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2012年11月 の投稿

日本の国境問題

カテゴリー:社会

著者   孫崎 享 、 出版   ちくま新書 
 尖閣不況が日本にやってきました。私のマチにあるリゾートホテルは中国系資本が経営しています。大量の中国人客が日本人客が日本に来ることをあてこんで、それまで韓国系資本だったのを買収したのです。ところが、尖閣列島で中国とのトラブルが表面化して以降、中国客がパッタリ来なくなりました。閑古鳥の鳴くホテルでは、リストラが始まり、身売り話が出ています。
ところが、右寄り週刊誌では、「日中もし戦ったら、どちらが勝つか」などという馬鹿げた特集を大々的に組んでいます。編集者が正気だとは思えません。自分の雑誌が売れたら日本がどうなってもかまわないという無責任さには、呆れるというより腹が立つばかりです。
 著者は、国境紛争は長い目で考える必要がある。むしろ紛争を一時的にタナ上げするのも解決法の一つ、何十年もかかって、ようやく解決できたらいいと息長く考えるべきものだ。つまり、平和的な話し合いこそ大切だと強調しています。まったく同感です。
そして、尖閣諸島が日本の領土だという根拠は、実は乏しいのだと著者は主張しています。
 琉球が日本領でない時期に、尖閣諸島が日本領だったとは言えない。尖閣諸島が日本領になるのは、日本が琉球王国を強制的に廃止して、琉球藩を置いた1872年以降のこと。
 領土問題は国際紛争である。日本が正しいと思っているだけでは紛争は解決しない。領土問題は、単に「領土」の帰属をどうするかという司法的問題にとどまらない。領土問題は、二国間関係の大きな流れを反映し、ときに冷静化し、ときに対立が全面に出る。 中国人にとって、尖閣諸島は台湾の一部だ。リスクが自分の身に降りかかる恐れがあるとき、人は簡単に過激なナショナリズムに走らない。いたずらにナショナリズムを煽れば自分たちが死ぬ。
歴史的にみれば、多くの国で国境紛争を緊張させることによって国内的基盤を強化しようとする人物は現れる。そして、不幸なときには戦争になる。
 国境問題で合意に達するには容易なことではない。中国とソ連のあいだの国境紛争(珍宝島)では、事件発生後、解決するまで22年もかかっている。
 領土問題で重要なのは、一時的な解決ではない。両国の納得する状況をつくることである。それが出来ないうちは、領土問題が紛争に発展しない仕組み、合意をつくることである。
 アルザス・ロレーヌの国境紛争でドイツは奪われたものを奪いかえす道を選択しなかった。ドイツは国家目的を変更し、自国領土の維持を量重要視するという古典的な生き方から、自己の影響力をいかに拡大するかに切り替えた。失った領土は求めない、その代わりヨーロッパの一員となって、その指導的立場を勝ちとることを国家目標とした。
 中国と言っても一枚岩ではない。中国にも、一方で軍事力で奪取しようというグループがいる。他方、紛争を避けたいというグループもいる。日本は中国の後者のグループといかにして互いに理解しあい、協力関係を強化するかが重要だ。
 アーミテージは、尖閣問題で日本人の感情をあおろうとしている。日本が対中国に強硬政策をとるようにしむけているのだ。尖閣諸島という問題を利用して、日米軍事同盟を強化しようとしているわけだ。日中の武力紛争に巻きこまれようとすると、アメリカは必ず身を引く。日本のためにアメリカが行動することはありえない。
 平和的手段は、一見すると頼りない。しかし、有効に機能されれば、もっとも効果的な手段となる。武力紛争にもちこまないという意識をもちつつ、それぞれの分野で協力を推進することが平和維持の担保になる。
そうですよね。大変示唆に富んだ内容でした。
(2012年10月刊。760円+税)
 日曜日、恒例のフランス語検定試験(準一級)を受けました。この2週間はその受験勉強に大変でした。車中読書はやめて、「傾向と対策」そしてフランス語単語集を読みふけり、カンを取り戻すのに必死でした。
 試験当日も朝早く起きて、一生けん命にフランス語に浸りました。午後3時ころに始まった試験が夕方5時半に終わったときには、ぐったり疲れてしまいました。
 自己採点で81点(120点満点)。まだ7割をとるのは難しい実力です。それでも、やれやれでした。

「最先端技術の枠を尽くした原発」労働

カテゴリー:社会

著者   樋口健二・渡辺博之ほか 、 出版   学習の友社 
 原発には、労働者を送り込めば送り込むだけ儲かる仕組みがある。これに目をつけたのが暴力団だ。
 原発労働は、差別の上に成り立っている。下請け、孫請け、人出し業につながっている。人出し業の下に、農漁民、寄せ場、失業した都市労働者などがつながる。そして、人出し業のなかに暴力団が巣くっている。労働者からピンはねができるから。
 原発からは、作業員一人あたり危険手当こみで5~7万円が支払われている。これが順次ピンはねされて、人出し業のところでは3万円くらいになる。
 福島のJヴィレッジに1日あたり1300~3000人の作業員がいる。ところが、恐ろしくなって逃げ出す労働者が少なくないので、人数が足りなくなる。そこで、暴力団にお金を渡して連れてきてもらうしかない。
 原発の定期検査のときには、1日で1500人の作業員が原発のなかに入る。福島原発事故の収束のためには、のべ数十万人の労働者を動員しなければならない。
労働者の年間被曝線量は50ミリシーベルト。100ミリシーベルトを浴び続けたら、10年後には間違いなく死ぬだろう。いま、東京・神田の放射線従事者中央登録センターには45万人が登録されている。このように、原発は、人間の問題なのだ。
 東電が定期検査するとき、元請会社になるのは東電が出資している子会社である、東電工業、東京エネシス、東電環境という東電3社と呼ばれる会社。ここは、東電職員の天下り先にもなっていて、御三家と呼ばれる。
 一次下請け会社の労働者の日当は2万円、二次、三次下請け会社の労働者は1万5000円程度。派遣された労働者は1万2000円~6000円というもの。多重下請け、多重派遣構造のなかで、末端労働者は、8~9割もの中間搾取がなされている。
 原発は海外に売るときには1基3000~4000億円だが、国内では1基5000~6000億円になる。
 元請けは、三井、三菱、日立の3社が本体をつくっている。
 危ない原発労働、それでも誰かにやってもらわないといけない原発の後始末作業のおぞましい実態です。東電など、本社会社は、これらの事実を見て見ぬふりをしてきたのでしょう。許せませんよね。
 100頁もない、薄っぺらなブックレットですが、ずしりとした人間の重みを感じました。
(2012年6月刊。762円+税)

イノシシ母ちゃんにドキドキ

カテゴリー:生物

著者   菊屋 奈良義 、 出版   白水社 
 害獣と、みられがちなイノシシの生態をよくよく観察し、面白おかしくつづった生態観察報告です。野生のイノシシたちが見せてくれる生態写真とともにユーモアたっぷりに活写されています。
 イノシシの平均寿命は6年のようです。1歳になるかどうかのころに、早くも母になって出産します。知りませんでした。
 それにしても、ウリ防、ウリンコたちの可愛らしいことったら、ありゃしません。ウリンコたちは、それぞれの乳首を誰が吸うのか決まっている。
母ちゃんがウリンコのおしりをひょいと鼻でつつくと、そのウリンコはコロリと横になります。母ちゃんはウリンコの全身をなめつくすのです。それも、ウリンコ全員を平等になめてやります。
 そして、ウリンコたちがウリンコの模様の消えたころ、今度は母ちゃんを全員でなめまわします。それは、お別れの儀式でもあるのです。次の日、母ちゃんは子どもたちを激しく追い出し行動を始めるのでした。
 イノシシは前向きだけでなく、上手にあと下がりする。猪突猛進は後退もできるのです。
 イノシシはやさしい野生動物であり、人を怖がっていて、賢い子育てをする母である。
イノシシは草や根っこを食べる。個体によっていろいろ好みが異なる。
8ヵ月ほどの養育期間で母親から1人前と決めつけられると、母親のもとから追い出される。
 イノシシはピーマンは食べず、大根もあまり食べない。イノシシの声は聞き分けられる。
 ブフォン・・・じゃまだ
 ブフフォン・・・来るな
 ブフンフォン・・・警戒しろよ
 ブブブフォンンン・・・帰るぞ
 ウフォン・・・そろそろ出てこい
 ギャフフン・・・わかった
 ギャアッ・・・痛ぇ
 ブブ・・・おいで、おいで。こっちじゃよ
 グァフフン・・・逃げろ
 イノシシの母ちゃん軍団には、父ちゃんイノシシがいない。オスは子育てにはまったく関与しないのです。
 イノシシは「攻撃するぞ!」という勢いを見せる。猪突猛進。さも怖い動物であるかのように見せて、実は自分が怖くて逃げ出す機会をつくっている。相手が一瞬ひるんだすきに、パッと身を翻して走り去る。
 身近なイノシシの生態を長いあいだじっくり観察していると、いろんな発見があるものなんですね
(2012年10月刊。1800円+税)

日本の笑い

カテゴリー:日本史(江戸)

著者    コロナ・ブックス 、 出版    平凡社 
 伊藤若沖が布袋(ほてい)さんを描いています。いかにも、ふくよかな布袋さんたちです。芭蕉翁が大阪で51歳のとき亡くなった状況を描いた絵もあります。
 旅で病んで夢は枯野をかけ廻る。
その遺言を知りませんでした。死んだら木曾義仲公の側に葬ってほしいというものでした。それで大津市にある義仲寺(ぎちゅうじ)の義仲の墓のとなりに葬られているそうです。
 英(はなぶさ)一蝶の「一休和尚 酔臥図」もすごいですよ。よく描けています。
世の中は、起きて稼いで、寝て喰って、あとは死ぬのを待つばかり。
 さすが、人生の達人ですね。耳鳥斉という、宮武外骨も岡本一平もあこがれた、漫画の元祖のセンスよい絵も紹介されています。日本のコミックは歴史があることを十二分に納得させる絵です。
 「北斎漫画」にも圧倒されます。4頁にわたって「デブ」の画があり、さらに次の4頁に「ヤセ」の百態が描かれています。
 さすがの北斎です。どちらにも嫌みがなく、思わずほほえんでしまいます。人間の内面にまで踏み込んでいるからでしょうか・・・。
 日本人のマンガの伝統が決して浅いものではないことを、しっかり再確認させられる画集でした。
(2011年12月刊。1800円+税)

義烈千秋、天狗党西へ

カテゴリー:日本史(江戸)

著者    伊東 潤 、 出版    新潮社 
 幕末の動乱の時代、水戸藩の内紛を母胎として天狗党が生まれ、ついに京都へ駆けのぼろうとします。しかし、ときの将軍・徳川慶喜の動揺によって、哀れ切り捨てられてしまうのでした。
 水戸藩の家中騒動から、天狗党の決起。そして京都を目ざして苦難のたたかいを続ける姿が生き生きと描かれています。著者の筆力には驚嘆するばかりです。
 堂々400頁をこえる本書には、天狗党の面々の息づかいがあふれ、まさに迫真の描写が続きます。まるで、実況中継しているようで、手に汗を握ってしまいました。
 幕末、真剣に考えて生きる人々の迷い、動揺、そして行動が、これでもか、これでもかと詳細に描写されていて、読むほうまで胸がふさがれるほど息苦しくなります。
天狗党は、最終的に350人以上も処刑(斬罪)され、ほぼ同数が追放などの処分を受けた。
 ところが、明治になって逆転し、反天狗党が敗退して、首謀者は処刑された。
同郷の人血で血を洗う殺しあいをしたようです。復讐と報復の連鎖があったのでした。
 攘夷といい、尊皇といい、幕末期の志士たちの選択はとても難しかったようです。そのなかでも選択はせざるをえないわけです。それを誤ったときには、自らの生命を捨てるしかありませんでした。
 プロの作家の描写力には、いつものことながら、かなわないなあと溜息が出るばかりです。
(2012年3月刊。2200円+税)

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