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2012年12月 の投稿

幕が上がる

カテゴリー:社会

著者  平田 オリザ 、 出版  講談社
爽快な気分にさせてくれる青春小説でした。
 高校生がマラソンでも合唱コンクールでもなくて、演劇コンクールに出場する話です。
 立派な大人が高校生の演劇部を描いても、この本のように現代高校生の気分を見事に反映できるものなんだと改めて驚嘆したことでした。
 もちろん、高校生たちにも綿密な取材をしたのでしょうね。結論は見えているようなものなのですが、そこに至る経過が若者の心理と置かれている社会環境(入試など)を反映した会話とともに、生き生きと描かれているので、作中人物になりきってしまえるのです。ここらは作家の腕前ですね。
東京近郊の海のない県にある高校という設定です。山梨県のつもりで私は読みすすめました。演劇に関心があり、大学でも演劇部に入りたいという高校生が主人公です。ここらあたりは私には無縁の世界です。私にとって、音楽も劇も自分の人生にはまるで向かない分野でしかありません。映画をみるのは大好きなのですが、コンサートも劇も久しく縁がありません。
部員の少ない弱小演劇部に福顧問として若い女性美術教師が就任したことから、話は急転回をとげます。なんと、その女性教師は大学時代に演劇の女王だったというのです。
 高校演劇はクラブ全体の力が集まらないと勝てない。俳優はそんなにうまくならない。だから、本当にうまい顧問の創作劇は、下手だけどがんばっている子には、短いセリフで確実に受けがとれたり泣かせるような役をつくる。
 静か系というのは、静かな演劇といって、大体、日常生活を描いている。
 口語系というのは、セリフはリアルで、話がちょっとファンタジーとか、ファンタジーでなくてもリアルでないとか・・・。
 宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を題材にした演劇を主人公につくりあげていく過程がまた読ませます。これは、ベースに宮沢賢治のイメージがあるのでぴんと来るのでしょうね。
 久しぶりに心の洗われる思いのする本でした。
(2012年11月刊。1300円+税)

無罪

カテゴリー:アメリカ / 司法

著者  スコット・トゥロー 、 出版  文芸春秋
うまいですね、読ませますね。こんな小説を私も一度は書いてみたいものです。
 『推定無罪』の続編の名に恥じないとオビ裏に書かれていますが、まさしく、そのとおりです。そのストーリー展開に圧倒され、無言のまますばやく頁をめくっていきます。次の展開がどうなるのか知りたくてたまりませんから・・・・。
 推理小説ですし、ネタバレしてしまうのは、これからの読み手の楽しみを奪いますので、内容(ストーリー)は書きません。
 一般的に言うと、被告人は証言するほうがいい。無罪判決の70%は被告人が証言席に着いて自分を弁護したときに出ている。
 アメリカの刑事裁判では、被告人の本人尋問の機会がとても少ないような印象を受けます。日本では、被告人本人の尋問をしないなんて、まず考えられないところです。
 この本では、アメリカの裁判官が国会議員と同じように選挙で選ばれること、そして、選挙民の評判を落とさないため、自分が離婚したことが知られないようにすることが前提になっています。
 主人公は、妻と離婚したどころか、「妻殺し」として起訴されてしまうのですが、時間的にズレがあって、州の最高裁判事には当選するのです。
 しかし、かねてから主人公を面白く思っていない検察官たちは、「妻殺し」を立証できる証拠集め、ついに起訴に持ち込むのでした。つまり、検察官が裁判官を殺人罪で起訴するのです。
 しかも、この裁判官は20年前にも殺人罪で起訴され、無罪となったのです(『推定無罪』)。ですから、検察官の汚名を挽回すべくなされたのが今回の起訴だったのです。
 話は裁判官の情況証拠がきわめて疑わしいところで推移していきます。
 この裁判官は、実は不倫していた。その相手は部下だった。そして。そのことを「殺された妻」も知っていたのでは・・・。とてもよく出来た推理小説でした。
(2012年9月刊。2200円+税)

デンマーク流「幸せの国」のつくりかた

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  浅本 隆行 、 出版  明石書店
国民の幸福度が世界一位のデンマークの実情を探った本です。日本はなんと90位でしかありません。たしかに、日本ではデタラメな政治家たちと自分のことしか考えない財界のせいで、多くの国民は泣かされていますよね。
デンマークには国王(今は女王)がいる。王は国の象徴にすぎない。王女は町に買い物に出かける。同じ象徴でも、日本の天皇は、決してそんなことはしませんね。
選挙権も被選挙権も18歳から。現に高校生(19歳)の市会議員がいる。投票日は平日。それでも投票率は常に85%前後。日本が輸入している豚肉は、アメリカ、カナダの次はデンマーク。日本のインスリン(糖尿病の治療薬)の8割はデンマークの製薬会社「ノボノルディスク」製。原子力発電所はなく、風力発電に重点を置いている。デンマークは自給率300%の農業大国である。
 デンマークの公務員は87万人。公務人が働く者の3分の1を占めている。介護サービスの従事者は、ほとんど公務員。税金として吸い上げられたお金は、公務員の給料として大部分が使われ、かなりの割合で内部で循環している。
 デンマークの幸福度一位は、医療費が無料、高い教育水準、国民一人あたりのGDPも世界高水準による。高校そして大学まで教育費は無料。それどころか、大学生には返還無用の奨学金が月8万5千円もらえる。しかも6年間。そのうえ、月4万円余りの学生ローンも借りられる。
 労働組合への加入率は80%をこえる。組合に入っていないような「ややこしい者」は経営者も好まない。
仕事を終わったあとの長い余暇時間の使い方に悩むという答えが多い。
 なんということでしょう。日本では考えられもしない答えですよね・・・。
失業手当は、3年間のうち2年間はもらえる。
子どもにとって、学校は楽しいものというのは当たり前のこと。通信簿はない。高校受験もない。だから学習塾もない。デンマークは物的資源に恵まれない国として、人的資源の開発に力を入れている。
もちろん、デンマークもいろんな問題をかかえています。たとえば、デンマークの離婚率は日本の倍以上。ところが、離婚しても、慰謝料や子どもの養育費を父親が支払うことはまずない。子ども手当をもらい、所得が少なければ、その分だけ控除も受けられる。離婚が金銭的な支障を伴わないため、離婚歴2、3回はザラということになる。
 大いに学ぶべき国だと思いました。
 今日は私の誕生日です。赤穂浪士の討ち入りの日と同じです。いつまでも気は若いのですが、頭のほうはすっかり白くなってきました。それにしても、国防軍にするとか、日本も核武装せよとか、キナ臭い話が次々に出て、それをマスコミが無批判にたれ流す現実に寒気を覚えるこのころです。軍隊で平和を守れるというのは、イラクやアフガニスタンを見たら幻想だというのは明らかだと思うのですが・・・。
(2012年10月刊。1600円+税)

勝てないアメリカ

カテゴリー:アメリカ

著者  大治 朋子 、 出版  岩波新書
世界中で戦争を仕掛けてまわっているアメリカは、同時に多くのアメリカ人をダメにしています。残酷な現実です。多くの戦死者を出すだけでなく、普通の日常生活を過ごせなくなった青年をたくさんかかえています。日本の自衛隊を「国防軍」にしてしまったら、アメリカのように日本もなってしまうでしょう。恐ろしいことです。
「世界最強」のアメリカ軍がこんなに長く戦い続けても勝利宣言をできないのはなぜか?ちゃちな兵器しかもたない武装勢力のゲリラ的な闘いに、圧倒的な戦力を誇る超ハイテク集団のアメリカ軍が勝てないのはなぜなのか?
 日本は、そんなアメリカの戦争に対して、2012年から5年間のうちに2400億円(130億ドル)の支援を表明している。ええーっ、ウソでしょ、そんなお金があるんだったら、福祉、年金のほうにまわしてよ、こう叫びたくなります。
 イラクやアフガニスタンでアメリカ軍を脅かしているのは、わずか10ドルでつくられる手製の路肩爆弾だ。手製爆弾はアメリカ兵の死亡(3100人)の原因の3分の2を占めている。そこで、ペンタゴン(アメリカ国防総省)は過去4年間で100億ドルを投入して対策の研究を続けている。しかし、有効な対策は見つかっていない。
アメリカの帰還兵にみられる軽度のTBI(外傷性脳損傷)の典型的な症状は、記憶障害や反応力の低下だ。
 IED(路肩爆弾)の爆発で生じる超音速(秒速340メートル以上)の爆風にあおられ、目には見えないが、脳は何らかの損傷を受けている。昔なら命を落とした爆弾攻撃でも、今の戦争では生き延びる。その結果、新たな傷病、この「見えない傷」が生まれている。
 イラクでは負傷兵の9割以上が命を取り留めるようになり、生き残る比率が高まった。
アメリカ兵は、戦場で1年に200回ほどのパトロールを行い、その過程で平均15回ほどの爆弾攻撃を受ける。そして、イラクとアフガニスタンで負傷したアメリカ兵は3万3千人ほど。そのうち4分の1、累計で2万人以上が軽度のTBIを発症した。アメリカ国防総省は、イラク・アフガニスタンでの戦争に従軍したアメリカ兵200万人のうち14万人が軽度のTBIと診断されたと発表した。
 これは莫大な治療費の負担増をアメリカ社会にもたらした。退役軍人省が2002年から2010年までに兵士の治療につかった費用は総額4700億円(60億ドル)で、2010年の1年間だけで1570億円(20億ドル)。
 路上に仕掛けられたIEDの攻撃から兵士を守るため、アメリカ軍は車体の底部が爆弾の衝撃を逃す特殊な構造の大型装甲車を開発した。2兆円近くの費用をかけて、イラクに1万台、アフガニスタンに2千台を配備した。ただ、重量が7~22トンとあまりに重く、機動性に欠けるため、地形の険しいアフガニスタンでは使えない地域が多い。
 アメリカ兵の自殺率は10万人あたり、20.2人に達している。
 戦場では、自分が「有益な人間」だと感じられるが、一般社会ではその経験は役に立たず、突然、「無益な人間」に成り下がったような感覚にとらわれる。そして、負傷して失業すると、さらに自信喪失が強くなり、家族との不和も増す。そのうえ、兵士は武器や痛みに慣れているから、一線を越えやすい。
 経済不振の続くアメリカでは、軍隊という就職口は、収入や医療保障、大学への進学補助などで大きな魅力だ。これって、日本でも同じようになってきましたね・・・。
帰還後の学費や医療費の補助を得るため、入隊する貧困家族の若者が少なくない。繰り返し戦場に行き、負傷し退役後は仕事を失う。離婚してホームレスになってしまうことも少なくない。
民間軍需会社、たとえばKBRはアメリカ軍と10年契約を結び、総額2兆7000億円を得る。イラクとアフガニスタンのアメリカ軍基地に働く民間軍需会社の民間人は計15万5千人。Kこれはアメリカ兵14万5千人を1万人も上回る。
同時に、オバマ政権は、無人航空機を活用する戦争のロボット化もすすめている。
 アメリカ政府は、イラク・アフガニスタン戦争のため仁総額307兆円(4兆ドル)を負担している。これには医療費、障害給付金をふくむ。そして、アメリカの累積債務は、2001年の5兆8千億ドルから、15兆5千億ドルにまで拡大した。
アメリカ兵と両国治安部隊の死者は3万人、戦闘による死者は25万人以上になっている。
テロ事件はなお続き、多くの市民が犠牲になっている。やはり、力ずくで抑えこもうとしても治安回復は難しいのです。武器さえあれば解決できるなんて単純な発想から一刻も早く脱却したいものです。
 それにしても、アメリカって野蛮な国ですよね。そんなアメリカの言うままにいつだって動かされている日本政府では困ります。日米安保条約のくびきから一刻も早く脱出したいものです。
(2012年9月刊。820円+税)

原発・正力・CIA

カテゴリー:社会

著者  有馬 哲夫 、 出版  新潮新書
読売新聞は、日本最大の発行部数を誇る新聞ですが、同時に改憲を積極的に主張するなど露骨に財界、右より姿勢を示しています。とても不偏、不党とは言えない紙面になっています。
その社主であった正力松太郎は、CIAの日本エージェントとして、ポダムという暗号名までついていました。CIAとは持ちつ持たれつの関係だったようです。
正力松太郎は総理大臣を目ざしていた。そのためには政治目標が必要だった。それが原子力だった。原子力を手に入れたら、手っ取り早く財界と政界に影響力をもつことができる。いや、直接、政治資金と派閥が手に入るという点で、新聞以上の切り札だった。
 アメリカの援助を背景に原子力発電所を建設し、数年以内に営業運転まで持っていけば、政治キャリアのほとんどない正力でも総理大臣になるのも夢ではない。原子力平和利用推進は、正力にとってまさしく夢を現実にする魔法の切り札だった。
 アメリカの在日情報機関は、第五福竜丸事件のあとに澎湃とわき起こった原水禁・反米運動によって窮地に立たされた。アメリカによる日本占領の終結以来、最大の心理作戦上の大敗北であった。このため、米国情報機関は右よりの読売新聞グループを頼りにした。
 CIA文書には次のようになっている。以下の要件で、ポダム(正力松太郎)の使用を許可する。メディアの分野で、日本の政治的な出来事や傾向、メディアや進部員の関係者についての情報を得るための使用。
うひゃあ、まさしく正力松太郎と読売新聞はCIAの思うままに操られていたのですね。
 正力のメディア帝国は、日本でもっとも中央集権的で、したがってもっともコントロールしやすく、大衆の心をかきたてるという点では、もっとも影響力が強い。
 これもCIA文書の言葉です。
原子力平和利用博覧会が大成功し、正力の態度がいよいよ尊大になると、CIAは正力に対する警戒を強め、関係を見直そうと動きが出ていた。
 そして、ついに正力とCIAは対決するに至ったのです。
 正力は、これまでアメリカの頼みをやめ、イギリスにパートナーを換えることを決断した。CIA文書は、アメリカ側との交渉が決裂したことが、正力をイギリス製の原子炉の購入に走らせたと分析している。そのころ、読売新聞はアメリカの外交に批判的な記事を連続してのせていた。アメリカ型の原発を日本に導入した正力松太郎にまつわる裏話が満載の本でした。
 3.11の前に書かれていることもあって、原発の恐ろしさについてはまったく触れられていません。その目から見直す必要があると思いました。
 それにしても、読売新聞ってCIAにずっと操作されていたような新聞なんですね。どうりで、アメリカべったりというのもよく理解できます。でも、嫌ですね。やっぱり、マスコミには日本の自主性を主張してほしいものですよ。
(2011年6月刊。720円+税)

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