なアカ狩りの対象にした単細胞的な思考方法が、どれだけ重大な誤解を犯したかを反証している。
 済州島四・三事件を一般住民の置かれた状況から考え直させてくれる本です。
(2014年4月刊。1600円+税)

本当はひどかった昔の日本

カテゴリー:日本史(江戸)

著者  大塚 ひかり 、 出版  新潮社
 現代日本では、若い母親によるネグレクト(育児放棄)による子どもの死亡事故が起きると、昔なら考えられないこととして、世論が一斉にけたたましい非難をその母親に浴びせかけるという現象が生まれます。
 でも、本当に昔の日本は全員、みながみな子どもを大切に育てていた、幸せそのものの社会だったのか・・・。著者は古典の文献をふくめて、そうではなかったことを実証しています。
 私も、弁護士生活40年の体験をもとに、その指摘には、大いに共感を覚えます。
 平安のはじめに書かれた『日本霊異記』には、男遊びに精を出す若い母親が子どもらを放置し、乳を与えず、飢えさせた話がある。
 子どもは親の所有物という意識の強かった昔は、捨て子や育児放棄は、現代とは比べものにならないほど多かった。
 捨て子は珍しくなく、犬に食われてしまう運命にあると世間は考えていた。捨て子が取締の対象になるのは、江戸時代も五代将軍綱吉の時代からのこと。
五月生まれの子は親にとって不吉。旧五月は、いまの六月にあたり、梅雨時。五月は「五月忌」(さつきいみ)といって、結婚を避ける風習のある「悪月」だった。
 明治12年(1879年)の捨て子は5000人以上、今(2003年)は、67人ほどでしかない。
 中世の村落は、捨て子だけでなく、乞食も養っていた。これは、いざというときの保険の意味があった。何かのとき、「身代わり」として差し出した。
 乳幼児の死亡率の高さを利用して、もらい子を飢えさせておきながら、病死したと偽る悪徳乳母が江戸時代にもいた。
 江戸時代には、離婚も再婚も多かった。日本にキリスト教が入ってきたとき、離婚を禁じられたが、当時の日本人には納得できないことだった。
 『東海道中膝栗毛』の祢次さんと喜多さんはゲイのカップルだった。えーっ、そ、それは知りませんでした・・・。
 安土桃山時代の日本では、犬を「家庭薬として」食べていたそうです。宣教師フロイスの報告書にあります。
 猫が網から解き放たれたのは、江戸時代に入ってからのこと。
たしかに昔を手放して美化するわけにはいかないものだと思いました。それでも、人と人との結びつきがきつく、また温かいものがあったこともまた間違いないことでしょうね。それが、現代ではスマホにみられるように、とても表面的な、通りいっぺんのものになってしまっている気がします。
(2014年1月刊。1300円+税)

帰ってきたヒトラー

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  ティムール・ヴェルメシュ 、 出版  河出書房新社
 第二次世界大戦末期、ベルリンの首相官邸(地下壕)でヒトラーは自殺し、遺体は地上で忠実な部下によってガソリンをかけて焼却された。哀れな末路です。ところが、本書ではヒトラーは死んでおらず、現代ドイツにガソリンくさい服を着たまま眠りから覚めて動き出すのです。
 戦後60年以上たつわけですから、ヒトラーが復活してきても、周囲が受け入れるはずがない。と思いきや、意外や意外にヒトラーは現代社会にたちまち順応し、人々と会話し、パソコンも駆使してメディアの人気者になっていくのです。それほど復古調が現代社会に満遍なく普及し、充満していることを痛烈に皮肉っているわけです。
 かつてのヒトラー演説を、さすがにユダヤ人排斥の部分はカットして、そのままメディアで流したとき、拒絶反応だけでなく、広い共感と支持が集まったというのです。
 これが小説だと分かっていても、やはり、その素地があることを認めざるをえないのが怖いですね。それだけ所得の格差が拡大し、人々が強い、はっきりモノを言ってくれる指導者・リーダーを待望しているということなのでしょう。しかし、その結末は恐ろしいことになってしまうのです。多くの人々は毎日の生活にタダ追われているため、ひたすら流されていってしまいます。怖いことですよね。
 上下2冊の大作です。ドイツでは130万部も売れたという大ベストセラーですが、本当によく出来た、怖いばかりの展開です。
外交をまかせていたフォン・リッペントロップは容貌だけとれば、どこにも非の打ちどころのない人物だ。しかし、実はどうしようもない俗物だった。結局、見かけがいいだけでは、だれの何の役にも立たない。
アベ首相が集団的自衛権の行使を認める閣議決定を強行し、日本が「戦争するフツーの国」に変貌しつつあるいま、東條英樹が再臨したら、ちょっとばかりの騒動は起きるのでしょう。クーデターを誘発したり、内戦状態になるようなことは絶対にあってはならないこと。知らず識らずのうちに外堀が埋められ、いつのまにか戦争に引きずりこまれて嘆くような事態だけはあっては許せません。
 若者よ、反ヒトラー・反東條そして、いまのアベとの戦いに奮起せよ。と叫びたくなりました。
(2014年9月刊。1300円+税)
 フランス語検定(1級)の結果が分かりました。もちろん不合格です。最低合格点が87点のところ、53点でした。あと35点もとらなくてはいけません。不可能とまでは言いたくありませんが、至難のレベルであるのは間違いありません。
 ちなみに、自己採点では55点でした。仏作文や書きとり試験など、採点の難しいのもありますので、誤差の範囲だと思います。ショックなのは、昨年より10点も落ちていることです。
 めげずに、これからも毎日フランス語の聞きとり、書きとりは続けます。語学は最大のボケ防止になります。

ゾウと旅した戦争の冬

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  マイケル・モーパーゴ 、 出版  徳間書店
 ドレスデンに住んでいた少女がゾウとともに苛酷な戦火の日々を生き抜いたという話です。
 わずか250頁という薄い児童文学書なのですが、出張の新幹線の車中で夢中になっているうちに途中で降りる駅を乗り過ごさないように注意したほどでした。
 ドイツの敗色が濃くなると、ドイツの都市はどこもかしこも英米連合軍から激しい空襲にあうようになった。ところが、ドレスデンの町だけは、不思議なことに、まだ空襲にあっていない。
 ドレスデンにある動物園で飼われていた動物、とりわけ猛獣たちは、空襲で逃げ出す前に射殺する方針がうち出された。そこで、ゾウの飼育係である主人公の母親は、親を亡くした4歳の仔ゾウを園長の許可を得て、自宅で飼うことにした。
 そして、ついにドレスデンの大空襲が始まった。一家は、ゾウとともに都市を脱出し、森の中を歩いて叔父さんのいる田舎を目ざす。その叔父さんは、ヒトラーを信奉し、主人公の両親とはケンカ別れしていた。しかし、この際、そんなことなんかには、かまっておれない。ひたすら、ゾウとともに森の中を、夜のあいだだけ歩いていく。
 ゾウと人間のあたたかい交流を描くシーンがいいですよ。声を出してゆっくり味わいたくなる描写が続きます。
 ゾウって、本当に賢いのですね。人間の微妙に揺れ動く気持ちを察知して、しっかり受けとめてくれるのです。そして、人間は、そんなゾウの澄んだ目に励まされ、生きて歩み続けていきます。
途中で、ドイツ語を話せるカナダ人の兵士と一緒になります。空襲してきた飛行機に乗って唯一助かった兵士です。そのカナダ兵を助けたことによって、主人公一家は助けられもします。
 最後まで、次の展開が待ち遠しく、どきどきしながら読みふけりました。幸い、降りる駅を乗り過ごすことはありませんでした。やれやれ・・・。
ちょっと疲れたな。なんか、心の休まる手頃な話はないかな・・・。そういう気分の人には、絶対におすすめの本です
(2014年12月刊。1500円+税)

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