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2012年12月 の投稿

告発!隠蔽されてきた自衛隊の闇

カテゴリー:社会

著者  泉 博子 、 出版  光文社
自衛隊の内部では一般社会の想像を絶するいじめが横行しているようです。それは自殺者の比率が以上に高いことに示されています。
 2001年から2008年度まで、日本人の自殺者は10万人あたり27.4人。ところが、陸上自衛官は37.0人、海上自衛隊官は36.3人、防衛省事務官は28.2人。
直近の5年間では、自衛官の自殺率は日本国民の平均を45%も上回っている。
 今年3月末で自衛隊を定年退職した著者は、40年近く自衛隊に事務官として働いていました。ところが、平成6年に職場の不正を内部告発してからの18年間、組織ぐるみの陰湿ないじめを受け続けてきたのです。
 内部告発者が組織の敵、異端者として、徹底的なパワハラを加えられた。その結果、心身ともに疲れ果て、入退院を繰り返した。
 この本に顔写真がありますが、とてもお元気そうで、そんな入退院を繰り返した人だとは、とても思えない若々しさです。
 部隊は、奄美群島の一つ、沖永良部島にある航空自衛隊那覇基地の分屯基地。著者は、この沖永良部島で生まれ育ち、今も島に暮らしています。
 自衛官の不正とは・・・。
 コピーキャットを購入していないのに、納品をねつ造して、購入したことにして、業者に支払わせる。そのお金をゴルフ大会とか利用に使う。
 業者の印鑑を部隊が預かっているので、本人の知らないうちに見積書や納品書がつくられ、納めてもいない品物が納品されたことになっている。
 私物の不正購入や補給物品の持ち帰りはあたりまえだった。息のかかった出入り業者に対し、実際の物品購入代金よりも多目に振り込み、業者がその差額をプールして自衛官の遊興費に充てる。
 地元業者とは特異な関係にあり、競争入札はせず、調達担当の独断で発注する。自衛隊と業者は持ちつ持たれつの関係にある。
 こんな不正を内部告発したあとは、「同僚を犯罪者にしたてた怖い人」というレッテルを貼られ、隊員が近寄らなくなった。
 著者は、23年間、一度も昇任しなかったといいます。これは辛いです。悔しいですね。明らかに報復措置です。それでも、3人の娘さんからは高く評価されているというのは、うれしい限りです。
 そして、TBS報道特集でも全国放送されたとのこと。北海道の佐藤博文弁護士からもアドバイスをもらったとあとがきに書かれていました。佐藤弁護士とは、日弁連で一緒の委員会ですので、とてもうれしく思いました。
(2012年9月刊。1500円+税)

群れは、なぜ同じ方向を目指すのか?

カテゴリー:人間

著者  レン・フィッシャー 、 出版  白揚社
イナゴは、環境が混雑してくると、行動をがらりと変える。通常は隠れて単独で暮らしているが、近くに仲間が増えてくると、突如パーティー好きに豹変する。
サバクトビバッタは、仲間が接近してくると刺激を受け、セロトニンが生産される。
 ここのイナゴが最初に異動を始めるときは、まだ若く、羽もない状態であり、動きもランダムだが、集団の密度が増してくると、次第に運動の方向がそろってくる。やがて集団の密度が非常に高くなる(1平方メートルあたり80匹ほど)と劇的な転移が急速に生じ、高度に統率のとれた進軍へと変化する。
 イナゴの群れの場合、後ろのイナゴに食べられたくないという単純な欲に動かされる。移動するイナゴはエサを探しており、前にいるイナゴはおいしそうで食欲をそそる。したがって、食べられないようにするには、前進を続け、距離を保つのがいいということになる。
他の個体に衝突するのを避ける。近隣の個体群が向かっている方向を平均し、その方向に向かって動く。近隣の個体群の位置を平均し、その方向に向かって動く。
 横から向かってくる物体に反応したイナゴは、羽を畳み、一瞬のあいだ滑空状態になる。こうした対応策によって、イナゴは衝突する可能性を最小限にし、また、たとえ衝突したとしても羽を痛めることがないようにしている。
 目的地を明瞭に思い描き、そこに到達する方法をはっきりと知っている匿名の個体がわずかでもいれば、集団内の他の個体は、自分がついて行っていることも知らぬまま、それに従って目的地へと向かうことになる。そのとき必要なのは、意識しようとしまいと、他の個体たちが集団にとどまりたいと望んでいること。そして、相反する目的地をもっていないことだけである。
集団内に別の目標が存在しない限り、単に目標を持つだけで集団を導くことができる。リーダー役の成員たちが、自分たちが導いている相手からリーダーと認識される必要はない。
 グンタイアリは、巣から距離のある餌場に移動するときには、自己組織化して綺麗な三車線の経路をつくる。巣から出たアリは経路の両脇を進み、餌を持ち帰るときは中央を通る。グンタイアリは、ほとんど目が見えないが、以前に経路を通ったアリが残したフェロモンをたどること、そして新しい社会的力を使うことで、整った行動をこなすことができる。
 群衆の中を効率的に進んでいく最善の方法は、自然発生的な群衆力学のことを理解して、それに抗うのではなく、同調すること。
 危険な状況から脱出しようとして出口を探している群衆の中にいるときは、60%の時間を群衆とともに行動し、残りの40%を別の出口を自分で探すのに使うと、脱出の可能性が一番高くなる。群衆の密度が非常に高い場合は、行き先を自分でコントロールすることは、ほとんどできなくなる。
 つまり、危険を知らせる情報を見聞きしたら、速やかにそれにもとづいて行動すること。決して群衆に巻き込まれてしまうまで、待ってはいけない。
 二つのうち、どちらか一つを選ばなくてはならず、見たことや聞いたことがあるのが一方だけの場合、他に情報がなければ、覚えのある方を選ぶこと。
覚えがあるかどうかだけにもとづいて決めなければならず、覚えのある選択肢が複数あるときには、一番思いあたりやすいものを選ぶこと。
 何もしないという初期設定があるなら、そのままにしておいた方がいい場合が多い。
一時的に集団から離れ、しばらく自分の頭で考えてみることで、集団思考に陥ってしまうのを避けること。自分なりに結論を出し、それに納得してから集団に戻ること。
 群集心理に陥る危険から脱出する方法を教えてくれる本でもありました。
(2012年10月刊。2400円+税)

秀吉と海賊大名

カテゴリー:日本史(戦国)

著者   藤田 達生 、 出版   中公新書 
 秀吉と光秀の関係について新説が紹介されています。
 信長は、対毛利戦争の継続に積極的ではなく、対毛利主戦派の秀吉と宇喜多直家を交渉から除外して和平にもちこもうとしていた。つまり、信長と秀吉は必ずしも一枚岩ではなく、織田政権の西国政策を体現するとみられていた秀吉の地位は意外に脆弱だった。
 光秀のライバル秀吉は、天正8年5月の時点で政治生命の危機に瀕していた。そこで秀吉は、中国方面司令官としての立場を死守するために宇喜多氏と一蓮托生の関係を築いて、なりふり構わずに対毛利戦争をあおり、信長の中国動座を画策した。天正8年の時点で、秀吉は四国の長宗我部氏とも友好関係を築いていた。
 信長は、天正8年8月に島津氏に対して大伴氏との戦闘を停止し、双方が和睦するように命じた(九州停戦令)。このように停戦令は、秀吉が初めてではなく、その前に信長が天下人として発令していた。
 光秀は信長の四国攻撃のあとの自らの処遇について不安を抱いたに違いない。外交官として深く関係した長宗我部氏が敗北することによって、織田政権内における発言力が決定的に低下することは確実だった。それに追い討ちをかけたのが、四国・中国平定後に予想される大規模な国替(くにがえ)だった。光秀が円国への国替を強制される可能性はきわめて高かった。幾内から最前線へ転封は、常に政権中枢にあった光秀にとって、左遷つまり活躍の場をとりあげられることを意味していた。そして、四国遠征のあとは、光秀が没落し、秀吉が織田家中で最有力の重臣となることは確実だった。
 秀吉は、毛利氏に対しては強硬策をとったが、海賊衆には実に辛抱強くソフトに迫っていた。
本能寺の変の直前、信長は四国国分の実務のため、淡路に行こうとしていた。光秀や長宗我部元親にとって理不尽な信長の外交政策の転換は、信長にとっては若い信孝を活躍させるチャンスと位置づけていた。信長は来るべき天下統一後をにらんで、若い一門、近習を有力大名として幾内近国に配置しはじめていた。
 光秀は、将軍相当者だった信長を討滅するため、主君殺しを正当化し、反信長勢力を糾合するためにも、かつての主人である現職将軍・義昭を奉じた。
 毛利氏が秀吉を追撃しなかったのは、秀吉方に内通した重臣をかかえて崩壊寸前の家中の立て直しを優先させたから。長年に及ぶ戦闘で毛利家の家中は相当に消耗しており、これ以上の危機は回避すべきだと大局的判断に立ったのだろう。
 毛利家中は、秀吉の激しい調略によって、一部の重臣が離反したり、態度をあいまいにしており、相当に浮き足だっていた。家臣相互が疑心暗鬼の状態にあり、とても一丸となって秀吉を追撃できる状態にはなかった。
海賊停止令は、海賊の存在そのものを停止するものではなく、賊船行為を厳禁したことに本質がある。中世の海賊にとって、海関を設けること自体は正当な権利であった。
 秀吉と光秀、そして海賊との関係を再認識させられる、面白い刺激的な本でした。
(2012年3月刊。760円+税)

64

カテゴリー:警察

著者  横山 秀夫 、 出版  文芸春秋
64(ロクヨン)とは、昭和64年に起きた少女誘拐殺人事件。迷宮入りとなり、D県警史上最悪と記録されている事件のこと。
 さすが、この著者の警察小説は読ませます。圧倒的な迫力ですので、一日で一気に読みあげました。それこそ、寝食忘れて、と言いたいところですが、ホテルに泊まったとき、食事はルームサービスでとって、食べながら読みふけりました。
 あり得ないよな、こんなストーリー・・・。と思いつつ、刑事部と警務部が全面的に対決し、ついには刑事部の全員が籠城する騒ぎに発展するのです。それも、刑事部長が叩き上げから、キャリア警察官の指定されたポストに「格上げ」、つまり召し上げようという動きの中で事態は進行していきます。警察内部のいかにもどろどろした人間模様のなかで、新しい誘拐事件が発生するのです。
 たくさんの伏線が巧みに張られていますので、最後まで話がどう展開していくのか読めずに、目を離せません。
舞台は県警広報室。広報室は不幸な生い立ちを背負わされた。情報を一元化するための窓口でありながら、入ってくる情報の量と速度は「離島」に近い。協力的なのは、交通安全施策をPRしたがる交通部くらいのもの。警務部は記者を飼い馴らせと無理難題を言ってくる。記者たちは広報室をなめきっている。刑事部と記者室のあいだにはさまって広報室は翻弄され、消耗する。そして、広報室は被疑者の実名を報道せずに、記者室の猛反発を買う。ボイコット寸前の状況だ。
 県警本部長はキャリアの警察官僚。地方警察は、そうした「雲上人」をせっせと育成してきた。耳障りのいい情報だけをご注進し、そうでない情報はすべて遮断する。在任中の本部長に機嫌良くいてもらうことのみに汲々としている。
 常に本部長室を無菌状態に保ち、地方警察の実情も悩みも知らせることなく、サロン的な日々を過ごさせる。そして、企業団体からかき集めた高額のお金を本部長の懐に押し込んで東京に送り返す。
 被疑者の留置管理は、警務部の所管だが、実際には刑事部のテリトリーだ。組織図の上では刑事部と切り離されているが、生粋の警務畑の人間だけで留置場を運営している警察など、D県警に一つもない。
 肩書きは警務課員であっても、刑事の経験者や刑事見習いの看守が相当数で、日中の取調を終えて房に戻った留置人の言動に目を光らせ、逐一刑事課に報告をあげている。ようするに、留置場内の情報は刑事部があまさず握っていながら、ひとたび留置管理に問題が生じたときには、「外面」である警務部が責任を負わされるということ。
 久留米の富永孝太朗弁護士より、まだ読んでいないのならすぐに読むよう強くすすめられた本です。期待にしっかりこたえてくれた本でした。
(2012年10月刊。1900円+税)

七つの会議

カテゴリー:社会

著者  池井戸 潤 、 出版  日本経済新聞出版社
私も実は一度だけ会社の就職面接を受けに行ったことがあります。大手製造メーカーでした。司法試験を受けている最中でしたが、少しヒマのできたとき、同級生に員数あわせとして誘われて興味本位についていったのでした。司法界にすすむつもりでしたので、会社の雰囲気を味わいに行っただけですが、こんな大きな会社に入ったら息が詰まってしまうだろうなという思いで、圧倒されてしまいました。
この本を読むと、中小企業に入ったら勤め先がいつまであるか不安を味わうことになるし、大企業にはいると組織の倫理が優先して汚れ仕事も頼まれたら断れなくなるし、とかくサラリーマンは気楽な稼業どころではないと身につまされます。
同じような企業の欠陥製品を扱った著者の『空飛ぶタイヤ』を思い出しながら、身に迫ってくる緊張感を味わいつつ車中で一心に読みふけりました。往復2時間の車中で一気に読みあげたときには、緊張感がようやくほぐれていく思いでした。
 『鉄の骨』も『下町ロケット』もよく出来ていましたし、『ルーズヴェルト・ゲーム』も読ませましたが、この本も大企業の社内のさまざまな人間模様をいくらか図式的ではあると思いつつも、よく描きわけているものだと驚嘆しました。
推理小説ではありませんが、ネタバラシするのは私の趣味ではありませんので、ストーリーの紹介はしません。
 ともかくノルマに追われる営業部のなかで、ノルマを達成していた課長がある日突然、左遷され、万年係長で働かない男がのうのうとしていて、それを上司が許しているという不可思議な職場から話はスタートします。
 夢は捨てろ、会社のために魂を売れ。
 客を大事にせん商売は滅びる。顧客を大切にしない行為、顧客を裏切る行為は自らの首を絞めることになる。顧客に無理な販売をせず誠実に顧客のために思って働くこと。
会社であっても、企業の大小を問わず、我が身大切を優先させたら、我が身もいつかは滅びるのですよね。天知る、地知る、我知る、です。それを肝に銘じるべきだと思い至りました。
(2012年11月刊。1500円+税)

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