法律相談センター検索 弁護士検索
2013年10月 の投稿

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

カテゴリー:日本史

著者  加藤 陽子 、 出版  朝日出版社
東大教授が中学生・高校生の20人に向けて近代日本史を熱く語っている本です。とても分かりやすく、しかも切り込む視点が鋭いので、思わず引きこまれてしまいます。
国民の正当な要求を実現しうるシステムが機能不全に陥ると、国民に、本来なら見てはならない夢を擬人的に見せることで国民の支持を獲得しようとする政治勢力が現れないとも限らないという危惧があり、教訓とすべき。
 日本国憲法を考えるときも、太平洋戦争における日本の犠牲者の数の多さ、日本社会が負った傷の深さを考慮に入れることが絶対に必要だ。巨大な数の人が死んだあとには、国家には新たな社会契約、すなわち広い意味での憲法が必要となるのは真理である。
戦争は、国家と国家の関係において、主権や社会契約に対する攻撃、つまり、敵対する国家の憲法に対する攻撃という形をとる。
 相手国がもっとも大切だと思っている社会の基本秩序、これを広い意味で憲法と呼んでいる。これに変容を迫るものこそが戦争なのだ。
ジャン・ジャック・ルソーは、戦争とは相手国の憲法を書き換えるものと喝破した。
 アメリカは、戦争に勝利することで、最終的には日本の天皇制を変えた。
イギリスの歴史教授E・H・カーは、歴史とは現在と過去との間に尽きることを知らぬ対話だと言った。
 田中正造は、日露戦争について反戦論、非戦論で、はっきりした立場をとった。ところが実は、日清戦争には賛成している。のちに足尾銅山鉱毒事件で明治天皇に直訴状を出した田中正造は、日清戦争について、「良い戦争だった」と書いていた。
 日露戦争に関して、ロシアの学者は、どちらが戦争をやる気だったかという点で、ロシアの側により積極性があったとしている。戦争を避けようとしていたのは、むしろ日本で、戦争をより積極的に訴えたのはロシアだという。
日露戦争(1904年)の前の1900年に山県内閣は衆議院選挙法を改正した。直接国税15円以上を納付するという制限から、10円以上にして、5円下げた。その結果、45万人だった有権者が98万人となった。そして、1908年の選挙の時には158万人になっていた。
 また、1900年の山県内閣の選挙法改正によって、被選挙権は基本的に納税資格が不要とされた。それまでは地主議員ばかりだった国会に実業家や新聞記者などが登場するようになった。
 1933年(昭和8年)、熱河侵攻作戦という、最初はたいした影響はないと考えられていた作戦が、実のところ国際連盟からは、新しい戦争を起こした国と認定されてしまう危険性をはらんでいた作戦だったことが衝撃的に明らかにされてゆく。天皇も首相も苦しむが、除名や経済制裁を受けるよりは、先に自ら連盟を脱退してしまえ、という考えの連鎖によって日本の態度は決定された。
 日本近代史の歴史を若い学生、生徒とともに考える絶好の本です。最後まで面白く読めます。
(2013年3月刊。1700円+税)

白い包哮

カテゴリー:生物

著者  長澤 幹 、 出版  未知谷
圧倒的迫力の本です。すごいものです。日本狼の生態と猟師(またぎ)の生態・生きざまがことこまやかに描写され、息つく間もなく話が展開していきます。
 主人公は、初めのうちは、猟師の岩作です。
 猟師(またぎ)は、春から秋にかけて農業に勤(いそ)しみ、その合間に山の恵みや薪の採集などに努める。冬から春にかけて白神山地の奥深い森林で数日間にわたって狩猟を行う。狩猟の対象は主にカモシカとクマだ。
 夏場、狩りの季節の前に、あらかじめ森林の中に猟師小屋と呼ばれる簡易な小屋をたて、ここに食料などを運び込んでおく。狩猟が始まること、ここを基地として寝泊まりしながら狩りを行う。この小屋は非常に簡易かつ粗末なものなので、長持ちはしない。風雪にさらされて壊れると、翌年はまた新しい小屋を作る。
猟師は数人で組をつくる。棟梁は絶対命令者で、猟師の頭をシカリと呼ぶ。
 猟犬は獲物を見つけたら行動を制限し、留めておくことが重要で、優秀な猟犬はこまめに動き、獲物と一定の距離を保ちながら威嚇し続けることのできる犬でなければならない。そのためには、無闇な闘争心よりは、獲物の変化に応じた怜悧な判断力と獲物を引き止める胆力が優先する。
秋田犬は闘犬として好まれたが、その前身は「秋田マタギ」と呼ばれ山岳狩猟犬であり、 見た目に堂々とした風格があって、日本犬らしさをもった犬である。もともと闘犬としての資質をもっており、力も強いが、我も強い。反面、落ち着きがあり、飼い主の言いつけを忠実に守るという性格がある。
 秋田犬はもともと頭のいい犬で、上手にしつければ飼い主思いのいい猟犬になる。
秋田犬のユキが、ひょんなことからオオカミの群れの一員となり、ボスオオカミとの仔をもうけます。ギンゲです。太陽の光が当たると、胴体が銀色に輝くので、銀毛(ギンゲ)と呼んで岩作の子・源兵とともに生活しています。いよいよ、この本の本当の主人公ギンゲの登場です。
 猟師の岩作と熊がたたかううちに、岩作が転落死してしまうのでした。
 残された家族はギンゲを飼う余裕などありません。ついに犬好きの山林地主に譲り渡します。そして、さらに別の和歌山に住む大好きの大地主へと・・・。
 そこを嵐の夜に脱走したギンゲは故郷の白神山地へ仲間のオオカミの群れとともに戻ってきます。
 とにかくスケールも大きいオオカミの話です。
 鹿児島への出張の一日、ずっと読んでいました。本当に充実した一日となりました。ありがとうございます。著者にお礼を申しあげます。
(2013年5月刊。2200円+税)

小さいおうち

カテゴリー:日本史(戦後)

著者  中島 京子 、 出版  文春文庫
直木賞の受賞作です。モノカキ志向の私ですから、日頃、直木賞か芥川賞、それでなくても文化勲章を狙っていると高言している身として、この小説の出来の良さにはただただモノも言えません。直木賞を受賞したのに何の異論もありません。細かい部分(ディテール)の描写といい、筋の運びとして、そして見事な結末には息を呑むしかなく、文句のつけようもありません。
 山田洋次監督が映画にしてくれて、来年1月には見れるとのこと。今から楽しみです。
 先日、妹尾河童原作の映画「少年H」をみましたが、戦前の平和な生活がいつのまにか戦争へ突入していく情景が、きめこまかに再現されていました。
裏表紙に、この本のストーリーが要領よく紹介されています。
 昭和初期、女中奉公にでた少女タキは赤い屋根のモダンな家と若く美しい奥様を心から慕う。だが、平穏な日々にやがてひそかに”恋愛事件”の気配が漂いだす一方、戦争の影もまた刻々と迫りきて―。晩年のタキが記憶を綴ったノートが意外な形で現代へと継がれてゆく最終章が深い余韻を残す傑作。
 戦前の上流サラリーマンの家庭生活が、住み込み女中の目から、ことこまやかに描写されていますから、つい没入させられます。そして、いつのまにか微妙な男女の機微に触れていきそうです。
 女中タキのお見合い話をふくめて、戦争が日常生活に忍びこんでくるのです。
 この本には、私のつれあいがこよなく愛する永藤(ながふじ)菓子店が登場します。上野駅近くにあって、タマゴパンなどで有名なのでしたが、今は閉店してしまいました。
あと味もさわやかな、ロマンあふれる小説です。
(2013年6月刊。543円+税)

ワークルール検定2013

カテゴリー:司法

著者  NPO法人・職場の権利教育ネットワーク 、 出版  旬報社
職場で生かす労働法100問というサブタイトルのついた本です。働きやすい職場を実現するために、全国で初めてのワークルール検定試験が実施されるとのこと。その公式テキストブックでもあります。
 150頁ほどの薄い本です。設問が100問あり、正しいもの、あるいは誤っているものを選んでいく形式です。
 一般常識、労働契約、労働条件、雇用終了、労働組合の5分野に分かれた設問があり、基礎的なことがしっかり頭に入っていく仕掛けです。
 ブラック企業を見分ける指標として若者の早期離職があるが、離職率の高い業種を選べ、という設問もあります。
 キャリア権という私の知らない権利が紹介されていました。
キャリア権とは、労働権を中心において、職業選択の自由と教育権を統合した性格の権利である。
パワハラについて、OA機器を使えない上司に若い部下が嫌がらせをして、機器の使用方法を教えないとか、代わってやってあげないというのもパワハラに含まれるとのこと。OA機器の使えない私は、これを読んで、ああ、救われたと思いました。
懲戒解雇にあったとき、職業規則で不支給と定められているときにも退職金が支給されることがある。
 この点は、私も誤解していたことがありました。
 とりわけ若い人に大いに普及したい本です。
(2013年4月刊。1000円+税)

影絵はひとりぼっち

カテゴリー:人間

著者  藤城 清治 、 出版  日本図書センター
有楽町の駅近く、銀座に藤城清治の美術館があるのを発見しました。たまたまのことです。迷わず入館しました。すごいです。影絵によるメルヘンの世界にたちまち浸ることができます。
 著者が影絵を始めたのは終戦直後、軍隊から再び大学に戻ってからのこと。慶応大学では児童文化部。これって、大学のサークルのことでしょうか・・・。私の大学生のとき、セツルメント活動にも児童文化部がありました。今も絵本を描いている加古里子(かこさとし)さんは、セツルメントの大先輩です。
 影絵には先達がいない。ただただひとりで考え、工夫し、悩み、ひとりで暗中模索しながら、一本の影絵の道を歩いてきた。あるときは立ち往生し、あるときは脱線したり、よろめいたりしながら、危なっかしい足どりで、今日までやってきた。
 今になってみれば、それがかえってよかったのかも知れない。模倣したくても模倣するものは何もなかったから、すべて一から十まで自分で考えなければいけなかった。否応なしに世界中どこにもいない独自のスタイルの影絵劇が出来ていった。
 光を通してみる影絵には、反射光でみるものとは比べられない美しさがある。切り抜いた黒い線と形、うすい紙、色の紙の重なりなどを、光が通してつくり出す透明な階調は、実際に光にあててみると、ドキッとするほどの美しい魅力がある。
 影絵を展示するには、電源そのほか厄介な問題がたくさんあり、そのうえ破れやすいので持ち運びが大変だ。
影絵は実際に絵の具で描いた絵以上に、印刷されたとき原画との違いが大きい。
 さまざまの材質の紙や厚さの異なった紙に裏から光をあててみると、紙の光を通す度合いによって、いろんな階調が出来る。もちろん、光をまったく通さないところは、真っ黒になり、光をよく通すうすい紙はハーフトーンになる。和紙の繊維やハトロン紙の縞模様なども面白い効果となる。色セロファンやプラステートは透明感のある美しい色彩を出してくれる。最近は、プラステートにいろんなナンバーのうすい色から濃い色調まで何十種類の色ができたので、微妙な色調が意のままに出せるようになった。
 影絵の原画は1メートル近い大きさのものをつくる。印刷効果は、実際に印刷される大きさの1.5倍ほどが一番いいと分かっているけれど、10倍くらいの大きさでつくる。
 影絵の美しさは、なんと言っても逆光の美しさにある。逆光にうつし出される黒いシルエットの妖しい美しさに魅せられて、もう35年になる(1983年)。
 赤を出すためには、赤のフィルターを貼るしかない。しかし、赤いフィルターを貼っただけでは、逆光の場合、100%色は出ない。赤のまわりを、赤の色が出しやすいようにつくってやらなければならない。赤を赤らしく美しく見せるということは、赤だけの問題ではなく、赤を引き立てる環境をつくってやることが一番大切なことだ。
 このように、影絵の世界は奥深く極まりない。
 メルヘンの世界にしばらく浸ってみるのも、頭の洗濯になっていいものです。気分がすっきりします。あなたも、ぜひ足を運んでみてください。
(2007年4月刊。1800円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.