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2013年10月 の投稿

野生のオランウータンを追いかけて

カテゴリー:生物

著者  金森 朝子 、 出版  東海大学出版会
学者って、本当にすごいです。ジャングルのなかに一日中すわって、はるか樹上のオランウータンの挙動を観察し続けるのです。しかも、オランウータンは、ほとんど一日じっとしているのです。退屈このうえない観察作業です。ところが、動かないなら動かない様子をじっと観察ノートに何分間隔で記帳し、何か食べたら、地上に落下してきたものを素早く拾ってビニール袋に保存する。退屈だからといって一瞬でも目を離すとそのスキに姿を見失い、その日のそれまでの苦労が水の泡という悲惨な結末も待っています。
 とてもとても、好きじゃなければやってられない作業です。しかも、うら若き女性がじっと密林にいるのですよ、汚れなんて気にすることもなく・・・。
 野生のオランウータンの日本人研究者は著者の前には一人だけしかいない。
 オランウータン研究者に共通している特徴は、忍耐強くておおらかで、かつ、人当たりがよく社会交渉に長けている人。効率やコストパフォーマンス、業績を重視しすぎる計算高いタイプには、まず勧めることができない。
 森の中でオランウータンを見つけるのは容易なことではない。早朝6時から、樹上にいるオランウータンを探す。オランウータンの行動データは、少なくとも6時間以上は連続して追跡しなければ、そのデータは使用価値がない。
 すごいですね。6時間の連続追跡そして観察ですよ。
オランウータンは他の霊長類に比べて圧倒的に活動量が少なく、樹上でじっとしているときは、まったく物音がしない。そのため、発見するのが非常に難しい。まして、単独生活をおくるオランウータンは、ほとんど音声を発することがない。
 では、どうやって探すのか。それは、匂い。オランウータンの糞尿の匂いで探す。
 いちど匂いを見つけると、オランウータンを脅かさないように、足音を最小限に小さくして、一歩一歩ゆっくり歩く。話などはせず、ゆっくり周囲を見渡し、森の中の物音を盛らさずに聞きとる。オランウータンの追跡調査は、恐ろしく地味で、忍耐のいる、きつい仕事だ。うんざりするほど長い時間、じっと観察するために、鉄の意志をもたねばならない。
 森の中で長時間すごすといっても、簡単なことではない。森の湿度は常に80%を超えるから、居心地は決してよくない。
一日中、樹上にいるオランウータンを見上げていると、首が痛くなる。地面に寝転がって観察をし続ける。オランウータンは、そのほとんど単独で活動し、他の個体との接触も非常に少ない。観察中には、特別なことはまず起きない、「退屈な生き物」である。
 しかし、このようにオランウータンは1頭のフランジオスを中心に、緩やかな「つながり」をもつ社会を形成している。直接に触れあうことはほとんどなくても、フランジオスが遠くから発するロングコントロールが聞こえると、オランウータンたちは採食の手を止めて、音声が聞こえた方向をじっとみつめている。オランウータンは、ある一定の距離を保ちつつも、お互いを識別し、位置関係も良く把握している。オランウータンは決して他個体に無関心ではなく、むしろ自分の周囲に自分の好まない相手と接触しないように、他個体がどこにいるのかをよく把握して距離をとっている。
 オランウータンの魅力の一つは、その高い知能である。オランウータンが熱帯の森の中で生きていくには、多様な果実の場所と時間を記憶し、次に食べられる果実を予測しながら稼働しなければならない。
 オランウータンは、食べ物の乏しい環境下で、さまざまな工夫をこらしながら生活している。オランウータンは、ほぼ決まった属の食物植物を集中して食べ、かつ、わずかではあるが、多様な属の植物を食べている。オランウータンがよく食べているイチジクは、繊維質が多く、栄養価は低い。イチジクは、多種多様な種類のものが、毎月、森のどこかで結実している。
 オランウータンは、ある植物を薬草として使っている。
いやはや、著者のような学者のおかげで、野生のオランウータンの生態を知ることができます。まことにありがたいことです。
(2013年5月刊。900円+税)

働く前の労働法教室

カテゴリー:司法

著者  仙台弁護士会 、 出版  民事法研究会
ブラック企業が話題になっています。労働基準法なんかまったく無視して、死ぬまで労働者をこき使い、身も心もボロボロになると、ポイ捨てしてしまう企業のことです。
いままで週刊誌などで名前のあがった企業には、超有名な日本を代表する大企業がいくつもふくまれています。ユニクロ、ワタミ、コンビニそして全国展開中のコーヒー店などなどです。
 そんなブラック企業なんて、お仕置きよ、と世間が厳しく弾劾すればいいのですが、残念ながらマスコミも腰が引けすぎです。
ブラック企業が日本でのさばる背景には、労働組合への加入率が2割以下という現実も大きいように思われます。かつては泣く子も黙るといわれた総評がありました。国鉄労組が健在なころには、順法闘争をはじめとするストライキがしばしばあっていました。
今でも、フランスに行けば、ストライキで地下鉄が止まるのは珍しいことではありません。ストライキが死語同然になってしまった日本のほうが異常なのです。
 ところが、日本は労働者の権利をますます弱める方向で動いています。
 そんなとき、労働者に労働法があるのを弁護士会が宣伝しようというのですから、まったく時宜にかなっています。
 しかも、第3章の「事例で学ぼう!」がとてもよく出来ているのです。問答形式の笑える会話のなかで問題点をつかみ、正しい答えが詳しく解説されるのです。とてもよく出来た意欲的な本です。
ただ、あえて注文をつけるとすれば資料編はなんとなく、労働法の実況中継から始めたらよかったと思います。
 要は、労働現場で何が起きているか、そのときどうしたらよいかを考える材料を提供しようとするわけですので、もっと大胆カットしてスリムにしたら、さらに高校生が読みやすいものになったのではないでしょうか。
いずれにしても、仙台の弁護士の皆さんの意欲と労力に対して深く敬意を表します。
(2013年5月刊。1500円+税)

信長の城

カテゴリー:日本史(戦国)

著者  千田 嘉博 、 出版  岩波新書
私は岐阜城にも安土城にも、それぞれ2回、現地に足を運びました。
 どちらも小高い山の上にそびえ立つ山城です。岐阜城のほうは、ロープウェーがなければ山頂にある城にたどり着く自信はまるでありません。
 安土城のほうは、麓にある大手門から一直線で上る広い道を歩いていきました。やがて、つづら折になり、頂上には安土城天守閣の土台石が残っています。城跡のすぐ近くには壮麗な天守閣を再現した博物館があります。どちらも一見の価値がある城です。
 天守閣と呼ぶのは俗称で、正しくないそうです。史料用語としては、天守が正しい。閣をつけて呼ぶようになったのは明治よりあとのこと。
 織田信長が桶狭間の戦いに勝利できたのは、今川軍の主力と遭遇せずに、今川義元の本陣3000人と直接戦ったから。今川軍の主力は、信長軍の突入に気がついていなかった。信長は、今川軍よりひとつ北側の黒川筋の谷筋を抜けて、義元本陣を目指してまっしぐらに進軍していった。そのため今川軍の主力との遭遇が避けられた。
 信長の岐阜城をイエズス会の宣教師ルイス・フロイスとロレンソ修道士が訪ね、その報告記が今も活字として残っている。
 ふもとの池には水鳥が飼われていた。これは観賞用であると同時に、夜間に不審な人物が近づくと水鳥が騒いで、その発見を容易にしたため、城では水鳥が好まれていた。
 岐阜城、山上の城は何びとも登城してはならない、おかすべからざる禁令であった。信長は、登城をごくわずかな人に許可しているだけだった。信長は、山城から山麓館に下りてくる途中で、各地からの使者や武士、公家などに会った。これは、ほかの戦国大名と比べて珍しい行動だった。信長は、わざと身分の上下を意識しなくてよい路上での面談を行い、仕事の迅速化と効率化を図る意図があった。信長は、山麓館ではなく、山上の城に家族とともに住んでいた。
 安土城は、築城開始から6年、天主完成から3年、中心部の最終完成からは、わずか9ヶ月という、短命な城だった。
安土城こそは、佐和山城、坂本城の中間地点に位置し、尾張・美濃と京都とを連絡した陸路・水路の要の位置を占めていた。
 信長は、親衛隊を安土の城下に集住させた。しかし、信長の直臣たちが、すべて喜んで信長に従ったわけではなかった。親衛隊のうち民衆で60人、馬廻り衆で60人の計120人が単身赴任だということが判明した。安土城が築城されたあとも、重臣たちの妻子は、それぞれの城に住んでいて、安土城内の武家屋敷には常住どころか、そもそも住んでさえいなかった。一族や重臣たちが安土城に出仕した際に寝泊まりするための屋敷だった。
はじめての近世的城下町だった安土は、過渡的な様相を色濃くもっていた。日頃は、連絡と維持管理のためのわずかな番衆がいるだけで、ひっそりとした生活感のない武家屋敷街だった。
 当時、大手道を進むと、大手道のはるか先の高みに天主がそびえていた。大手道は、信長の権威を人々に印象づける、きわめて強い象徴性を発揮した。
 一族衆や重臣たちは大手道を登って出仕したが、それ以外の多数の直臣たちは、百々橋(どどばし)口から摠見寺をこえて安土城に向かった。
信長の城をその構造から特徴づけようとした説得力のある本です。
(2013年1月刊。840円+税)

亡国の経済

カテゴリー:社会

著者  しんぶん赤旗経済部 、 出版  新日本出版社
TPP(環太平洋連携協定)は、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4ヶ国が結び、2006年5月に発効した協定がもとになっている。
 そのTPPにアメリカが参加することを最初に表明したのは、2008年のブッシュ政権時代のこと。アメリカが経済競争力を高めるためには、アジア太平洋地域とアメリカ経済の結びつきを強めることが重要になっていたからだ。
 このころ、アジア太平洋地域では、アメリカを除いた形での経済の結びつきを強める動きが表面化していた。「アジア重視」は、これに警戒感を抱いたアメリカ政府の巻き返しでもあった。オバマ政権は、その巻き返しを加速させた。
 アメリカ政府の対日要求は、アメリカの多国籍企業の要求を反映したものだ。小売業で世界最大手のウォルマートは、コメの関税が日本での企業活動を妨げている、米国産リンゴについて日本政府が防疫のための措置を義務づけとして輸出が抑制されていると不満を表明している。カリフォルニア・チェリー協会は、ポストハーベストの防かび剤の登録手続の緩和を、カリフォルニア・ブドウ協会は日本の残留農薬基準の緩和を要求している。
 本当にとんでもない要求です。自分たちの金もうけの前には日本人の生命・身体・健康なんて、どうでもいいとアメリカの企業は考えているわけです。
 アメリカ資本は、日本企業の様式取得を進めている。日本の有名な企業でも、外国人持ち株比率が30%をこえる企業が増え、60%をこえる企業も出てきている。オリックスは60%近い、楽天も4割に近い。中外製薬に至っては76%になっている。
 アメリカ型の企業は、株主配当を重視し、従業員のリストラが簡単に断行される。アメリカが押し付ける雇用の流動化によって、日本に進出したアメリカの人材派遣会社にとってはビジネスチャンスになる。
 TPP参加によって日本の食料主権がますます脅かされてしまいます。
安全な食料を安定的に入手することは、国連の諸決議も認める、人々の権利である。日本は、日米安保条約の下で経済的自主性を欠き、食料主権を著しく制限されてきた。それが日本農業の衰退と食糧自給率の低下を招いてきた根源である。
 農業を守るため、関税などの国境措置と国内での農業支援を組み合わせて実施するというのは、ヨーロッパでも行われている当然の措置である。ところが、TPPはそれを不可能にする。
 農業は守られなければいけません。それは第一義的なものです。国土を荒廃させては、日本人に食べるものがなくなってはいけないのです。政府、自民党のトップの頭の中にはお米や野菜、そして牛肉や魚などが、お金を自動販売機に入れたら苦労せずに手に入れると錯覚しているのではないでしょうか。とんでもないことです。
また、TPPが日本の司法に与える重大な影響も決して黙って見過ごせないものがあります。150頁ほどの薄い本ですが、考えるべき論点の指摘がぎっしり満載の本でした。
(2013年7月刊。1200円+税)

伝説の弁護士、会心の一撃

カテゴリー:司法

著者  長嶺 超輝 、 出版  中公新書ラクレ
最後まで面白く読み通しました。司法試験を長く目ざして挫折したという著者の本ですが、モノカキとして大成されていることに敬意を表します。引き続きのご健闘を期待します。
合格後のことを何も考えず受験対策に没頭している人ほど、がんがん受かっていく現実がある。
 本当に合格後のことについて何も考えていないのかはともかくとして、そのようにしか思われない多くの人が合格しているのは現実です。ただ、合格して弁護士になってみたものの、まったく不向きだったという人も少なくない現実もあります。人間に関心がない、現実の紛争の渦中に飛び込んで身をもって解決しようという発想のない人が弁護士になったら(そういう人が現にいるのです)、本人にも周囲にも、もちろん依頼者にとっても、大いなる悲劇となります。
 大阪空港騒音差止訴訟がとりあげられています。画期的な判決が出ました。もちろん私は関与していませんが、原告弁護団長の本村保男弁護士はとてもカッコ良かったですね。話しぶりがあざやかというか、さわやかでした。大阪弁護士会の会長に就任して、民事当番弁護士制度を実現するなどしたあと、70歳のときにアルツハイマー病にかかって亡くなられたたとのことです。
 水俣病訴訟もとりあげられ、久留米の馬奈木昭雄弁護士が登場します。私が一番最初に出会ったのは40年以上も前に、まだ司法修習生のとき、東京の弁護士会館での講演でした。弁舌鋭い闘う青年弁護士の話に、私はただただ圧倒されてしまいました。
 この本は、そのあと、戦後の日本の刑事裁判、そして戦後の極東軍事裁判をあつかっています。そうなると、欠かせない弁護士は誰でしょうか・・・。
この本は、いくつかの単語を伏せ字にして読み手に推理させます。残念ながら私は一問も正答できませんでした。
 答えは有名な布施辰治です。布施弁護士は、弁論の途中で突然、沈黙してしまいます。どうしたんだ、気分が悪くなったのか弁論のネタが尽きてしまったのか・・・。やがて、みなが動揺し、いらだち始めた。
 布施弁護士は、やおら口を開いた。
 陪審員諸君、私がいま発言を止めた時間は、何分ぐらいだったと思われるか?5分か、10分かと、相当長い時間と思われただろう。ところが、たったの30秒である。・・・。
 すごいですね。いろいろ、本当によく調べているのに感嘆しました。
(2013年9月刊。860円+税)

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