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2012年11月 の投稿

税務署の裏側

カテゴリー:社会

著者   松嶋 洋 、 出版    東洋経済新報社 
 消費税値上げをマスコミが政府と一体となって強引におしすすめて成立させました。小選挙区制そして郵政民営化のときとまるで同じです。でも、税金って、持てるものと大企業にはどこまでも甘く、持てない者そして中小零細企業には限りなく苛烈なものなのです。これを徴収する側にいた人が実感をもって明らかにしています。
 税務署に4年半つとめ、今は税理士になっている著者は次のように断言しています。
税務署で見たのは、数多くの「不公平」だった。税務署の実体は、正義感あふれる組織という印象からかけ離れている。
 税務署員のホンネは税金をとるために税務調査をやるというもの。最低でも、年収の3倍の税金をとって来るべきだ。
税務署員がもっとも嫌うのは、税務調査をしても何も間違いが発見されないという事態。この「申告是認」を税務署員の恥とする文化がある。だから、税務署が是認通知を発送することはほとんどない。
 納税者に対しては書面を求めるが、税務署は自分は書面を出さない。
実調率(確定申告した人が税務調査に入られる割合)は1%にすぎない。
 重要事案審議会(重審)の実態は、有能な職員を税務署長等の幹部職員にお披露目し、今後の人事に活かすという意味が大きい。
 税務調査に対処するとき、税理士がリスクを負わないと顧客を満足させる提案はできない。しかし、税務署に長くつとめたOB税理士は、過大評価する傾向がある。
 署長経験者の税理士が対応すると、税務署は道理を引っ込ませることが多い。税務署OB税理士は、実は限られた税法知識しかもっていない人がほとんど。
 税務署の内情って、昔も今も変わってないんだなと思ったことでした。
(2012年7月刊。1500円+税)

ちいさいひと 1

カテゴリー:社会

著者   夾竹桃ジン 、 出版   小学館 
 青葉児童相談所物語というマンガ本です。あまりによく出来ているので、ついつい涙が抑えきれなくなりました。
 幼い子どもたちが虐待(ネグレクト)されています。でも、親がそれを認めようとしません。そこに、児童相談所の新米児童福祉司が登場します。
 子どもたちは、ひたすら親をあてにしています。でも、若い親は夜の仕事に忙しく、また、大人の世界の交際にかまけて、子どもたちは放ったらかし。
 食べるものも食べられず、まったく無視されてしまいます。親の親は、それを見て見ぬふりするばかりです・・・。
 そのあいだにも、子どもたちはどんどん衰弱していきます。食事どころか、満足な医療も受けられずに放置され、死ぬ寸前・・・・。
 近所の人々は異変を感じますが、誰も何か行動するわけでもありません。男親が子どもに厳しいせっかんをしても、母親は子どもにガマンさせるだけ。何も悪くないのに子どもは自分が悪いからと言い聞かせています。そんなとき、ついに児童相談所の出番です。
 こんな実情を知ると、一律に公務員を減らしたら、子どもの生命・健康も守れないということに、よくよく思い至ることができます。
 残念ながら、こんな現実が日本中にありふれていると弁護士生活40年近くになる私は痛感します。
 本当によく出来たマンガ本です。ぜひ、手にとって読んでください。
(2011年11月刊。419円+税)

督促OL修行日記

カテゴリー:社会

著者   榎本 まみ 、 出版   文芸春秋 
 ブラック企業で働かされているような辛い仕事も、長く続けると世の中と人間が見えてくるという話です。とてもしんどい話を面白く読ませてくれる本でした。
 サブタイトルに日本一つらい職場で生き抜く技術とあります。
 一日中、テレコールする。しかも、お金をもたない人を相手に、お金を支払えという電話をかけまくるのです。考えただけでも、いやな仕事ですよね。
 キャッシング専門の督促部署に配属された。1時間に少なくとも60本の電話をかける。
 体重が半年で10キロ減。ストレスが原因のニキビが火傷でもしたかのように顔じゅうにできた。
 毎月、誰かが職場を去っていく。心を病んでしまう人も多い。会社に行くことは、イコール怒鳴られに行くこと。
朝8時から電話をかけはじめる。そのためには朝7時に出社して準備を始める。夜9時すぎて電話をかけれなくなったら、今度は督促状を発送する作業が待っている。
 朝7時から夜11時まで会社に閉じこめられる。
入金の約束をした客が守る確率は6割。4割は約束を破る。
 恐怖心、義務感そして罪悪感の三つをうまく刺激して返済してもらう。そのためには約束の日時・場所・金額を相手の口から言ってもらうことが重要である。
 「お金を返して」と言うのではなく、「何日に払えるの?」と尋ねる。それとも、「いくらだったら払えるの?」と質問を変えてみる。これで、相手とのフンイキを悪くせずに入金の督促ができる。
 いきなり客に怒鳴られてビクッと体が固まったら、その瞬間、思いっきり足をつねる。もしくは、小指をもう一方の足で踏んでけるなどして、下半身を刺激する。痛いと感じると同時に、怒鳴られたショックによる金縛りは解ける。そこから客へ反撃することができる。
 足には本当の気分があらわれやすい。不安な人は足が落ち着かない。
ゴールデンタイムは、朝の8時と夜の8時台。
 怒っている客には、溜めずに発散させてやる。落ち着いたところで、入金の目途をきくとうまくいく。
 論理タイプの客から回収するためには、決してうえから督促しないこと。相手のプライドをみたすことが攻略のカギ。
 クレジットカードのコールセンターに所属するオペレーター300人は、朝、昼、夜のシフトで勤務し、1日4万件の電話をかける。回収するのは月170億円、年に2000億円。
 うひゃあ、す、すごい金額ですね。
オペレーターは、パートやアルバイトという非正規雇用で働いている。コールセンターの離職率は高く、30人が採用されても研修を終えるときに20人、配属されて2ヵ月で10人になる。
 一人で1日に200件から300件の電話をかける。どんなに理不尽な要求であっても、オペレーターは感情的に反論することは許されない。自分が悪くなくても謝らなければいけない。
 ゆっくりしゃべると、穏やかなフンイキで交渉することができる。
 督促やコールセンターの仕事は「感情労働」と呼ばれる。感情労働は、自分の感情を抑制することでお金を得る。「心を売る」と同じこと。代表的な感情労働として、航空機の客室乗務員と募金人がある。
 感情労働する人は、たとえ客に一方的に罵倒雑言を浴びせかけられたとしても、反論せず黙ってそれに耐え、相手のプライドを満たし満足させることを求められる。
 感情労働は、心の疲労の問題が深刻となる。感情労働による心の疲労は、一日寝たからといって解消される保証はない。こうして心に疲労を蓄積させた結果、感情労働をする人が心を痛む確率はほかの労働よりも高い。
 テレコール、とくに督促テレコールという非人間的労働を乗り切ったフツーの女の子の、たくましい体験記でした。人間の社会の現実を知る本として、興味深い内容になっています。
(2012年10月刊。1150円+税)

脱原子力国家への道

カテゴリー:社会

著者   吉岡 斉 、 出版   岩波新書 
 3.11のあともなお、脱原発への道が一直線でなくジグザグしているのが信じられません。日本経団連とアメリカが日本の脱原発を妨げている主要な勢力なのでしょうが、少なくない国民が脱原発に踏み切れていないのも残念ながら現実です。
 日本政府は福島原発事故が起きるまで、きわめて積極的な原子力発電拡散政策をとってきた。それは国家計画にもとづいて電力業界に原発拡大を進めさせるとともに、原発拡大という国策への協力の見返りとして手厚い保護を電力業界に与えるという、封建時代の主従関係を彷彿させるものであり、原子力施設の立地地域の自治体に対しても巨額の金銭的見返りが与えられてきた。
 福島原発事故の経済的損失として数十兆円が追加されることが確実となった。この事故によって原発の発電原価は当初見積の2倍、火力発電の2倍となる。
日米原子力同盟の民事利用面における特徴は、日米の原子力メーカーが密接な相互依存関係を結んでおり、製造面ではアメリカのメーカーは日本メーカーに強く依存している。もし、日本で脱原発シナリオが進行すれば、日本メーカーは原子力から撤退するかもしれない。しかし、アメリカのメーカーは単独では原子炉を製造する能力を失っているので、日本の撤退は重大な打撃になる。つまり、日本の脱原発は、ドミノ倒しのように、アメリカでの脱原発への波及する可能性が高い。
 だから、アメリカ政府は日本の脱原発を必至に止めさせようとしているのですね。まさに、自分たちの利益のためなのです。まあ、アメリカがいつもやっていることですが・・・。
 日本はアメリカの「核の傘」のしたにいるから安心だというのは、いささか被害妄想的だ。日本は北方から侵略の脅威にさらされている。その仮想敵国が核兵器を保有するなら、こちらも核兵器で対抗するしかない。しかし、こんな考えは、よくよく考えてみたらバカげている。
 どうせ脱原発は無理だろうと第三者的に語る者は、そのこと自体が脱原発を目ざす人々を黙殺する立場、つまり原発存続を擁護する立場に立つ。何もしないと言うこと自体が、原発存続にくみするのだ。そうなんですよね。よく考えてほしいところです。
 脱原発は決して不可能ではない。原子力は産業技術としては、決して誰の助けもなしに生きていけるような強靱な技術ではなく、むしろ国家の手厚い保護・支援なしには生きていけない脆弱な技術である。
過酷事故が福島第一原発だけですんだのは不幸中の幸いであった。福島第一原発以外の原発も危機一髪だったのである。
 福島第一原発事故から1年以上たってもまだ収束していない。原子炉の状態は安定しておらず、原子炉からの放射性物質の流出も止まっていない。原発周辺の広大な地域に莫大な放射性物質が飛び散っている。
原子炉災害はいったん起きたら、半永久的に収束しないものである。福島原発事故によって、チェルノブイリ級の超過酷事故は、世界で何度も起きるノーマル・アクシデントであることが立証された。
日本の原子力政策の特徴は原子力事業全体が民間事業も含めて、国家計画(国策)にもとづいて推進されてきたことである。「国策民営」体制は原子力発電事業についてのみ機能しているのではなく、電力事業全般に関しても機能している。いわば、原子力を「人質」として、両者が包括的な「国策民営」関係を構築し、維持してきたとみれる。学者とマスメディアを準主役メンバーに加えて、核の8面体構造と呼んでよい。
 アメリカにとって「日米原子力同盟」の解体は、もっとも信頼できるパートナーを失うことである。日米両者の関係はイコール・パートナーであり、アメリカが主として設計を日本が主として製造を担当している。日本で脱原発がすすめられると、日本メーカーも原子力ビジネスのリストラを推進することになる。そうなればアメリカの原子力ビジネスそのものが不可能となる。つまり、米国国内の原子力ビジネスだけでなく、海外展開も不可能となる。アメリカの原子力ビジネスにとって、「日米原子力同盟」はまさに生命線なのである。
 福島第一原発事故によって、原子力発電が優れているとされてきた安定供給性、環境保全性、経済性のいずれも否定されてしまった。
 原発の代替エネルギーを探すまでもなく、脱原発は今でも可能なのである。
 脱原発に安心して日本が踏み出せることをキッパリ断言した本です。
(2012年6月刊。1800円+税)

東電福島原発事故、総理大臣として考えたこと

カテゴリー:社会

著者   菅 直人 、 出版   幻冬舎新書 
 福島第一原発事故がいかに恐ろしいものだったのかを、当時の菅首相が暴いています。今も日本人の多くがぬくぬくと暮らせているのは、まったくの幸運にすぎなかったこと、3.11の直後、日本の首都が壊滅状態となり、日本経済が完全に行き詰まる寸前だったのです。
 そして、首相が浜岡原発の操業を許さないと指示すると、法律上の明文の根拠はなくとも電力会社は操業できないという関係にあることも明らかにしています。だからこそ脱原発を叫んだ菅首相は、よってたかって首相の座から引きずりおろされてしまったのでした。
 誰が引きずりおろしたのか?
 それは、アメリカであり、日本の財界であり、その意を受けて動いた民主・自民などの政治家です。まだまだ隠されているところは多いのでしょうが、かなり真実を暴いているのではないかと思いながら読みすすめました。
 原発事故は、たとえば火力発電所の事故とは根本的に異なる。
 火力発電所の火災事故だったら、燃料タンクに引火しても、いつかは燃料が燃え尽き、事故は収束する。ところが、原発事故では、制御できなくなった原子炉を放置したら、時間がたつほど事態は悪化していく。燃料は燃え尽きず、放射性物質を放出し続ける。そして、放射性物質は風に乗って拡散していく。厄介なことに放射能の毒性は長く消えない。プルトニウムの半減期は2万4000年だ。いったん大量の放射性物質が出してしまうと、事故を収束させても、人間は近づけなく、まったくコントロールできない状態になってしまう。
 原発事故が発生してからの1週間は悪夢だった。福島原発事故の「最悪のシナリオ」では、半径250キロが人々を移転させる地域になる、そこには5000万人が居住している。
 もしも5000万人の人々が避難するというときには、想像も絶する困難と混乱が待ち受けていただろう。そして、これは、空想の話ではなく、紙一重で現実となった話なのだ。原発事故は、間違った文明の選択に酔って引きおこされた災害と言える。
 人間が核反応を利用するには根本的に無理があり、核エネルギーは人間の存在を脅かすものだ。現在の法体系では、基本的には、原発事故の収束を担うのは、民間の電力会社であり、政府の仕事は住民をどう避難させるかということになっている。原災法上、総理大臣である原子力災害対策本部長は東電へ指示できることになっている。原子力事故を収束させるための組織がないのは、事故は起きないことになっていたから。そんな組織をつくれば、政府は事故が起こると想定していることになり、原発事故にあたって障害になるという理由だ。
 福島第一原発には、6基とも手がつけられなくなったら、どうなるのか。ぼんやりとしていた地獄絵は、次第にはっきりとしたイメージになっていた。東電本店では、当時、福島第一原発の要員の大半を第二原発に避難させる計画が、トップの清水社長をふくむ幹部間で話し合われていたことは証拠が残っている。
 しかし、東電の作業員たちが避難してしまうと、無人と化した原発からは、大量の放射性物質が出続け、やがては東京にまで到達し、東電本店も避難地域にふくまれるだろう。
 原発事故の恐ろしさは、時間が解決してくれないことにある。時間がたてばたつほど、原発の状況は悪化するのだ。だから、撤退という選択肢はありえない。
 誰も望んだわけでなはないが、もはや戦争だった。原子炉との戦い、放射能との戦いなのだ。日本は放射能という見えない敵に占領されようとしていた、この戦争では、一時的に撤退し、戦列を立て直して、再び戦うという作戦をとれば、放射性物質の放出で占領が上界し、原子炉に近づくことは一層危険で、困難になる。そして、全面撤退は東日本の全滅を意味している。日本という国家の崩壊だ。
私たちは、幸運にも助かった。幸運だったという以外、統括のしようがない。そして、その幸運が今後もあるとは、とても思えない。
 中部電力に対して、稼働している原発を止めろと命令する権限は、内閣にはなかった。そのため「停止要請」という形をとったが、許認可事業である電力会社が要請を断る可能性はないと考えていた。実際、中部電力は浜岡原発の停止を決めた。
「イラ菅」と呼ばれていた首相ですが、原発の危険性は本当に身にしみたと思います。多くの日本人が読むべき本だと思いました。原発なんて本当にとんでもない存在です。
(2012年10月刊。860円+税)

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