著者 毛利 甚八 、 出版 小学館
私が大学に入ったのは1967年のことですから、もう40年以上も前のことになります。6人部屋の学生寮での生活は天国のように快適でした。完全な自治寮で、寮費は月1000円、三度の食事付きです。夜になると、夕食の残りものを残食(ざんしょく)と称して寮委員会がマイク放送して売り出します。すると、育ち盛り、食べ盛りの寮生が走り出し、またたく間に長蛇の行列が出来あがりました。私にとってお昼に百円定食を食べるのはちょっとしたぜいたくでした。なにしろ寮定食なら60円で食べられたのです。ただ、一般学生用の学生会館のランチ定食は120円くらいのがありました。私には高値の花でした(たまには食べましたけど・・・)。
その寮の部屋には毎月の『ガロ』があり、白土三平の「カムイ伝」が連載されていたのです。目を見張るような衝撃的な絵とストーリー展開でした。文字からのイメージしかなかった百姓一揆が視覚的に生き生きと描かれていて、なーるほど、そうだったのか・・・と、頭をひねってしまいました。
当時、大学生だった人のかなりは「カムイ伝」を一度は読んだことがあるのではないでしょうか。それだけ話題性がありました。それは、「少年サンデー」や「少年マガジン」といった子ども向けとは違った、大人向けのマンガであり、ストーリー展開でした。
この本は、『家栽の人』の原作者が、白土三平をずっとずっとインタビューして、本人の了解をもとに刊行したものです。白土三平の生い立ち、生活の様子、マンガ作成の過程が実に細かく紹介されています。
白土三平、本名は岡本登。その父親は戦前プロレタリア画家として活躍し、特高から拷問も受けた経歴の持ち主です。だから、戦前・戦後を通じて白土三平は貧窮生活を強いられています。そして、その中で山野をたくましく生き抜いてきた情景がマンガに結実しているのです。
それにしても「カムイ伝」は長大なマンガ絵巻です。1964年(昭和39年)に始まり、2000年まで37年がかりで描き継がれたのは38巻。そして、いまなお未完というのです。その息の長さには恐れいります。
白土三平は1932年(昭和7年)の生まれ、今、79歳。まだまだ大いに活躍してほしいマンガ家です。
(2011年7月刊。1500円+税)
白土三平伝-カムイ伝の真実
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