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2011年12月 の投稿

ルポ・アメリカの医療破綻

カテゴリー:アメリカ

著者   ジョナサン・コーン 、 出版   東洋経済新報社
 世界一の高度医療を受けられるアメリカは、その便益は金持ちだけで、平均的な国民は病気になったとき満足な治療を受けられる保証がないことを鋭く告発している本です。
 1990年代初め、ビル・クリントンは医療保険改革法案を議会に提出した。この法案が成立していれば、国民皆保険が実現し、医療保険業界が大きく姿を変えるはずだった。しかし、クリントンの試みは失敗に終わった。これについて大きな責任を負うべきは、どっちつかずの態度に終始した国民自身である。
 マスコミのキャンペーンの恐ろしさはアメリカも日本も同じことです。アメリカで国民皆保険を主張すると、社会主義者、アカだというレッテルを貼られるというのです。信じられません。それなら、日本もヨーロッパも、みんな社会主義国、アカの国ですよね。それでいいじゃないですか。アメリカの人は何を恐れているのでしょうね。
 医療費債務は、アメリカでは破産原因の2位になっている。破産に陥ったアメリカ人の相当数は無保険者だった。たった一度の緊急治療、あるいは入院して集中治療を受ける必要が生じたために、数万ドルから数十万ドルの医療費を請求され破産に追い込まれた。保険会社は、もっとも深刻な症状をかかえた人々を厄介払いする傾向がある。任意の医療保険を扱う会社は、既に病気を抱えた人は扱わないし、病気治療についても「厳格に」査定して、「必要のない」治療に保険を適用としないのです。結局、そこで泣かされるのは患者であり、家族です。ロサンゼルスは、もっとも深刻で、無保険者は全米一、200万人もいる。
 このような現実があるにもかかわらず、アメリカの世論は、医療保険については、おおむねクリントンの医療保険改革が挫折したころと同じように曖昧なままである。むしろ、当時より混迷の度は深まっている。大半の国民は、今も医療保険に加入しており、まずまず満足している。無保険者がいることは知っていても、その大半が失業者だと多くのアメリカ人は思い込んでいる。そして、必要なときには無保険者も医療を受けることができると思っている。人口の16%、4600万人のアメリカ人は医療保険にまったく加入していない。2013年には、無保険者は5600万人に達すると予測されている。そして、保険に加入していても、医療費の支払いに四苦八苦している人は少なくない。ブッシュとブッシュを支援する勢力は、規制は保険業界の自由な活動を妨げるからよくない、政府が管理する高齢者向け処方薬給付は医療品業界の利益を損なうからよくない。公的保険プログラムは財源を税金に頼り、否応なしに富裕層が大企業が最大の負担を負うからよくない。このように考えている。
 アメリカの保守派は、自分の生命は自分で守るのが人間としての当然の誇りというカウボーイ文化がある。彼らは自分の甲斐性がなく、家族の健康保険に加入できないような人間の分まで、どうして自分が負担しなくてはならないのかが分からないのだ。
しかし、日本にもアメリカを笑えない現実があります。国民健康保険料を滞納しているのは461万世帯(2006年、19%)、実質的な無保険者が35万人(2007年)に達している。
 病気になったとき、安心して治療を受けられる世の中であってほしいものです。絶対にアメリカのような国に日本はなってほしくないと改めてしみじみ思ったことでした。
(2011年9月刊。2000円+税)
 フランス語検定試験(準1級)の結果が分かりました。合格です。基準点71点のところ、得点73点でした。自己採点では76点でしたので、3点だけ甘い評価だったということです。1月に口頭試験を受けます。今から緊張しています。いまパリに留学中の娘と、ネットで話すときにはいつもお互いフランス語で話すようにしています。カルチェラタンのガレット屋さんでアルバイトをしています。とても日本人客の多い店のようです。ぜひ行ってやってください。丸い顔をした女の子がいたら、私の娘です。

権力VS調査報道

カテゴリー:社会

著者  高田 昌幸 ・ 小黒 純     、 出版  旬報社   
読んでいるうちに久々に血の沸き立つ思いがしました。さすがプロの言うことは違います。マスコミ人は、ここまで徹底したプロ意識をもって権力と対峙してほしいと強く思ったことでした。西山太吉記者は国会議員をうっかり信用してしまって、大変なことになりました。
 アメリカの有名なボブ・ウッドワード記者はディープスロートが名乗ったあと、彼が情報源だと認め、さらに本まで書きました。このことについて、著者は厳しく批判しています。取材源の秘匿がなっていないというのです。本人が認めても、ときと場合によっては知らぬ存ぜぬを貫き通すべきことがあるというのです。
 20年前、朝日新聞社の広告収入は年2000億円、読売しんぶんは1500億円。ところが、発行部数は朝日800万部で、読売は1000万部と、200万部の差がついていた。朝日の広告単価は読売に比べて非常に高かった。
調査報道に国民が共感すると、内部告発に結びつく。内部告発がもっとも多かったのは談合である。
 取材するときには、録音テープを必ずとる。それも隠しどりである。ニュースソースの秘匿とオフレコは必ず守る。
 今、朝日新聞は、政治部と経済部と社会部の合同チームをつくった。著者は、そんなことは「ナンセンス」と言い切る。
 当局は、ジャーナリズムを使って情報を操作している。
いま、しんぶんは未曾有の危機にある。アメリカでも調査報道はまったく衰退している。インターネットによる広告収入はペーパー広告の1割にしかならない。紙をやめて新しいサイトで飯食っていくには言葉でいえても、実際に計算してみれば、きわめて難しい。
訴えられることに、社内の上級幹部はあまりに臆病になりすぎている。
一つのものを徹底的にすべて掘り尽くせば、調査を徹底すれば、そのこと一つですべての真実を尽くせる。世界を知るのに、世界を回る必要はない。自分が立っているそこを深く掘れば、真実はそこに全部ふくまれるものだ。なーるほど、そういうことなんですよね・・・・。
 大阪地検特捜部であった証拠のフロッピー書き換え事件をどうやって調べていったのかは迫真の出来事でした。証拠の改ざんなんて、「想定外」のことですからね。
 ほかにもリクルート事件、沖縄の地位協定関連の秘密文書、高知県のカラ出張と解同ヤミ融資が調査報道されるまでの緊迫した状況が語られています。
 いまでしたら、原発がらみでもっとインパクトある報道をしてもらいたいものです。「今すぐには人体への影響はない」という大本営発表ばかりをマスコミ、とりわけテレビがたれ流ししているようでは、責任を果たしたとは言えません。なにしろ、国家の政策として、本当は危険な原発を推進してきたのにマスコミは応援してきたわけですからね。もう少し、ざんげの意味をこめて、本質と問題点を深く掘り下げていいように思います。そうしない限り、依然として電力会社の御用新聞じゃないとはいえませんよね。一読に値するいい本です。
(2011年10月刊。2000円+税)

ルポ・下北核半島

カテゴリー:社会

著者   鎌田 慧・斉藤 光政 、 出版   岩波新書
 青森県は、日本でもっとも危険な県である。
こんな文章で始まります。ええーっ、そうなんですか・・・。いったい、何が青森県にあるのでしょうか?
 アメリカ軍の三沢基地は、米ソ冷戦時代には「核攻撃基地」だった。今なお、アメリカによる世界軍事支配の世界戦略を支えている。
 この三沢基地に隣接して天ヶ森射撃場がある。戦闘爆撃機が模擬爆弾を投下する直下に、六ヶ所村がある。猛毒プルトニウムや使用済み核燃料を収容したプールや再処理工場がそこにある。さらに、航空・陸上・会状の各自衛隊の基地が配置されている。
 青森県は軍事と各産業の集中地帯なのである。
 猛毒のプルトニウムを生産する「再処理工場」は、一基の原発が1年間に搬出する放射能をたった一日で環境中に排出する。六ヶ所村の核燃料再処理工場は、事故続きで2008年末から停止したまま。世界でもっとも危険で、技術も安定していない。1993年に着工されて以来、トラブルが続いて、既に18回も施工延期を発表している。
 六ヶ所村の核基地化は、政府と電力会社が新全総当初から方針化していた。
 再処理工場だけで2兆円の工事、5施設の全部をあわせると3兆円近い工事費となる。
 原発を誘致したら、出稼ぎに行く必要がなくなるという宣伝がなされた。たしかに仕事は増えたが、技術的な資格がなければ日雇い仕事だけだった。人口の推移を見ると、1960年に東通村は1万2500人だったのが、2009年には7500人になった。第一原発が稼働しはじめた2005年の人口は8000人だったから、原発が動き出しても、人口は下げ止まりとはなっていない。
 1基で3000億円とか4000億円という原発の建設工事は、「地域開発の起爆剤」「過疎地経済のカンフル剤」と言われたことがあった。しかし、7ヵ年限定の交付金が切れると、禁断症状が出て、もっと新たな原発を、と要求するようになる。
 使用済み核燃料は「キャスク」と呼ばれる、高さ5.4m、直径2.5mの金属製、重さ120トンのドラム感情の円筒に、10トン分が収納され、50年間、保有される。保有は地中にではなく、地上の平屋建て倉庫に縦に並べられる。26ヘクタールの土地に幅60m、奥行き130mの建物がつくられ、その床に3000トンの使用済み核燃料が貯蔵される。最終的な貯蔵量は5000トン。建屋の建設費は1000億円。そのうち7~8割は金属キャブクの費用。50年間寝かせておいて、それから再処理工場へ搬出される。
 福島第一原発の4号炉に使用済み核燃料がありましたよね。そして、この核燃料がどうなっているのかは、事故から7ヵ月たった今でもまったく分からないというのです。
 放射能が30年とか50年で消え去るはずはありません。「地域振興」の名のもとで絶対に原発を建設してはいけません。
 危険を直視すべきです。わずか100年程度しか稼働しない非効率な工場が排出する、何十万年後の世代にまで放射能の悪影響を及ぼす危険があるものを扱うなんて、子孫に対して申し訳ないですよね。ノーモア原発をご一緒に叫びましょう。
(2011年10月刊。1900円+税)

心と脳

カテゴリー:人間

著者   安西 祐一郎 、 出版   岩波新書
 自分はいったい何者なのか。どんな存在なのか。死んだら、一切は無になるのか。眠っているあいだも生きているというのはどういうことなのか。無意識のうちに人は動き、動かされているというのは本当なのか。
 意識にのぼらない自我があるのか・・・。心は一体どこにあるのか、頭なのかハート(心臓)なのか。頭のどこに心があるというのか。
 考えてみれば、このように次から次へ疑問が湧いてきます。
 虹の色は、いくつに見えるか?
 日本語を母語として、日本の社会で育った人は、紫、藍、青、緑、黄、橙、赤の7食に見える。フランスも同じ。ところがアメリカ育ちの人には藍色抜きの6色に見える。ドイツだと、さらに橙が消えて、5色に見える人が多い。虹の色が二つにしかない言語もある。へーん、いろいろ違って見えるものなんですね・・・。
 発汗や筋肉の収縮のような身体の反応にかかわる情報は主として大脳皮質を経ずに、意識にのぼることなく処理される。情報の処理は大脳皮質を経ない意識下の経路の方が速い。したがって、意識下で起こる身体的な反応のほうが、大脳皮質経由の意識にのぼる活動よりも、基本的に先に生じる。心の働きについても、意識下の働きのほうが自分に意識されるはたらきよりもずっと大きいことが分かっている。
 喧騒の中で自分の名前が聞こえるのは、自分にとって大切な意味をもつ情報を選り分けるメカニズムが意識下で働くからだと考えられている。なーるほど、たしかに、そんなことって、ありますよね。
コンピュータと違って、持ち運びや破損や特別なエネルギー補給にそれほど気をつかう必要がないのは、脳の優れた特徴である。
 脳は何億円もするスーパーコンピュータをはるかに上回る性能を有しているのですね。
情報処理がいろいろな機能について並行して進められ、それらが相互作用することによって心のはたらきが現れてくる。情報処理システムとしての脳神経系である。
 脳神経系が、脳幹、小脳、大脳辺縁系、大脳皮質の内部やその間を結ぶ密度の高い神経経路を通して相互作用していること、しかも、神経系が入り組んだ階層構造をなし、各層でも並行して情報が処理されるとともに、層の間でも相互作用が起こっていること、さらに、神経細胞がつながってループしている(もとの神経細胞に情報がめぐり戻ってくる)回路がたくさんあり、きわめて複雑なシステムを形成している。
 人が文章を理解しようとするときには、音韻、形態素、文法、意味、文脈などの情報をお互いに関係づけながら並行して処理し、全体の意味を理解しようとしている。本を読むというのは、単に目で文字を追っているというのではないのですよね。だからこそ速読術がありうるのでしょう。
 ふだんの買い物のような、何気ない意思決定でさえ、買うモノの特徴を考えたり、買い物経験を思い出したりする記憶や思考、どの品物が買うに値するかを決める選考評価、楽しめるとかつまらないといった感情など、多くの情報処理が意識のうえと意識下の両方で並行して行われている。
心のはたらきのほとんどすべては、脳のたくさんの部位の相互作用によるもので、脳のどこかと心のどこかが一対一に対応するわけではない。
 人は、意識して思考しているだけでなく、むしろ大脳基底核などのはたらきに支えられて、意識にのぼらず思考している部分が相当大きい。
 脳の本は、いつ読んでも本当に面白いですよね。
(2011年9月刊。860円+税)
 今年も500冊を読みました。面白そうな本、読みたい本、知りたいことが次々に出てきますので、速読はやめられません。まあ、完全なる活字中毒症であることは認めます。でも、本を読んでいるときの快感って、なにものにも代えがたいものがあります。背筋がぞくぞくするほど知的興奮したときなど、心を静めるのにしばらく時間がかかることがあります。どうぞ、新年も引き続き、お付き合いください。チョコさん、誕生日プレゼントありがとうございました。

みえない雲(コミック)

カテゴリー:ヨーロッパ

著者   グードルン・パウゼヴァング、アニケ・ハーゲ 、 出版   小学館文庫
 ドイツを脱原発へ導いた話題の小説をコミック化したものです。映画にもなっているようです。恐ろしいマンガです。背筋がひたすら寒くなってきます。
 ドイツにも原発があります。そこで事故が起きて放射能が漏れ出します。付近住民は避難を命じられますが、道路はどこもかしこも渋滞します。
 両親が留守だったので、14歳の少女は小学2年生の弟を連れて脱出を図ります。自転車に乗って、ひたすら遠くを目ざします。ところが、弟は猛スピードで走る車にはねられて死んでしまうのでした。
放射能は臭いもせず、色もないので、不気味さばかり漂っています。
 大勢の人が逃げまどう様は哀れとしか言いようがありません。病院は、既に病人で満杯です。
 頭の髪の毛が抜けていきます。放射能で汚染されてしまったのです。学校では、そのことで、差別され、いじめられます。子どもたちから将来を奪ってしまうのが原発です。
 私は東電の歴代の社長を実刑にして刑務所に入れられないようでは、日本の司法の力って、口ほどのこともなく、たいして機能していないようにしか思えません。
 わずか1000円足らずの万引きで懲役1年の実刑という事件が珍しくなくなっています。何万人もの人々を突然家から追い出し、慣れない仮設住宅などでの生活を余儀なくさせているのは東電です。予見可能性はありました。予見する能力も十分です。単に利潤第一主義に走って、それらを怠っただけです。それなら、当然、東電の歴代の社長は懲役10年程度の実刑に処すべきではないでしょうか。東電の会長は居座ったままですが、それを許していて、この社会の秩序は維持できるのでしょうか。社会正義はどこへ行ったのでしょうか。いまこそ東京地検特捜部への出番なのではないでしょうか。
東電の社長がいなくても補償対策は十分にできると思いますし、原発事故対応も可能だと思います。
 皆さん、東電の歴代社長の刑事責任を問わなくていいと思いますか、おたずねします。
(2011年10月刊。543円+税)

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