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2012年5月 の投稿

眠りをめぐるミステリー

カテゴリー:人間

著者   櫻井 武 、 出版   NHK出版新書
 なぜ、あらゆる生き物は眠るのか?
泳ぎながらも眠るイルカ。脳の半分ずつ眠るのだそうです。横になって身体を休めるだけでは足りず、やっぱり睡眠が必要だというのは、なぜ?
眠っているはずなのに、目玉をキョロキョロ動かす。はては、眠っているのに動き出して、ウロウロする。料理を作って食べる。絵を描く。しかも、その絵は昼間にはとても書けない精密そのものの絵。さらには、眠っているのに、起き出して車を運転して人まで殺してしまう。そして、それをまったく覚えていない。
 ええーっ、ウソでしょ、単にとぼけているだけでしょ、と叫んでみたい気がします。でも、どうやら、本当に無意識のうちに行動するようなのです。監視カメラの映像を見て自分で驚いたというのです・・・。考えれば考えるほど不思議なのが眠りです。死は永遠の眠りだとよく言われます。本当にそうだとしたら、何も怖いものではありませんよね。
 それにしても、眠るとき、目覚めがあることを当然のように思っていますが、そのまま目が覚めずに亡くなっていった人は幸せだった(幸せな)のでしょうか・・・?
 夢はレム睡眠中に行われる、いわば記憶に対する情動によるタグ、あるいはアイコンをつける作業中、それがノイズとして意識にのぼったものなのではないかと考えられている。
 じっと休んでいのると、睡眠をとっているのとには、厳然たる差がある。眠りは、休んでいるという消極的な状態ではなく、積極的に脳のメンテナンスと情報管理を行うという能動的な過程なのである。人は一日の3分の1を眠って過ごし、その睡眠時間のうち、4分の1がレム睡眠である。
 ノンレム睡眠は、一般的に脳の休息、メンテナンスの時間だと考えられている。脳のエネルギー消費は一日の中で最低になる。ただし、必要に応じて寝返りなど運動することは可能な状態にある。ノンレム睡眠では、起床することはかなり困難だ。
 レム睡眠は、非常に特殊な状態にあり、脳は覚醒時に難しい数学の問題を解くなど、知的な活動をしているときよりも、さらに活発に活動している。
 レム睡眠中に覚醒させると、その人は見ていた夢の内容を詳細に話すことができる。
 レム睡眠のときには、脳幹から脊髄に向けて運動ニューロンを痲酔させる信号が送られているため、全身の骨格筋は眠筋や呼吸筋などを除いて痲酔している。そのため、レム睡眠のときには、脳の命令が筋肉に伝わらないので、夢の中での行動が実際の行動に反映されることはない。そして、眼球は、不規則にさまざまな方向に動いている。中枢である脳はフル回転している。つまり、身体と脳のあいだの情報交換をカットした状態の中で、脳自体は活発に活動しているのがレム睡眠だ。夢中遊行の人が徘徊しているときには、深いノンレム睡眠の状態なのである。
生物にとって不利であるはずの睡眠が進化の過程でなくならなかったのはなぜか?
 逆に、進化するほど睡眠の必要性は高くなっている。脳の記憶システムが、シナプスの可塑性を記憶システムとして用いている限り、睡眠は必要なものなのである。
 安らかに眠り、爽やかに目が覚める。これが人生最良の日々ですよね。快眠は快便より快食より、何より優先するものですね。
(2012年2月刊。780円+税)

聞く力

カテゴリー:人間

著者   阿川 佐和子 、 出版   文春新書
 著者はたくさんのインタビューをしていますから、さぞかし自信をもっているのかと思うと、意外にもそうではないとのことです。
インタビューするときは、質問を一つだけ用意して出かける。
 もし、一つしか質問を用意していなかったら、当然、次の質問をその場で考えなければならない。次の質問を見つけるためのヒントはどこに隠れているだろ。隠れているとすれば、一つ目の質問に答えている相手の、答えのなかである。そうなれば、質問者は本気で相手の話を聞かざるをえない。そして、本気で相手の話を聞けば、必ずその答えのなかから、次の質問が見つかるはずである。
 なーるほど、真剣勝負の世界ですね。
資料を万全に読み込んで、すべての情報を頭に入れていくと安心すると同時に、油断もする。だから、事前の準備はほどほどにする。相手に失礼な知識は頭に入れておくにしても、すべてを知ってしまったかのような気持ちにならないよう、未知の部分も残しておくのが大切だ。事前の勉強は大切だけれど、相手の前で知ったかぶりはせず、にわかに勉強であることを素直に認め、相手に失礼のない範囲で素朴な疑問をぶつけるようにする。
 インタビューをうまくすすめていくうえでの体験談がとても実践的で参考になりました。
(2012年2月刊。800円+税)

ルーズヴェルト・ゲーム

カテゴリー:社会

著者   池井戸 潤 、 出版   講談社
 『下町ロケット』で直木賞を受賞した著者の第一作ということです。何となく『下町ロケット』の雰囲気に似たところがありますが、最後まで一気に面白く読み通せたのは、さすが著者の筆力です。
私が草野球をしたのは小学生まで、あとは夏の甲子園大会で高校野球をたまに見ることがあるくらいです。私の子どもが小学生のころ、世間の親と一回くらいは同じことをしてやらないと可哀想だと思ってナイターに連れて行ったことはあります。弁護士になって、付きあいで仕方なくドームで野球観戦をしました。私にとって野球は全然興味をひかないものの一つでしかありません。ですから、この本で取りあげられる社会人野球なるものは見たことがありませんし、見るつもりもありません。
 そんな私ですが、著者による野球試合の展開の描きっぷりはすごいですよ。思わず手に汗を握るというものです。次はどうなるのか、息を詰めてしまいます。
 タイトルになっているルーズヴェルト・ゲームというのが、そういうものなのです。
 社員1500人、年間500億円超の中堅企業。このところ業績が低迷し、銀行から大胆なリストラが求められている。整理の対象に年間3億円も喰いつぶす野球部があげられ、ついに社長は廃部を約束させられてしまう。廃部となれば、野球部にいる10人ほどの正社員はともかくとして、その他の40人もの契約社員はみな退社せざるをえなくなる。ええーっ、これは大変なことですよ・・・。
 ルーズヴェルト・ゲームとは、野球好きのフランクリン・ルーズヴェルト大統領が、一番おもしろいと言った試合のこと。つまり、逆転して8対7で終了した試合のことである。
 そうなんです。この中堅企業も苦しいなか、ついに画期的な新商品の開発に成功し、ライバル企業を出し抜き、生き残りに成功したのでした。しかし、野球部の廃部が取り消されたわけではありません。それではハッピーエンドにはなりません。そこを、著者は何とかひねり返すのでした。うまいものです。爽やかな読後感の残る小説です。現実は厳しいのですが・・・。
(2011年10月刊。2800円+税)

謎とき平清盛

カテゴリー:日本史(平安)

著者   本郷 和人 、 出版   文春新書
 著者はNHK大河ドラマの時代考証も担当する学者です。その指摘には、はっとさせられる鋭さがありました。
日本の歴史には二つの特徴がある。
第一に、平清盛が鎌倉に幕府を開いて以降、明治維新に至るまで、700年間ものあいだ武士が社会の支配者として、大きな役割を果たした。
 第二に、伝統が重んじられ、世襲が社会の基本原則として機能してきた。
 第一の点では、戦前の日本で軍人が偉そうに威張って、日本という国を破滅に導いた愚をくり返したくないものです。昔も今も自衛隊出身の国会議員がいますが、彼らが偉そうに言っているのを聞くと、虫酸が走ります。
 第二の点では、会社はともかくとして政治家の世襲なんて嘆かわしい現象だと思います。これは日本だけではなく、ブッシュ父子のようにアメリカでも起きています。
 黄櫨染(こうろぜん)と黄丹(おうだん、おうに)。前者は赤みを帯びた肌色で、天皇だけが用いることのできる色。後者は赤みをおいたオレンジ色で、皇太子だけに許されている。いわゆる禁色(きんじき)の色である。うひゃあ、こんな色が禁色だったのですね。
 中世の本質は、統一性ではなく、多様性にある。
 税を徴収するために、郡司(ぐんじ)、郷司(ごうし)、保司(ほうし)が任じられた。彼らは、存置の有力者で、国の役所である国衙(こくが。現在の県庁)の役人である在庁官人に任じられた。国衙では太田文(おおたふみ)という台帳が作成されていた。米で収める「年貢」、特産品で収める「公事」(くじ)、労働力を提供する「夫役」(ぶやく)の三つが当時の税を構成していた。幾内の国では「夫役」は、「京上夫」(きょうじょうふ)として、実際に京に行っていた。
 国司に任じられた貴族は、自身は京都にいて、家礼(けらい)を現地に派遣した。この家礼は目代(もくだい)とか眼代(がんだい)と呼ばれ、在庁官人を指揮して、国を統治した。
朝廷は官僚をもたなかった。日本では中国・朝鮮・ベトナムのような科挙の制度を導入しなかった。そのため、才能よりも世襲が政府における支配的な原理となり、貴族だけが政治に関わった。
 また、朝廷は軍隊も保有しなかった。常備軍は消滅した。
朝廷の正式な儀式においては、天皇よりも上皇がえらい。政治の実権を握っているのも上皇だった。
 「精兵」(せいひょう)と形容した強い武士、優れた武士とは、まずは強弓を引ける人。弓の上手に大変な敬意が払われている。戦いで倒れる兵は多く、古くは弓で射られ、また、鉄砲でうたれて命を失っていた。
 日本列島の西方を重視する政権づくり、経済重視、海外交易の推奨。そして改革者だという武士として、平清盛と織田信長の2人があげられる。
 平清盛は、既存の知行国制を有効活用し、いわば朝廷のなかに将軍権力を生み出そうとした。ただ、身分の低い武士が結集する場としては、伝統ある京の都はふさわしくなかった。そのため、清盛は福原への遷都を強行したのではないか。
 平清盛と武士たちについて、いかにも鋭い分析がなされていて、驚嘆しながら面白く読了しました。
(2011年11月刊。750円+税)

キレイならいいのか

カテゴリー:アメリカ

著者   テボラ・L・ロード 、 出版   亜紀書房
 アメリカの女性弁護士の書いた本です。ABA(アメリカ法曹協議会。日弁連みたいな団体ですが、強制加入ではなく任意加入)の女性法律家委員会委員長もつとめました。
 容姿に関して、男性と女性は別々の基準が適用される。ダブルスタンダードがある。
 男性は買い物代行サービスや美容のプロの世話にならず、そのための費用を払わずともちゃんとした身なり整えることができる。それなのに、なぜ女性はそれが出来ないのか。
 たとえば、女性のはくハイヒールはひどい腰痛や足の障害の大きな原因になる。女性の5分の4がこうした健康問題をいつかは経験する。
 アメリカ人は、年間400億ドルを投じてダイエットに励んでいる。
 ダイエットに励む人の95%は1~5年のうちに体重が元に戻る。
 消費者が化粧品に投じる180億ドルのうち、材料費が占める割合は7%にすぎず、残りは高価な包装費や、科学者に言わせると効果のない商品の広告費である。
 身だしなみへの投資額は全世界で年1150ドル。ヘアケアに380億ドル、スキンケアに
240億ドル、美容整形に200億ドル、化粧品に180億ドル、香水に150億ドルである。
 だが、このようにお金を使っても、効果はめったに上がらない。
 アメリカの女性は、毎日平均45分かけて基本的な身づくろいをする。
 アメリカでは、成人の3割、思春期の女性の6割がダイエット中だ。
 アメリカ人の1%弱が無食飲症を患い、4%がむちゃ食いをする。
きれいになるための努力から満足感を味わうこともあるだろう。だが、こうした努力は、不愉快な重荷になるし、恥辱感や挫折感の源ともなり、不必要な出費を強いることもある。
 イギリスの有名な女性歌手スーザン・ボイルがイメージチェンジしたとき、マスコミが叩いた。背が低くて太っているけれど、それがスーザン・ボイル。それで何がいけないって言うの?スーザン・ボイルはそう言って開き直った。しかし、それでも周囲からの重圧に耐えかねて、ストレス治療のため入院することになった。
 性的嫌がらせを禁止する法律が出来た。その問題点は、過剰反応ではなく、被害申告があまりに少ないことだった。
 明白な容姿差別禁止令をもつ国はアメリカのほかはオーストラリア一国のみ。アメリカと同じく、オーストラリアでも、審判所に持ち込まれる容姿差別の訴えの大部分(6割)は、人種、性別、宗教、障害など、容姿以外の要因が関係している。訴えの大多数(9割)は成功していない。
女性にとっての美しさのもつ問題点を多角的に検討した本です。
(2012年3月刊。2300円+税)

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